軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第044話 オーケーじゃない

「ヘレンがアドバイスをくれるだけだ。俺は間違いまくるからな」

「そうですか……そう思うと、なんとなくあの手紙もわかる気がします。絶対にしてこないだろうと思っていたこちらのことを配慮する手紙でしたからね」

そうだな。

まったくもってその通りだ。

「アデーレ、本部で働いて不満があったのか?」

「ええ。ありました」

アデーレがはっきりと答え、頷いた。

「それが俺の誘いを受け、こんな辺境の地に来た理由だな?」

「はい。ジークさん、本部での私の印象はどうでしたか?」

え? 印象?

ない……

「すまん。受付にいる女というくらいだ」

「その通りです。受付での対応が私の仕事です。王都の魔法学校を出て、9級とはいえ、錬金術師の国家資格を習得した私の仕事がそれです」

あれ?

そういえば、技術職じゃないな……

「錬金術の仕事はしていなかったのか?」

「緊急依頼とかで時間がない時に駆り出されることはありましたが、基本的には受付に座っています」

それは……

「すまんが、はっきり聞いてもいいか?」

「どうぞ」

「仕事できない?」

これでも言葉をかなり選んだ。

「どうでしょうかね? それを判断できるほどの仕事を回されることはありませんでした。魔法学校をあなたほどではありませんが、そこそこの成績で卒業し、すぐに10級試験にも合格しました。けれど、私の配属先は受付です。あとは雑用か人が足りない時の助っ人です」

うーん……

「10級じゃあなー……」

王都の本部はエリート揃いだ。

「そう思って、9級を次の試験で取りました。ですが、何も変わりません。あなたは覚えていないでしょうが、同じ魔法学校を卒業した同期の方は10級のままでちゃんとした技術職で仕事を任せてもらっているのにも関わらずです」

それは……

「何? アデーレって嫌われてるの?」

「なんでそんなに嬉しそうな顔をするんですか……」

あ、やべっ。

「すまん……仲間かなと……」

「私は自分でも愛想の良い方ではないという自覚はあります。でも、そんなものが関係しますか?」

しないだろうなー……

営業とかならわかるが、技術職なんて言わば職人だ。

多かれ少なかれ問題ある性格の奴はいる。

その最たる者が俺だけどな。

「何か思いつく原因は?」

「1つは人事部に家同士で仲の悪い貴族がいますね」

それだろ……

「貴族は大変だな」

「そうですね。あなたも嫌われているんでしょうが、あなたには本部長という後ろ盾があります。ですが、ウチは武家の貴族なのでこちらの業界にそういう伝手がありません」

武家……

だから気が強そうなのかな?

「なるほどな……それでこっちに来たと?」

「はい。あなたの前では非常に言いづらいですが、私は魔法使いの才がありました。でも、魔術師の道に行けるほど強くはありません」

まあ、女子だしな。

家が止めるだろう。

「弱そうだもんな」

「はっきり言います?」

「俺は師が魔術師でもあるし、魔術師の姉弟子も知っている。だから見ればわかるんだ」

そいつらとアデーレは確実に違う。

「すみません。参考のために教えていただけますか?」

「お前だけじゃなく、エーリカやレオノーラもなんだが、見た目だ。ちゃんと手入れされた髪、肌、手……戦うことなんてまったく考えていない。魔法学校に通っていた時も女子連中は魔術師志望なのか錬金術師志望なのかがすぐにわかった」

特にわかりやすいのは足元である。

レオノーラはサンダルだし、アデーレはヒールだ。

魔術師連中は絶対にそんな靴は履かない。

「なるほど……確かにそうかもしれませんね。私は血を見るのが嫌いなので絶対に魔術師にはなりたくなかったです。だから錬金術師の道に進んだんですよ。まあ、レオノーラの影響もありましたかね?」

レオノーラは最初から錬金術師志望だもんな。

古くからの友人に影響されたわけだ。

「親御さんは? レオノーラが勘当されたと聞いているから聞いておく」

「ウチはそんなことありませんよ。レオノーラは一人娘であり、良いところとの縁談が決まりかけていたんです。それで家出したわけですね。それと別に勘当はされていませんよ。レオノーラが勝手に言っているだけです」

「そうなのか?」

「ええ。ウチはレッチェルトの家と仲が良いですし、レオノーラのご両親も知っています。何度か電話もありましたよ」

レオノーラの早とちりか?

それを伝えるべき?

踏み込んでいいことなのかがわからん……

「ふーん……まあ、わかった。とにかく、こっちに来た理由は錬金術師として働きたいからだな?」

「そうです。あのまま受付で終えるなんてごめんです。何のためにこの国で一番の魔法学校に通わせてもらい、努力して卒業したのかわかりません」

そんなに大層な学校かね?

前世でいえば、高校生レベルだぞ。

もちろん、そんなことは口に出さないが。

「そうか……受付って楽そうに見えるんだがな」

「全然、楽じゃないですよ。クレーム対応も入っているんですよ?」

あ、無理だ。

「それはきついな。俺なら初日で辞める。俺はバカにバカなことを言われるのが一番嫌いなんだ」

「あなたはそうでしょうねー……受付は他にも色々と精神的に来るんですよ。そんな時にあなたから誘いが来たので渡りに船だったわけです。私は王都出身じゃないですから王都に愛着なんてありませんし、リートなら友人のあなたやレオノーラがいる。それに何より、必要とされているところで働きたいと思うじゃないですか」

ふむふむ……

確かにそれならこっちに来たいと思うのもわからないでもない。

「ということは、アデーレって実務経験はほぼない?」

「ありませんね。学校でやった実習と助っ人くらいです。だから8級を受けるのは微妙と答えたのです。筆記試験なら何とかなるでしょうが実技試験は難しいです」

…………俺は在学中に一発合格したけどなー。

まあ、試験官も俺より遥かに下の奴だったし、落ちるわけがない。

誰が誰を評価してんだって思ったもん。

「すでにひと月を切っているか……」

どうかね?

「まずは試験より仕事に慣れるところからしたいと思っていますね」

それもそうか。

私生活も落ち着いていないわけだしな。

「わかった。でも、受けるだけは受けてくれ。落ちても次に繋がる」

どんな試験なのかも把握しているだけでも違う。

「わかりました。そうしましょう」

うーん……これ、アデーレの指導もせんといかんな。

まあ、2人も3人も同じことか。

「アデーレさんもお弟子さんにするんですか?」

同じようなことを思ったであろうヘレンが聞いてくる。

「同い年の同級生だぞ」

「いや、レオノーラさんもじゃないですか」

「あいつは子供っぽいだろ」

実際、小さいし。

「体つきはめちゃくちゃ大人ですよ?」

「そういうこと言うな。関係ないだろ」

「まあ……」

嫉妬か?

ヘレン以上の存在はこの世にいないというのに……

なでなで。

「アデーレも別に俺の弟子なんかになりたくないだろ」

「弟子ですか……魔法使いの師弟関係は色々と面倒ですしね……いわば親子以上に親子です。弟子は師匠に逆らえませんし、師匠は弟子の面倒を最後まで見ないといけません」

知ってる。

俺と師匠の本部長がそうだもん。

「俺はそういう体育会系のノリが嫌いなんだ。もっとドライで利己的に生きるべきだ」

「体育会系というのがよくわかりませんが、言わんとしていることはわかりますね。ジークさんはそういうのが嫌いそうです」

「あの歪な師弟関係こそが魔法使い業界の発展を妨げる原因だろ。本当にバカばっかりだ」

俺はそれに一石を投じるのだ。

だから俺以下の兄弟子達やヘレンを怖がらせる鷲持ちの本部長を一切、尊敬しない。

「あなたらしい考えですね。まあ、弟子云々は置いておいて、仕事は教えてほしいです」

「それは教えるし、アデーレにはさっさと8級に受かってもらう。俺が教えればすぐだ」

最近、2人に教えていて、自信がついてきた。

やっぱり優秀な人間は優秀な指導者になれるんだな。

もっとも、脳内で『なんでこんなものもわからないんだ?』がリフレインしてるがな。

この前、夢にまで出てきた。

「やっぱりお弟子さんじゃないですか……」

ヘレンが呆れる。

「ジークさん、師匠って呼んだ方がいいですか?」

「いや、呼ぶな……あ、そういえばだけど、俺にも敬語じゃなくても良いぞ。同級生じゃないか」

「いえ……うーん、敬語じゃない方がいいですか?」

ちょっと気になっただけで別にどっちでもいいが……

「あ、いや、話しやすい方でいいぞ」

「うーん、私は男性には敬語を使うようにしているんですが……まあ、ジークさんがそう言うなら普通にしゃべりましょうかね……」

気を遣っただけなんだがなー。

「好きにしてくれ。アデーレ、ウィスキーでも飲むか? 炭酸で割ってハイボールなら飲みやすいだろ」

もうアデーレが持ってきたワインが空になったのだ。

「んー? 何、それ?」

この世界には炭酸飲料というものはない。

「シュワシュワする飲み物だ。まあ、飲んでみろ。ハマるかもしれんぞ」

「よくわかりませんが、ちょっと気になりますので飲んでみましょう。あ、それとオーケーじゃないから」

ん?

「何が?」

「あなたの愛読書に書いてあったやつ」

ナンパ本ね……

確かに宅飲みはオーケーって書いてあったわ。

「この前、お疲れ様会をした時にレオノーラがエーリカにワインを飲ませて、『オーケー?』って聞いてたな」

ちなみに、エーリカはノーって言ってた。

「あの子は本当に変わらないわね。子供の頃からそんなんだったわ」

楽しい奴だな……