軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

克服?

レオンの様子を見に、保健室に寄った後、俺たちは予定通り学園の外に出た。

学園の外は、生徒たちが生活しているだけあり、魔物の被害などはとても少ないのだが、完全にないわけでなく、時々魔物に襲われるという事件が起こったりしている。

まあ、今回は俺やベアトリスさんがいるので、魔物に対する危険性はほとんどないと言ってもいいだろう。

「さて、それじゃあ早速始めて行こうか。……と言っても、具体的にどうしたいか俺には分からないけど」

「兄貴! それじゃあ俺たちと戦ってもらえないっスか?」

「アグノスたちと?」

「はい! 魔法自体は、兄貴のおかげで使えるようになったスけど、それを戦闘で活かせるかと言われると微妙なんス。だから、実戦で魔法を使うって感覚を身に付けようかと思いまして!」

「つまり、脳筋思考で、戦って覚えるということだ」

なぜ、わざわざブルードがアグノスの言葉を言い直したのかは分からないが、理由は分かった。

「そう言うことなら、喜んで相手になるよ。ただ、俺って校内対抗戦の詳しい形式を知らないんだけど、どんな感じで戦うの?」

「試合形式は、男女別で五人の選抜チームを作り、先に三勝した方の勝利というものです」

俺が疑問を口にすると、丁寧にベアトリスさんが教えてくれた。

「五人……ですか? それじゃあ男子は足りなくないですか?」

「最低三人いれば、試合自体には参加する事が出来るんですよ。その代わり、一人でも負ければ、その時点でクラス全体の負けが決まってしまいますが……」

「レオンは参加できねぇからな。その分、俺たちが全勝すれば問題ないッスよ!」

保健室でどんな会話をしていたのかは知らないが、残念ながら、レオンは参加できないようだ。

「なるほど……それじゃあ、俺は一人ずつ相手にすればいいわけね……それで、女子……というか、サリアたちはどうするんだ? ヘレンたち全員が参加するとして、あと一人だけ参加できる枠があるみたいだけど……」

「うーん……ルルネちゃん、どうしよっか?」

「サリア様。ここは私に任せてもらえないでしょうか?」

「え?」

ルルネは普段とは雰囲気が違い、凛々しい表情でそう言った。

「その校内対抗戦とやらに参加すれば、主様たちをバカにした輩を蹴り飛ばすことができます。私は主様の騎士です。主様の名誉のために、ここは私に譲っていただけないでしょうか?」

「ルルネ……」

誰だ、お前。

俺の知ってるルルネじゃねぇよ。何だよ、その騎士みたいな態度。ただの食いしん坊じゃなかったの?

俺だけでなく、オリガちゃんまでルルネの言葉に驚いていた。

「そして、勝った暁には、主様とご飯を食べに行くのです!」

「そうだと思った」

結局、何も変わっていなかった。安心したぜ……いや、食べ物を求めないだけで不審に思う時点でいろいろと手遅れかもしれない。

「というわけで、私に戦わせていただけないでしょうか?」

「いいよー! ルルネちゃん、頑張ってね!」

「はい! 主様とご飯を食べに行くため……あ、それと主様の名誉のために!」

「俺の名誉はついでなのね!」

分かってたけどね!

◆◇◆

それから、校内対抗戦までの間、学園の外で模擬戦を続けてきた。

やはりというか、慣れない魔法を使っての戦闘で、俺の体感としては、魔法を使ってからの方が弱くなった様にも感じた。

ただ、武器に炎を纏わせるだとか、直接魔法を打ち込むタイプじゃなければ、普段通りに動けていたのだが……。

あとは、身体強化との相性は全員よく、普段の動きに数段磨きがかかったように思えた。

それだけでも十分通用するんじゃ? とも思ったが、魔法というのは俺が思っている以上に強力で、その程度じゃ勝つのは難しいらしい。

そんな中、俺の勘違いかもしれないが、アグノスたちの雰囲気がおかしいのだ。

最初は魔法が使えるようになったことで、それで見返してやろうって気概が伝わってきていたのだが、今ではなぜか、全員その表情を曇らせている。

何が原因か分からず、直接訊いてみても『気にしないでください』に一点張り。

ただ、何となく魔法を使うことに自信がないのかな? とも思ったのだが、どうやらそういうわけでもないようで、本格的に理由が分からない。

結局、俺は校内対抗戦当日まで、アグノスたちの気持ちに気付くことはなかった。

◆◇◆

アグノスたちの特訓を始めてしばらく経った。

いつも通りFクラスの教室に向かっていると、廊下に何やら男子生徒の集団と、サリアとそのサリアを庇うように立っているルルネの姿が視界に入った。

俺は首を傾げながら近づくと、その男子生徒の姿がハッキリと分かった。

「っ」

そして、俺は思わず足を止めてしまった。

なぜなら、サリアたちの前にいる男子生徒は、この世界に転移するときにグループに入るのを拒んだ青山と、俺の能力が最底辺だということをクラス全員に公開した大木、そして俺をパシリやサンドバックとして殴ってきたヤツら――――つまり、勇者だった。

それを理解してしまった瞬間、頭では大丈夫だと分かっていても、虐められていたという恐怖は払拭されるどころか増していき、足が動かなくなったのだ。

「なぁ、いいじゃないか。俺たち勇者だぜ? それ分かってる?」

「そうそう。俺たち知ってるよ? 君ら、あのFクラスの子でしょ? だったらさあ、将来的には俺たちみたいな有望株と仲良くなってた方がいいんじゃない?」

「というわけでさ、俺たちと楽しいことしようよ」

賢治と同じボクシング部で、毎回俺を殴って楽しんでいた男――――小林が、厭らしい笑みを浮かべながらサリアたちに手を伸ばそうとする。

すると、ルルネはサリアを抱きかかえ、距離をとった。

「近寄るな、ゴミが。貴様らが息をするだけで世界が穢れる。いや、貴様らが存在していたという事実すらこの世界にとっての恥だ。生まれてくるな」

「はぁ? ちょっとそれは酷いんじゃない? 俺たち傷つくわー」

「ゴミの感情など知らん」

毅然とした態度で、ルルネはサリアを庇いながら強烈な言葉を吐き続ける。

庇われているサリアは、キョトンとした表情を浮かべていた。

「その態度がいつまでもつかな? そんな強気な表情が、俺たちの手で歪ませられていくって考えると興奮するなぁ」

そんな下種な感情丸出しでルルネ達を舐めるように見ると、さらに笑みを深める。

だが、そんな不快になるはずの視線を向けられているルルネは、一瞬サリアと同じような表情を浮かべると、男たちを見渡した。

「……貴様ら、まさかとは思うが、私たちを相手に交尾をしたいなどと考えているのか?」

ルルネさん、ハッキリ言いますねぇ!

思わず内心でそうツッコむと、青山たちは爆笑した。

「交尾!? ギャハハハハ! いいねぇ! そうそう、ハッキリ言っちゃうとそういうこと! だからさぁ、大人しく俺らの言うこと聞けよ」

威圧しながら、青山たちが逃げ道をふさぐように囲んでいく。

その様子をなぜか、ルルネは憐憫の表情で青山たちを見ると、そのあとにサリアと会話を始めた。

「サリア様。これらはどうやら私たちのことを雌として求めてきているらしいです」

「え? そうなの?」

「はい……恐らく種としての防衛本能でしょう。彼らは、雄として非常に劣等です。とてもではないですが、これから先、子孫を残していくにはあまりに難しいかと」

「うーん……そうだね」

サリアも認めちゃった!?

「まず、子どもできないでしょう? 生殖能力が弱すぎて」

「そうですね。あと、雌を満足させるにはとてもではないですが……やはり、知らないというのは哀れでもあり、幸せでもあるのかもしれませんね」

散々な言われよう! これ、完全に男として否定してるよね!?

メチャクチャ言われてる青山たちは、額に青筋を浮かべながら、口を開く。

「黙って聞いていれば好き勝手言ってくれるじゃねぇか……何を根拠にそんなことを言ってる!?」

「「野生の本能」」

綺麗にハモったね! でも事情を知らないアイツらは、ポカーンとしてるよ!

「私たちは、一目見ただけでその雄が優秀かどうかはだいたい分かるよー! ね? ルルネちゃん。そう言う意味でも誠一ってすごいよね! そんなことよりも、私は純粋に誠一が好きだけどね!」

「そうですね。よく考えれば、私は主様をそういう風に見たことがなかったかもしれないですね……。主様は、雄として優秀だからとか、雌としての本能だからとかではなく、その……好き、という感情が正しいのでしょうか? こういう気持ちは初めてで、よく分からないのですが……主様と一緒にいるだけでふわっとした……なんだか、とても大切なモノが心の中にあります」

「うんうん!」

「ただ、それとは別に、私たちは子孫繁栄のためにも、優秀な雄を見極める目を持っていますからね。そうでもしなければ、野生では生きていけません。まあこの点に関しても、主様がもはや優秀な雄なのは一目瞭然ですが。……というより、いつまでそこにいるつもりだ? これ以上、この世界に恥を上塗りしていくな。過去に戻り、生まれてくるのを阻止してこい」

俺がいないと思ってるからだろうけど、サリアたちの言葉が嬉しいと同時にすごく恥ずかしいっ!

でも、そっか……サリアたちは確かに過酷な環境で生きてきたわけだから、子孫とかに関しては重要なことだよな。それを抜きにしても好きって言ってくれるなんてな……俺自身は、男として優秀だとは思わないけど。

それにしても、人がここまでボロクソに言われてるのも初めて見たぜ……。

思わず引きつった笑みを浮かべていると、とうとう我慢の限界になったのか、青山が叫んだ。

「もう許さねぇ! そこまで言うんなら、直接体に教えて、本当にダメかどうか確かめてみろよっ!」

青山たちが一斉にサリアたちに手を伸ばし、体に触れようとしているのを見て、俺は一瞬で冷めた。

…………おい、何してる?

さっきまで、虐めによるトラウマから動かなかった足は、自然と動いていた。

青山たちの手が、サリアたちに触れようとしたとき、ルルネが避けるのは無理と思ったのか、蹴りの体勢に移行した瞬間、俺はサリアと青山たちの間に飛び入り、一瞬で二人を抱き寄せると青山たちの手が触れる前にその囲いから抜け出した。

サリアたちを助けるために飛び込んだため、フードは外れてしまったが、もはやそんなことはどうでもいい。いや、よくないかもしれないけど、サリアたちがアイツらに触れられるくらいなら、いくらでも面倒事は引き受けよう。

「え!? 誠一!?」

「あ、主様!?」

いきなり現れた俺に、サリアもルルネも驚きの表情を浮かべていた。

「ごめん、遅くなった」

俺に意気地がないばかりに、サリアたちに不快な思いをさせてしまったのだ。……あの態度を見てると、不快に思うどころか、相手にしてたかさえ疑問に思うけど。

どちらにせよ、俺自身がすぐに動けなかったことが許せないのだ。

でも、もうその心配はない。

トラウマなんかクソ食らえだ。

急にサリアたちが消え、その行方を探し、俺の存在を見つけた青山たちは、何やら戸惑いと怒りが半々といった様子で、口を開く。

「テメェ……誰だよ」

「俺はFクラスの担任だけど?」

「んなことは前に闘技場で見た時から分かってんだよ! 俺たちが勇者だって分かってやってんのか!?」

「知ってるけど、それが何?」

俺の返しに、青山たちは一瞬呆けた様子を見せたが、すぐに厭らしい笑みを浮かべた。

「なら、痛い目見る前にその女ども渡してもらおうか?」

「プックク。カッコつけるのはいいけど、調子に乗ってると大変なことになるよ? だからさぁ、大人しくその子たちちょうだいよ」

小林や大木が煽るような口調でそう言ってくるが、俺は笑みを浮かべ――――。

「断る」

「なっ!? テメェ、本気で痛い目見ないと分からねぇらしいなぁ!?」

「えー……痛いのは嫌だなぁ。でも――――」

なぜ、このとき俺はこんな行動に出たのか分からないが、サリアとルルネを抱き寄せ、青山たちに見せつけるようにして言い放った。

「――――俺の女だから」

ちょっと、俺!? どこからそんな甘い声だしてるの!?

「せ、誠一……」

「あ、主様……」

あ、サリアとルルネが顔を赤くしてるじゃない! ゴメンね! 恥ずかしいよね! でも俺もメチャクチャ恥ずかしいから許してっ! でも俺の体は許さねぇ!

そもそも何!? この台詞! なんか前にも……そう、アルに告白されたときにもあったよね!?

あの時も乙女ゲームや少女漫画みたいな台詞がスラスラ出てきたよね!?

……あ、これ全部、称号の『雄の王』のせいとか言わないよね!? ……そんな気がしてきた!

もーなんで!? せっかく体が俺の言うこと聞いてくれるようになったと思ったのにさぁ!?

もしかして、俺の体的にはこの対応が最善だからとか言わないよね? そうじゃないと普段から慎重に行動しないといけなくなるんですけど!? こんな台詞、ポンポン出てたまるかっ!

内心ものすごく悶えていると、なぜかサリアたちと同じように顔を真っ赤にさせた小林が殴りかかってきた。

「ふ、ふざけるなあああああっ! 俺たち勇者をバカにしやがってぇぇぇぇぇぇえええええ!」

地球にいたころは、その鋭いパンチに何度も吐かされたが、今の俺にはとてもゆっくりに見え、何より【果てなき悲愛の森】でクレバーモンキーやサリアの『瞬腕』を食らった身としては、何の脅威も感じなかった。

それに、なんか青山たちの相手をしていると、俺の口からどんな台詞が出てくるか分かったもんじゃないし、何より授業も始まるので、無視して教室に移動するために、俺はサリアたちを抱き寄せたままその場で軽く跳躍して青山たちを飛び越えようとするが、思っていたより俺自身が口にした台詞が精神的にきていたらしく、力加減を間違え、予想以上に跳べなかったので、思わず殴りかかってきた小林の顔面を踏みつけてしまった。

「ふげっ!?」

「あ、ごめん」

本当にわざとではないのだが、自分でもびっくりするほど感情の籠ってない謝罪を口にし、再び絡まれるのも面倒だったので、サリアたちを抱き寄せたまま、教室までスキル『刹那』を使って移動した。

教室の前に着くも、二人とも未だに顔を赤らめ、ボーっとしていた。

「あの……お二人さん? 教室に着いたんですけど……」

「「……俺の女……」」

「いやあああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」

こうして、サリアたちのおかげでトラウマは克服するも、別の精神的ダメージを受け、しばらく悶え続けることになるのだった。