軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

出発

賓客として城に滞在しているバーナさんを訪ねると、すぐに出発しようという話になり、俺たちは王都の門の前まで移動していた。

荷物などは全てアイテムボックスに入れてあるので、考える必要もない。

学園に移動する方法を訊けば、バーナさん一人なら転移魔法で帰れるそうなのだが、今回は俺たちもいるため、さすがに魔力的に厳しいという話になり、王都から定期的にバーバドル魔法学園まで出ている馬車に乗って、移動することになった。

……今さらだが、馬車を曳くために買ったはずのルルネが、今では普通に馬車に乗る側になってやがる……。

そのことに軽く眩暈がしていると、不意に後ろから声がかけられた。

「元気でな、誠一」

驚いて後ろを振り向くと、笑顔のランゼさんの姿が。

それだけではない。門には、多くの人が見送りに来てくれたのだ。

「誠一君。君に教えてもらった魔法、しっかりと修練しておくね。だから、君も頑張ってくれ」

「師匠。私は、貴方が師匠であることを誇りに思います。また、帰って来た時は、ご指導をよろしくお願いします」

「ハハハ。誠一君なら、大丈夫だろう」

「くーちゃん! そんな適当なこと言っちゃダメじゃないですか! それはいいとして、この後買い物に行きましょう! あ、誠一さんたち、さようなら!」

「……ローナ。君が一番適当なんじゃないかな?」

国王であるランゼさんをはじめ、フロリオさんにルイエス率いるローナさんやクラウディアさんを含む【 剣聖の戦乙女(ワルキューレ) 】のみなさん。

「誠一君! 君がこれから先、どんな辛い目に遭おうとも、君の筋肉は決して裏切らない! 思う存分、筋肉を爆発させてきなさい! 次に会ったとき、君がどのような成長を遂げているか、楽しみにしているよ!」

「みなさん、お元気で。大丈夫ですわ。辛いことなんて、快感に変えてしまえばいいだけですもの。さあ、みなさん! 新しい扉を開くのですわッ!」

ギルドからは、ギルドマスターのガッスルにエリスさん。……ウォルターさんが見送りに行きたいと言っていたそうだが、残念ながら国の兵隊さんのお世話になっているため、ここにはいない。

「誠一さん。アルトリアちゃんのこと、お願いね? ミルクちゃんも、また会えるのを楽しみに待ってるわ」

「サリアちゃあああああああん! 貴女がいなくなってしまうのは寂しいけれど、貴女の可愛さはこんなところで終わってはダメよ! 世界中に、貴女が天使だってことを知らしめてやりなさい!」

他にも、ギルドに入るための試験でお世話になったアドリアーナさんや、孤児院の院長であるクレアさん。

「今まで、私たちの宿屋を贔屓にしてくれて、ありがとうね。みんな、気を付けていってらっしゃい」

「風邪やケガをしないようにね。君たちが健康でいることが、一番大切なんだからさ」

「結局、誠一さんたちの恋バナを聞けなかったわ……でも、これが最後のお別れじゃないんだし、次に会ったら、ちゃんと教えてね!」

俺たちが宿泊していた≪安らぎの木≫のオーナーであるフィーナさんにライルさん、そしてメアリ。

「……誠一さん。お元気で。いつでも、お店にいらしてください」

アルとの関係で話を聴いてくれた、喫茶店アッコリエンテのノアードさん。

「なんていうか……感慨深いもんだな。お前たちもだいぶこの街に馴染んでたもんだから、こうしてどっかに移動するってなると、やっぱり寂しく感じちまう。でもまあ……気を付けてな。俺たちは、お前たちの帰りをいつでも待ってるぜ」

そして、俺たちがこの街を訪れて、最初にできた友人のクロード。

全員、俺たちを見送るためだけに来てくれたのだ。

「みんな……ありがとう!」

俺は、他に言葉が出ないほど、感動と感謝の気持ちでいっぱいだった。

地球の日本が、俺の故郷であることに変わりはない。

そんな地球での光景は、俺の目には白黒に映って、ただその日々を過ごすしかなかった。

でも、この街で過ごした時間はどうだろう?

異世界という右も左も分からない場所で、初めて訪れた街。

いろいろな人と出会って、いろんな体験をして……異世界で過ごした日々は、地球では有り得なかった、鮮烈な色彩を伴って、俺の目に映った。

世界は、こんなにも色鮮やかで、感動に満ち溢れていることを、教えてくれた。

故郷の地球を圧倒してしまうくらい、この場所は俺にとって何よりも大切な場所なんだ。

【果てなき悲愛の森】を出て、最初に訪れた街がこの場所でよかったと、心の底から俺は思う。

名残惜しく感じるが、いつまでもこうしてはいられないので、俺たちは馬車に乗る。

すると、馬車はゆっくりと出発し始めた。

俺は思わず、馬車の窓から身を乗り出し、手を振りながら叫んだ。

「みんな、ありがとう! それじゃあ――――行ってきます!」

『いってらっしゃい!』

「じゃーねー!」

「元気でなぁ!」

「私は再びその地で食事をすると誓おう!」

「……じゃあね」

俺だけじゃなく、サリアたちも他の窓から身を乗り出し、皆に手を振った。

たまたま、乗車客が俺たちとバーナさんだけだったからよかったものの、一般のお客さんがいれば完全な迷惑行為だったと後になって気付いたが、今の俺たちにはそこまで気が回らず、みんなの姿が見えなくなるまで俺たちは手を振り続けるのだった。

◆◇◆

「ランゼの街は、いい街じゃったな」

皆が見えなくなった直後、同じく馬車に乗っていたバーナさんが微笑みを向けながら、そう言った。

「……そうですね」

「寂しいかい?」

優しい声音で、そう訊いてくるバーナさんに、俺は今の気持ちを素直に告げた。

「もちろん、とても寂しいですよ。こんな俺でも、温かく迎え入れてくれた、優しくて居心地のいい街でしたから――――でも、これが一生のお別れじゃないですから。また、成長して、元気な姿で再会をしたいなって思っています。ですから、再会するまでに、しっかりと成長してないとダメですね」

苦笑い気味にそう言うと、バーナさんは「そうじゃな」と一言だけ、優しく言った。

「……さて、それでは誠一君。君たちに、学園でしてほしいことを伝えたいと思う」

居住まいを正し、バーナさんはそう切り出した。

「そう言えば、何をすればいいのか具体的な説明を訊いていませんでしたね」

確かに、バーナさんには学園に教師として来てくれとしか頼まれておらず、具体的に何をすればいいのかと言った説明は一切受けていなかった。

「うむ。まず、サリア君は、生徒として入学してもらうので、細かい説明などは学園についてからでも大丈夫じゃろう」

「はーい!」

「次に、冒険者の……アルトリア君じゃったな? アルトリア君には、誠一君と同じく学園で教師をしてもらいたいんじゃ。ただ、クラス担任をするのではなく、【冒険科】と呼ばれる教科の授業で指導してもらいたいのじゃ。以前は、他の現役の冒険者を雇っておったのじゃが、彼らも冒険者ゆえに、長い間学園に縛り付けることもできなくてのぅ……。そこで、その冒険者の代わりをしてもらいたいんじゃよ」

「なるほど……オレが何をすればいいのか分かりました。それで、具体的には何を教えれば?」

「難しいことではない。冒険者としての心構えや、知っておくと便利な知識、そして簡単な戦闘訓練じゃな」

「分かりました。……まあ、人にしっかり教えるなんてことやったことがないので、どこまでできるか分かりませんが……オレなりに頑張らせてもらいます」

「うむ。それで、ルルネ君じゃが……まあ、好きにしておってよいぞ」

「なぜだ!? なぜ私だけこういう時の扱いが雑なのだ!?」

バーナさんの言葉に、ルルネは即座にツッコむ。

確かに、一人だけ好きにしててもいいよってのはなぁ……。

「なら、サリア君と同じで、生徒として入学するかのぅ?」

「それによって何か私にメリットがあるのか?」

「メリットと言われてものぅ……学食が食べ放題とか――――」

「生徒として入学しよう」

「即答じゃな!?」

ルルネさん。アナタの食への執念は、もはや尊敬の域に達しています。スゲェよ。

バーナさんは、咳ばらいをすると、再び説明を始める。

「ゴホン! ……えー、オリガ君じゃが……オリガ君は、誠一君の助手ということで、誠一君と同行してもらいたいんじゃ」

「……ん。誠一お兄ちゃんと一緒なら……いい」

「そうか。さて……最後に誠一君の役割を伝えたいんじゃが……」

「?」

バーナさんは言葉を途中で区切ると、顔を苦くした。

「……それにはまず、現在の学園の状況を知っておいてもらいたいんじゃ」

「学園の状況?」

「そうじゃ。現在、ワシの『バーバドル魔法学園』には、カイゼル帝国が召喚した勇者たちがおる。彼らは、ワシらとは違い、魔王を倒すために召喚されただけあって、潜在能力がとんでもないんじゃ。そして、この学園で学んだことにより、彼らの潜在能力の一端が開花され、急速に力を付けたのじゃ。その結果、彼らは他の生徒を見下し、差別化する風潮を生み出したのじゃ」

「……」

「ワシの学園は中立を謳ってはいるものの、完全な中立は難しく、勇者たちを処罰すれば、カイゼル帝国が他の子どもたちへ攻撃を加えるやもしれん。そう言った理由から、ワシは勇者に強く発言することができんのじゃ。情けないことにのぅ……」

「そんな……」

「そして、これからが本題じゃ。先も言ったように、勇者たちは現在、ワシの学園で最強の一角を占めておる。元々いる生徒のなかにも、勇者に対抗できるだけの力を持った者もおるが、やはり圧倒的に数が少ないのじゃ。そこで、誠一君には、少数ながらもひとクラスの担任を受け持ってもらいたいんじゃ」

「!?」

え、マジで? 地球で虐められっ子の生徒だった俺が、一気に担任の先生ですか? ……いや、できる気がしねぇよ?

「ちょ、ちょっと待ってください! いきなり担任と言われても、人に教えること自体が慣れていないですし……」

「大丈夫じゃよ。一人、副担任を付けるし、何より、誠一君はあのルイエス君とフロリオ君に魔法や近接戦を教えていたそうじゃないか。さらに訊けば、今まで適性のないと思っていた魔法まで扱えるようにしたとも聴いたし……大丈夫じゃろう」

「……」

不安しかねーYO!

口を金魚の如く開閉していると、バーナさんはいい笑顔で言い切った。

「まあ、なるようになるじゃろ! 目指せ、打倒勇者!」

「それは魔王を育てろってことですか!?」

倒しちゃダメでしょ!? 勇者だよ!?

「ホッホッホ! 細かいことは考えても仕方ないと思うぞ? とにかく、ワシは誠一君の力に賭けておるんじゃよ」

「……」

何の根拠もないんだろうけど、そんな風に言われたら、何とかして応えなきゃって思うよなぁ……。

しかし、バーナさんは最後にさらっととんでもないことを言った。

「おっと、そう言えば、誠一君の担任する少数クラスの生徒じゃが、学園のなかでもいわゆる『落ちこぼれ』的扱いを受けておる子たちじゃからの。頑張ってくれ」

「なんでやねん」

思わず関西弁でツッコんでしまった。

だってオカシイでしょ!? 普通、勇者に対抗させたいなら、成績上位者を選ばない!? 何で逆の子を選んだの!?

俺のツッコミを受けてなお、バーナさんは笑顔を崩さない。……この人、本当に勇者に対抗できる存在が欲しいんだろうか?

まあ、俺なんて落ちこぼれじゃすまないほどのド底辺の人間だったわけですし、人のことなんて何も言えないんですけどね。

何より、俺の『指導』スキルを使えば、何か変わるかもしれないしな。

あまりにもバーナさんが緩いので、俺も勇者に対抗とか、面倒なことは考えるのをやめ、何とか担任することになったクラスの生徒を、少しでも強くしようと思うのだった。

そんな会話をしながらしばらくの間馬車に揺られていると、不意にバーナさんが窓の外を見た。

「……お呼びでない連中がやって来たのぅ」

「え?」

バーナさんの言葉の意味が分からず、訊き返すと、バーナさんはため息をつきながら言った。

「近くに、盗賊が潜んでおるんじゃよ」

「なっ!?」

バーナさんに言われてすぐ、スキル『世界眼』を発動させると、なんと俺たちの馬車を一定の距離から囲むように、俺にとって敵である存在を示す赤色の点が、脳内のレーダーに引っかかった。

そして、その赤色の点は、一斉に俺たちの乗る馬車めがけて動き出す。

すると、御者も盗賊の存在に気づいたらしく、馬車を止めると、中にいる俺たちに焦ったように言う。

「お、お客さん! 賊が出ました!」

「ど、どうするんですか?」

「どうするも何も、戦うしかないんじゃが……」

そこまで言いかけたバーナさんだったが、突然目を見開き、そして笑みを浮かべた。

「どうやら、ワシらの出番はないようじゃのう」

「へ?」

バーナさんの言葉の意味が分からず、間抜けな声を出した瞬間、俺にとって味方を示す緑色の点が、猛スピードでこちらに向かってくるのをレーダーで確認したのだった。