軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

分ける理由

人が増えれば、必ず影も混じる。

エドワルドは、それを最初から理解していた。

だからこそ、この段階で手を打った。

南町へ流れ込む前段階として機能している

三箇所の一時保護村——

その全てに、追加の人員を配置するよう指示を出した。

警備の名目ではあるが、目的はそれだけではない。

「レオン団長」

「はい」

「残っている団員を、三箇所の村へ分散配置してくれ」

「了解しました」

それだけなら、いつも通りの指示だ。

だが、続く一言で、空気が変わった。

「それと——」

エドワルドは、淡々と告げた。

「妙に身なりの良い者」

「妙に口の回る者」

「読み書きが出来る者」

一つ一つ、確認するように言葉を置く。

「そういう者は、三箇所のうち中央の村へ。ここへ集めろ」

理由は語られなかった。

だが——

レオン団長は、その場で全てを察した。

「……承知しました」

他の警備隊員たちも同様だった。

説明など、必要なかった。

この状況下で、飢え、疲れ、家を失った人間の中に——

妙に整った身なり

不自然に流暢な口調

高い読み書き能力

それらが意味するものは、一つしかない。

身分を隠している。

——いや、送り込まれている

王都。隣領。

あるいは、もっと別の何か。

誰が、どこから来たかは分からない。

だが「普通ではない」事だけは、誰の目にも明らかだった。

中央の村は、監視しやすく、隔離しやすく、

そして——動かしやすい。

「排除ではない」

エドワルドは、心の中でそう線を引く。

まだ、切らない。だが、混ぜない。

救うためには、まず分ける必要がある。

混乱の中で最も危険なのは、善意の顔をした刃だ。

エドワルドは、地図の上で中央の村に視線を落とした。

ここが……最初の関所だな。

南町へ至る道は、すでに一本ではない。

だが、通していい者と、

様子を見るべき者は——確実に分け始めていた。

静かに。確実に。

誰にも気付かれぬまま、選別は、もう始まっていた。

数日後——

エドワルドの元へ、小さな報告が上がった。

「中央の村へ、一名移動させました」

「……もう出たか」

予想より早い。

連れて来られたのは、一人の男だった。

年の頃は三十前後。やせ過ぎてもおらず、かと言って栄養が十分とも言えない。

一見すれば、どこにでもいる保護民の一人——

近くで見ると違和感がある。

服は確かに薄汚れていた。

泥も埃も付いている。だが——

「……この布」

エドワルドは、男の外套に目を向けた。

織りが細かい。縫製が丁寧。

補修の跡すら、雑ではない。

庶民が日常で買える物じゃないな。

値段を知っている者ほど、すぐに分かる。

長く着て汚れたのではなく、

“わざと庶民に見えるように扱われた服”だった。

男は視線を伏せ、無駄な事は一切喋らない。

だが、周囲を伺うその目は落ち着き過ぎていた。

恐怖も、戸惑いも、薄い。

「理由は?」

「読み書きが出来ると申告しました。それと……話し方が妙に整っています」

「なるほど」

警備員の判断は正しい。

飢えた者は、言葉を選ばない。

追い詰められた者は、沈黙か、饒舌のどちらかに偏る。

だが、この男は違った。

必要以上に話さず、だが聞かれれば、即座に的確に答える。

教育を受けているな。それも、かなり。

エドワルドは、男から視線を外さずに言った。

「ここでは働いてもらう。特別扱いはしない」

男は、静かに頷いた。

「はい。ご配慮、感謝致します。お役に立てると思います」

その言葉遣い——それ自体が、答えだった。

エドワルドは内心で、冷静に線を引く。

最初の一人か……

一人目は、必ず“様子見”だ。

本命ではない。

だが、この男が通れたかどうかで、次が来るか決まる。

中央の村は、既に試験場になっていた。

救われる者の為の場所であり、同時に——

嘘を暴く為の、静かな檻でもある。