軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

お風呂

「改めて、礼と自己紹介をさせてもらうぜ。俺はこのウィンブルグ王国の国王、ランゼルフ・フォード・ウィンブルグだ。俺にかかった呪いを解いてくれて、ありがとよ。それと、俺のことは前と同じでランゼでいいぜ」

『ありがとうございました!』

俺は今、いわゆる謁見の間と呼ばれる場所で、みんなから頭を下げられていた。

「いや、いいですから! 頭を上げてください!」

地球にいたころ、頭を下げて感謝されるなんてことがなかった俺からすると、恐縮してしまう。

「そうは言うがな? 誠一、お前さんは国王である俺を助けたんだぞ?」

「そうかもしれませんけど、ヤメテください! 俺の精神が死にます!」

「そこまで!?」

何とか俺の必死さを理解してもらい、全員に顔を上げてもらえた。

すると、今度は少し真剣な表情で、ランゼさんは言う。

「だが、お前さんには、何か褒美の品を与えなきゃならん」

「え!? だ、だからそう言うのは別に――――」

俺が再びそう言うと、ランゼさんは苦笑いした。

「まあ、そうやって善意でやってくれたってことは分かったけどよ。でも、一国の王が助けられて、それで何もせずに『はい、さよなら』ってわけにはいかんのよ。だから、誠一。お前の欲しいものを何か言うといい。この俺でできることなら、何でも叶えてやるぞ。それだけのことを、お前さんはしたんだ」

「ええっと……」

俺は、ランゼさんの言葉になんて返せばいいのか分からなかった。

俺にはよく分からないけど、国の面子ってモノもあるんだろうし、そう考えると俺一人の都合で断るのもな……。

そう思いながら、どうしたもんかと考えていると、ふとあることを思いついた。

「えっと……それじゃあ一つ」

「おう、何だ?」

「俺の魔法やスキルの訓練を手伝ってください」

『…………はい?』

俺が提案した内容に、俺以外の全員が首を捻った。

「おかしな話なんですけど……実は俺、スキルや魔法を上手く扱えないんですよね。具体的に言えば、威力の調整ができなかったり、そのスキルや魔法に振り回されたり……とにかく、全然使いこなせてないんです。それで、せっかくその道のエキスパートたちがいるんですし、教えてもらえたらな~? なんて思ったり思わなかったり……」

『………………』

徐々に言葉が尻すぼみしたのは、仕方がないと思う。だって、全員が呆気にとられたような表情で俺を見てくるんだもの。

ルイエスとか攻撃系のスキルが使えないとはいえ、体の動かし方とかで指導してもらえればと思ったんだけど……やっぱりこの国の最強戦力って言うぐらいだし、ダメだろうか? などと思いつつ、内心びくびくしていると――――。

「師匠……アナタはまだ自分を高めようというのですね……尊敬します」

「うーん……誠一君の向上心には感心させられるね」

「あれだけの魔法が使えて、まだ満足していないとは……僕もまだまだだね」

あれ? なんか無駄に好印象だぞ。俺、事実を言っただけなのに。

俺の心配は何だったのかと言いたくなるほど、周りのみなさんの反応は良かった。

すると、ランゼさんはフロリオさんとルイエスに呼びかける。

「フロリオ、ルイエス」

「「はっ!」」

「お前ら二人で、誠一の訓練手伝ってやりな。なに、お前さんたちにもいい刺激になるだろ」

「「はい! 承りました」」

oh……結局オーケーされたぞ。いや、嬉しいんだけどね?

本当に俺の心配が杞憂に終わってしまった。

今度は逆に俺が呆気にとられていると、俺の目の前にルイエスとフロリオさんの兄妹がやってくる。

「師匠。私も師匠と共に、学んでいきたいと思いますので、正式によろしくお願いします」

「僕も、君の使う魔法に興味があるからね。まあ、陛下の呪いを解いた魔法は、どうやら固有魔法のようだし、僕どころか他の誰にも真似できないだろうけど……それでも、僕の魔法にいい刺激が得られるかもしれないからね。よろしく」

「あ、はい!」

こうして、俺は自分の力を使いこなすための、重要な先生を見つけることができたのだった。

「よぉし! んじゃ、堅っ苦しいのはこれくらいにして……誠一! お前さん、ウチの風呂入ってけよ!」

「へ?」

唐突なランゼさんの申し出に、俺は間抜けな声を出す。

「この街には大衆浴場がねぇからなぁ……誠一もこの街に来て、一度も風呂に入ってねぇだろ?」

「え? あ、はい」

確かに、この街に来てどころか、この世界に来て一度も風呂に入っていないな。……セリフだけ見ると、スゲー汚いヤツだけど、魔法で綺麗にできちゃうんだよなぁ……。

でも風呂上りの爽快感はないわけで、そこは残念だったりするんだが。

「まあ細かいことは考えるな! いいから入ってけよ」

一瞬、黒髪のことを気にしたが、そういえばルルネが人化した時すでにローブを脱いでいるので、今さらだということに気付いた。

なので――――。

「じゃあ……お言葉に甘えて」

風呂に入ることにしました。いや、日本人なら分かるだろ? 風呂って最高だよな。

この後、ランゼさんも一緒に入るという話になり、ランゼさん直々に風呂場まで案内してもらった。

脱衣場が、すでに地球の銭湯や旅館のような大きさで、その広さと豪華さに圧倒されていると、ランゼさんはさっさと服を脱ぎ、浴場へと向かってしまった。

俺も急いで服を脱ぐと、浴場内に足を踏み入れる。

中に入ると、まずその豪華さに度肝を抜かれた。

マーライオンみたいな口からお湯が出てくる石像は当たり前で、お湯の噴水が浴場内にあった。

辺りを見渡せば、地球の銭湯でも見かけた、ジェットバスや電気風呂が普通に存在している。……たぶん、魔法の力で似たようなものを創り出してるんだろうなぁ……。魔法って本当に万能だよな。

思わず呆気にとられていると、ランゼさんがやって来る。

「おいおい、そんなところに突っ立ってねぇで、さっさとこっちに――――」

「?」

突然ランゼさんが目を見開いて立ち止まったので、俺は首を傾げる。

「……り、立派なモノをお持ちで……」

「どこ見てるんですか!?」

俺は咄嗟に下半身を隠した。

何か言われるとしたら黒髪黒目の方だと思ってたのに!

裸で下半身を隠すというずいぶん間抜けな絵面を晒していると、ランゼさんは納得したような表情を浮かべた。

「なるほど……そんだけ立派なものが付いてたら、そりゃあモテるか……お前クラスは見たことねぇぜ」

「違いますから! モテてるかどうかは別として、それだけは絶対に違いますから!」

ギルドの露出狂じゃねぇんだから、そんな当たり前みたいに見せるわけないでしょ!?

風呂に入る前から羞恥心で熱くなっていると、ランゼさんは「ワリぃ」と笑いながら言い、風呂に入って行った。

俺も風呂に入る前に、体にお湯をかけ、ある程度清めると、風呂に入る。

「あっ…………ああああぁぁぁぁ…………気持ちいい……」

何でだろうね。お風呂に入ると思わずこのセリフが口に出ちゃうよね。

「おう、誠一。お前さん、風呂に入り慣れてる感じがするなぁ。この大陸では、普通風呂って言えば貴族や王族くらいしか縁がねぇモノなんだけどよ。東の国では違うのか?」

「え? あ、まぁ……そんなところですね」

東の国のみなさん、ごめんなさい。なんか適当な慣習を教えちゃってます。

でも、俺が風呂に入り慣れてる感じがするのは、やはり日本人だからだろう。

海外ではお湯に浸かる習慣がないらしいけど、この世界ではそんなことはないみたいだし。

忙しい時はシャワーでもいいとは思うけど、一日の疲れを癒すなら、やっぱりお湯に浸かるべきだと思うね。お風呂最強。

あまりの気持ちよさに、顔の筋肉がだらしなく緩んでいると、不意にランゼさん真剣な表情で言う。

「俺はよぉ……いつかこの街だけじゃなく、この国のいろんな町や村に、大衆浴場を造ってやりてぇんだよ。いや、この国だけじゃねぇな。こんな素晴らしいものがあるんだってこと、いろんなヤツに知ってもらいてぇ。そこに国境も人種も関係ねぇ。今はくだらない戦争をあっちこっちでやってるせいか、そんな余裕もねぇし、恥ずかしながら金もねぇ」

「……」

「それでも、いつかはいろんな国の連中が、戦争なんか止めて、こうして裸で風呂にはいれるような世の中になって欲しいんだよ」

「……」

「理想主義者だとか夢物語だとか、何とでもいえばいい。夢を語って何が悪いんだ? 実現できるかどうかじゃなくて、夢があるからこそ、その方向に少しでも向かうように努力するんだろ。それに……せっかく一度きりの人生を生きてるんだ。無謀、不可能上等! 夢見なきゃ損だろ?」

そう言うと、ランゼさんは笑った。

「あー……ガラにもなく語っちまったな。……やっぱ風呂はスゲェよ。心まで裸にされちまう……ま、俺もいろいろ悩んで、ちょっとでも愚痴りたい気分だったのさ。忘れてくれ」

どこか寂しそうにそう言うランゼさんに、俺は言った。

「……また、お風呂に誘ってくださいよ。そのときは、ギルドの知り合いも誘ってみますから」

俺のセリフに、呆気にとられた様子のランゼさんだったが――――。

「おう!」

最後は笑顔になった。

◆◇◆

「……」

ザキア・ギルフォードは、ツェザール城内を険しい表情で歩いていた。

すると、反対方向から、ザキアの着る鎧とは違い、豪華な鎧に身を包んだ男たちがやって来た。

その姿を見て、ザキアはさらに顔をしかめる。

徐々にザキアと男たちの集団の距離が近づき、そして男たちの先頭を歩いていた男が、ザキアに気付いた。

男は、くすんだ金髪を整え、赤色の瞳には、侮蔑の色が含まれており、多少整った顔立ちをしてはいるモノの、性格の悪さが滲み出ているのか、どこか見下したような表情を常に浮かべていた。

「おんやぁ~? これはこれは、この国最強のザキア君じゃないですか~」

「……」

ザキアは軽く会釈だけをして、通り過ぎようとしたが、男たちに行く手を阻まれ、先に行くことができなかった。

「つれないねぇ、君と僕の仲じゃないか」

「……何か」

ザキアは、内心うんざりとした気分になった。

――――カイゼル帝国第一部隊を率いる、オーリウス・フェンサー。

それが男の名前であり、何かあるたびにザキアに絡んできていた。

「いやいや、特にこれといった用事はないのだけど……ん~、一つ噂を聞いてねぇ。何でも、あの≪死煙≫に陛下が狙われたそうじゃないか」

「……」

「しかも、君は≪死煙≫を捕まえられず、逃がしている……やれやれ、かの≪王剣≫も地に落ちたもんだねぇ」

「……」

オーリウスの言葉に、他の男たちは嘲笑を浮かべた。

ザキアは、そんな男たちを無視しながら、再び先に行こうとすると、オーリウスはザキアの肩に腕を回し、耳元でささやいた。

「平民風情が調子に乗るからそんなことになるんだ。お前ら平民の寄せ集めである第二部隊は、所詮俺たちが相手を叩き潰しやすいように相手を消耗させるための駒に過ぎねぇんだよ」

「……」

「まあ、お前らが下手なことして、尻拭いをさせられるのはごめんだからよ。せいぜい陛下を怒らせないようにするんだな。お前らがいなくなっちまうと、俺らが大変だろぉ? フハハッ」

「……」

どれだけ馬鹿にしたように言っても、ザキアは眉ひとつ動かすことなく無表情を貫く。

その態度が気に食わなかったオーリウスは、大きく舌打ちをすると、ザキアを突き飛ばした。

「チッ! つまんねぇ野郎だな。……行くぞ、お前ら」

『はい』

結局、オーリウスは絡むだけ絡み、そのまま去って行った。

一人残されたザキアは、壁にもたれかかると、小さく呟く。

「……俺の剣は、何を護るための剣なんだ……?」

自身の手を見つめても、答えは書かれていない。

そして、以前逃がした≪死煙≫の言葉がよみがえってきた。

「……アイツの言う通りだな。人を殺して喜ばれるなんて……狂ってる。命を育てることの方が、何倍も難しい」

ザキアには、剣を握ることしかできなかった。

そのことで、救われた命もたくさんある。

でも、結局は相手を殺すことでしか命を救うことができないのだと、ザキアは悟った。

そして今、その存在価値でさえ、揺らいでいる。

「――――駒、か」

オーリウスが意図した意味とは違うが、それでもザキアの胸に、その言葉が深く食い込んだのだった。

◆◇◆

俺――――高宮翔太は、同じ学校の連中全員と、バーバドル魔法学園で魔王討伐に向けての日々を過ごしていた。

ザキアさんや俺たちが知らない間に、他の生徒たちが勝手に決断し、あのローブ姿の爺さん……たしか、ヘリオってヤツだったか? ソイツと交渉していたのだ。

そのせいで、俺たちはこの魔法学園に来て、いろいろな魔法を学び、剣術の指導を受けている。俺としては微妙なところだが、他の連中は、ザキアさんの基礎訓練が相当嫌だったようで、そのストレスを発散するかのごとく暴れまわっていた。

そして今、幼馴染の荒木賢治と神無月華蓮先輩の三人で、このバーバドル魔法学園での俺たちについて、学園の中庭で話し合っている最中だった。

「……神無月先輩、このままでいいと思いますか?」

俺がそう訊くも、神無月先輩の表情を見ればすぐ分かる。……いいとは思っていないのだ。

何が理由で、こんなことを話し合っているのかと言えば……。

「このままだと、完全にこの学園から孤立してしまう」

そう、俺たちはある日を境に、もともと在籍していた生徒たちとの関係がどんどん壊れていっているのだ。

その理由は、やはり俺たち勇者の増長だろう。

「……誰が原因でこんな事態になったんでしたっけ?」

「んなもん、誠一と同じクラスだった青山たちのせいだろ」

吐き捨てるように賢治がそう言うが、神無月先輩は静かに首を横に振った。

「たしかに、彼らも原因の一つかもしれないが、一番の原因が他にある。それは――――」

「おや? 君たち、そんなところで何をしているんだい?」

唐突に投げかけられた声。

俺たちは揃ってその方向に視線を向けると、そこには3人の男たちが立っていた。

「…… 如月正也(きさらぎまさや) 」

忌々しげにそう呟く神無月先輩。

その様子だけで、俺は全てを悟った。

……この3人が、神無月先輩の言う一番の原因なのだろうと。

「そう睨まないでくれよ、神無月さん。せっかくの美人が台無しだよ?」

サラッと浮いたセリフを言ってのけるこの男は、如月正也。

神無月先輩と同じ三年生で、日本国民どころか世界ですら活躍していたアイドルグループのリーダーだ。

事実、如月先輩は、サラサラの茶髪に、甘いマスクで、数多くの女性を魅了し続けていた。

そして何より、前サッカー部キャプテンでもある。確か、さっきの話題に出た、青山にキャプテンを譲って退部した理由も、遊ぶ暇がなくなるからとか、ふざけた理由じゃなかったっけか?

「それで? 一体何のお話をしてたのかな? 僕たちも混ぜて欲しいなぁ」

「……貴様らには関係ない」

「うはっ! おっかねぇ~! ただ、その強気な女を屈服させるってのも、乙だけどなぁ」

神無月先輩に睨まれ、獰猛な笑みを浮かべるのは、 大山剛(おおやまつよし) 。

筋肉質な日焼けした茶色い肌に、赤色に染めた髪をソフトモヒカンにしている。

以前は、賢治と同じボクシング部だったはずだけど、この先輩も適当な理由で部活を辞めてたはずだ。

如月先輩と同じアイドルグループに所属しており、この野性味あふれる見た目が、とても女性受けがいいらしい。

そんな大山先輩の後ろから、ホストのような髪型をした男が現れる。

「剛、女性を怖がらせるもんじゃねぇぜ? ほら、すっかり怯えてるじゃねぇか」

如月先輩並のキザなセリフを吐くのは、 東郷蓮人(とうごうれんと) 。

長めの金髪を、鬱陶しいくらいに派手にセットしている。

顔は如月先輩たちと同じアイドルグループなだけあり、やはりイケメンだ。

それでも、女性交友に関しては、いい噂は聞かない。……いや、それは目の前の男たち全員か。

これらの男たちを前に、神無月先輩は冷ややかな視線をぶつける。

しかし、そんなことを気にした様子もなく、如月先輩は話しかけてくる。

「まあまあ、そう警戒しないでよ。純粋な興味として訊いてるんじゃないか。ほら、教えてくれないと……また、問題起こしちゃうよ?」

「っ!」

女子のグループで悪いと噂されるのが野島たちだとすれば、男子のグループで悪いと噂されるのは、間違いなくコイツらだろう。

そして、その傘下に誠一のクラスメイトである、青山も入っているはず。

野島たちは地球で悪い噂ばかりだったが、この学園に来てからも特に問題行動を起こしてないし、なにより話してみれば、噂なんか嘘に思える程度にいいヤツらである。

如月先輩のセリフに、苦い表情を浮かべた神無月先輩だったが、すぐに表情を戻すと、ハッキリと突きつけた。

「なら、話してやろう。この学園で、私たちが孤立しつつある原因についてだ」

「なぁんだ、そんなことか」

神無月先輩の言葉に、如月先輩はつまらなさそうな声を出した。

「んなの僕たちに決まってるじゃん」

そして、当たり前のように自分たちだと告げやがった。

「孤立しつつあるって言うけど、あのお爺ちゃん……ヘリオさんだっけ? あの人がこの腕輪を俺たちにつけることを条件にするほか、もう一つ条件だしてたじゃん」

「……何?」

「だーかーらー……勇者の力を見せつけて来いってさ」

「それは……」

確かに、それは言われていた。

でも、今俺たちが身に着けている腕輪を装着することほど守らなければいけないという条件でもなかったはずだ。まあ、この腕輪の意味もよく分かっていないんだが……。

「しかも、この学園の生徒どころか、この世界の基準では、魔法の属性が2つ使えるだけでもすごいって言うじゃん。それなのに、僕たちは4つ使えるんだよ? ほら、この時点で周りの連中と差が開いているワケ。授業の中で教わった魔法だって、俺たち勇者は少し練習すれば、大抵できるようになるしね」

「そーそー。模擬戦とか何度かしたけどよ……アイツらザコすぎじゃね? マジでウケたわ。この調子だと、魔王とかマジ余裕だろ」

「あと、ヘリオさんも言ってたじゃん。獣人とか亜人は下等生物だって。魔族の連中に至っては、魔王の配下だし、生きてる価値ねぇってさ」

「それでも……! お前らはやりすぎだ!」

賢治が、とうとう先輩たちの言葉にキレ、そう叫ぶ。

……最近、勇者たちはあからさまに周囲を見下す傾向が出てきて、地球では考えられないような強い力を手に入れたこともあり、苛烈な差別意識が芽生え始めていた。

先輩たちが直接何かをしている場面を見たわけじゃないが、青山たちが元から在籍していた生徒に暴力を振るっていた場面を見かけ、止めたこともある。

聞いた話だと、その力にモノを言わせて、女生徒に迫ったヤツまでいたらしい。幸い、ことには及ばなかったそうだが……。

賢治にキレられた先輩たちは、面白くなさそうな表情を浮かべる。

「は? 何言ってるの? 僕たちは勇者だよ? 何したっていいに決まってるじゃん。なんせ、世界を救うために戦うんだし」

「賢治ぃ……あんま調子乗ってると、潰すぞ?」

「マジ寒いわぁ……つか、その熱血ウゼェ」

「ああ!?」

まさに一触即発の雰囲気。

だが、その間に神無月先輩が割って入った。

「……もういい。賢治、翔太、行こう」

「いや、でも……!」

「いいから」

神無月先輩に強く言われ、渋々といった感じで、賢治は引き下がる。

そして、如月先輩たちの前を後にしようとしたその時、如月先輩は俺たちに聞こえるように言った。

「弱者が強者に従うのは自然の摂理でしょ? 地球の社会だって、そうやって他人を蹴落として、利用して、使い潰してきたわけだし。だから、僕ら強者はその特権を使ってるだけなんだよ。なぁんでそこんとこ分かんないかなぁ」

神無月先輩は、その声を無視して、俺たちと一緒に校舎の方へと歩いて行ったのだった。