軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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ゼパーネル一家とバーグマン宰相を『大黒屋』に迎えた翌日、今日が本当の『大黒屋』の開店日だ。

とは言え、特別に何かをするわけではないが、店舗としての体裁は整えておく必要がある。昼過ぎからの僅かな営業時間だが、そこに合わせて売り場の掃除や商品在庫などの確認をしていた。

もう少しすれば、マリーダ商会からお手伝いとしてエイミーとプリセラの二人がやってくるはずだ。それまでに……。

あの四人が弄り回したインテリア家具の配置や商品の補充を終わらせねば……。

昨日、バーグマン宰相から極秘の迷宮討伐に関する商談を受け、俺はそれを了承した。そして、その直後に最高級モーターハウス、コンチネンタルに響いた幼女の悲鳴、そこからのドタバタ。

その後は風呂上りの女性陣に土下座しつつ、冷たい飲み物を振舞いながら購入した浴室用品の使用方法を改めて説明したり、バーグマン宰相には育毛剤の使用方法を詳しく解説したりと、俺が売りに出す商品の説明を行った。

この世界では技術的にも学術的にも、まだまだ生産・開発が不可能な商品の数々に、四人は改めて一階の売り場に戻りさらにいくつかの商品やインテリア家具を買い漁っていった。

バーグマン宰相は、重厚な雰囲気を持つ執務机や本革のオフィスチェアーの購入を決めた。特にオフィスチェアーの座り心地が気に入ったようだったが、キャスターや回転する座部にも非常に興味深そうに弄り回していた。

そんな四人の爆買いを見て、俺は値札の数字を増やす作業に追われているわけである。

「「こんにちはー」」

時刻は昼を回り、軽食休憩を終えて一階に戻ると、視界に浮かぶマップに四つの光点が映るのが見えた。

店の外にエイミーとプリセラが来ているのだろう。だが、光点は四つ……残る二つが示すのは、護衛か……。

『大黒屋』の正面玄関を開けると、やはりそこに立つのはエイミーとプリセラ、そして、その後ろには護衛としてついてきた双子の狐系獣人種のアルムとシルヴァラの二人が立っていた。

エイミーとプリセラの二人はいつものメイド服、そしてアルムとシルヴァラは、私服と思われる露出が多めの服装に、帯剣鞘付きの槍を持っていた。

「ご苦労様、今日はよろしく頼むよ」

「「はい、店長!」」

「君たち二人はどうするんだい?」

「あたしらが商会長から言われているのは、この子たちの護衛と営業中の『大黒屋』の警備だ」

「そうか……、なら一階と二階は好きにしてくれていい。地下階は俺の私室なので近づかないようにしてくれ」

四人を店内に迎え、店の説明や商品の説明をしていく――。最初はシャフトとして彼女らと出会ったが、シュバルツとしては殆ど会話を交わしたことはない。

今のところ、俺がシャフトだとは全く考えていないようだ。彼女たちから見れば、俺=シュバルツはマリーダ商会の商会長とその夫人と一緒に、何か商売をしている冒険者上がりの商人としか見えていないのだろう。

「おいおい、店長さんよー。あたいらはただの護衛だから商売に口を出す気は更々ないけど、ここの売り物は高すぎないか?」

「この椅子凄いな……、えっ! こんなに……?」

エイミーとプリセラは開店に備えて色々と準備をしていたが、暇を持て余していたアルムとシルヴァラの二人は、モデルルームのように配置された家具を物珍しそうに見て回っていた。

「店長、この“しゃんぷー”と言うのは 市場(いちば) の石鹸と何が違うんですか?」

やはり女の子、エイミーとプリセラの二人は浴室用品に興味津々のようだった。

だが、昨日のことを考えれば……。

「市場や公衆浴場の石鹸と比べると、泡立ちや香りがまず違うよ。汚れの落ち具合も全然違うしね。それにこっち、コンディショナーやトリートメントを使うと……ちょっといいかな」

二人の少女の内、髪の長いプリセラの後ろに回り、その髪を持ち上げて髪の状態を確認すると、髪がごわごわしているのがよく分かった。

この世界の平民は、頭皮や頭髪も石鹸で洗っているため、どうしてもこうなりやすい。これが貴族や豪商ともなれば、髪につける油などで髪質を保護したりしているようだが、そうではない平民は使ったりはしない。

「髪が少し傷んでいるね。俺の店で売り子をしてもらうからには、君たちにも商品の知識だけではなく、実際に使ってもらう必要があるな」

「じ、実際にですか……?」

俺に髪を触られているプリセラが、小恥ずかしそうな声で俯きながら返してきた。後ろ髪を持ち上げて見える彼女の白いうなじは朱に染まり、俺の位置からでは見えないが、顔も相当に赤くなっているのかもしれない。

「その通り、君たちには売り子兼モデルになってもらうからね」

そう言いながら棚に手を伸ばし、シャンプーの他にトリートメントやコンディショナーの小瓶を掴んで、横に立つエイミーへと渡していく。

「これとこれ、それにこのタオル……布も預けよう。シャンプーでまず頭を洗って――」

そうして、基本的な洗髪の仕方や、トリートメントやコンディショナーの使い方を説明し、マリーダ商会の従業員用の宿舎で使うように指示をした。

高い値をつけている商品だからな、売り物の効果が判らないと誰も買うことはないだろう……?

そこまで行動して気づいた。利益を上げるつもりのない商売で、なんで売るための努力をしてしまったのか……。昨日の四人の騒ぎ様や、今日の四人の動きを見ていたら、前の世界で営業職としてPCの周辺パーツを売り込んでいた頃のことを思い出してしまった。

様々なユーザーの要望に応えるための、最適なパーツや周辺機器を選び勧めるのは、一つの仕事としてやりがいを感じていた。その時の気持ちを、ほんの少しだけ思い出していた……。

そして迎えた開店の時間。

第二区域の外れにある通りから一本中へ入った細い街路には、一日の仕事・冒険・探索を終えた者たちが一人、また一人と集まってくる。

マリーダ商会の旧商館が建つこの街路は、クルトメルガ王国内で頭角を現し始めた商業ギルドに加入する商人たちが、次のステップへと進むための登竜門として有名な場所であった。

かつてはマルタさんもここを足掛かりに商売を行い、国内有数の大商会へと成長した。

この街路に商店を構える、ただそれだけで多くの冒険者たちから注目を集める。それが今まで閉まり続けていた旧マリーダ商館となれば尚更だ。

新しく開店した『大黒屋』は、開店日を迎える前からすでに注目を集めていたようだ。

扉に掛かる札を“閉店中”から“開店中”に返すと同時に、街路を歩く多くの者たちが商店に立ち寄り――、何も買わずに帰っていった。

「店長~、家具も浴室用品も売れませんねぇー」

来店客のほとんどが入店しては家具や浴室用品の値札を確認し、あまりの高値にすぐさま店の外へと出ていった。

中には家具の品質に違う意味で驚き、価格の割引を願い出るものもいたが、それには一切応じず、「提示している価格で納得いただけないのならお引き取りを」と追い返すのを繰り返していた。

誰一人として会計に来ない暇な時間を持て余し、エイミーはカウンターに両肘をついて自らの顎を支え、入店しては退店していく客の流れを眺めていた。

「なぁ、店長さんよ、あたしらは商売に口を出さないとは言ったけど、さすがにここまで売れないのは不味いんじゃないのかい?」

カウンターの隅に座っていたアルムが、その長い足を組み直しながら不敵に笑っていた。

この狐娘には判るのだろう。俺が陳列した商品をまともな価格で販売する気がないことを。

「これでいい。だけど、小さな商品を盗って行かれないようにだけ気をつけてくれよ。どれもとても貴重で、高価な商品たちなんだ」

そう言いながら、「はぁ~~~」と深い溜息を吐くエイミーの横で笑って見せた。