軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第138話 どっちが美味しい?

ホテルに着き、ホテルマンに案内されて最上階のレストランにやってきた。

俺達は眺めの良い席に案内され、乾杯する。

なお、俺はワインだが、エーリカはぶどうジュースだ。

「おー……自分が自分じゃないようです」

ぶどうジュースを一口飲んだエーリカが嬉しそうに笑う。

「あいつらの言う雰囲気だからな」

眺めも良いし、今日は平日なため、他のお客さんも少ない。

「こんな日が来るとは……ジークさんのおかげです!」

「いや、お前が頑張ったからだろう。9級合格おめでとう」

「ありがとうございます。9級かー。10級に受かった時も嬉しかったですけど、今回はそれより嬉しいです」

そうなの?

普通、10級の方が嬉しいと思うけど……

その後、料理が来たので話をしながら食事を堪能していった。

「やっぱり美味いな」

「ですね。王都もすごかったですけど、ここもすごいです。ジークさんと出会ってから世界が広がりましたよ」

俺もそうだ。

エーリカもだし、貴族令嬢2人のおかげでもある。

「エーリカ、兄がいるって言っていたが、2人兄妹なのか?」

「あと弟もいますよ。ウチはこの町の南の海沿いに家があるんですよ」

へー……

全然、知らんかった。

「家族の中には他に魔法使いはいるのか?」

「いえ、私だけですね」

「マルティナのところと一緒か。魔力がなかったら料理人か?」

「おそらく、それを目指したと思いますね。でも、錬金術師になれて良かったです。ジークさんはもし、魔力がなかったらどうしてました?」

どうだろ?

まず本部長には拾われてないな。

「商売かな……まずは金を集めて、それから考えると思う」

俺には前世の知識がある。

それを活用して資金を集め、運営していけばいい。

言うは易く行うは難しだがな。

「うーん、ジークさんはどういう人生でも大成すると思いますね」

「でも、部下や同僚に恨まれて失脚するわけだ」

絶対にそう。

そして、その場合はヘレンがいないからやり直すこともできない。

「リートでは大丈夫ですよ」

そうだな。

それもここが居心地が良い理由でもある。

敵がおらん。

「ここは良い町だな」

「そう言ってもらえると嬉しいです。あの……昨日の支部長との話なんですが、ジークさん、王都に戻らないんですか?」

ん?

「なんでだ?」

「昨日、本部長さんの次の椅子をどうのこうのって……」

あー、拒否したって言ったな。

「ウチの師匠が錬金術師協会のトップなことは知っているだろ?」

「もちろんです。ジークさんが来る前から名前は知っていましたし、王都の魔女さんという噂も聞いていました」

まあ、自分が所属している組織のトップだしな。

でも、さん付けはいらんだろ。

「俺はその弟子なんだが、一番優秀なわけだ」

「他の方の実力を見ていないのでわかりませんが、ジークさんがそう言うならそうなんでしょう」

「でも、人間的に微妙なわけだ」

微妙どころかひどいもんだったが、35点は取れているので微妙にする。

「私はそう思いませんし、とても良い人だと思いますが、微妙ということで話を進めてください」

話が進まんからな。

「本部長の弟子は皆、優秀だが、その中でもお前も知っているクリス、それと王都の魔女2世と呼ばれているハイデマリーは頭一つ抜けている」

「そうなんですね……テレーゼさんは? 4級ですよね?」

「あいつは人の上に立てないし、立つ気もないだろ。ましてや貴族に意見を言えないのが致命的だな」

実力はあるし、頭も良い奴なんだが、あいつが本部長だと不安で仕方がないわ。

「あー、確かにアデーレさんとかを怖がってましたね。私も貴族の方に命令とかするのは気が引けます」

エーリカもそうだろうな。

「そういうわけで貴族のクリスと自分以外はカスと思っているハイデマリーが筆頭なわけだ」

「カスって……」

「な? 3級を落ちた4級止まりの無能のカスが何言ってんだって思うよな?」

あいつは実力があるのだが、絶対に自分の信念を曲げないので試験とは相性が悪い。

前に聞いたことがあるのだが、試験の問題に異を唱え、否定文と自分の解釈をびっしりと裏面に書いて提出したらしい。

バカだわ。

「……なんとなくですけど、ジークさんと仲が悪いんでしょうね」

すごく悪いね。

もう何年も会話してない。

「その2人と左遷される前までの俺は本部長の椅子を争っていたわけだ。要は後継者争いだな」

「ジークさんは出世したいんですもんね」

出世したかった。

自分こそが一番だと思っていたから。

「そういうことだな。それでこの前、王都に帰った時に本部長と話をしたわけだ」

「話ですか?」

「ああ。本部長に次の本部長はお前がなれって言われた。後継者に指名されたわけだな」

「そ、それは……お、おめでとうございます」

全然、嬉しそうじゃないおめでとうをありがとう。

「いや、だから拒否したっての」

「え? な、なんでですか!? 出世したいんじゃないですか?」

「お前、王都の本部に行った時にどう思った? 俺達が定時で帰っても廊下に誰もおらんかっただろ。さらにはどんよりとしたテレーゼを見て、本部ってヤバいなって思っただろ」

「確かに忙しそうだなと思いましたね。皆さん、愚痴ばっかりでした」

だろうな。

テレーゼだけじゃない。

弟子のリーゼロッテもマルタもコリンナ先輩も皆が忙しそうだった。

「あれが本部だ。まあ、魔導石製作チームは特に忙しいんだろうが、基本的にどの部署やチームも定時で帰れることなんてほぼない。辛いぞー」

「私はちょっと厳しい気がしますね」

エーリカはのほほんとしているしな。

この土地の風土なんだろうけど、皆がそんな感じだ。

「俺はそこで何も思わずに働いていた。でも、こっちに来てから生活が楽だわ。もちろん、お前が料理を作ってくれることもあるが、時間に余裕ができ、おかげで心にも余裕ができた。はっきり言ってもう帰りたくない」

王都にいた時はまさしく仕事場と家を往復するだけの人生だった。

「それでも出世したかったんですよね?」

「そうだな。でも、皆がお前はこっちにいた方が良いと言う。ヘレンもレオノーラもクリスも……もっと言えば本部長もそう言っていた。事実、そうなんだろう。出世はしたい。金を得られるし、一番上を目指すのは当然のことだ。だがな、この歳になってようやくそれから先には何もないことに気付いたんだ」

俺は別にやりたいことがないんだ。

趣味もないし、金を得ても使うことがない。

それでいて、仕事を楽しいと思ったこともない。

リートに来るまではな。

「いや、ジークさんはまだ若いじゃないですか」

前世を足せばずっと上なんだよ。

「まあな。でも、気付いたんだよ。そう思うと、本部に帰って俺を嫌っている連中の相手をしたり、本部長の決定に反発するクリスやハイデマリーと争うのはしんどい。こっちでお前らと気楽に仕事をしている方が確実に俺の人生は豊かになる」

支部長も良い上司だし。

「私も後者が良いですし、できたらジークさんにもそうして欲しいと思います」

「アデーレに聞くなと言われたが、俺がもし、王都に帰るって言っても弟子のお前はついてこないだろ」

「……わかりません」

悩むだろう。

でも、結論はそうだ。

「いや、別に考えなくてもいい。そうはならんからな。王都での生活、ここでの生活、弟子であるお前らの存在、本部では嫌われている…………な? 俺が本部に戻るメリットが一切ない。あるとしたら俺が本部長になって、お前らの試験結果を改ざんして合格にしてやれることくらいだ」

「それはやめましょうよー」

まあな。

アウグストの二の舞だ。

「冗談だよ。まあ、そういうわけで拒否したわけだ」

「では、ジークさんはずっとリートにいるんですか? 一緒にいられます、か?」

「そうなるな。俺達4人と支部長でリート支部を復活させよう」

死んでないけど。

「はい! 頑張りましょう!」

エーリカが満面の笑みで頷いた。

そして、その後も話しながら飲み食いをし、最後のデザートを食べ終えたので帰ることにした。

ホテルに車を呼んでもらい、支部まで送ってもらうと、エーリカと共に車を降りる。

時刻は9時前なため、辺りはすでに暗かった。

「いやー、楽しかったですし、なんかドキドキしましたよ」

エーリカは満足そうだ。

「それは良かった。まあ、あそこではないにしてもまた連れていってやるよ」

「ありがとうございます。でも、その前に一緒に飲みましょうよ」

そういう話だったな。

「ああ…………なあ、エーリカ」

「はい…………何ですかね、この匂い?」

車を降りた時から香ばしい匂いがするのだ。

「裏だな」

「私達のアパートですよね?」

俺達は支部の横の道を通り、裏に行く。

すると、アパートの前の広場でバーベキューをしながら椅子に座って酒を飲むという非常におっさん臭いことをしている貴族令嬢2人がいた。

「あ、ジーク君とエーリカだ」

「おかえりー」

2人は上機嫌にグラスを掲げた。

絶対に酔っている。

「ただいまです……何をしているんです?」

「お前ら、やきとり屋に行くんじゃなかったのか?」

なんでバーベキュー?

「開いてなかったー」

「定休日だったの。だから鳥肉を買ってきて、ここでやってる。あ、ジークさん、鍵貸してよ。ハイボールを作りたい」

まだ飲むのか……

「俺のロックも頼むわ」

そう言って自室の鍵を渡し、椅子に座る。

「任せてちょうだい。ロックは得意なの」

鍵を受け取ったアデーレがドヤ顔を披露し、俺の部屋に向かった。

「……誰でもできるわ」

氷とウィスキーだし。

「エーリカも飲もうよー。良い感じのデートは終了。ここからは家族団らんだよ」

「そうですねー……うーん、着替えてきます」

エーリカも自分の部屋に戻っていった。

「明日、仕事だぞ」

「大丈夫、大丈夫。ほらー、ヘレンちゃん、焼いた鳥だよー」

レオノーラが網から鳥肉を取り、皿に乗せて、テーブルに置く。

「わー! ジーク様ー、冷ましてください。実は私、猫舌なんです」

そりゃそうだろ。

というか、そのセリフ、何百回も聞いてるわ。

魔法で風を送ってヘレン用の鳥肉を冷ましてやると、俺も網に乗っている鳥肉を食べた。

非常に美味かったし、アデーレが持ってきてくれたウィスキーのロックとよく合った。

ほら、絶対に王都では味わえないことだ。