軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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エルケイネスにはVMBの携帯兵器が全く通用しなかった。ドラゴンの表皮は硬く、銃弾も砲弾も弾かれて傷一つついていない。

氷壁の上でエルケイネスを睨みながら、攻撃を仕掛けるポイントを体外から体内に切り替えることにした。

だが、それは簡単な話ではない。

まずは戦場を変えるところから始めなくては――。

「エルケイネス、人の力を侮ると思わぬ怪我をするぞ」

『我に傷一つつけれぬ者の、一体なにを恐れようか』

エルケイネスの顔がゆっくりと近づいてくる――俺を恐れていない。それは当然か、いくつもの銃器を取り出しては発砲し、無数の銃弾を浴びせたが通用しなかったしな――だが。

「ドラゴンの存在は自然と同義らしいが、俺の――VMBのシステムは世界の理を超えて干渉するぞ、こんな風にな!」

近づいて来たエルケイネスの頭部――その先についている大口――その上についている鼻孔目掛けて、インベントリから右手の中に召喚したポイズングレネードを投げ込んだ。

ポイズングレネードはVMBオリジナルの特殊手榴弾だ。投擲後三秒で黄色いガスを二〇秒間噴射し――。

『無駄なことを、この程度で我に痛みを――』

その瞬間、エルケイネスの鼻孔内でポイズンガスが噴射し、黄色いガスが鼻孔から漏れだしてくる。同時に――中空に浮いていたエルケイネスの巨体がガクッっと傾いた。

「エルケイネス、痛みを感じたのはいつ以来だ! 一年か、一〇年か、それとも一〇〇年か!」

ポイズングレネードは噴射したガスを吸引したものに視覚障害と身体機能障害、そして――固定ダメージ値のスリップダメージを与える。これはVMBのシステムによって、世界の理を超えて相手に干渉する力だ。

どれだけ強固な皮膚に覆われようとも、ポイズングレネードのスリップダメージは防御力なんてものを無視してダメージを与える。

ドラゴンの体力を考えれば、固定ダメージの値は微々たるものだろう。何百、何千と吸わせても倒せるものでもない。だが、そのダメージ値がたとえ一だったとしても、マイナスはマイナスだ。

『愚かな狂神の子めが……八〇〇年ぶりだ!』

脳内を突き抜けるほどの怒声が響き、エルケイネスの巨体がフラフラと漂う。黄色い竜眼は一層細く縦に割れ、巨体全体から冷気が立ち上がり、周囲の温度が更に下がっていく。

体の底からくる震えが寒さからなのか、それともエルケイネスの竜眼に射抜かれた恐怖からなのか判らないが――。

「はッ……どんだけ無敵だったんだよ……」

八〇〇年――痛みを感じなかったなどと言うエルケイネスに呆れるが、むしろ痛みを 刻(きざ) みつけてやった事に達成感が込み上げてくる――。

「――その程度で終わりだと思うなよ! ユミル、来い!」

だが、これで終わりではない。ポイズングレネードを使ったのは、どうしても確認しておかなければならないことがあったからだ。

VMBのシステムが本当に世界の理を超えられるのか? あらゆる自然の摂理を無視し、各銃器や装備品、他にも様々な道具や食品を説明しているフレーバーテキストの内容が顕在化できるかどうか、それを今一度確認しなくては、最終的にエルケイネスを倒すプランの成功が見えてこない。

俺に残されたエルケイネスを倒す手段は大きく二つ残っている。鼻孔内部でポイズングレネードを喰らわせ、その効果が問題なく発揮されたことで、前提条件がクリアされた。

あとは仕掛ける場所だ。

氷壁の上からユミルと共に飛び降り、一気に“火口の迷宮”へと跳び込んだ。迷宮の入り口である深淵の闇に跳び込む直前、背後を僅かに見るとエルケイネスの巨体が氷壁を蹴り壊し、ポイズングレネードの黄色いガスを振り払うように頭部を振っているのが見えた。

八〇〇年ぶりに痛みを感じさせられて頭に来たか――あの様子なら間違いなく追ってくる。その瞬間が勝負の 刻(とき) だ。

火口の迷宮へとユミルと一緒に突入すると、そこは何度も侵入した色々な迷宮同様に、ちょっとした広場のような空間になっている。

少し進めば地下一階に降りる階段があるはずだが、それは思いがけないものによって塞がれ、この広場も俺の想定とは全く違う場所になっていた。

『臭い!』

迷宮内を興味津々で見渡していたユミルが声を上げたが、その意見には俺も同意だ。

臭いの原因は広場の天井からぶら下がる白い蓑のような繭のような袋だ。広場全体が肥大した腹部のように白く膨れ上がり、ところどころで体液らしき液体で濡れているのが見える。

久しぶりに見る白光草の光で照り返し、幻想的な鍾乳洞のように見えなくもないが、現実はエンプレスアントの食糧庫だ。

もう少し奥に逃げ込んだかと考えていたが、どうやら火口の迷宮はすでにエンプレスアントによって侵略済みだったようだ。

迷宮の奥へと続く通路を塞ぎ、即席で作られたと思われる台座には、ここにあるはずのない極彩色に輝く 大魔力石(ダンジョンコア) が鎮座し、その前では手足を繭に包まれて身動きを封じられている一体の魔獣が目に入った。

あれはまさか、 迷宮の主(ダンジョンマスター) か?

繭に包まれているのはトカゲ頭の亜人種、リザードマンのように見えるが――捕縛されているにも関わらず、相対して感じる存在感には覚えがある。

牙狼の迷宮のウェアウルフ、坑道の迷宮のラムトンワーム、その両者に共通した雰囲気を感じる。

目の前の亜人種はかなり弱々しい雰囲気だが、死んではいないようだ。うな垂れてその顔を見ることは出来ないが、マップに映る光点が確かに生きていることを示している。

何よりもこのリザードマンが 迷宮の主(ダンジョンマスター) だと確信するのは、その横に真紅の甲殻を纏うエンプレスアントと、その幼生体たちが立っているからだ。

「やはり生き残っていたか」

エルケイネスによって腹部に大穴を開けられ、直上から降って来た氷塊によって潰された――と思ったが、その肉片はどこにも見つけられなかった。

どう躱したのか判らないが、ドラゴンであるエルケイネスから逃れ、この火口の迷宮に逃げ込んでいたのは間違いなかった。

まさか侵入してすぐの場所を食糧庫にし、さらに迷宮の最下層にあるはずの大魔力石と 迷宮の主(ダンジョンマスター) をこの場所にまで引っ張り出していたとは――。

いや、エンプレスアントから見れば、迷宮は無限に餌を産み出す食品工場だ。南海の孤島という立地を考えれば、最下層まで侵攻して迷宮を喰い荒らしてもいいことはない。

エンプレスアントは俺とユミルの姿を見て、凍ったように動きを止めていた。複眼と眉間の単眼がどこを見ているのかよく判らないが、太く鋭い大顎を震わせながら俺たちとその背後――迷宮の外へと繋がる深淵を交互に見ているように感じる。

エンプレスアントを守るように立つ幼生体は、あの獣人種タイプの三人のみ。

「ユミル、白い幼生体を頼む。俺は紅いのを仕留める」

「キュッ!」

エンプレスアントが気に掛けるように、俺も迷宮の外にいるエルケイネスは気掛かりだ。奴は俺とユミルを追って迷宮内部に突入してくるはず、その前に――エンプレスアントとの決着をつける!

ユミルが尻尾の先に冷気を集め出すのと同時に前方へとスライドジャンプし、そのまま一気に上へ跳んで幼生体を飛び越し、上空で体を捻りながらインベントリを意識――銃器の殆どはエルケイネスに弾薬を撃ち尽くし、召喚してすぐに使えるのはハンドガンくらいなもの――予備弾倉をSHOPから購入している時間はない。

両手に召喚したのはCZ75 SP-01に 銃剣(バヨネット) 装備。

「お前に時間を取られるわけにはいかない」

俺を見上げるエンプレスアントの首元を狙い、両手に握ったCZ75の 銃剣(バヨネット) を突き込みながら跳び込んだ。

「Giii!」

呻くような声を上げるエンプレスアントの頭部を目前にし、俺の刺突は何重にも重なる真紅の甲殻に覆われた歩脚によって防がれた。だが、銃口の向く先を示すクロスヘアはきっちりと首元を捉えている。

左右のトリガーを引いて9×19㎜パラベラム弾を撃ち込み――その反動を利用して目の前に着地。

エンプレスアントの体が被弾によって仰け反るのを追い、六本ある歩部の上部二本の付け根へと銃剣を突き込み、再びトリガーを二連射。

「Gyaaaa!!」

やはり、エンプレスアントは個体としては大した能力を持っていない。懐に入り、唯一の防御手段とも言える甲殻を避けて貫けば、容易に体の節々を分断できる。

銃撃に合わせて銃剣を捻り上げ、歩脚二本を斬り飛ばした。

エンプレスアントは首元に銃弾を喰らい、歩脚二本を斬り飛ばされながらも、腹部から伸びる別の歩脚二本を挟みのように振り抜いて来た――。

だが、その動きは余りにも遅い――いや、俺が戦い慣れてきただけだろうか?

上半身をスェーバックさせながら後退、振り抜きを回避しながらクロスヘアを頭部に合わせてトリガーを引いた。

連続して撃ち放たれた銃弾は続く甲高い音と共に歩脚の甲殻によって弾かれたが、エンプレスアントの動きは再び固まった。

そこからは一方的な展開になっていく――エンプレスアントは亀のように関節部を甲殻で隠し、銃剣によって突き込まれないよう防御一辺倒になった。

こちらも銃弾が甲殻に弾かれてしまう以上、関節の継ぎ目を狙うしかないのだが、胴体付近は隙間が見当たらない。

上下に左右の刺突を振り分けながら牽制し、関節部分が見えた瞬間に突き込み――トリガーを引く。

歩脚を更に一本斬り飛ばし、エンプレスアントは残り二脚で後退しながら、最後の一本を盾にして下がっていく。

追い詰めた――そう確信した瞬間、背後から突風のような冷気が入り込んできた。

振り返らなくてもわかる。エルケイネスが迷宮内に入って来たのだ。