軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

まるで別人のような 1(小説イラスト公開)

「……本当に、本当に死ぬかと思った」

自室で目を覚ました私は、ベッドから身体を起こして自身を思わず抱きしめた。

まだ頭がぼんやりするものの、身体は嘘みたいに軽い。医者によると、あの場にいた全員が解毒を済ませて無事だという。この世界の医療の進み具合だけは本当にありがたい。

「魔力だけは我々では回復できないので、しばらく魔法の使用だけは控えてください」

「はい、ありがとうございます」

お礼を言い、部屋を出ていく医者を見送る。

「イルゼ!」

すると入れ違いに、リタとナイルお兄様がやってきた。

ひどく悲しげな顔をしたお兄様は私の側へ来て、優しく抱きしめてくれる。

「ああ、イルゼ……可哀想に。怖かっただろう」

「……うん」

あの場で恐ろしい思いをしたのは事実で、温かな体温にどうしようもなくほっとした。そっと抱きしめ返すと、お兄様は私の背中に回した腕に力を込める。

「奥様……ご無事で良かったです……」

「リタは巻き込まれなかったのよね? 無事で良かったわ」

カフェで自白剤を飲まされてから一切の記憶がなく、医者曰く規定量を越えていたせいで記憶が混濁しているんだとか。

(自白剤って……私、何か変なことを言ったりしていないわよね……?)

隠し事しかないため、冷や汗が止まらなくなる。医者からはギルバート様や側近のモーリスもこの部屋に来たと聞いており、恐ろしくてたまらない。

それからは一緒にいた騎士から話を聞いたというリタから、記憶を失っている間の話を聞いた。

私に自白剤を飲ませた直後、異変に気付いた近所の人達が来て、犯人達は逃げていったらしい。その後は駆けつけた医者に治療をされ、ここへ運ばれてきたそうだ。

(……彼女は私から、何を聞き出そうとしていたのかしら)

裏切ったという発言や、あのお方という言葉が気がかりで仕方なかった。

「とにかくゆっくり休むといい」

「もう帰るの?」

「ああ、お前の顔を見に来ただけだから」

お兄様は手に持っていた上着を羽織り、私の頬に触れる。

(そういえば、今日は大事な用があるって言っていたのに……わざわざ戻ってきてくれたんだ)

本当に私のことを心配してくれているのが伝わってきて、胸がいっぱいになる。

「お前を傷付けた人間には報いを受けさせるよ。またね」

お兄様も犯人を探してくれる、ということなのだろうか。

リタに門までお兄様を送るよう頼み、一応病み上がりの私は廊下でお兄様の背中を見送る。

「もう出歩いて大丈夫なんですか」

「ギルバート様……」

すると背中越しに声をかけられ、振り返った先にはギルバート様の姿があった。

また騒ぎに巻き込まれ、騎士達を危険な目に遭わせたことを怒られる、くらいに思っていたのに。

「まだ安静にしているべきです。部屋へ戻りましょう」

「は、はい……?」

そっとお姫様のように抱き抱えられたかと思うと、そのままベッドの上へ運ばれる。

ギルバート様は丁寧に毛布までかけてくれて、私の脳内は「?」で埋め尽くされていた。

(な、なんでこんなに優しいの……?)

ベッドサイドの椅子に座ったギルバート様の表情は、どこか暗い。最近の素っ気なさも、避けられているような感覚も一切感じられなかった。

巻き込み事故で命の危険に遭ったことで、流石に哀れに思ったからなのだろうか。もしくは騎士達を救おうとしたことで、少しは評価されたのかもしれない。

「体調に問題はありませんか」

「はい、お蔭様で」

「それなら良かった。あなたを襲った組織については、公爵家でも調査をする予定です」

既に騎士団と協力し、捜査にあたっているという。

もちろん私のためではないだろうから、公爵家という肩書きの手前、なのだろうか。

「あの、組織っていうのは一体……」

「奴らの実態はまだ分かっていませんが、今回を含めてこれまで起こしてきた事件は全て、反身分制主義の人間を狙ったものです」

「反身分制主義……?」

ギルバート様によると、国内で階級社会を変えるべきだという動きがあるらしい。

あの場に貴族と平民らしき男性が同席していたことにも、納得がいった。表沙汰にはなっていないものの、前回の爆発事件も建物内で反身分制度の人々の集まりがあったのだという。

「…………」

「何か気になることでも?」

「い、いえ! 何も!」

気がかりなことは多いけれど、私が犯人から裏切り者の扱いをされたことを話せば、さらに立場は悪くなるはず。

騎士達にも聞こえていた可能性はあるし、いずれバレてしまうかもしれない。それでもまだ何の確証もない以上、自分から話す必要もないだろう。

「何かあればすぐに言ってください。必要なものがあれば何でも用意します」

ギルバート様はそう言って、椅子から立ち上がる。そうして部屋を出ていこうとする彼の腕を、私は慌てて掴んだ。

「ギルバート様こそ、体調は大丈夫ですか? その、私ならもう平気なので」

ここ最近避けられていたせいで、ずっと尋ねられずにいた。今の雰囲気ならといけると勇気を出したものの、制約魔法のノルマにも関わることだからこそ、照れてしまう。

するとギルバート様は切れ長の目を見開き、ふっと笑った。

「……あなたはどこまでお人好しなんですか」

その笑顔はこれまで見た中で、最も穏やかで彼らしいものに見えて、小さく心臓が跳ねる。ギルバート様は柔らかく微笑んだまま、私の手をそっと外した。

「俺は平気ですから、しばらくは安静にしていてください」

「わ、分かりました」

「ありがとう」

そして指先で私の手を撫でると、お礼を言ってそのまま部屋を後にする。

一人になった私は、触れられた手をぎゅっと握りしめた。

「……変なギルバート様」

素っ気ない態度で突き放したり、今みたいに優しくしたり。

何が本当の彼なのか分からず、調子が狂ってしまう。落ち着かない気持ちを押さえつけ、ぼふりとベッドに倒れ込んだ。