軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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ヴェネールにある舞踏会場、ラヴィアンローズでの晩餐会がもうすぐ始まろうとしている。いち早く席に座り、同席する招待客達や晩餐会の開始を待っていると、まずやってきたのはヴェネールの領主夫妻がやってきた。

領主であるヴェネール侯爵夫妻は3人目として夫妻の――たぶん長男だろうか、子息を連れての参加のようだ。同一テーブルではあるが、中央の両側に主催のベネトー侯爵夫妻が座るため、1席空けて隣にヴェネール侯爵が座った。

招待客として同席するのはヴェネール侯爵家と、ドラグランジュ辺境伯家だが……。

「りーだぁー、ここは指定の座席ですぅ」

「こちらがお席でさぁ!」

「おぉー、ここかここか」

席の後ろの方から何やらどこかで聞いたような声が……。

こちらへ近付いてくる声と、重量感のある足音に振り向いてみれば、そこにいるのは――

狸顔の背の低い小太りな男、服装はタキシードだろうか? 疑問符が頭の上に浮かびそうなほど白いシャツが腹から丸みを帯びて飛び出ており、タキシードが脇へと追いやられている。

そして、隣に立つのは……鼠顔で細身のドレスを着た女……?

さらにその後ろには、身長2mは超えようかという体躯とブラウンのイブニングドレスを着た猫耳大――女?

え? なんだこいつらは? 女装……?

席に座ったままながら、軽く腰を浮かせてすぐに飛び出せるようにしながら、3人組の動きに警戒する。

「おぉ、ドラグランジュ家も参られましたな、どうぞお席へ」

俺の横に一つ空席を挟んで座るヴェネール侯爵が、3人組に声を掛けている。この3人組がドラグランジュ辺境伯家だと?

黒豹マスクの下で3人の動きを追うが、今のところは危険な様子はない。特に警戒すべきと見える巨躯の猫耳大女……俺の警戒を他所に今度はラピティリカ様が、空席を挟んで隣に座る猫耳大女に挨拶をしている。

なんだ、何かがおかしい

ラピティリカ様の横に座るアシュリーも何も警戒している様子がない、彼ら? 3人を何も不審に思っていないのだ。

「おぉ、ラピティリカ・バルガか!」

「初めまして、ラピティリカ・バルガです」

「俺はドラグランジュ辺境伯の長女、オフィーリア・ドラグランジュよ、そして隣のにいるのが俺の護衛――」

「護衛のぉヴァージニア・パーレンバーグですぅ」

「同じく護衛のエーデルトラウトでさぁ!」

返すようにラピティリカ様が、アシュリーや俺の事を紹介していく。アシュリーは何の疑問も持たずに挨拶を返している。しかし、俺は何も言葉に出来なかった、何を口にしていいのか判らず、オフィーリアなどと自己紹介をした猫耳大女と、目を合わせたまま固まってしまう。

だが、それもほんの数瞬のことだ、晩餐会の会場の照明が弱くなり、ステージだと思われるところに主催のベネトー侯爵夫妻が登場した。晩餐会の始まりだ。

こちらを見ていた猫耳大女の視線がステージへと向く。俺には元々大した興味もなかったようだ、ベネトー侯爵の挨拶を聞いて手を叩いている。

挨拶が終わり、ステージの横に少人数の楽団が出てきた。優雅かつ軽やかが流れ始め、給仕により食事が運ばれてくる。

まずはスープが運ばれてくる。ヴェネール侯爵家やラピティリカ様たちは談笑を始め、3人組はスープを一気に飲み干し、「おかわりぃ」などと言っている……。

その後も料理は運ばれ、魚料理、サラダ、肉料理と続き、最後にデザートとなる。大体10品目程だろうか、出された物を全部綺麗に食べたわけではない、晩餐会というものに初めて出席したが、残してもいいものだとは何かで読んだ記憶がある。

が、そんな晩餐会のマナーなど関係なく、俺の神経はオフィーリアを始め、ヴァージニア、エーデルトラウトの手元に握られた、フォークやナイフに集中していた。

俺もまた握るナイフに力を入れる。黒豹マスクのレンズには投擲する意思を持って握っても、投擲用のシングルラインは現れない。どうやらVMBの武器を持たないと機能として認識しないようだ。

隣に座るベネトー夫人のおしゃべりに相槌を打ちながらも、この奇妙な晩餐に集中していく。一口前に食べた肉の味が思い出せれないほどの緊張の中、この3人組の事を考えていた。

最初に会ったのは城塞都市バルガの道具家だった、その時のこいつらは冒険者をしていたはずだ。二度目に会ったのはマリーダ商会の商隊護衛依頼だ、こいつらは随分とカッコいい名を名乗りながらも、盗賊団をみるとすぐに逃亡した。

そして三回目がこの晩餐会だ。女装なのか本当に女なのか、判断に苦しむ巨躯を揺らし、豪快に笑い女らしからぬ食べっぷりで晩餐会を楽しんでいる。

その姿にラピティリカ様を始め、この席に座る貴族に対して、何かを企てている感じは受けない。本当にただ晩餐会に出席しているだけなのか? そもそも偽者ではなく、本当にこの猫耳大女やヒョロ鼠顔が女貴族で、チビ狸顔が護衛なだけなのか?

何か物凄い違和感と言うか、目に見える違和感が正確に言葉に出来ない。この3人に対して誰も不審に思っている様子がない、ラピテリカ様も、アシュリーも、ヴェネール侯爵家も主催のベネトー侯爵夫妻もだ。

同じテーブルに座る者たちだけではない。料理を運ぶ給仕たちも不思議がる様子はない。

なんなんだこれは?

結局、晩餐会は何事もなく終わった。

ヴェネールでの宿である、「栄光の都亭」に到着し、離れ家にまで戻ってきて、やっと一息ついたところでアシュリーに聞くことが出来た。

「ドラグランジュ領? あそこは王都の北端です。馬車を乗り継いで山を越え、二ヶ月は掛かると思いますよ」

「前に、ドラグランジュ辺境伯家の者に会った事はあったのか?」

「いいえ、でもオフィーリア様の美しさは王都でも有名でした。噂どおりの美しいエルフでしたね」

エルフ……?

晩餐会で見たのは、どう見ても獣人族だ。エルフは妖精族だ……つまり、あのオフィーリアは……偽者と言う事か、ならば何故誰も気付かない?

獣人族をエルフと見間違える? そんな馬鹿な話しあるか、魔法でもあるま――

魔法か……つまり、あいつらは自身の魔法か魔道具とかで、周囲に偽りの姿を見せていた。だが、『魔抜け』である俺には通用しないものだった、たぶん視覚や聴覚に魔力で干渉して幻影、幻聴を見せるのだろう。

自分の姿を魔力で作り変えるタイプならば俺も騙されただろうが、見る相手に干渉するタイプは俺には通じない。しかし、目的は何だ? 晩餐会に出席する事か?

もしや、城塞都市バルガで出会った冒険者3人組も、護衛の3人組も、他の人からは別の誰かに見えていたのだろうか? 奴らは一体、この国で何をしているのだろうか?

そんな疑問で終わったヴェネール外遊だった。

翌日、俺達はヴェネールを出発し、王都へと五日間かけて戻る事になる。昨夜の晩餐会でも、その夜も、闇ギルドからの襲撃はなかった。王都に到着すれば襲撃は難しくなるだろう。となれば、この五日間が相手にとってもこちらにとっても正念場となる。

護衛団の団長ともよく話し合い、毎夜の野営地になる休憩所が一番危険だろうと話していた。そして、王都への帰路で守らなくてはいけないのは、ラピティリカ様だけではない。帰路を進む馬車、それを引く馬、これも守らなくては、予定の日時に王都に戻る事はできない。

王都でおこなわれる舞踏会に、もしも出席できないとなれば、そこに来られると言う、王族の第三王子との面会も遅れてしまう。それは第三王子の妃となるには手痛い失態だ。

王城ではそう何度も舞踏会や晩餐会は行なわれない、自然と王子たちと面識を持つ機会と言うのは減ってくるのだ。魔導貴族の年頃の娘とは言え、それに胡坐をかいてはすぐに別の良家が出てくるだろう。

したがって、ラピティリカ様ご本人も守るが、移動手段の防衛も大事になってくるというわけだ。