軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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氷の卵から孵化したドラゴンの赤子。俺はこの小竜を育てることを決め、まずは名前を付けるところから始めた。

俺の足に巻きついて寝ていたのを起こし、今は迷宮島に作った拠点に移動し、凛々しく俺の前に座る小竜と向かい合っている。

育てると決めた以上、その名前は重要だ。それに赤子とはいえ自然界の覇者の一族――ただ可愛い名前や、キラキラネームを付けたら将来が不安だ。

それに名は体を表すと言う。この子がどう育ってほしいか、それも考えて名付けなければ――そしてなにより、この子が自分で自分の名を気に入らなければ意味がない。

「これからお前の名前を決める。いくつか列挙するから意見をくれ」

「キュ?」

もしかして、名前の意味が判らない? 高い知性があるのに、ドラゴンに名前を付ける習性はないのか? とも考えたが、まずは話を続けることにした。

「じゃぁいくぞ――バハムート、ファフニール、ムシュフシュ、リンドヴルム、ワイバーン、ニーズヘッグ、バクナワ――」

前の世界で神話や伝承に伝えられている名前を上げてみたが、特に気に入った名前があるようには見えない。

「――ポチ、タマ、タロウ、ココ、チョコ、レオ、ソラ、マロン、コタロウ――」

今度は犬や猫のペットに付ける名前を列挙してみたが、赤子はすまし顔で頭を傾け、こちらを見ている。そこで名前を付ける前に、一つ確かめることがあったのを思い出した。

「お前……雄と雌、どっちだ?」

『オスとメスって、なに? ゴハン?』

「いや、ゴハンじゃないんだけど……」

まさか――性別が存在しないのか?

赤子が性別というものを認識できないのかもしれないが、ドラゴンという存在の大きさを考えれば、種の存続の仕方も特別なのかもしれない。

赤子を撫でながら胸や腹、股のあたりを確認したが……生殖器どころか排出腔すらない。

雌雄どころか、排便などの生理現象も存在しないのか?

考えても答えが出そうにない問題は一度棚上げし、名前を考えることを再開することにする。雌雄が不明な異常、どちらにも相応しいものがいいだろう。

「名付けを再開するぞ。アイス、フロスト、フリーズ、コールド、スノー、ブリザード――」

氷や雪に関する言葉を並べ立てたが、赤子は無関心なまま自分の尻尾と戯れている。

溜息を一つ吐き、赤子の姿を改めて見ながら相応しい名前を考えながら、ここにくるまでの赤子の様子を思い返した。

爬虫類に似た頭部の形状だが、頭部の半分から生える水色の産毛が薄っすらと全身を覆っている。四足歩行で動くのだが、背には翼らしき突起が二つある。まだ生まれたばかりのせいか、触っても動きはしない。

体以上に細く長い尻尾は、産毛よりも長くフサフサとした毛に覆われている。先端にだけは毛がないが、滑らかで触り心地がとてもいい。

ドラゴンとは思えない鳴き声と、聞き取れる言葉はゴハンばかりを要求してくるのだが、黙っていれば赤子でも自然界の覇者としての風格と威厳を漂わせている。あの雫のような透き通った氷の卵から生まれた時は、撃ち出す氷槍の威力も相まって、まさに氷の申し子って感じだったが――。

「――ユミル」

ふと、記憶の片隅にあった神話に出てくる名を呟くと、尻尾に夢中になっていた赤子の視線がこちらへ向いた。

『よんだ? ゴハン?』

ゴハンじゃない! と突っ込みたくなったが――これで名前は決まったな。

「まだゴハンの時間じゃないぞ、ユミル」

「キュゥ」

餌として与えられる魔石の量は限られている。ユミルの餌が魔石以外にもあるのかどうかを確認する必要もあるし、魔力に反応して無差別攻撃するのもやめさせなくてはならない。

しかし……ドラゴンの育成ってどうすればいいのか……。

ユミルの育成を始めるにあたり、まずは携帯電話でマルタさんとアシュリーに連絡を取った。ユミルをアマールに連れて行くには双方にとって危険すぎる。しばらくの間は迷宮島で育てるため、ここを離れるわけにはいかない。

「というわけでアシュリー……少しの間、そちらに行くことが出来ないんだ」

『ちょ、ちょっと待って、シュバルツ。ドラゴンの卵を見つけて、孵化した赤子を育てる――そう言ったの?』

電話の向こうからアシュリーの呆れた声が聞こえてくる。こんな突拍子もない話を、はいそうですかと信じられるわけがない。

「――そう」

『――そう、わかったわ』

「えっ? 俺の話を信じるの?」

『えっ? 今の話は嘘だったの?』

あまりにもすんなりと俺の話を信じて答えてくれたので、思わず聞き返してしまった……。

「い、いや、全て本当の話だけど――」

『もぅ――それで、その子はどんな子なの?』

「ユミルって名付けたんだ。大きな犬ほどくらいの体に、同じくらい長い尻尾があって――」

アシュリーとユミルについて話をし、透き通った氷の卵や魔石を餌にすること、魔力に反応することなど色々なことを話した。

『――絵本で読んだことがあるわ。怒れるドラゴンを鎮めるために、湖一つを埋めるほどの魔石を捧げたお話や、魔法を満足に唱えられなかった少女を魔獣の群れから救い飛び去るお話――そのどれもが魔石や魔力に大きく関わるものだわ』

「絵本か……」

資料館で調べた書籍は生態や図集などの資料ばかりだった。伝承や神話をまとめた全集なども確認していたが、大した情報は得られなかった。まさか資料よりも絵本の方がドラゴンについて的確な情報を伝えているとは思わなかった。

そういえば、この世界の言葉を覚えたのも絵本だったな――。

その後もユミルについて――ドラゴンについて話をしながら、ザギールについても話をしておいた。

カーン王太子たちの警護体勢は多少緩和されるだろうが、アマール周辺での魔獣狩りは一定の成果を上げているため、今後も継続されるとアシュリーは話していた。

クルトメルガ王国とバイシュバーン帝国との摩擦は、あらゆる方面で日に日に強くなっている。ドラーク王国の王位も、バイシュバーン帝国からきた婿養子に継承される話が進んでいるらしい。

魔石の流通と確保を巡る水面下での争いと並行し、クルトメルガ王国の包囲網が着々と進んでいる。

王国の南が海でよかった。四方を囲まれていたら逃げ場は――そうか、その為のドラゴンか。

電話で話をしながらユミルに視線を向ける。ユミルは尻尾の先から放った冷気を器用に固め、氷のベッドを作ってそこで寝ていた。

クルトメルガ王国南部に広がる大海にドラゴンが巣を作ったとすれば、フィルトニア諸島連合との間を分断され、完全に逃げ場を失う。

ドラゴンを討伐しようと考えても、多数の兵士や冒険者たちに海を渡らせるのは不可能に近い――そんなことをすれば付け入る隙が生じるからだ。

ならドラゴンを無視するか? そんなことは不可能だ――フィルトニア諸島連合国の玄関港であるビグシープからも、クルトメルガ王国のアマールからも、この迷宮島付近は近すぎる。

それがバイシュバーン帝国の目的か――確証はないが、状況を考えれば可能性は高い。最終的にドラゴンを北上させるつもりだったのか、それともドラーク王国が南下するつもりだったのかは判らない。しかしザギールは死に、ユミルは俺が育てることになった。

バイシュバーン帝国の計画は図らずも頓挫することになったが、これはただの時間稼ぎにしかならないかもしれない。

だが、この時間こそが三国の行く末を決める、決定的な時間となるのかもしれない。

アシュリーと通話を終えた後、マルタさんとも連絡を取り、しばらくは交易船に転移できないことと、魔石の売却を少し控えることを伝えた。

理由も話しておいたが、ユミルを――ドラゴンの育成を始めた、と言った瞬間に聞こえた息をのむ音と、その後の長い絶句は今までに話したどの秘密よりも長かった。