軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

知らない契約 1

「……ふう、お腹いっぱいご馳走も食べたし、ゆっくり広いお風呂も入れたし大満足だわ」

その日の晩、ギラギラの装飾品を外してゆったりとしたネグリジェに着替えた私は、ぼふりとベッドに倒れ込んだ。

流石の公爵家、食事はホテルのフルコースかと思うくらい豪華で美味しい。ギルバート様とイルゼは食事も別らしく、部屋で一人ゆっくり食べることができたのも最高だった。

(リタから話を聞く限り、徹底的に避けられていたみたい)

だからこそ、耐えきれなくなったイルゼは今朝も頭を打つくらい、必死にギルバート様にしがみついていたのだろう。

ちなみにお風呂はメイド達によって丁寧に全身を磨かれ、髪も身体も丁寧に保湿やマッサージをされ、最高級のエステを受けているのかと思えるほどだった。

色々と詰んでいる状況ではあるけれど、こういった貴族らしい贅沢ができるのは新鮮で嬉しい。

「一時的とはいえ味方もできたし、後はギルバート様に離婚を申し出るだけね」

豪華な天井を眺めながら、ぐっと両腕を伸ばす。

「そうしたらこの世界やこの国について勉強して、お金を稼ぐ術も見つけないと」

平民だとバレれば実家であるゴドルフィン公爵家も追い出されるはずだし、この異世界で生きていく方法をしっかりと見つけなければいけない。

元の世界の知識でチート無双、なんてファンタジー展開も普通のOLだった私には無理な話だった。

「あ、治癒魔法を使えば仕事になるのかも」

寝転がったまま、まっすぐに伸ばした傷ひとつない真っ白な手のひらを見つめる。爪の先まで本当に綺麗で、イルゼは全身に気を遣って美しさを保っていたことが窺えた。

イルゼが国一番の治癒魔法使いという情報しか知らないものの、この力さえあれば食べていくのには困らないはず。

「……散々な状況だけど、少しだけワクワクする」

貴族の間ではイルゼの悪評が流れているだろうけど、田舎で平民暮らしをすればきっと平気だろう。

(後は遠目から一度くらい、大好きなシーラを見たいな)

小説ではとにかく、儚げで美しくて心の綺麗な美少女だということが描かれていた記憶がある。きっと天使のような存在なんだろうと、想像するだけで頰が緩んでしまう。

「ふわあ……とにかく今日はもう寝よう」

今日は一気に色々なことが起きたせいで、心身共に疲れ果てている。ふかふかの雲のような大きなベッドでそのまま眠りにつこうとしたところ、ノック音がした。

(こんな時間に誰かしら……リタ?)

身体を起こし、返事をする前にガチャリとドアが開く。そして入ってきた人物の顔を見た瞬間、私は息を呑んだ。

「えっ……な、なんで……」

部屋に入ってきたのは、ギルバート様だったからだ。

ベッドの上で呆然とする私を他所に、ラフなシャツ姿のギルバート様は面倒そうな様子でこちらへやってくる。

「あ、あの……きゃっ」

そして肩をとんと押され、ベッドに倒れ込んでしまう。

(一体なんなの……!?)

驚いて見上げた時にはもうギルバート様は私の上に馬乗りになっていて、脱ぐように自分の服に手をかけている。

経験のない私でも、こんな夜更けにこの状況、これから何が起こるのかは容易に想像がついた。

「ま、待ってください! どうしてこんなこと……!」

一気に血の気が引き必死に抵抗するも、ギルバート様は面倒そうに眉を顰めて私を見下ろすだけ。

ギルバート様はイルゼをあんなにも嫌っていたのに、なぜこんな行動をしているのか理解できなかった。

「何を今更。あなたが俺に呪いをかけたんでしょう」

抵抗を続ける私を冷え切った瞳で見つめながら、首元に手をかける。そしてギルバート様は忌々しげに口角を上げた。

(呪いって何? そんな設定、小説にはなかったはず)

何のことを言っているのか分からず、戸惑いを隠せない。

「ごめんなさい、私、少し記憶が混濁していて……」

「また俺の気を引こうと、くだらない嘘を吐くんですか」

とにかくこの状況をなんとかしたくて一生懸命に伝えようとしても、呆れたように鼻で笑われるだけ。

「えっ? ち、ちが……」

「病気になった、記憶喪失になった、間違えて媚薬を飲んでしまった。あなたの口からはいつも出まかせばかり」

(ああもう、過去のイルゼは本当に余計なことを……)

本当に何も分からないのに、過去の行いが悪すぎて何も信じてもらえない。もうどうしようもなくて、頭を抱えた。

「あなたの嘘にはもうこりごりだ……!」

切実な言葉や声音、表情からは、ギルバート様がどれほどイルゼに追い詰められていたのかが伝わってくる。

その様子に、ひどく胸が締め付けられた。

もう絶対にそんなことはしない、ギルバート様をイルゼから解放してあげたいのに、聞く耳すら持ってもらえない。

「とにかく私はもうあなたのことを、んっ」

「いい加減、黙ってください。萎えるので」

ギルバート様は必死に弁明しようとする私の口に手を突っ込み、舌を掴んだ。羞恥と苦しさで、視界がぼやけていく。

「約束通り、契約の内容には従います。あなたもそれ以上のことは求めないでください」

「け、契約ってどういう……あっ……」

吐き捨てるようにそう言ったギルバート様は、問いに答えることなく私のネグリジェに手をかけた。

(この状況、どうすればいいの……!?)