軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

冥界

全裸の男が放った、転移魔法の魔法陣の言葉を信じた結果――――。

「――――ここはどこ!?」

草木などが漆黒に染まり、空は赤黒い不気味な世界の中に俺はいた。

「いや、ここが俺にとって幸せになれる場所とかウソでしょ!? どう見たって不幸になる予感しかねぇんだけど!?」

まるで【果てなき悲愛の森】にいたころのように、思わず口に出して叫ぶと、どこからともなく声が聞こえてきた。

『……ここは冥界。死者の魂が漂う冥界です……』

「あ、冥界! ……冥界!? って誰ですか!?」

怖っ!? どっから声が……ってか、本当に誰!?

『……私は冥界。冥界そのものです……』

「規模がでけぇ!」

まさか世界から話しかけられる日が来るとは思わなかったよ!

っていうか……!

「冥界!? マジで!?」

『……はい……貴方は死にました……』

「わお」

サラッと告げられた事実。

一瞬、この冥界とやらが何を言ってるのか分からなかった。人語でお願いします。

だが、そんな混乱も徐々に収まり、ついに……。

「はああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!?」

叫ぶしかなかった。

いやいやいやいや! 死んだ!? おーけー、舐め腐ってんのか!?

「いきなり出てきて死んだとかふざけんなっ! 慰謝料を要求するっ!」

『……ここは冥界です……人権はありません……』

「どこに行っても俺は人権を否定されるねぇ!」

もう俺の種族『人間』って間違いなんじゃない? だって『人』扱いしてもらえないよ?

必死に言葉を投げかけていると、冥界の声は少し間を置いて再び語り始めた。

『…………ですが、それは結果であって、実際には死んではいません……』

「よし、意味が分からん。簡単に頼む」

『…………貴方は死んでません……』

「よっしゃあああああああああああああああああああああああああああああああっ!」

何だよもー! 心配させやがってー!

俺は喜びの雄叫びを上げていたが、それに水を差すように冥界の声は続けた。

『……ですが、結果的に死んでいるのです……』

「結局どっち!?」

だって、この世界にはただ転移魔法で飛ばされただけだ。

どこか刺されたり、心肺停止したりした記憶はない。……いや、アッサリ殺す術があるのかもしれないけどさ。

『……もう一度言います……ここは、冥界です……冥界とは、死者の国……ですから、この世界にいるものは、死んだからこそこの世界にいるのです……適応は、不可能です……』

「あ」

冥界の説明で、俺はようやく理解した。

つまり、生きてる人間が死んだ後に行ける世界にいるってことは、それは死んだも同然ということ。

「うそーん……マジで死んじゃった……?」

今度こそ本気で落ち込む。

だって……ねぇ? 何の覚悟もできてないんだぞ?

あっちには、サリアたちも残しているのに……。

魔法陣の言葉を信じたのが間違いだったのか……?

はぁ……俺もここまでか――――。

そう思った瞬間、脳内にアナウンスが流れた。

≪スキル【進化】の効果が発動されました。これにより、体が冥界に適応します≫

『……あっ……たった今、貴方の体は大丈夫になりました……』

「適応するんかーい!」

俺の体は、冥界に適応したのだった。

『……意味が分かりませんが、この冥界でも活動できるようです……死者になった……とはまた少し違うような……本当に、意味が分かりません……』

冥界すら困惑するレベルで、俺の体はおかしいようです。

何度でも言います。

この体は人間ですからね!? 一番疑ってるのは俺だけどねっ!

心の中である程度ツッコむと、一度気持ちを落ち着かせる。

「まあいい……生きてるってことが分かったのは嬉しいけど、でもどうやってここから出たらいいんだ?」

そう、そこが一番大切なところだ。

何せ、出られなければ意味がない。

「あ、そうか! 俺も魔法を使って帰ればいいのか!」

『……残念ながら、冥界は人間界とは別の世界です……転移魔法は、同じ世界の中でしか使えません……』

「あ……」

そう、今までそんな状況になるとは思ってなかったので、考えることもなかったが、転移魔法はその世界の中でしか作用しない。

だからこそ、俺が転移魔法を使えたところで地球に帰ることは出来ないのだ。

……待てよ? ということは……。

嫌な予感がした俺は、すぐに【果てなき愛の首飾り】の効果で、サリアたちに連絡を取ろうとした。

だが……。

「おい、サリア! アル! ルルネ! 聞こえるか!?」

だが、誰も俺の呼び掛けには答えてくれなかった。

マジかよ……これじゃあ帰ることも、連絡を取ることもできないのか……。

思わず落ち込みそうになると、ふとあることに気付いた。

「……あれ? でも俺は人間界からここに飛ばされたんだけど? それも、転移魔法で……」

『……特殊な方法を使えば、世界を超える事が出来ます……何より、冥界は、行くこと自体は簡単なのです……死ねばいいわけですからね……ですが、死者は蘇ることはできない……だから、冥界から人間界へ転移魔法で帰ることは出来ないのです……』

やっぱり死んでるんじゃねぇかッ!

「……いや、でも俺を送った男は、一度冥界に来たことがあるから、こうして俺を冥界に送れたんだよな……? ……あれ? もしかして……あの人死んでた……!?」

急にホラー感が出てきて、震えていると、冥界はそれを否定した。

『……それはありえません……先ほども言った通り、特殊な方法を使えば、冥界へ行くためだけの転移魔法は使えるようになります……』

「特殊な方法?」

『……はい……転移魔法とは、体の一部がその地に触れれさえすれば、転移先として魔法陣を展開する事が出来ます……人間界と冥界をつなぐ門……つまり、冥界への入り口に、自分の体と同じ役割を持つ効果の道具を放り込めば、それでいいのです……』

「意外と簡単に冥界への転移は出来るんだね」

『……いえ……その道具も、高次元の存在……つまり、神の力が無くては作る事が出来ません……』

つまり、あの全裸の男は、神様から貰った道具を使って、冥界へ転移させる力を手に入れたってことか。

「その神様の力が無いと、世界を越えて転移することもできない……と?」

『……そういうことです……』

なるほど……本格的に俺たちが地球に帰るのは難しくなったみたいだな……いや、俺が帰るわけじゃなく、翔太たちを帰してやりたいからな。俺はサリアたちがいるから、この世界に残る。

つか、サラッと聞き流したけど……。

「あの……冥界と人間界って目に見える形で繋がってるの……?」

『……はい……』

「マジかよ」

まさかの事実に、俺は驚きを隠せなかった。

『……冥界への門は、人間界の西の果てに存在しています……』

「……それじゃあ、死んだ人とかはそこから出ようとするんじゃないか?」

『……その話が、こうして私が貴方に話しかけたことに繋がるのです……』

「へ?」

確かに、なんで俺なんかに急に話しかけてきたのか分からなかったからな。

『……言いそびれてましたが、私の自我はもうあと少しで消えます……』

「それメチャクチャ大事じゃね!? 何で早く言わないの!?」

『……貴方の質問に答えようと……』

「大変申し訳ありませんでした!」

俺はその場で土下座した。

全面的に俺が悪かったね! 本当にごめんね!

『……いいえ、大丈夫です……それで、話を戻しますが……私が貴方に話しかけたのは、貴方にこの冥界に跋扈する悪霊を退治してほしいのです……』

おっと、話がややこしくなってきたぞ。

『……貴方が懸念した通り、悪霊たちが一斉に冥界の門に押し寄せ、人間世界に出ようとしています……普段は門も開いており、門番もいたのですが……その門番が倒され、悪霊を解放しないために、門を閉めました……本来なら、門を閉めてしまうと人間世界で死んだ者たちの魂がそのまま人間世界にとどまり、人間世界でゾンビなどのアンデッドモンスターに変化してしまうのですが……』

「うわぁ……」

予想以上に重大な展開に、俺は少し引いた。てか、これ本当に俺が幸せになれる要素あるの?

「事情は分かったけど……何で俺に?」

『……本来、死者の魂は、実体を伴うことはなく、ただ漂うだけの存在となります……ですが、悪霊は邪悪な自我を持ち、実体を伴うため、誰も悪霊を倒す事が出来ないのです……いつもなら、似たような状況でも門番が鎮めていたのですが……今回は悪霊たちの王が現れ、悪霊すべてが強化されているのです……』

何? このゲームみたいな展開。いや、俺たちが異世界に飛ばされている時点でゲームみたいだけどね。

『……貴方は、この冥界で唯一自我のある存在です……私は、新たな門番を生み出すために、力をすべて開放するので、自我が消えるというより、再び力を蓄えるために深い眠りに就くといった方が正しいでしょうか……とにかく、貴方には悪霊の王と、そのほかの悪霊を倒してほしいのです……』

「スゲェ無茶ぶりしますね」

『……大変申し訳ないと思っています……最悪、悪霊の王は倒さなくても構いません……本来なら、私が処理するべきことですので……それこそ、本当の意味で自我が消えようとも、倒しましょう……ですが、せめて……せめて、私が門番を生み出すまでの時間を稼いでくれないでしょうか……ただでとは言いません……貴方を、冥界から帰すことも約束いたしましょう……』

そうか……冥界も大変なんだな。もはや話が飛躍しすぎて逆に冷静になってるけど。

それに、冥界の頼みを聞けば、俺は帰れるらしいからな。

「分かった、手伝うよ。俺なんてたいして役に立たないかもしれないだろうけどさ」

実際、人間界では話は別だが、この冥界での俺はどのくらい強いのかまるで分らないからな。役立たずかもしれないし。

そう思っていると、どこか感動したような冥界の声が聞こえた。

『……ありがとうございます……ありがとうございます……』

こうして、俺は冥界で悪霊退治をすることになったのだった。