軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第190話 微笑ましい

「まあいいわ。ゾフィー、程度の低い争いをするな」

なんで突っかかるかね?

「ああいうのムカつく」

子供だなー。

20歳になってもその辺はちっとも成長してないわ。

「民間なんて放っておけ」

「あんたは全然言い返さなかったわね?」

「興味ない。あいつらが何をしようと俺の人生には微塵も影響がない」

アトリエを継いで繁盛しようが、潰れようが関係ない。

「もう少し、他人に興味を持ったら?」

「そう思って、たくさんの本を読んだ。結論としては俺が陽気になることはできない」

だからこそ、50点を目指すのだ。

「ジークさんは読んでいる本の方向性が良くない気がしますけど……」

「えー、良い本だよー」

「ナンパ本や複数の女性との付き合い方が書いてある本のどこが良い本なのよ……」

俺も良くないと思う。

でも、たまに良いことも書いてあるし、他に良い本がないんだよ。

「ナンパなジークは嫌ね。怖いわ」

皆、そう言う。

でもまあ、これまで一切、他人と関わらなかった俺がそうなったら誰だって病気にでもなったのかと思うだろう。

「その辺もいいわ。それよりも仕事だ、仕事」

「ジーク君、もう昼前だし、用意をしようよ」

レオノーラに言われて時間を確認すると、もう昼前だった。

「そうするか……マルティナ、釣りしたことあるか?」

「私、得意ですよ! お爺ちゃんに褒められたこともあります!」

孫娘が祖父から褒められたってまったく信用できんな。

「そうか、そうか。じゃあ、釣ってくれ。ゾフィーもやるか?」

「釣り? やったことない……」

まあ、王都ではなー……

「私が教えますよ! こーんなでっかい魚も釣ったことあるんです!」

マルティナが腕をいっぱいに広げる。

多分、子供の頃の話だと思う。

「あ、うん。じゃあ……」

ゾフィーの顔に嘘くさいって書いてある。

「じゃあ、お前ら、釣ってこい。俺達は準備をするから」

そう言って、釣竿とエサを渡すと、2人が出ていったので俺達も外に出た。

そして、マルティナが偉そうにゾフィーにレクチャーしているのを眺めながらレンガを積んでいく。

「微笑ましいですね」

肩から降り、積まれたレンガの前ですでに昼食のスタンバイ状態になっているヘレンが慈愛に満ちた表情でゾフィーとマルティナを見ていた。

「そうか?」

「なんとなくですが、あの2人が子供に見えます。そして、料理の準備をする親……ジーク様もいつかそういう家庭を築いてほしいものです」

お前が親に見えるぞ。

あと、その配役だとあの2人は俺の子ということになるが、絶対に嫌がると思う。

「ジークさんってどういう親になるんですかね?」

「スパルタじゃない?」

「いやー、ヘレンさんを見る限り、可愛がりそうじゃない?」

想像したこともないし、まったく想像できそうにないことを3人娘が楽しそうに話している。

俺はヘレンを抱き上げ、撫でると、ヘレンが可愛い顔で見上げてくる。

「よしよし」

「にゃー?」

俺は本当になんで出世したかったんだろう?

こんなにも俺のことを考えてくれるこの子さえそばにいてくれればそれで良かったのに……

「あ、釣れた」

レオノーラが釣りをしている2人の方を見ると、ゾフィーが魚を釣り上げていた。

「ど、どうするの!? 取ってよ!」

「え? それはしたことないです」

「どこが釣りが得意なのよ!」

どうやら釣り上げた魚をどうすればいいのかわからないらしく、魚が2人の間を行ったり来たりしながら揺れている。

なお、そんな魚を目で追って、ヘレンの顔が魚とリンクして動いていた。

「行ってきます」

エーリカが苦笑いを浮かべながら2人のもとに行く。

「レオノーラ、火を点けてくれ」

「りょ」

レオノーラが火を点けると、すぐに火が広がり、網を温めていく。

その間にエーリカが針から魚を取り、戻ってきた。

「やっぱり高級魚ですね」

エーリカは持ってきた魚に軽く塩を振り、網に乗せる。

「ジーク君の特製のエサのおかげだろうねー。アデーレも釣りをしてくる?」

「私はいい」

レオノーラが聞くと、アデーレは嫌そうに首を横に振った。

「魚が怖いの?」

「跳ねるし……」

だから?

「君、よくあの自然豊かな実家で生活できたね……」

「あなたと同じで家から出ないから」

「インドアしかいないなぁ……錬金術師が引きこもりって言われるわけだよ」

実際、そうだしな。

「確かに微笑ましいのう……」

ん?

「エルネスティーネ……いたのか」

よく見たらアデーレの足元にハムスターがいた。

「そら、おるぞ。空気を読んでしゃべらなかっただけじゃ」

ウチのヘレンもたまにそうするというか、あまり自己主張はしない子だ。

もしかしたら使い魔はそんな感じなのかも……と思ったが、自己主張の塊みたいなドロテーがいたわ。

「お前、魚は食べるか?」

「いや、妾は結構じゃ。嫌いじゃないが、ギーゼラがクルミを買ってくれたからそっちの方が良い」

まあ、ハムスターが魚を食べる印象はないな。

こいつも使い魔だから厳密にはハムスターじゃないんだろうけど。

「ギーゼラさんは元気だったか?」

「楽しそうにしておったぞ。じゃが、どうも楽観的というか不安な親子じゃな。契約書を見ずにサインをしようとして、びっくりしたわ」

うーん……ここの土地柄かねー……

「王都に行っても頼むぞ。ハイデマリーがいるとはいえ、詐欺に遭って、借金漬けは勘弁だ」

ハイデマリーも私生活にまで介入しない。

だからこそ、あの親子の王都生活は非常に不安だ。

「わかっておるわ」

エルネスティーネはどこからともなくクルミを取り出すと、齧りだした。

「ジーク様、良い匂いがしますね!」

ウチの子はこういう時だけ自己主張が強くなるな……

「ほら、食べろ」

焼けた魚を皿に乗せ、地面に置く。

すると、猫舌なヘレンが慎重に食べだした。

「チビ共、もっとたくさん釣れー」

というか、引いてないか?

「ジーク、これって釣れてる?」

しならせた竿を持っているゾフィーが聞いてくる。

「釣れてるからさっさと上げろ」

「重いんだけど……」

ゾフィーも非力だなー……

「頑張れ」

「あ、手伝いますよ」

マルティナも竿を持った。

「……あいつ、絶対に自分の弟子なら手伝ったわよ」

「……すごい差別しますよね」

チビ2人はちらちらとこちらを見ながら竿を上げていく。

「いいから釣れ。腹減ったし、ヘレンが待ってるぞ」

ヘレンはすでに食べ終えている。

「食べるの早すぎって……何これ? キモッ」

「タコですね。見た目に反して意外と美味しいんですよ」

この世界にもタコがいるんだな……