軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

214

魔法によって作られた石造のアーチ状トンネルは、詠唱者の意識が完全に途絶えても消えたりはしないのか――いや、そんなことで消えていたら魔法建築など存在はしないか。

辺境騎士団含め、ヴァージニアとオフィーリアを気絶に追い込んだ。PSS特殊消音拳銃のマガジンを換装しがら、ゆっくりと迷宮の門が見える位置へと移動する。

そこで構えるのは 山茶花(サザンカ) の四人。

「血の臭いがしないにゃ」

「殺していないのね。討伐した迷宮の糧にもならない事は、しないということかしら」

「傲慢」

「だけど、山茶花はあまくないよ!」

知っていますよ……。

オフィーリアが山茶花と一緒に動いていると聞いた時から、どこかで彼女たちとやり合う予感がしていた。

それは“ヨーナ”のアバター衣装を選択したからではない。たとえクルトメルガ王国で名の知れた“黒面のシャフト”であっても、顔見知りである“シュバルツ”であっても、巡り巡ってこうなっていただろう。

「マリンダ頼むわよ。ミーチェとルゥはあいつの正面に立たないで、囲むわよ」

「任せろ!」

「にゃぅ!」

「了解」

俺の正面にマリンダさんが大盾を構えて立ち、その後方にフラウさん。ミーチェさんとルゥさんが、ゆっくりと俺の左右に展開していく。

辺境騎士団が最初に取ろうとした動きと同じ――だが、今度はサイドへと先制攻撃を仕掛ける余裕がない。マリンダさんから感じる強烈な存在感が、俺の視線を奪って離さない。

なにかのスキル、もしくは魔法を仕掛けられている?

『魔抜け』である俺には魔力干渉型の攻撃は通用しない。魔法によって炎や水などを具現化する攻撃魔法以外は、俺には一切通用しないと高を括っていた。

しかし、魔法の自由度はそんな単純な話ではない――傲慢か、ルゥさんの呟きがまた聞こえた気がした。

「厄介ダナ」

俺の呟きが聞こえたのか、正面に立つマリンダさんの口元が緩む。

「あんたの相手はこっちだよ!」

手に持つ両刃斧の柄頭を大盾に打ちつけ、更に存在感を増してマリンダさんが吠える。

やはり、パーティーの盾となるタンクに意識が向くようにされている。だが、それならそれでいい。

冒険者パーティーのチームワークを崩壊させるには、サポート役を最初に潰すか、タンク役を潰して各個撃破に持ち込むかの二択だ。

坑道の迷宮を討伐することは出来たが、道中は決して楽ではなかった。今後の迷宮探索を考えれば、Aランク冒険であるマリンダさんの守りを突破できないようでは話にならない。

腰からグレネードアックスを抜き、射撃体勢をとってトリガーを引く。装填されているのはスモークグレネード弾だ。

マリンダさんは近接武器を抜いた行動に反応し、半身の体勢で両刃斧を握り込んでいたが、斧頭を向けられて間の抜けた音と共にグレネードが射出されるのを見た瞬間――構える大盾に身を隠す動きを見せた。

やはり銃撃を警戒している。

だがそれはもう想定内――スモークグレネード弾を追うように走り出し、大盾の前に着弾すると同時に噴き出す白煙の中へと跳び込んだ。

「マリンダ!」

後方からフラウさんの声が上がる。

視界が真っ白に染まると同時に、FLIR(赤外線サーモグラフィー)モードへと変更する――マリンダさんは噴き上がる白煙に飲み込まれながらも、全く狼狽えることなく、どっしりと大盾を構えて白煙の先を睨み付けていた。

大盾に正面から挑むのは相性が悪い――右方向から回り込み、マリンダさんの左手を切り落とすつもりでグレネードアックスを振り下ろした――。

しかし、白煙に巻かれてこちらの姿を視認できていないにも関わらず、マリンダさんは俺の攻撃を察知し、最小限の動きだけで大盾を巧みに操って防いで見せた。

「ムゥ――」

「あまいって言ったよ!」

お返しとばかりに両刃斧が振り下ろされる――グレネードアックスを跳ね返される勢いを利用し、後方へとスライドジャンプでそれを回避する。

山茶花の攻撃を止まらない。白煙を突き抜けて下がった位置に、高速で近づく光点が一つ――俺の後ろに回り込み、その呟きが聞こえる。

「抜刀――《 三日月(ミカヅキ) 》!」

ルゥさんのスキルが背後で放たれる――。

「くっ――」

着地と同時に背面跳びに移行し、真後ろに立つルゥさんを飛び越えるように大きくジャンプ――俺の背中で輝く剣閃が空を斬る。

空中で回転しながら毛皮のマントに隠している擲弾を取って換装――これは実弾だが、足元を狙ったスプラッシュダメージ――範囲攻撃を狙う。

空中で擲弾発射体勢に移行し、ルゥさんの頭上を取った――と思った瞬間、目の前に迫るのは短剣の切っ先をこちらへ向けて跳び上がる、ミーチェさんの姿だった。

「獲ったにゃ! 《 蛇突剣(サーペントピアス) 》!」

躱せない――。

空中で射撃体勢に入っているため、グレネードアックスで弾くことは無理、出来ることは左手の――。

「にゃ?!」

CBS(サークルバリアシールド) を直撃の瞬間に展開――パワードスーツの機能と同化した今、左手のスイッチすら押す必要がなかった。

直撃の瞬間だけ最小範囲で展開し、即時解除。防いだ衝撃にミーチェさんと見合いながら落下していくその瞬間――右手は着弾予測地点を示す放物線を頼りにトリガーを引き、左手の掌打でミーチェさんの顎を打ち抜く。

「ミー!」

珍しい――ルゥさんが大きな声を上げてミーチェさんを呼ぶが、すぐに擲弾の爆発音にかき消されていった。

やはりこの二人、相当に仲がいいようだ。しかし、みんなには悪いが、いつまでも後手や対応され続けるつもりはないぞ。

顎を打ち抜いた一撃だけでは、ミーチェさんの意識は刈り取れていない。口元から僅かに血を溢れさせながらも、まるで猛獣のような眼光で俺を睨んでいる。

そして、玉座の間に落下した。

俺が床に打ちつけられると同時にミーチェさんが距離をとろうと動いたが、逆に俺は彼女の後ろに回っていた左手で後頭部を掴み、抱き寄せる。

「ふにゃ?!」

ミーチェさんが変な声を出したがそれは無視。グレネードアックスを手放し、PSS特殊消音拳銃を引き抜いて素肌が見えている腹の下辺りに当てる。

トリガーを引くごとにミーチェさんの腰が上下する。模擬弾とはいえ、至近距離で下腹部を撃ち抜く衝撃に声にならない声と血を吐き出し、俺から離れようと暴れるがより力を入れて抱き寄せて逃がさない。

トリガーを引き続け、ミーチェさんの抵抗力が消える――七発しか装填されていないPSSだが、顎への一撃を含め、ミーチェさんの意識と飛ばすには十分な弾数だった。

「殺す」

俺の上で動かなくなったミーチェさんを横に押しのけ前を見る――跳び退るようにその場を離れ、ルゥさんから投げつけた短刀を回避した。

玉座の間に刺さる短刀は、まるでクナイのような黒い両刃刀。剣士といえど、投げ物の一つや二つは持っているか……

PSSのマガジンを換装し、腰のホルダーに戻す――同時に背から廻すのはH&K UMP45。

実弾が装填されているマガジンを抜き落とし、模擬弾が装填されている演習用マガジンを召喚して換装し直す。

「ルゥ、黒い短杖よ! マリンダ前に!」

「おう!」

「ミーは?」

「胸は動いている、死んでいないわよ」

UMP45を見せた瞬間にフラウさんの指示が飛び、ルゥさんが俺を睨みながら下がっていく――交代するように前へ出てくるのはマリンダさんだ。

フラウさんの補助魔法を受けたのか、マリンダさんが構える大盾は零れ落ちる事のない水を纏い、手に持つ両刃斧は風を纏って旋風をまいていた。

「ヨーナとか言うらしいな、おまえ。もう一当てしようぜ!」

マリンダさんの自信に満ち溢れた男前の笑顔が眩しい。

あの水盾の防御力はどのくらいだろうか? 旋風巻く両刃斧は威力だけではなく、攻撃範囲まで広がっていそうだ。

あまりにも正面から挑まれると、ついその勝負を受けたくもなるが――。

「悪いナ……」

呟くように返した俺の一言はマリンダさんに聞こえただろうか? ほんの少しだけ可笑しげな表情を浮かべたが、俺が腰のポーチから筒状の物を取り出した途端、緊張した表情へと一変した。

彼女たちと言葉を交わすつもりはない。どちらかが死ぬまで終わらない戦いをするつもりもない。

ピンを抜き、これ見よがしに放り投げる。

「また煙幕か!」

手に持つ両刃斧で弾き返すにはやや高い位置、大盾で隠れれば俺の次の動きを一瞬だが見失う、その微妙な距離で炸裂するように投げた特殊手榴弾。

山茶花の四人には一度も見せていなかった、もはや定番とも言うべきそれ――M84フラッシュバンが、玉座の間を覆い尽すほどの眩い閃光と爆音を炸裂させた。

響き渡る爆音の向こうで、彼女たちの戦士らしからぬ悲鳴が聞こえる。

M84によって一時的に視覚と聴覚を麻痺させると同時に、UMP45をダウンサイトしてマリンダさんにクロスヘアを合わせる。

M84が炸裂する瞬間、大盾に纏わりつく水がバリアのように広がり、閃光と爆音を防ごうと動くのが見えた。まるでマリンダさんの意思とは別に、自動的に防御行動をとったようにも見えた。

だが、目の前で炸裂したM84の音圧は、水の壁で防げるようなものではない。ジェットエンジンが発する爆音よりも更に大きな音が、音圧が発生しているのだ。

水の盾は波打つように歪み――崩壊した。

クロスヘアを大盾の角に合わせ、指切り射撃で撃ち叩く。マリンダさんは倒れてこそいなかったが、ふらついて大盾を保持できるような状態ではなかった。

そこへ撃ち込まれた大盾への銃撃は、大盾を持つ手首の可動域を超える押し込み――保持しきれず、マリンダさんは大盾を手放し、その全身が露わになる。

続いて左足首にクロスヘアを飛ばしてトリガーを引き、撃ち叩いて四つん這いの体勢にさせる。

タンクとしてパーティーの盾となるマリンダさんの防御は堅い。となれば、意識を刈るには剥き出しの頭部しかないクロスヘアを合わせ――。

しかし、その背後にはふらつきながらも目を閉じて、抜刀の体勢をとるルゥさんの姿があった。

「抜刀――《 闇光(アイゲン・グラゥ) 》!」

俺がトリガーを引くのと、ルゥさんの片刃剣が閃くのはほぼ同時だった。だが、俺の指切り射撃がマリンダさんの頭部を捉え、着弾の反動で不規則に揺れる頭部を微妙なAim調整によって捉え続けたのに対し、ルゥさんが放った剣撃は明後日の方に飛んでいき、玉座の間の壁を傷つけるだけだった。

「そ、そんな……み、見えない」

何が見えないのか判らないが――ルゥさんにはM84の効果がかなり効いているようだ。抜いた片刃剣を支えにして何とか立っているが、容赦なく鳩尾へ撃ち込む。

ルゥさんはその衝撃に血と胃液が混じったようなものを吐き出しつつ、呼吸困難に陥って意識が飛んでいく。

これで残るはリーダーのフラウさんのみ。

最後尾にいた彼女はM84の影響をそれほどには受けていない。炸裂から二人の意識を狩るまでのわずかの間、フラウさんはサポート系らしき魔言の詠唱を一旦破棄し、やたらと長い魔言を詠唱し続けていた。

「~~、~~、 守護騎士団召喚(サモンガーディアン・アクアナイツ) 」

魔法名が宣言されると同時に――空中に巨大な渦巻く水球が生まれた。

「まさか、これを使わされるとは思わなかったわ」

フラウさんの呟きは小さく。俺に言っているわけではなく、思わず出た一言だったのだろう。長い長杖を掲げ、その周囲の空気が揺らいでいるのが見える。

魔法名の宣言後も魔力を送っているのか、長杖を掲げ上げたままこちらを睨み、更に魔言を詠唱していく。

「~~、~~~、~~~、~~、 水の霧(アクアミスト) 」

その詠唱を邪魔してもよかったのだが、空中に浮かぶ水球の変化の方に注意が必要だった。

渦巻く水球から大きな滴が落ちると、それが人の形――鎧を着た騎士の形と成って整列し始めた。

そう……一つのパーティー、一つの小隊、一つの騎士団とも言うべき数が生まれ落ち、整然と立ち並んでいく。

そして、それらを覆い隠すように霧が立ち込め、数m先の視界すら通らなくなった。

「オフィーリアの言う通りだったわね」

立ち込める霧の向こうからフラウさんの声が響く。音を反響させているのか、全周囲から声か聞こえてくる。

視界に浮かぶマップは影響を受けていないが、増え続ける水人形の光点によって、既にフラウさんがどう動いているかは判らなくなっていた。

「あなたに聞いておきたいのだけど、血統スキル《Arms》を使うアンデッドは他にもいるの? それに、アンデッドになる前の記憶を持っていたりするの? わたしの知り合いにも同じスキルを使う冒険者がいるのだけれども、知り合いだったりするのかしら?」

……直球だな、しかも多い。やはり、ヨーナとして扱う銃器や攻撃方法からこの結論に到達していたか。

俺の事を“アンデッド”と呼んだところを見ると、このヨーナの姿が変装や偽りの姿だとは思っていないようだ。

「……求めるのは程々にしてオケ。知り過ぎた結果、己の未来を知ることが出来なくナルゾ」

光点の増加が止まった――三〇体以上はいるだろうか。霧の向こうでこちらを囲むように展開していくのが見える。

「そう――答えるつもりはないということね。それならそれでいいわ、こちらの準備も出来たし、終わりにしましょ」

その一言と同時に、視界を遮っていた霧が晴れていく――。

「オイオイ……」

思わず声が零れる――。目の前に立ちはだかるのは水人形の騎士たち、その後方には指揮官たるフラウさんが威風凛々と構えているかと思いきや――。

「アクアナイツ、後は頼んだわよ。ヨーナが 大魔力石(ダンジョンコア) を喰らう前に、討伐して確保しなさい!」

と高らかに指令を飛ばし、迷宮の門の向こうへと去っていった。周囲を見渡せば、オフィーリアを始めとした辺境騎士団と気絶させた山茶花の面々の姿がない。

……撤退したか。

霧で視界を封じ、俺から情報を聞き出そうとした裏で、実は撤退の準備をしていたようだ。

この水人形たちを召喚したのも、数で攻めるわけではなく。行動不能に陥った味方を回収しつつ、俺の足を止めるのが目的だったのだろう。

水人形たちに大魔力石の回収も命じてはいたが、それが出来るだけの戦闘力がこの水人形たちにあるのだろうか?

まぁ、確かめれば判る事か。

殺さずという制約はもうない。右手にGE M134 Minigunを演習用弾倉帯と共に召喚し、左手にも同じものを召喚する。

計十二本の銃身が唸るような微振動と共に高速回転を始め、坑道の迷宮の最終幕を知らせる轟音が鳴り響いた。