軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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陽が落ちてもビグシープの渡し舟は営業を続けていた。月明りと船首にぶら下げた提灯の僅かな灯りだけを頼りに、大型船の隙間を縫うように漕いでいく。

到着した十一番船は貸し倉庫専用の平面型船舶になっていた。渡し船乗り場から上に昇ると、他の番船には居なかった警備員らしき統一された武装をした男たちが立っていた。

「夜遅くにおつかれさん。ここは貸し倉庫の利用者だけが乗船できる船だ。鍵を持っているなら提示してくれ、倉庫を借りたいなら受け付けは向こうの一〇番船だ」

老水兵のガルダから受け取った魔石消費型魔錠紋を提示すると、警備員がサイド部分に刻印されている番号を確認して帳簿らしき紙の束に何かを記入をしていく。

乗船した者をチェックしているのか。

「三六番倉庫、『大黒屋』シュバルツで間違いないか?」

「えぇ、そうです」

「連れは……いないな。行っていいぞ、三六番は右手に少し進んだ先だ」

「どうも――」

三六番倉庫があるという方向へ歩いて行きながら、僅かに後ろへ視線を向けて警備員が持つ帳簿を見つめる――。

『大黒屋』シュバルツと言ったな……その名義で倉庫を借りたということは、シエラはこの二日の間にそこまで調べを付けたか……。

果たしてその先、“ 火花(スパーク) ”の金庫番であり、クルトメルガ王国の宰相直属の実戦部隊という肩書を持っている所まで到達できたかどうか。

建ち並ぶ貸し倉庫――とはいえ、その基本構造は漆喰らしきもので壁を塗り固めた土蔵造りだと思われる。歩きながら壁を軽くノックして感触を確かめる――。

まるで蔵だな――この厚い土壁は防火や盗難対策か。

シエラが借りてくれた三六番倉庫が見えて来た。いくつも建ち並んでいる倉庫と全く同じだが、扉に印字された三十六の数字がここで合っていることを示している。

扉の魔法錠に魔錠紋を合わせて解錠し、中に入ってすぐに閉めた。

倉庫内に灯りはなく、壁の上部に開いた小窓から差し込む星明りで僅かに中が見える程度だ。本来は 光玉(ライトボール) や魔法光で火事の心配がないように内部を照らすことが前提なのだろうが、俺にそれを用意することはできない。

だが、俺には僅かな星明りで十分――視界を NV(ナイトヴィジョン) モードに変更して奥を確認すると、いくつかの木箱が並べられていた。

木箱の中には、シエラに注文した無属性魔石やビグシープ周辺の海図、それに狩り場となっている迷宮島の場所や魔獣・亜人種の情報がまとめられた紙の束が入っていた。

俺が最も欲した情報はというと、書類入れのような革袋の中に、厳重に密封されて入っていた。

注文通り――場所や魔獣たちの情報が記載されている。そして、暴走した迷宮島の情報とは明らかに違う筆跡で書かれた注意書きも入っていた。

――情報確認後、必ず革袋ごと燃やして海に捨てるように――

証拠は残すな、ということか。島の位置などが書かれている紙を一枚一枚ウィンドウキャプチャーで保存し、狩り場や海図も残らず記録しておく。

狩りの最中に確認している暇はないし、ウィンドウモニターに表示して視界に浮かべた方が見やすい。

すべての資料を保存し終えたところで、インベントリからショッピングセンターより持ち出したライターを取り出して火を点けた。

貸し倉庫の中で勢いよく燃える革袋と資料の紙束――どうやら、この革袋には油を吸わせてあったようだ。

床も壁も土蔵造りのため、倉庫内に燃え広がるようなことはない。そうなれば消火するだけだが、今はボロボロに燃えていく火を見ながら視界に浮かべたモニターウィンドウを重ねて表示し、海図と迷宮島の位置を照らし合わせて航路や距離を確認していく。

思った以上に近いな……Uボートなら三日――いや、二日で行ける距離だ。

制御できないほどに暴走した迷宮島とはいえ、管理しきれなくなってから随分と年月が経っている。迷宮から魔獣・亜人種が溢れ出るのは止まっているが、その後どうなっているかは予想がつかない。

資料の中には調査隊を送った報告書もあったが、暴走した魔獣同士が共食いを起こし、島全土を使った蟲毒のような状態が引き起っているようだ。その結果どうなったかまでは書かれていないが、競争に負けた魔獣がその魔石ごと勝った側に吸収されているのは間違いない。

迷宮内部で活動する魔獣たちは 迷宮の主(ダンジョンマスター) の配下として活動しているため、統制が取れずに共食いをするようなことはない。

暴走(スタンピート) 直後も魔獣たちの狙いは自然界に生きるもの全てに向いている。狂える女神と 迷宮の主(ダンジョンマスター) の尖兵として、敵意と害悪を世界に振りまく。

しかし、 暴走(スタンピート) 状態が一息つけば、それこそ魔獣たちは正気に戻る――いや、正気を――自我とも言える野生を手に入れる。

共食いが起こるのはそれからだ。そして、その勝利者である魔獣はその存在を進化させる。

破棄された迷宮島では、蟲毒を生き抜いた魔獣同士がさらに激しい生存競争に晒されている。

元々――暴走の制御とは討伐できないほどに魔獣の進化が進まないよう、冒険者が間引くことを意味する。つまり、これから向かう島には冒険者の手に負えないほど進化した魔獣が存在しているということだ。

注文した物をすべて回収し、空になった倉庫内に今度は転送魔法陣と模写魔法陣を設置しておく。ここを迷宮島と繋ぎ、休息や緊急避難路として利用する。

さすがに『青海の宿』を拠点として使うのはリスクが高い。そもそも、シエラに信頼できる業者の貸し倉庫を要求したのもこのためだ。

その要求通り、この十一番船は警備員が乗船チェックを行い、今も二人体制の警備が外を巡回しているのが、マップに浮かぶ光点でよく判る。

「これで準備完了だな」

魔法陣が問題なく稼働していることを示す淡い光が灯っているのを確認し、夜明けから始める迷宮島狩りに備えて最後の睡眠をとりに宿へと戻ることにする。

疲れを知らぬ俺の体には、睡眠すら必要ない。休息はあくまでも精神的な集中力を維持するためのもの。

明日からは不眠で迷宮島の魔獣を狩りまくり、失った大量のCPを一気に回復させる。その目標額も既に決めている――いや、むしろその目標額+安心して活動できるCP額にまで戻すのが最高の結果だ。

貸し倉庫から出ると周囲には海霧が出ていた。僅か数メートル先すら見通せないほど白く、蒼い闇が広がっていた。

マップを見ながら歩かなくてはまともに進むことも出来ない。足元に気をつけながら、渡し船乗り場へと歩いて行く――周囲の光点にも気をつけていると、前方の貸し倉庫から三つの光点が出てくるのが判った。そして、何か心音らしき大きな鼓動がその貸し倉庫から聞こえてくる。

だが、その三人は貸し倉庫にしっかりと鍵を掛けるのが音で判る。

『本当にできると思うか?』

『前例はありません』

『ですが、やらなければ……』

『……わかっている』

三人はこの海霧で俺が傍を歩いていたことに気づいていないようだ。話し声は集音センサーが拾ってくるが、聞こうとして聞いていないので内容はよく判らない。いや、判る必要もないか――。

三人が俺に気づいたようだ。会話が止まり、視線がこちらに向くのを感じる。自然と俺の視線もそちらへと向くが、海霧でよく見えはしない。唯一判ったのは――三人とも深いフードを被っていることくらいか。

お互いに海霧を挟みながら僅かに視線を重ね、すぐに外して離れていった。