軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

呪いと決意

一人訓練場に残された俺は、さっき手に入れたばかりのスキル『世界眼』を発動させた。

このスキルは、常時発動しているが、それはどうやら『心眼』の効果だけらしく、『索敵』の効果は意識して発動させるらしい。

スキルを発動させ、取りあえずこの王城から遠ざかって行こうとする存在を探した。

すると、王城内には、ルイエスさんたちを示すであろう気配が、まるで頭の中にあるレーダーのようなものに青い点で表示され、それとは逆に、すごい勢いで王城から遠ざかって行こうとする赤い点がレーダーに引っかかった。

スキル『索敵』のときは、ここまで詳細じゃなかったけど、どうやら俺にとって味方である存在は、スキルが勝手に判断して青色の点で表示し、俺にとって敵である存在は赤色の点で表示されるらしい。

おかげで、一瞬で敵と味方が判断できそうだ。でも、うーん……もう少し詳しい情報手に入れられないかな? 詳細に分かるってスキルの説明にあったんだし。

そんな風に思った瞬間、脳内の赤色の点の詳細な情報が表示された。

【オリガ・カルメリア】

出身:カイゼル帝国

種族:獣人

性別:女

職業:暗殺者

年齢:8

レベル:455

状態:隷属

異名: 黄昏の暗殺者(トワイライト・アサシン)

スリーサイズ:――――……

「アウトぉぉおおおおっ!」

俺は思わず表示された情報にツッコんだ。

プライバシーもクソもねぇな、このスキル! つか、冗談抜きで詳細すぎるデータが出てきたんですけど!? しかもスリーサイズまで!?

もちろん、スリーサイズ以降の部分は、俺は見ていない。俺の倫理観念がそれを阻止した。よくやった、俺。

攻撃力などが分からないのは、それは違うスキルで調べるしかないということだろうか? まあ、それでもこれだけ情報が出てくれば上出来すぎるんだけど。

それはともかく、ずいぶんとツッコミどころ満載なデータが出てきたな。

まず、出身がカイゼル帝国ってこと。これ、翔太たちを召喚した国だよな?

カイゼル帝国って、魔王討伐に一番乗り気だから勇者召喚を行ったんだろうし、そう考えると、魔族と共存したいっていう考えのこの国の王が邪魔になった……とかだろうか?

しかも、暗殺者は女性のようだ。その上、獣人であり、年齢はとても幼い。その割にレベルが400を超えているのもおかしい。

だが、俺はそんな情報より、もっと気になる項目に目を向けた。

「この隷属って状態……何なんだ?」

そう、その部分だけ、俺にはよく分からなかった。

あれか? 奴隷的な存在なのだろうか?

この世界に来て、奴隷のような存在を見ていないので、てっきりいないものだと思っていたんだけど……。

もし、これが本当に奴隷なんだとすれば、翔太たちの安否が気になる。

勇者アベルの日記の内容みたいに、使うだけ使われて、消されるなんてことをされるかもしれないからだ。

ただ、俺には奴隷という概念が未だにピンとこない。

地球でも、奴隷のように働かされるって表現があるけど、本当の意味で奴隷なわけじゃない。

召喚された勇者の誰かが流布した技術のせいで、地球に近い技術が広まりつつあると思っていたけど、やっぱり奴隷とかそういう存在がいるのであれば、遅れているとしか言いようがない。

それに、どうしても奴隷って言葉は地球出身の俺でも不愉快だ。

あれこれ考えているうちに、暗殺者は俺のいる訓練場をめがけてきている。

なので、自然と王城内につながる入口に視線を向けると、突然、すごい勢いで黒い影が飛び出してきた。

その影の姿を見て、思わず言葉をこぼす。

「うーん……本当に暗殺者っぽい見た目だな」

「っ!?」

飛び出してきた黒い影は、俺と似たような漆黒のローブを身に纏った、小柄な人型だった。顔は分からないけど。

この黒い影が、暗殺者で間違いないはずだ。

冷静に暗殺者を見つめていると、相手は俺の方を見て、驚愕していた。

「……な、なんで……私の姿が……!?」

「はい?」

何言ってんだろうか。見た感じ、『なぜ私の姿が見える!?』とでも言いたげな雰囲気である。

そんな雰囲気の相手に首を捻っていると、ローブ姿の女性は、何か懐から取り出し、俺めがけて投げつけてきた。

「っ!」

「えっ!? ちょっと!? いきなり攻撃!?」

もうね、嫌になっちゃう。

まあ、たしかに相手がこの国の王様を狙った以上、その人物の姿を見てしまった人間を、消すのは当たり前なのかもしれないけど。

それはさておき、相手はどうやら俺に向けて、投げナイフを2本放ってきたようだ。

ここは、普通に避けて、すごい手加減をしたうえで無力化するしかないだろうなぁ。本気で殴ると、相手が消し飛んじゃう。ホント、人間辞めてるって実感するなぁ……。

俺に向かってくるナイフを眺めつつ、そう考えていると――――。

「ッ!?」

「へ?」

俺の体が、ルイエスさんと戦闘したときと同じように、突然動き出したのだ。

そして、そんな俺の体は、俺めがけて飛んでくる2本のナイフを右掌で受け止めるように、人差し指と中指の間、中指と薬指の間で受け止め、そのまま間髪入れずに相手に投げ返したのだ。

「ちょっ!?」

魔物と戦い、倒してきた俺だが、人間や獣人と命のやり取りをする覚悟は、今の俺にはない。

同じ命であるはずなのに、どうしても魔物と人を同じに考えることができないでいる。

すごく甘い考えだって分かるけど、どうしても俺にはできそうになかった。

だからこそ、今の俺の行動に、俺自身がとてつもない恐怖を感じていた。ルイエスさんのときは、本当に訳も分からなかったので、怖いとかそんな感情が出る以前の問題だった。でも、今は違う。

恐らく、スキル『反射防衛』が発動したんだろうけど、それで暗殺者を殺してしまう……俺はそう思った。

だが、スキル『反射防衛』は、俺の想像以上に優秀だった。

「くっ……!」

俺の投げ返したナイフの速度は、とてもじゃないが、避けられるような速度じゃない。

だから、確実に暗殺者の体を貫くと思ったのだが……俺の放ったナイフは、暗殺者のローブを貫き、そして城壁に突き刺さった。

ナイフの速度と勢いのせいで、暗殺者はローブを引っ張られ、体を城壁に縫い付けられたのだ。普通なら、投げ返したナイフがローブを貫通して終了だと思うが、進化した俺の体は、相手の動きを封じるという神技を難なくやってのけやがった。喜んでいいのかね? これ。

でも、スキルの名前通り、防衛で済んでいるし、今回は良しとしよう。うん。

無理やり自分を納得させていると、縫い付けられていた暗殺者は、一気にローブを脱ぎ捨て、縫い付けられた状態から抜け出した。

「おおっ!」

そして、ローブを脱いだ暗殺者の本当の姿に、思わず声を出す。

「……」

何故なら、暗殺者は俺と同じ、黒髪だったのだ。しかも、頭には猫耳のようなものまで付いており、腰辺りからは、髪の毛の色と同じ黒色の尻尾が伸びている。

暗殺者は、そんな俺を油断なく睨みつけているため、俺も暗殺者をもう一度よく確認した。

黒髪のショートヘアに、猫のような金色の瞳。年齢通りの幼さで、とても可愛らしい。だが、半眼気味の目を今は睨むような形にしているので、せっかくの可愛さも半減である。

おそらく黒猫の獣人だろうと俺は思っている。黒色の猫耳だし、尻尾も黒いからな。

そして、そんな彼女の服装だが、まるで忍び装束のような、漆黒の服に身を包んでおり、首には同じような黒色の首輪らしきものが嵌められている。

この世界に忍者という概念があるのかは分からないが、暗殺者っぽい格好であるのは確かだ。

いやー……それにしても、俺と同じ黒髪がいて、スゲー安心した。攻撃されたけど。

彼女のおかげで、黒髪はそこまで意識する必要がないと分かったからな。

偶然確認できた事実に俺が満足していると、暗殺者はビックリするような速度で俺に迫ってきた。しかも、手にはナイフが握られている。

「――――っ!」

「また攻撃!? ちょっと落ち着こうぜ!?」

こんな可愛い子供が、ナイフで殺しにかかって来るとかどんなホラーだよ。

内心で盛大な舌打ちをしつつ、俺は避けようと足に力を込めた瞬間だった。

また、俺の体が勝手に動き始めたのだ。

「ちょっ! 待って!」

完全に、スキルに振り回されてるな。

俺は、自分の体を制御することもできず、迫りくるナイフを左手の指で挟んで受け止めると、そのまま右手で軽く彼女の頭を小突いた。

「ッッッッ!!??」

ただそれだけで、暗殺者の女の子は、目を回したようにふらつき、その場に崩れ落ちた。

「おっと」

俺は、地面に倒れる前に、暗殺者の女の子を抱きかかえた。

ははは……本当に軽く小突いただけで相手が気絶ですか、そうですか。この頬を伝う液体は決して涙ではありませんので。

アホなことを考えながら、俺の腕の中で気絶中の暗殺者の顔をもう一度確認する。

……うーん。こうして寝ている姿は、普通の子供となんら変わらないんだけどなぁ。

そんな子供が、普通にナイフを持って、人を殺そうとすることができるこの世界に、俺は無意識のうちに体を震わせた。

今までは、そんなこと意識しようとも思わなかったが、改めて異世界の恐ろしさを感じる。

魔物を倒しておいて言えることではないけれど、それでも命を奪うことが当たり前になってしまいそうになる自分が、とても怖かった。

これは、ぶっ飛んだステータスを手に入れるよりも、一番怖い。

相手が襲ってきたからって理由で倒していたけど、そんな考えに辿り着いていること自体が、すでに異常なのだと俺は今さら気付いた。

でも、この世界ではそれが当たり前で、そうしないと生き抜いていけない。

ここはもう……地球じゃないんだ。

頭で理解していても、心の方では、まだ理解するのは難しそうだ。

強張らせていた肩から力を抜き、ため息を吐く。

そうすることで、緊張していた体を解していると、再び城内の方から、慌ただしい気配が近づいてくるのを感じた。

その方向に視線を向けると、険しい表情をしたルイエスさんたちを含む、ワルキューレのみなさんが、この訓練場にやって来た。

ルイエスさんは、俺の姿を確認すると、足早に俺の方にやって来る。

「師匠。突然の事態で大変申し訳ないのですが、今回はお帰り願えないでしょうか?」

……師匠呼びは決定なのね。

「はい、別に大丈夫ですけど。……あ、ルイエスさん」

「ルイエスと呼んでください。敬語も不要です」

ルイエスさんの、有無を言わせぬ迫力に負け、俺はルイエスの言葉に従うことにした。

「あー……うん。それじゃあ、ルイエス。たぶん、王様を襲ったっていう犯人を捕まえたんだけど……」

「…………はい?」

俺の言葉に、ルイエスはたっぷり時間をかけ、そう訊き返してきた。

まあ、そりゃあそうだよな。王様を襲ったっていう暗殺者を、いきなり俺が捕まえたって言えば、誰だって驚くよなぁ……。

そんなことを思いつつ、自身が抱える暗殺者の女の子を見せる。

「ほら、この子。すごい勢いで王城内から飛び出してきて、俺に襲い掛かってきたからさ……」

……あれ? 何でだろう。スゲェ言い訳がましく聞こえる。

だが、そんな俺をよそに、ルイエスは俺の抱える暗殺者の女の子を見ると、驚きで目を見開いた。

そして、しばらくの間、観察するような視線を女の子に向けている。その瞬間、俺の目には、一瞬ルイエスの目が光ったように見えた。

そんななかで、ルイエスの暗殺者の女の子に向けるその視線に、俺は覚えがあった。

それは、まだこの世界に転移する前に、教室で大木が勝手に俺のステータスをスキル『鑑定』を使用して、調べてきたときと同じだったからだ。

一瞬ルイエスの目が光ったように見えたのも、俺のスキル『千里眼』が発動したことで、ルイエスがスキルを使用したことが俺の目に見える形で現れたのだろう。

どうやら、暗殺者の女の子のステータスやらを調べているらしい。つか、ルイエスってスキル使えないんじゃなかったっけ? それとも、攻撃系のスキル限定なんだろうか? どちらにせよ、スキルなしで斬撃飛ばす時点で普通じゃねぇけどなっ!

「この子どもは……ローナ」

「はいっ! 何でしょうか」

険しい表情を浮かべるルイエスは、近くにいたローナさんに呼びかける。

「彼女の尋問、お願いします」

「了解しました!」

一言そう頼むと、暗殺者の女の子をローナさんに渡した。

女の子を受け取ったローナさんは、そのままどこかへ行ってしまう。

それにしても……尋問? ローナさんに任せて大丈夫なの?

とても失礼なことを思いながら、首を捻っていると、クラウディアさんが俺に近づいてきた。

「ローナに任せれば、大丈夫だよ。あの女の子にも、悪いことはしないさ」

「いえ、そこは特に心配していないんですけど……ローナさんに尋問を任せて大丈夫なんでしょうか? あ、いや、信用していないというわけではなくて……」

思わず言い訳じみた言葉になる俺に、クラウディアさんは苦笑いを浮かべる。

「ははは。言いたいことは分かるよ。でも、彼女はこの国で一番の尋問官だからね」

「本当ですか!?」

「しかも、ギルドのエリス嬢が開いている、『SM講座』を上級編まで完璧にマスターしているからね」

「ここでまさかのエリスさん!?」

あのどこに需要があるか分からない講座を受けている人いたのかよ! しかも上級編まで完璧ってスゲー無駄だな!?

もしかして、ガッスルの筋肉を効率よくつける方法を習いに行くヤツもいるんだろうか? ……ヤバい、否定できない。

需要がないと思っていた講座が、意外なところで活躍している事実に、俺は戦慄した。

「それはともかく、誠一君。君には悪いけど、今回は帰ってもらわなければいけなくなったんだ」

「それは、ルイエスも言ってたな」

「はい。すみません、師匠。こちらがお呼びしたのに……」

「いや、別にそれはいいんだけどよ……王様は大丈夫なのか?」

そう訊いてみると、二人とも同時に険しい表情を浮かべた。

「……魔法師団の兵士たちが回復魔法をかけたため、一命はとりとめました。ですが……」

「?」

言葉の続かないルイエスに、首を捻ると、続きをクラウディアさんが引き継いだ。

「……陛下の目が、覚めないんだよ」

「え?」

目が覚めない? 今、ルイエスは回復魔法で一命はとりとめたって言ってたけど……体力的な問題でだろうか?

そう推測してみたが、それは違った。

「誠一君は、すでに陛下が襲われたことを知っているから、言ってしまうが……まずは今回のこと、黙っててくれるかい?」

「え、ええ。初めから誰かに言うつもりはなかったですけど……」

「なら、教えよう。陛下を襲った、先ほどの暗殺者だが……どうやら、そのときの凶器が『呪具』だったんだよ」

「じゅぐ?」

聞き慣れない単語に、首を傾げると、ルイエスが教えてくれた。

「師匠。呪具というのは、その名の通り、呪いや悪霊などが憑りついた、人に害を与える道具や武器のことを指します。悪霊などが憑いた呪具の中には、持ち主などを簡単に死に至らしめるモノまであるのですが……今回は、『悠久の眠り』という呪いがかけられた、ナイフが使用されたようなのです」

「悠久の眠り……」

呪い、か……そういえば、アルも『災厄を背負う者』っていう呪いがかかってたせいで、ステータスの運がマイナスになってたんだよな。

そして、アルが言うには、その呪いを解く手段はなかった。

つまり――――。

「……陛下は、もう二度と目を覚まさないかもしれない」

「……」

色々な感情を押しつぶしたような声で、クラウディアさんはそう言った。

「……不幸中の幸いだったのが、第一王子ロベルト殿下、第二王子ジオニス殿下、そして第一王女のラティス様のすべてが、学園におられるため、狙われなかったことだろうね」

クラウディアさんはそういうが、全然幸いだとは思っているように見えず、暗い表情のままだ。

ルイエスも、王様を護れなかったためか、すごく沈んだ表情を浮かべている。

……何か、俺にできることはないだろうか……。

目立つ、目立たないとかの問題じゃないと思う。

この国のことを、俺は純粋に凄いと思うし、短い間とはいえ、とても好きになった。

今の国王がいい政治をしているのか、それとも前の国王がいい政治をしたのかは分からない。

それでも、笑顔がいっぱいのこの国が、とても輝いて見えていた。

それなのに、クラウディアさんもルイエスも、沈んだ表情を浮かべている。

さっきまで、楽しい雰囲気だったのに、それが一瞬で崩されたのだ。

そんな理不尽に、俺は耐えられない。

だから、俺はできるなら、力を貸してあげたいと思った。

地球では、助けられてばっかりで、俺が誰かを助けることなんてできなかった。

でも、今はそれができるだけの力があるはずだ。いや、絶対にある。

俺は、何か呪いを解くための魔法がないか、頭の中で覚えた魔法の全ての効果を思い出していた。

だが、どれだけ探しても、呪いを解く魔法はない。

……やっぱり、ダメなんだろうか?

そう思ったときだった。

一つだけ、方法があることに気付いた。

その方法とは――――。

「……無ければ、創ればいい」

「え?」

小さく呟いた、どこぞの王妃様のような俺の言葉に、クラウディアさんとルイエスは首を傾げる。

そうだよ……こういうときこそ、俺のふざけたステータスを発揮するときじゃねぇか。

スキルに振り回されて、魔法すらちゃんと理解できていない俺。

今までは、強大な力から目を背けて、現実逃避をしていた。

手に入れるだけ手に入れて、嘆き続けていた。

だから、今度はちゃんと向き合おうと思う。

俺のスキル……『魔法創造』。

これが、俺の力と向き合う最初の一歩で、初めて自分で生み出す魔法になる。

俺は、強い意志の籠った目で、二人に視線を向け――――。

「俺を、王様のところへ連れてってください」

――――そう告げたのだった。