軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第164話 弟子は優秀に限るな

俺達は午前、午後とひたすら仕事をしていくが、皆、余裕があるように見えるし、失敗もほとんどしていない。

アデーレも失敗することがなくなったので応接用のソファーではなく、自席で風魔石を作っているくらいだ。

俺も色んな依頼を並行しながら仕事をしていると、夕方となった。

「ジークさん、そろそろですよ」

時刻は4時を過ぎている。

「そうだな……」

エーリカに言われたので手を止め、片付けをする。

そして、玄関の方を見ていると、少女が入ってきた。

「来たわ」

ハイデマリーの弟子になったマルティナだ。

「頑張ってください」

「怒鳴ったらダメだよ」

「おおらかな気持ちを持ってね」

わかってるわ。

俺は立ち上がると、受付に向かう。

「こんにちは!」

マルティナが元気よく挨拶をしてきた。

「はい、こんにちは。まあ、入れよ」

「よろしくお願いします!」

マルティナを受付内に通す。

そして、アトリエに入り、応接用のソファーに座らせると、対面に腰かけた。

「今日もお願いします!」

俺はマルティナが王都に行くまでの間、面倒を見ている。

もちろん、自主的ではなく、ハイデマリーに頼まれたからだ。

なんで俺がそんなことをしないといけないのだとも思ったが、エーリカの後輩だし、ハイデマリーに紹介したのは俺なので了承した。

「はいはい。じゃあ、まずは銅鉱石を見せてみろ」

「どうぞ……」

ハイデマリーからの課題である銅鉱石を要求すると、マルティナのテンションがガクッと下がった。

「ふーん……」

予想はついていたが、全然だな。

「ダ、ダメですかね?」

マルティナが不安そうな顔をしている。

確か子供相手にはこの不安を取り除くことが大事とも書いてあった。

「こんなもんだ。いきなりできたら皆、苦労せん」

俺は一瞬でできたけどな。

「難しいです……」

「学校ではやらなかったのか?」

「そういうのは3年でやるんです」

そんなもんか……

「じゃあ、2年のお前ができないのは仕方がない。これから頑張ればいい」

「はいっ!」

でも、こいつ、不器用なんだよなー……

コツさえ掴めばグングンと上達しそうだが、それまでに時間を要するかもしれん。

まあ、その辺はハイデマリーの役目だな。

「じゃあ、今日は物理の座学な」

「が、頑張ります」

さすがにハイデマリーにボロクソに言われたから嫌な顔はせんか。

俺は昔使っていた参考書をマルティナに渡すと、テストを取り出す。

「その参考書を見ながらでいいからテストを解いてみろ」

「え? 見ていいんですか?」

「見なきゃお前は20点も取れん。このテストはこの国一番の王都の魔法学校レベルだ」

マルティナが王都に行くまで1ヶ月を切っているし、せめて、苦手な物理を並レベルまでにしておきたい。

じゃなきゃ、ハイデマリーから破門を言い渡されそうだ。

「お、王都の……」

「安心しろ。たいしたレベルじゃない」

「ジークさんに言われても全然、安心できませんが、やってみます」

マルティナは参考書を開き、テストをやり始めた。

俺はそれを眺めながら子供の接し方に関する本を読む。

「あ、あのー……1問目からさっぱりなんですけど……」

えーっと、子供は絶対に否定してはダメか……

「参考書に書いてあるだろ」

「参考書も何を言ってるか……」

なんでこんなものもわからないんだろう?

でも、否定はダメね……

「学校で習わなかったのか? エーリカと同じ学校だろ」

カリキュラムが変わったのか?

「いや……エーリカ先輩は学年1位ですよ」

あれで?

「へー……エーリカってすごいんだなー」

「そんなことないですよー」

エーリカがえへへと照れている。

「すんごい棒読みだったね……」

「私には『あの程度で?』っていう心の声が聞こえたわ」

ツーカーだな、アデーレ。

さすがは親愛なるクラスメイトだ。

「いやいや。さすがは20歳で10級に受かるだけのことはある」

「あなたは魔法学校に入学して、最初の試験で一発合格した人じゃないの」

俺と一緒にするな。

あ、いや、そうか……

前にヘレンが言っていたように小学生を相手にするつもりでいかないとダメなんだ。

実際、マルティナは似たようなレベルだし。

「よし、マルティナ。どれがわからないんだ?」

「えっと、このところが……」

うんうん、よくそれで錬金術師になろうと思ったなっていう思いが脳裏を横切るがスルーして教えてやるぞ。

その後もマルティナは参考書を見ながらテストを解いていき、わからないところを聞いてきたので教えていく。

「マルティナ、学校は?」

ふと気になったので聞いてみる。

「今日が最後でした。明日から引っ越しの準備や勉強をして、3週間後には王都に行きます」

退学届を出したのは聞いていたが、今日が最後だったのか……

「まあ、学校で学ぶよりハイデマリーのところで学んだ方が身になると思うぞ」

「だと思います。でも、友達と別れるのは辛いですね。この町も生まれてからずっといるので去るのは辛いです」

そうか……

速攻で王都を出ていった俺にはわからんな。

見送りも地雷を埋めまくったアデーレだけだったし。

「飛空艇があるからいつでも帰ってこられるぞ。俺も王都からここに引っ越してきたが、この前、帰ったし」

仕事と3人娘の付き添いで行っただけだし、帰ったっていう感覚はないけどな。

「どうでした? やっぱり故郷は懐かしかったりします?」

別にない。

何もない。

ヘレンさえいればいいし。

「ちょっと離れてみてから戻ると、同じ故郷でもまた変わった景色でより良く見えたぞ。こういうのも大事だと思う」

素晴らしい答えだと思う。

ミソは嘘を言ってないことだ。

「へー」

マルティナがちょっと安心した顔になった。

「住むところとかは決まったのか?」

「師匠が探してくれるって言ってます」

ふーん……

「アデーレ、王都に住んでいた人間としてアドバイスとかあるか?」

奥のデスクで作業をしているアデーレに聞く。

「私は王都に住んでたけど、出身は別よ。むしろ、あなたでしょ」

俺が知るわけないだろ。

「それでも長いこといるだろ。女性の意見を頼む」

「うーん、歓楽街に一人では行ってはいけないこと、慣れてないうちは買い物に気を付けることかな? 王都は治安が良い町だけど、広いし、人も多いから見回りの兵士の目に届きにくいところもある。それと物価も高いし、ぼったくりも多いから最初の方は気を付けること。まあ、その辺はハイデマリーさんに聞けばいいんじゃないかしら?」

あいつ、商人の娘だしな。

「マルティナ、そういうことだ」

「はい。ありがとうございます」

まあ、お母さんも一緒に行くらしいから大丈夫だとは思うけどな。

いや、ギーゼラさんは不安だったわ。

あの人、バカ……いや、鬱は良くなったのかね?