作品タイトル不明
条件を揃えた畑
さて、実験なのだから思い切った事をしてみよう。
中途半端にやっても意味がない。
どうせ試すなら、極端な条件でやった方が結果は分かりやすい。
今回の想定は「開墾したばかりの土地」だ。
耕しただけ。
石も完全には取り切れていない。
土もまだ固く、栄養が十分に行き渡っているとは言えない。
まずは黒麦。
これを二つの区画に分ける。
一つは、耕しただけで何も加えない区画。
肥料も、水以外は一切なし。
もう一つは、これまで通りのやり方。
最低限の肥料を入れ、普通に手を掛けた区画。
条件はそれだけだ。
同じ時期に蒔き、同じ量の水を与える。
違いは「土にどれだけ手を入れたか」だけ。
結果が出れば、はっきりする。
黒麦が本当に痩せた土地でも育つのか。
それとも、話半分の作物なのか。
「まあ……やってみるしかないな」
考えても答えは出ない。
植物は、育てれば正直に結果を返してくる。
その脇に、蕪も蒔いてみる。
こちらは正直、おまけに近い。
商人の言う通りなら、蒔いておけば勝手に育つらしい。
本当なら、それはそれで驚きだ。
本当でなければ、それまでの話。
「実験だ。失敗しても構わない」
むしろ、失敗してくれた方が学びになる。
土に種を落とし、軽く被せる。
ただそれだけの作業なのに、不思議と胸が高鳴る。
今回の畑は、誰の期待も背負っていない。
収穫量も、売り先も考えなくていい。
だからこそ、思い切れる。
この土地で、この条件で、それでも育つ作物があるなら。
それはきっと、未来で領地を救う切り札になる。
さて、どうなるか。
答えを出すのは、俺じゃない。この畑そのものだ。
その様子を、執務室の窓から領主は静かに眺めていた。
視線の先では、エドワルドが畑の区画を分け、何やら真剣な顔で作業をしている。
……また何か始めたな。
土の色、動線、道具の置き方。
遠目からでも、ただの手伝いではない事は一目で分かる。
「ふふ……我が館は、いつから田畑になったのだ?」
思わず、そんな独り言が漏れる。
だがその声音には、咎める色は無い。
むしろ、どこか楽しげですらあった。
領主として、執務に集中すべき時間だ。
呼び止める事も、問い質す事も出来た。
しかし――止める理由が、無かった。
エドワルドの行動は、これまで一度も無駄に終わっていない。数字として結果を残し、人の動きを変え、領地そのものの流れを変えてきた。
畑で何を試しているのかは分からんが……
領主は書類に視線を戻す。
あれもまた、先のためか?
そう思えるだけの信頼が、すでに積み重なっていた。
窓の外では、春の風に土の匂いが混じり始めている。
新しい芽が出るのは、もう少し先だ。
それでも領主は、確信していた。
――また一つ、領地は前に進む。