軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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ヨーナの姿となって魔の山脈を進んで数時間が経過した。日はすでに沈み、周囲は完全な闇に閉ざされているが、俺の視界は僅かな星明りと NV(ナイトヴィジョン) によって確保されている。

見える世界が薄緑色に染まり、僅かな夜行性の虫の音だけが響く深夜の針葉樹林を歩き、先行している 山茶花(サザンカ) の四人とオフィーリアとその護衛騎士ヴァージニアの行方を追っていた。

このポイントも違うようだな……。

魔の山脈に存在すると予想される迷宮の候補地を、森林都市ドラグランジュに近い場所から順々にチェックしているが、このまま見つからないとなると……ドラーク王国に近い方へ捜索範囲を広げる必要が出てくるな……。

その後、もう一日掛けてドラグランジュに近いポイントを探したが、冒険者パーティーらしき光点の集まりや、迷宮の入り口らしきものは見当たらなかった。

逆に、魔の山脈が保有する魔鉱石の鉱脈に誘われたのか、もしくは見つけられない迷宮の入り口に誘われているのか、遭遇した魔獣・亜人種たちの動きを見ていると、一定の方角へ向かって緩やかに移動し、同じ方角からドラグランジュへと南下しているような印象を受けた。

そして、その方角こそがドラーク王国に一番近い予想ポイントと一致していた。

自然とその予想ポイントの確認は最後になるのだが、現在向かっている別のポイントが正解だったのかもしれない。

視界に浮かぶマップに、六つの光点が一つの塊になっているのが見えた。場所はもう少しだけ先――、針葉樹林の抜けた辺りのようだ。

俺はこの二日間、僅かな睡眠時間で眠気を飛ばす以外は、疲れることのない体を最大限利用し、昼夜問わず移動し続けていた。

だが、先行している彼女たちは違う。バーグマン宰相からの手紙には、山茶花の四人は全員がAランクと記されていた。俺が彼女たちと出会った時には、ミーチェとフラウはBランクだったはずだ。

緑鬼の迷宮を討伐したことで昇級したのだろうが、ランクがどれだけ上がろうとも、日が落ちた後も探索を続けるようなことはしない。

自然と行動出来る時間帯には制限があり、それを無視できる俺との距離は縮まる一方のはずだった。

マップに映る地形によれば、目の前の針葉樹を抜けるとその先に広がるのは山岳湖だ。六つの光点はその 畔(ほとり) で留まっている。たぶん、キャンプ地としているのだろう。

前の世界と比べて、高さも太さも遥かに大きい針葉樹に背を預け、リーンという体勢で山岳湖の方を覗いた――。

人……ではないな。だが人型――、全身を毛に覆われ、大きく長い尻尾を左右に揺らしている。そして、頭部に載っているのは犬の頭だ。

コボルト……、牙狼の迷宮の主であったあのウェアウルフと比べれば体長はかなりの小型、ゴブリンと同程度の子供のような体格だが、その手には南蛮刀のような幅広の小剣を握っているのが見える。

そのコボルトが六匹、円陣を組むように中央に向き合い、身をかがめて何かを――、食べている?

TSS(タクティカルサポートシステム) を起動し、総合ギルドの資料館で撮影しておいたスクリーンショット集から、亜人種のファイルを開き、コボルトの項目を確認する――。

ゴブリンと並ぶ繁殖速度の早い亜人種であり、とても攻撃的な性格をしている。個体ごとに生体武具と呼ばれる小剣を持って生まれ、それを破損させると本体であるコボルトの生命力も次第に弱まり、最終的には死亡する。

種としては雄のみの種族であり、主に自然界の動物を襲い、孕ませ、一度に複数の仔を産ませる。

また、非常に食欲が旺盛で、好物は普人種や獣人種と記されている……。

そこで改めて視線を六匹のコボルトへ向けると、奴らの向き合う先――。円陣の中央には何か肉の塊が……、そしてその下に広がる赤黒い――血溜まり。

よくよく見れば、コボルトの突き出た大口が咀嚼しているは……人の腕か。

そこまで観察すれば十分だった。肩にかけていたM24A2を前に廻し、リーンの体勢からスコープにダウンサイトする。

狙うのはコボルトの頭部――、人の手を――、足を咀嚼して歓喜の唸り声を上げて嗤う赤い目にスコープのレティクルを合わせ、トリガーを引く。

M24A2は消音装置であるサイレンサーを基本装備としている。トリガーを引くと同時に空気が抜けるような微音が銃口から聞こえ、次の瞬間にはコボルトの頭部が弾け飛ぶのが見えた。

スコープを覗いた状態のままボルトハンドルを引き回し、排莢と次弾装填を行うコッキング動作を素早く操作し、再びトリガーを引く。

次々と頭部を吹き飛ばし、うつ伏せに倒れていくコボルトたちの中で、自分たちに起こっている異変に気付けたのは最後の一匹だけだった。

夢中になってしゃぶっていた人骨を口から落とし、何が起こったのか理解できないといった表情を浮かべ、肉を囲う五匹のコボルトだったものを見渡したところで、最後の一匹も斃れた。

M24A2のマガジンを交換しつつ、マップと集音センサーに意識を集中し、周囲に魔獣・亜人種がいないかを確認する――。

いない……か。

M24A2を背に戻し、針葉樹の影から移動し、コボルトたちが貪っていたものを確認するために山岳湖の傍へと移動を開始した。

まさか山茶花の四人やオフィーリアたちだとは思えないが、この魔の山脈に村などがあるとも聞いていない。

ならば、襲われていたのはどこの誰だ?

向かう先は吹き出す赤色に黒く染まり、咽るような臭いが充満していた。血の池を踏み越え、円陣の中央を確認すると、やはり冒険者のものとは思えない衣服の破片が転がっていた。大きさは様々だが、明らかに子供のものと思える小さな貫頭衣らしき布もある。

これで何人分だ? 一人や二人ではない、二桁……まではいかないだろうが、少なくない人数が襲われたようだ。

今が深夜で助かった……。NVモード越しの薄緑色の世界と、輪郭が微妙にぼやける視界では、目の前に積み上がった惨劇を直視することなく、冷静に観察することが出来た。

これが明るい日中だったら、直視できずに吐きだしていたかもしれない。だが……どうする? せめて火葬ぐらいはするか? いや、この時間に火を焚いてしまうと明るさが目立つ……、かといって埋葬するには時間がかかりすぎる……。

血溜まりの中に棒立ちになり、誰とも知らぬ死者を放置することに後ろめたさを感じたが、今は仇を討ったことで許してほしい。

その場を離れ、明日の『大黒屋』営業日に向けて王都へと戻る準備をすることにした。

王都へは、俺が個人的に所有している転送魔法陣を利用して移動する。そのため、ここまで捜索をしながらもチェックしていたポイントへと向かい、 TSS(タクティカルサポートシステム) のガレージから、LVTP-5(Landing Vehicle Tracked, Personnel-model5)を召喚した。

LVTP-5は、牙狼の迷宮討伐でも使用した水陸両用の装甲兵員輸送車だ。ドラグランジュ辺境伯領へと跳ぶ準備段階で、バーグマン宰相から受け取った転送魔法陣と模写魔法陣はLVTP-5へと設置してある。さらにはガレージの機能を利用し、迷彩柄のカラーリングを施した。

LVTP-5を地層があらわになっている崖に幅寄せし、近くの枝葉を切り落としてLVTP-5に被せ、擬装工作を行っていく。

俺が王都へと戻っている間に、誰かにLVTP-5が発見される可能性がある。それが山茶花たちかもしれないし、見知らぬ誰かかもしれない。

今までは転送魔法陣を74式特大型トラックに設置していたが、それをLVTP-5に変更したのもその対策だ。

もしも仮に偽装したLVTP-5を誰かが発見したとしても、74式特大型トラックと違い、鋼鉄に覆われたLVTP-5の中に入れるとは思わないだろう。そして、LVTP-5の底部にAN/GSR-9 (V) 1 (T-UGS)を設置し、ミニマップでも誰かの接近を確認できるようにしておく。

三つ目のAN/GSR-9 (V) 1 (T-UGS)を設置したことで、『大黒屋』の内部を監視していた一基が消滅し、ミニマップの表示先の構成が変更された。

これで移動する準備は出来た……。

もう一度だけ山岳湖の方へ視線を向け、転送魔法陣を使って『大黒屋』へと転移した。