軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

再来の予兆 2

パーティーが終わった後。

客間でくつろいでいると、少し遅れてフリーダが帰ってきた。

「カイたちには、しばらくこの地に留まって支援を続けるようにと命じました。ですが、私たちはすぐに帰還しましょう」

グイグイと詰め寄ってくる。

「なにをそんなに急いでいるの?」

「なにを? 決まっているじゃありませんか! 白雪の聖女の噂を確認するんです!」

やっぱりか。

「セラフィナの領地に白雪の聖女が現れた、だったわね。つまり……私が偽物という訳ね。あんなに必死に隠そうとしたのに恥ずかしいわ」

両手で顔を隠して恥じる。

「そんなわけないでしょう! どう考えても向こうが偽物です!」

「冗談よ」

魂に刻まれた知識が、私が本物であることを示している。だから、偽物が現れたという、フリーダの認識は間違ってはいないと思う。

だけど――

「別に、偽物が現れても困らないのよね、私は」

白雪の聖女であることを隠したい私にとってはこの上ない隠れ蓑だ。

正体がバレなければ、アルベルト陛下が急に手のひらを返すこともない。

まあ、陛下が偽物を溺愛する可能性なら……あら?

いま、なぜかちょっとむかっとしたわ。

「フリーダ、すぐに帰って偽物の正体を暴きましょう」

「はい、仰せのままに!」

私たちはルートヴィヒやカイたちにも見送られ、偽物の真相をたしかめるために王都へと帰還した。

「――ただいま帰還いたしました」

謁見の間、陛下のまえに立った。

「ああ、よく無事に戻った。それに、報告は受けている。スタンピードは収まったようだ。まだ問題は残っているが、それも解決に向かっている。これもひとえにそなたのおかげだ」

「もったいないお言葉です」

軽く一礼した私は前傾姿勢のまま、「ところで」と陛下に探るような視線を向けた。

「風の噂で、白雪の聖女が現れたと聞いたのですが、事実でしょうか?」

「あぁ、既に聞き及んでいるのか」

「では事実なのですか?」

「六芒殿は問題なく浄化されたそうだ」

私の質問に答えていない。

誤魔化そうとしているのかしら?

軽く睨むと、彼は小さく笑った。

「噂の内容についてはいまから確認するところだ。ちょうどセラフィナが来るところだ」

同席するかと、彼の目が問い掛けている。

その答えは、もちろん決まっている。

私は陛下と並んで玉座に着く。

形だけの皇妃だと思っていたから、この席に座ることを許されたのは少し意外だった。

ちなみに、フリーダは玉座へと続く赤い絨毯の横に控えている。それが六芒領主の一人である彼女の定位置なのだろう。

私がこっそり手を振ると、フリーダは咳払いをする。出会った頃には想像も出来なかった反応だ。

少し嬉しい。

そんなことを考えているとほどなく、セラフィナは少女を連れて謁見の間に姿を見せた。

彼女はきざはしの前で、静かに臣下の礼を取った。

「セラフィナよ。ノエルとフリーダが噂の真相を知りたいと同席しているのだが、問題はあるか?」

アルベルト陛下が首を傾げる。

「問題ありませんわ、陛下。ぜひノエル皇妃殿下やフリーダもお聞きください」

「ならば話を進めよう。ヴァルデンシュタイン領で白雪の聖女が見つかったと聞いているが……その少女がそうなのか?」

アルベルト陛下はセラフィナの斜め後ろに控える少女に目を向ける。

十代半ばくらいの、銀髪ロングの少女。彼女はアルベルト陛下の眼光を受け、びくりと身を震わせた。

「いえ、あの、私は……」

緊張しているわね。

もっとこう、『私が白雪の聖女よ!』みたいな感じだと思っていたから、この反応は意外だ。

でも話は進まない。

そう思っていると、セラフィナが小さく息を吐いた。

「……アルベルト陛下、彼女は緊張しているので、私が代わりに説明してもよろしいでしょうか?」

アルベルト陛下はセラフィナと聖女を見比べ、「いいだろう」と許可を出した。

「では僭越ながら説明させていただきます。まず、白雪の聖女が見つかったというのが誤解です」

「誤解、だと?」

「彼女が浄化する際には、白い桜の花びらが舞うのです」

なるほどね。

白い花が舞う光景は、雪が降っているようにも見えなくはないわ。でも、それだけで白雪の聖女だと誤認されるのは不自然よね。

だとしたら……

「それだけ、力が強いと言うことかしら?」

それなら理解できる。

でも、セラフィナは首を横に振った。

「彼女の聖力は決して弱くありませんが、白雪の聖女と誤認されるほどではありません」

「あら、そうなの?」

「ええ。白雪の聖女だという噂が上がったのは、 白鈴桜(しろすずざくら) が咲いたからです」

聞いたことのない花だ。

直後、フリーダが「白雪の聖女の到来を知らせる花ですね」と教えてくれる。

つまり、『その花が咲いたから、白雪の聖女がこの国にいるはずだ。だけどそれは誰だ? 白い桜の花片を舞わせた彼女では?』 という誤解が広がった、という訳ね。

じゃあ、セラフィナが報告に来たのは――

「つまり、そこの少女が白雪の聖女という話は誤解だが、この国に白雪の聖女が現れたことは間違いないということか?」

「はい。白雪の聖女様の捜索をするべきです」

彼らの至った結論に唇を噛む。

マズい。ニセモノを隠れ蓑にするどころか、私の捜索が始まりそうだ。

なんとか流れを変えなくちゃ。

「その白鈴桜ですか? それがヴァルデンシュタイン領で咲いたのなら、白雪の聖女はセラフィナの領地にいらっしゃるのかもしれませんね」

探すならヴァルデンシュタイン領がいいんじゃない? とアルベルト陛下に提案してみる。

「いや、過去の例によると、白雪の聖女が到来すると、各領地でそれらの予兆が現れると言われている。急ぎ、他の領地にも同じような現象がないか確認しよう」

そうなるよねぇと天を仰いだ。

結論から言うと、各領地で白雪の聖女の復活を知らせる痕跡が立て続けに見つかった。

白鈴桜という花が開いた地域もあれば、 霜紋華(そうもんか) という、地面や石壁に氷華の紋が浮かぶ現象が発生していたそうだ。

各地で様々な予兆が現れていることから、白雪の聖女の復活は近い、あるいはすでに復活しているのでは? という結論になった。

そして『復活しているのなら、白雪の聖女様はどこにいるのだ?』という流れになる。

絶体絶命のピンチ。

でも、私の正体はまだバレていない。

一部の民は、私が白雪の聖女だと思っている。

けれどそれは、黒雪を白雪と錯覚させたから。白雪の聖女を探す者たちはそう思っている。

その先入観が、私を対象から外しているようだ。

とはいえ、さすがにバレてもおかしくない。

私がこの地に来たタイミング、年齢、聖力の強さ。この三点だけでも、白雪の聖女ではないかと疑われる理由にはなるはずよ。

黒雪という印象が強いとしても、気付いている人がいてもおかしくはない。

しばらくは油断は出来ない。

どうか、アルベルト陛下にだけはバレませんように。そう祈りながら過ごすある日の朝。

アルベルト陛下から散歩に誘われた。