軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

悪妻は離婚したい 2

真っ赤になっているであろう私に、ギルバート様はさらに近付いてくるものだから、もう観念するほかなかった。

「し、喋ります! 喋りますから!」

「それは良かった」

にっこりと微笑んだギルバート様は私の顔も見たくないはずなのに、なぜこんな風に関わってくるのかも分からない。

こうして近づいて、私が何か決定的なやらかしをするのを待っている可能性だってあった。

「よ、用事があるので失礼します!」

用事があるのも事実だし、ここは逃げるが勝ちだと思った私はギルバート様に背を向け、その場から逃げ出した。

ギルバート様には同情するけれど、元のイルゼへの苛立ちを私に理不尽にぶつけられるのにも限界がある。

何より彼の考えが読めないのが、一番恐ろしかった。

「本当になんなの……絶対に離婚してやるんだから!」

あんな風に触れてきたり「お好きなようでしたから」なんて勝手なことを言ったりするのも、本当にやめてほしい。

元のイルゼがギルバート様に盲目すぎたあまり、何をしても許されるとでも思っているのだろうか。

「イルゼ、どこに行くんだ?」

そんな中、屋敷を出て門の前に待たせている馬車に乗り込もうとしたところで、背中越しに声をかけられた。

「……ナイルお兄様?」

◇◇◇

(はあ……どうしてお兄様も一緒なのよ……)

華やかで人が多い王都の街中を、やけにご機嫌なお兄様と腕を組みながら歩いていく。

ゴドルフィン兄妹が二人で外を出歩く時はこれが基本姿勢だった、なんて言われてしまったからだ。

「今日もお前が世界で一番かわいいよ」

「ありがとうございます……」

常にベッタベタで距離は近く、いちいち耳元でそれはもう良い声で喋るものだから、初めて見る中世ヨーロッパのような街並みや行き交う人々に感動する余裕もない。

『へえ、街中に行くんだ? 俺も一緒に行くよ』

『えっ』

公爵邸の前で遭遇した後、これから街中に用事があって行くと伝えたところ、なぜか付いてくると言われてしまった。

色々と詰んでしまっている今、数少ない協力者であるナイルお兄様との関係は大事にしていきたい。結果、断ることもできず、今に至る。

(昨日の今日で、一体何をしにきたのかしら……?)

どうして来たのかと尋ねても「ただ顔を見たくなって」しか答えてくれず、内心かなり気になっていた。

超絶美形の兄妹が並んで歩く様はやはり目立つらしく、人混みの中でもみんな私達を避けていき、遠巻きに私達を眺めていた。まるでモーセだと他人事のように思ってしまう。

「そういや離婚の件はどうなったんだ?」

「それが、断られてしまって……」

「なんだって?」

やはりお兄様も想像していなかったのか、ぴたりと足を止めて私へ視線を向けた。

「あいつ、何を考えている……?」

どう考えても全てイルゼが悪いのに、シスコンのナイルお兄様はギルバート様を元々よく思っていないこともあり、疑うような表情を浮かべている。

しばらく考え込む様子を見せていたけれど、やがてお兄様はぱっといつも通りの明るい笑顔を私に向けた。

「大丈夫だよ。俺が別の方法を探しておくから」

「あ、ありがとう……!」

私よりもこの世界や貴族のしがらみ、イルゼやギルバート様についても詳しいであろうお兄様が良い方法を見つけてくれることを祈るしかない。

そんな中、近くにあった小さな古びた建物の看板が目に入った私は「あ」と声を上げた。持ってきていた地図で確認しても間違いないし、ここが例の店だろう。

「この建物に少し用があるの! 少し待っていて!」

「え」

着いてこられては困るため、私はそれだけ言うとお兄様を置いてばびゅんと建物の中に駆け込んだ。

私にとってはまだ兄妹歴二日といえども、身内に「性行為を強要する制約魔法をかけた」なんて地獄のような恥を知られることは絶対に避けたい。

(な、なんだか不気──こほん、雰囲気のある店ね……)

薄暗くて狭い店の中には謎の骸骨や置物、水晶などが並んでおり、小さなテーブル越しに深く黒いローブを被った男性と向かい合う。

そしてギルバート様にかけられた制約魔法を解いてほしいという話をしたところ、衝撃の返答がされた。

「そ、そんな……あと半年は制約魔法が解けない……!?」

思わず大きな声を出してしまった私を見て、魔法使いの男性は嫌悪感を露わにしながら、眉を寄せる。

「はい。絶対に絶対に絶対に解けないものにしろ、解けたらお前の首を飛ばすと仰ったのはあなた様ですから」

「えっ」

「あと半年、我慢してください」

淡々としながらも、こちらを責めるような雰囲気を感じる物言いからは、私をよく思っていないことが伝わってきた。

首を飛ばすなどと脅しながら依頼をして、今度はそれを解いてほしいなんて頼んでいるのだから、当然の反応すぎる。

「……ハイ」

私はもう、小さな声で返事をすることしかできなかった。

失意のどん底で、よろよろと店の外に出る。口からは無限に深い溜め息がこぼれていく。

「あ、あと半年も月2回、抱かれなきゃいけないの……?」

そんなことは絶対に絶対に避けたいし、ギルバート様だって同じ気持ちだろう。何より寿命がかかっている以上、ギルバート様を見殺しにするわけにもいかない。

「とにかく諦めずに何か別の方法を──」

気を落とさずにいこうと顔を上げた途端、背後からドオンという耳をつんざくような爆発音が響き渡る。

同時に私の身体は爆風によって思い切り吹き飛ばされ、頬や腕には鋭い痛みが走った。