軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

意外な展開

『私はあの施設で生まれたので、今回が初めての外なのですが……ずいぶんと賑やかなのですね』

「そうだなぁ」

俺は、ルルネを引き連れ、街中を歩いていた。

こうしてルルネというロバだが、一応馬を手に入れたことになるので、この後は特に何かするわけもなく、サリアたちが帰ってくるまではブラブラと街を散歩しようと思ったのだ。

それにしても……これから俺はどうしようか?

ギルドへ入った理由は、賢治たちの情報を手に入れやすいと思ったからなんだが、どうも賢治たちはどこかの学園に通い始めたらしい。

俺としては、まずは賢治たちに合流したいと思っている。

学園の名前を忘れたが、勇者が通い始めた学園ということで、情報も多いだろうし、人に訊けばすぐにでも情報は集まるだろう。

問題は、そのあとだろう。

勇者召喚されたわけでない俺は、魔王を討伐する必要がない。

しかも、黒龍神の過去を見た俺からすれば、どう頑張っても魔王が悪い奴には思えないのだ。

それに、賢治たちは仮に魔王を討伐できたとして、そのあとをどう過ごすつもりなんだ?

【果てなき悲愛の森】で見た、『勇者アベルの日記』や、ゼアノスのように、利用されるだけされて、殺されるんじゃないか?

この世界に送り込んだ張本人である神が言うには、俺たちの関する記憶は全世界から抹消されているらしい。

だから、たとえ地球に無事に帰れたとしても、もう俺たちの居場所はないのだ。

だが、ここは異世界だ。

記憶を取り戻す魔法もあるかもしれないし、それが無理でも、記憶を失う前に時間を戻す魔法があるかもしれない。人を生き返らせる魔法やアイテムがあるくらいなんだ。それくらい存在してもおかしくないと俺は思う。

もし、この世界で身に着けた力をそのまま持って、地球に帰還できたとすれば……。

全員は無理でも、一部の人間には、思い出してもらえるかもしれない。それこそ、両親だけとかな。

ただ、俺はこの世界に残りたいと思っている。

サリアとアルの、大切な二人ができたからだ。

両親はもういないし、地球ではいい思い出がなかったのも確かだが、それでも俺が生まれた世界という意味では、地球から離れるというのは、寂しい気もする。

それでも、俺は俺のことを必要としてくれる、二人から離れたくない。

俺の手で、守りたい。

……まあ、こんな気持ち、恥ずかしくて人には絶対に言えないけどな。

とにかく、目先の目標としては、賢治たちに合流することだろう。そのあとのことは、合流してから考えるとしよう。

そんな楽観的思考をしながら歩いていると、突然ルルネがしみじみとした様子で言う。

『……主様と出会わなければ、私は一生あの檻の中だったのでしょうね』

「いやいやいや。ルルネがもっと買ってくれる相手を妥協してたら、簡単に出られたと思うぞ」

無駄すぎる脳筋の考え方だったしな。何だよ、自分より強い存在に従うって。本当にロバ?

「まあそんなことより、俺はロバ語や馬語があったことに驚きだよ……」

ルルネや馬竜のように、俺たち人間が動物の言葉を理解できないだけで、普段からこんな風に動物同士で普通に会話しているんだとすれば、動物たちはそれぞれ独自の言語を持っていることになるだろう。

……じゃあ『サリア』や『ルルネ』って名前に、意味でも込められているんだろうか? その種族独自の言葉で……。

そんなことをふと思うと、ルルネはどこか誇らしげに言う。

『主様。私の名前は、ロバの英雄――――【ルルネリオン】からとったと母から聞きました。生涯、たった一人の主を決め、その方のためだけに走るロバ……私も、かくありたいと常々思っております』

「もうついてけねぇよ!」

なんだよ、ロバの英雄って! しかも、やっぱり名前に意味あったよ!

少ししか会話をしていないというのに、俺の精神力はどんどん削られていく。

これがツッコミ疲れってやつなんだろうか……。

いろいろと疲弊する俺だが、ルルネの言うロバの英雄という存在がいるように、他の動物にも語り継がれるような英雄がいるんだとすれば、ちょっと話を聞いてみたいなと思ってしまった。

非常にどうでもいいことを考えながら歩いていると、街のいたるところで見かける、露店から漂ういい匂いにお腹が減ってきた。

「ん~……腹減ったな。ルルネ、お前も何か食べるか?」

『私にも買っていただけるのですか!? ロバなのに!?』

「今さら過ぎるっ!」

散々ロバらしくない行動をしてきたくせに、急にロバだということを主張されても困るんですけど。

まあ、それは置いておくとして、ルルネの見ている目の前で食べるのは罪悪感があるしな。

俺は近くの露店で売られていた【爆弾】を二つ買い、ルルネに渡しに向かった。

この食べ物を買った理由? 名前に凄く惹かれた。何せ爆弾なんだぜ? 物騒すぎて逆に興味が出た。

それに、買った後で気づいたのだが、ロバって草食動物だっけ?

まあ……大丈夫でしょう!

考えるのが面倒になった俺は、そのままルルネに爆弾を渡す。

『主様。これは一体?』

「爆弾って名前の食べ物らしい。俺も食ったことないけど、意外と人が並んでたし、人気なんじゃねぇか?」

そう言いながら、俺は爆弾の一つを手に取る。

爆弾は、何の変哲もない真っ白なまんじゅうのような食べ物で、食べやすい一口サイズだった。

一瞬ためらってしまうが、意を決して爆弾を口に放り込む。……これ、文字にするとスゲー危ない奴だな。

「んむっ!?」

その瞬間、俺の口の中で、爆弾が爆発した。

だが、その爆発は決して危ないものではない。

爆弾の中からあふれ出てきたのは、ボリューミーな肉と、それから溢れ出す肉汁。

そして、何の出汁かは分からないが、肉汁以外にも濃厚なスープのようなものが口の中を満たした。

噛めば噛むほど、肉に肉汁と出汁の混ざった汁が染み込み、肉がどんどん口の中で膨張していくのだ。

これは、地球に存在しない何らかの魔物の肉を使っているんだろう。噛んで肉と汁を絡ませるたびに膨張する肉なんて俺は知らないからな。

口からこぼれそうになるほどの汁を、どうやってあの一口サイズのまんじゅうの中に収めていたんだろうか? それも、外に汁を染み出させることなく。

まあ、それが分かったら商売にならないもんな。

あれこれ考えていると、膨れ上がっていた肉が、汁と絡み合って柔らかくなりながらほぐれた。そして、そのまま飲み込む。

「あー、美味かった」

食い終わった俺は、満足していた。

美味しいものを食べた後って、不思議と気分がよくなるよな。

そんなことを思いつつ、ふとルルネの様子が気になった俺は、ルルネの方を見る。

「ルルネ。どうだっ――――」

『あ、主様! 凄いです! 今まで食べてきた牧草が本当に雑草に思えるくらい美味しいですよ!』

「そ、そうか」

ルルネは、どうやらこの爆弾を気に入ったらしい。

つか、ロバがそれでいいのか……?

「そんなに気に入ったのなら、もう何個か買ってやろうか?」

『ほ、本当ですか!? ならお願いします!』

こうして俺は、ルルネのために、もう一度爆弾を買いに向かうのだった。

……やっぱり文字にして考えると、凄く物騒な文章だよな。

◆◇◆

『主様! 今度はあれ、あれを食べましょう!』

「ルルネさん?」

『ああ、でもあっちの食べ物も捨てがたい……』

「おーい、ルルネさんや?」

『主様、私はどうすればいいんでしょうか!?』

「うん、まずは俺の話を聞こうか!」

ルルネが爆弾を食べてから、すっかり人間の食べ物に魅入ってしまったらしく、俺たちはこうして街中の露店をさっきから練り歩いていた。

俺はすでに、腹も膨れて食べ物を欲しいとは思わないんだが、ルルネは食欲が減るどころか、増している気がする。

しかも、俺がロバであるルルネにツッコんだりしているので、周囲の人間は俺のことを訝しげに見てくるのだ。まあ、ロバと会話する人間なんて、周りから見たら変人以外何ものでもないのは確かだな。

ルルネの食欲は凄いし、周りから変な目で見られるし……俺のステータスの運、どこで落としたんだろうか?

そんなことを思いながら歩いていたときだった。

「ん? あれは……」

ふと、視界に一組の男女の姿が目に入る。よく見れば、周囲には野次馬らしき人間たちも集まっていた。

男の方は記憶にないが、女の子の方は、ハッキリと覚えている。

「あれって、俺が絵を買った女の子だよな?」

そう、俺がこの街の絵を買った相手でもある、女の子だったのだ。

……見た感じ、何かを言い合ってるように見えるな。

「ルルネ、ちょっといいか?」

『ああ、あの爆弾という食べ物も美味だったが、こちらのクレープというデザートもまた……』

ダメだコイツ。放置して行こう。

道のど真ん中でトリップを始めるルルネを放置し、そのまま女の子の元へ向かった。道行く人が、ルルネを見ては変な目で見るが、俺は関係ありません。

女の子たちに近づくにつれて、会話の内容が聞こえてくる。

「芸術家とは、もっと独創的で、多くの凡人たちの想像を超えるモノでなければいけないのだ! その点、君の絵には華がなく、どれもありふれたものでつまらない!」

「わ、私は、自由に絵を描いているだけです! アナタにどうこう言われる筋合いはありません!」

「もったいないっ! その画力があれば、もっと素晴らしい絵が描けるはずだろう!?」

「……えっと、アナタは私の絵をバカにしたいんですか? 褒めたいんですか?」

「分からんっ!」

「……えぇ……」

……漫才をやっているのか? 初めはなんだか言い合いでもしてるかと思ったんだが……。

二人の会話の内容に、俺は思わずそう思ってしまう。

周囲の人間も、喧嘩沙汰になりそうにないと思ったのか、安心した様子で皆離れていった。……全員心配してたんだな。

だいぶ近くまで来て、俺が二人のやり取りに困惑していると、女の子が俺に気づいた。

「あ、アナタは!」

「ん? 君は……」

男も、女の子が俺に気づいたことで、俺の方に視線を向けてくる。

よく見てみると、男の格好は無駄に豪華で、少しくせ毛の茶髪とこげ茶色の瞳を持った、イケメンだった。年齢的には、俺より少し年下かもしれない。

そんな分析をしていると、女の子が俺の方に駆け寄ってくる。

「あの時はどうもありがとうございました! 全然売れなくて、もう売るのを止めようかなって考えていたときでしたから、買っていただいた時は本当に励みになりました!」

「そんな大層なことをしたつもりはないんだけど……でも、本当にいい絵だったからね。こっちこそ、ありがとう」

生きている中で、感動できる絵と巡り合える確率の方が少ないんだから、俺はそういった意味では、本当にステータスの運は高いのだろう。

女の子とそんな会話をしていると、男が口を開く。

「……君たちの会話を聞いていたけれど、君は彼女の絵を買ったのかな?」

「え? ああ。いい絵だったのでな」

「それじゃあ、僕の絵は買ったかい?」

「いいや、買ってないな」

俺がそう答えると、男は目を見開く。

「ば、馬鹿な!? この僕の絵を買っていないだと!?」

「いや、そんなに驚かれても……そもそも君を俺は知らないし……」

素直にそう答えると、男はフッと笑いながら髪をかき上げた。イケメンだからか、様になっている。

「僕を知らないことにも驚きだが……これも何かの縁だ、自己紹介をさせてもらおう。僕はクレイ・ベルガー。ベルガー侯爵家の長男にして、芸術の申し子! 見知りおき願うよ」

「私はメイ・チェリーです。えっと……私の絵を買ってくださり、本当にありがとうございました!」

妙な決めポーズをとりながら自己紹介をするクレイと、丁寧に頭を下げてくるメイの二人は、いろいろな意味で対照的だった。

メイに至っては、頭を下げたときに、犬耳がぴくぴくと動いていて、可愛らしい。

「俺は誠一。まあ、そっちのメイの絵を買ったわけだが、クレイの絵は知らないんだ。悪いな」

「ふむ……名前から察するに、東の国出身みたいだね?」

また東の国が出てきたよ。まあ、都合がいいからいいけど。

「ま、そんなところだな」

適当にそう返事をすると、クレイは一つ頷いた。

「いいだろう……誠一、君には特別に僕の絵を一枚、あげようじゃないか!」

「え、いや、別に欲しくは……」

「さあ、遠慮せずに持って行きたまえ!」

俺の言葉などガン無視で、クレイは一枚の絵を強引に渡してくる。

仕方なくその絵を受け取ると、そこに描かれていたものに、俺は絶句してしまった。

……なんだこれ。妙な既視感があるんだが……。

「一応聞くけどよ……これ、何?」

クレイから貰った絵は、ただの三角形が大きなキャンパスにデカく描かれているだけだった。

色も何もついていない、ただの三角形である。

俺の貰った絵を、メイも覗き込んで頬を引きつらせている。

「見て分からないかい? この絵はだね、『夕焼けの中、浜辺で夕日を見つめ、彼を想う乙女の絵』が描かれているのだよ!」

「そうは見えねぇよ!?」

どっからどう見てもただの三角形だろ!? まだおでんのはんぺんを描いたっていう方が納得できるぞ!?

それに、なんだか見たことがある気がする画風だと思えば……メイの絵を買ったとき、広場でやけに売れていた絵とほとんど変わらねぇじゃねぇか! あのときも、何が描かれてたのか俺には分からなかったしな!?

「私、こんな絵に負けてるんだ……」

隣でメイが、残酷な現実に打ちひしがれてる……!

ま、まあ、メイの絵も確かに上手いし、俺は感動したが、ありふれているといえば、ありふれているわけでもあるし……。

メイの呟きが聞こえたのか、クレイは唐突に訊いてくる。

「メイ、君は絵を描き始めてどれくらいかな?」

「え? えっと……1年くらいです」

1年であの画力だとすれば、俺は十分凄いと思うけどな。

だが、メイの言葉を受け、クレイは高笑いを始めた。

「ははははは! なら、僕に負けても仕方がないね! 君は素人なわけだ。確かに、君の絵の才能は目を見張るものがある。だがしかし! 僕はそれを超える天才なんだよ!」

「んじゃあ、クレイは絵を描き始めてどれくらいなんだ?」

「3ヶ月!」

「お前の方がド素人じゃねぇか!」

でも確かにスゲェ! 3ヶ月に売れる絵を描けるんだろ? 認めたくないけど天才だ……!

そんなことを思っていると、俺のツッコミが不満だったのか、クレイは眉をしかめる。

「誠一……さっきから僕のことを馬鹿にしたような言葉が多いが……君は絵が描けるのかい?」

「うん、まあクレイと同じような絵なら確実に描けると思うぞ」

俺の知る、有名な人が描いた、見た感じ描けそうな絵は、まず素人が描けるようなものじゃないことは分かっている。

でも、クレイの絵だけは、俺でも描けるような気がしてならないのだ。

すると、クレイは突然一枚の紙と、筆を俺に渡してきた。

「そこまで言うのなら、君の絵を見せてもらおうじゃないか! さあ、描いてみたまえ!」

「えぇ……」

面倒くさいと思いながらも、このままでは確かに口先だけになってしまうので、仕方なく紙と筆を受け取り、絵を描く。

まあ、絵を描くといっても、クレイの絵を少し変えて、四角形を描いただけなんだがな。

「ほら、できたぞ」

俺から絵を受け取ったクレイは、その絵を真剣な表情で見る。その後ろで、メイも覗き込んで見ていたが、描かれていたものが四角形であることを確認して、苦笑いに変わった。

だが、クレイだけは違ったようだ。

「や、やるじゃないか……」

「ウソだろ!?」

自分でも思うが、これは酷いと思うぞ!? だって四角形なんだぜ? 色も何もついてないしさ! それどころか、定規で線を引いたわけでもないから、線もグダグダなんだよ!?

「誠一……僕の弟子にならないかい?」

「ヤメロっ! これ以上俺のHPを削るんじゃねぇ!」

適当に描いた絵が、ここまで評価されると思わなかっよ! だからこそ、恥ずかしいじゃねぇか!

思わず赤面する顔を手で覆っていると、クレイは一つ咳をする。

「コホン。ま、まあ……僕の絵を評価するだけのことはあるみたいだね。悔しいけど、君にも才能があるみたいだ」

「……もうやめてくれ……」

「それでも! 今度行われる【キャラスティ絵画大会】で優勝するのは僕だ! メイ、誠一。君たちは確かに凄いが、それでも天才は僕なんだよ!」

「キャラスティ……」

「絵画大会?」

メイもクレイの言葉に出てきたその単語を知らないらしく、俺と一緒に首を捻っていた。

すると、クレイはそんな俺たちの様子を見て、驚く。

「おや? 君たちは知らないのかい? 今度この王都で行われるレース、【王都カップ】があるだろう? そのあとに開催される、このウィンブルグ王国最大の絵画大会のことさ。ウィンブルグ王国で開催されるが、優勝すれば、画家として名が世界中に売れるほど、強い影響のある大会なんだよ。世界中から、僕に迫る天才画家がこの大会に参加するためだけに集まるんだよ。画家であれば、一度でもいいから、出場してみたいと思う、夢の舞台というわけさ」

「なるほど……」

「誠一は、画家ではないようだから関係ない話かもしれないが……メイ、君は参加しないのかい?」

「……そんな凄い大会、素人同然の私が参加できると思えませんし……」

「経歴なんかは気にする必要はないよ。参加条件は特にないからね。本当に実力さえあれば、だれでも参加できる大会なんだ」

そうだろうな。メイより素人のクレイが参加しようとしてるくらいだからな。

勝手に納得し、頷いていると、クレイは俺に訊く。

「これは僕の推測なんだが、誠一は僕が参加するキャラスティ絵画大会の前にある、王都カップに出場するつもりなんじゃないかい? あの画力は惜しいとは思うが、君はその身なりから察するに、冒険者だろう?」

「あー……確かに冒険者だけど、その王都カップとやらに参加する予定はないかな」

俺がそう答えると、意外そうな表情をクレイは浮かべた。

「そうなのかい? 優勝賞品は毎年豪華だし、2位や3位でも、冒険者であれば誰もが欲しがるような武器やアイテムが手に入るから、てっきり参加するものだと思ってたんだがね」

「へぇ……まあでも、武器は今のところ欲しいと思わないからな」

「そうか……ああ、そう言えば……もう10位から5位までの賞品の内容は開示されていたんだったね。知ってるかい?」

「いや、知らないな」

「私も知りません」

メイも俺も素直に知らないことを告げると、クレイは一つ頷いて教えてくれる。アドリアーナさんもそうだけど、クレイも親切な奴だよな。貴族って、なんか無条件で他人を見下しそうなイメージがあったけど。

「10位から6位までは、それこそ冒険者に必須の良質な回復薬や、入手困難な【仙薬】という体力・魔力・傷がある程度回復する、購入しようと思えば、それこそ莫大な金額になるアイテムが貰えるんだが……5位の賞品は、なんと幻の巨大魚……【バハムート】が手に入るらしい」

「ぶっ!?」

ば、バハムート!? 詳しくは知らんけど、それって賞品にできるほど簡単に手に入るものなのか!?

地球でも名前が存在するくらい有名な化物だろ!? もしかして、地球のバハムートと、この世界のバハムートはモノが違うんだろうか?

いや、確かにクレイは幻の巨大魚って言ってたし……だとすれば、4位以上の賞品って何!? 欲しいとは思わないけど、優勝賞品が何なのか気になるじゃねぇか!

しかも、6位とかで貰えるっている【仙薬】とやらも十分スゲェ効果だけどな!?

たかだか馬のレースと侮っていた俺だが、手に入る賞品のレベルに驚く。

すると、同じように驚いていたメイが、クレイに疑問をぶつけた。

「えっと……そのバハムートってどうやって手に入れたんですか? 私の知る限りでは、Aランク冒険者でも危険と言われてるような魔物だったと思うんですけど……」

「詳しいことは知らないが、この国の王が他国に会談へ向かった際、たまたま立ち寄った巨大な湖で泳いでいたのを発見し、この国の誇る二大騎士の一人、≪ 剣騎士(ナイト・オブ・ソード) ≫のルイエス様が討伐されたらしい。それも一瞬で」

「なんかよく分からんけどスゲー」

ガッスルも言ってたけど、この国にいる二大騎士とやらは相当チートな存在らしい。俺? 俺は人間という名の化物だろ。涙が出るけど気にしない。

「まあとにかく、そのバハムートが貰えるというわけさ」

「いや、それ貰ったとしても困るよね?」

巨大魚貰ってどうするの? 飼うの?

そんな俺の想像とは違う回答をクレイは言った。

「何を言っているんだい? 食べるんだよ」

「あ、食うんだ!」

その発想はなかった……!

名前なら俺でも知ってる化物を俺は食べるという選択肢を持っていなかった。それこそ、それだけ凄い魔物なら、飼う方が自然なんじゃねぇかとも思ってたくらいだしな。観賞魚のアロワナみたいに。……あれも食えるんだろうか?

ふとそんなくだらないことを気になりだした俺をよそに、クレイは目を閉じて何かを思い出すように語る。

「僕も一度だけバハムートを食べたことがあったが……あれは芸術の域にまで達する味だったよ。正直、あれ以上に美味しい魚を僕は食べたことがない」

へぇ……貴族であるクレイが言うんだから、相当美味しいんだろう。貴族って普段から美味しいものをいっぱい食べてそうだしな。ちょっと食べてみたいかも。

そう思った瞬間だった。

『主様、食べましょう! バハムート!』

「うおっ!? いつの間に!?」

今まで放置していたはずのルルネが、気づかぬうちに俺の背後に回り、そう詰め寄ってきていた。

「ん? 誠一、そのロバは?」

「え? あ、ああ。コイツはルルネ。今日買ったばかりだが、これから一緒に旅する仲間かな?」

「へぇ! ルルネちゃんですか。ロバっていう割には、とても凛々しい顔だちをしてますね!」

獣人であるメイは、ルルネに興味があるらしく、近づいて撫でる。

初めは魔物販売店のバルザスみたいに蹴られるんじゃないかと心配だったが、どうやら女性は大丈夫なようだ。

それはどうでもいいのだが、ルルネのさっきの言葉が気になった俺は、クレイやメイにばれないように小声で訊く。

「ルルネ。バハムートが食べたいって言ったか?」

『はい! そんな美味なる食材なのであれば、食べずにはいられないでしょう!』

「いや、俺も食べたいとは思うけど……」

『それに、私と主様の初めての共同作業ではないですか! それにふさわしい内容だと私は思いますよ?』

「うん、共同作業って言葉はなんか違くね?」

そんなツッコミをしつつも、俺もバハムートの味に興味が出たのも事実なので、ちょっと参加してみようと思った。

「クレイ。そのバハムートってのがどんな味なのか気になるし、参加してみようと思う」

「そうかい? よく分からないけど、それなら登録を急いだ方がいいんじゃないかい? そのロバを買った魔物販売店に行けば、登録ができると思うが、登録締め切りは今日だったと思うぞ」

「そうかなのか? なら急いで登録しに戻るか……」

「ただ、ロバだと5位は難しいと思うがね……」

苦笑い気味にクレイはそういう。

だが、それに反して、ルルネは俺にだけ分かる言葉で、自信満々に言い放った。

『フン! この男は私の実力を知らないからそう言えるのだ。主様、安心してください! このルルネ、足には自信があります。決して他の駄馬に後れを取ることはありません!』

「とりあえず、ロバのセリフじゃねぇな」

「まあ誠一は絵画大会に参加せず、王都カップに参加することは分かった。それで? メイ。君はどうするんだい?」

クレイに訊かれたメイは、自信なさそうに言う。

「私なんかが参加しても、結果は目に見えてます。クレイさんは、私と違って天才なのでしょうから、優勝できるかもしれませんが……」

「僕が天才という点は否定しないが、君は自分を過小評価しすぎだと思うがね。それに、無謀にもロバで王都カップに挑もうとしている人間がいるんだ。参加してみることにも意味があるのではないかね?」

「おいコラ」

無謀って何だ、無謀って。勇気ある挑戦だ。そこ間違えんなよ。

クレイの励ましとも取れる言葉を受けても、メイの表情は暗い。

「それでも……」

まあ、確かに広場で絵を売ってて、あれだけ売れなければ自信も喪失するよな。

好きで描いているんであっても、それを売って誰も買ってくれないのなら、それは評価されてないのと同じでもあるわけだし。

俯くメイを見て、クレイはため息を吐いた。

「まあ、君が参加しないというのであれば、それも一つの選択だとは思うがね。それだけ僕のライバルが減るんだ。まあ、優勝するのは僕だけど!」

お前のその自信はどこから来るんだろう。俺と同レベルの絵を描くくせに。

クレイの言葉に呆れつつ、俯くメイに俺は言う。

「メイが自分の絵をどう思ってるのかは分からないけど、俺は好きだぞ。だから買ったわけだし、もっと評価されてもいいと思う。だから、そんな凄い機会があるんなら、挑戦してみるのも一つの手じゃないか?」

「……それは、分かってるんですけど……」

「やっぱり自信が出ないか……」

俺の問いかけに、メイは小さく頷く。

絵を買ったときも思ったけど、自己主張や気の弱そうな女の子ではあるよな。それが性格なんだから、仕方がないと言えば仕方がないんだろうけど。

ただ、本当にメイの絵が好きな俺としては自分に自信を持ってほしい。

どうすればいいんだろうか……。

メイに自信を持たせる方法で悩んでいると、俺はふと妙案を思いつく。

「そうだ! クレイ、そのキャラスティ絵画大会ってのは登録がいつまでなんだ?」

「ん? 王都カップが終了して1週間後くらいだな。今まで描いてきた絵でもいいし、新しく描く絵でもいい。登録期間終了して1ヵ月後に、大会が始まるんだ」

「なら大丈夫だな。メイ、俺は王都カップで目当てのバハムートを絶対に手に入れる」

「え?」

「さっきクレイも言ってたが、ハッキリ言ってロバで5位入賞とか不可能だろう。そんな状況で仮に5位入賞できたとすれば、凄いと思わないか?」

「それは凄いですね」

「だからこそ、俺は絶対に5位入賞を果たしてやる。そうすれば、メイも自信が出るんじゃないか?」

「あ……」

メイは、もともと完成度の高い絵を描けるのに、自信がないだけなんだ。

なら、不可能だと思えるようなことを、俺がやってのければ、メイだって自信が出るんじゃないか? と思っての提案だった。

少しでもメイの背中を押せればいいと思っての提案なのだ。ちょっとでもいいから、自分に自信を持ってほしい。

そう思っていると、クレイはフッとほほ笑む。

「それは面白い。メイ、僕も大会で君の絵を見たい。君が求める、自由に描いた絵を。君の絵が決してつまらないものではないことを、僕に証明して見せたまえ!」

「クレイさん……」

よく分からないが、クレイはなんだかんだ言ってメイの絵を認めているんだな。クレイの絵は独創的過ぎてついていけないけど。

クレイや俺の言葉に背中を押されたメイは、しばらくの間顔を俯かせていたが、やがて決意した表情を見せる。

「……分かりました。どこまでできるか分からないですけど……私も挑戦してみます!」

「そうか! それでこそ、僕の認めた画家だ!」

『主様、よく分からないですが、絶対にバハムートを手に入れましょう!』

クレイとメイは、お互いに画家として高めあうキッカケができ、ルルネは未知の美味なる魚、バハムートを手に入れるという目標ができた。

この後、クレイもメイも、大会に向けて絵を描くといい、それぞれ帰っていくのを見送り、俺とルルネも魔物販売店まで戻り、王都カップの登録を行った。

その際、驚いた表情を浮かべ、次にルルネで5位入賞は無理だと笑ったバルザスを、腹を立てたルルネが蹴り飛ばしたのはまた別の話だろう。

そして、王都カップが明日だなんていう急展開であったことも、些細なこと……じゃねぇな。

……俺、無事に入賞できるだろうか? と、途端に不安になる俺だった。