軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

勇者救出

ザキアさんと一緒に勇者たちの場所に向かうことになったわけだが、まず最初に勇者の中でも最初から監禁されているはずの先生たちのいる場所に向かった。

「それで、先生たち……大人の勇者はどこに監禁してたんですか?」

「彼らは大人ということもあり、なるべく情報を与えるなと指示を受けていてな。すぐに城の地下にある牢屋に入れられたのだ」

「うわぁ……」

どうやら先生方はこの城の地下牢で常に監禁されていたらしい。軽く想像するだけで、思わず声が出てしまった。

そ、その……俺が何だかんだ異世界を満喫していた間、先生方は大変だったみたいだなぁ。

地下牢に向かうからには当然地下に続く階段を下りるわけだが、どんどん下に向かうにつれ、ジメジメとした嫌な空気が漂っているのだ。

それに、牢屋には先生たち以外にも犯罪者なんかも収容されているだろし、環境はかなり悪そうである。

そんな場所に長く監禁されるのが大変なのは簡単に想像がつくだろう。

「そういえば、アルフ様のところからこうして地下牢に向かうまでの間にも、特に化物は出現しませんでしたね」

「……間違いなく君がここに来た影響だろう。あの化物を一掃した魔法含め、君が何をしたのかは分からないが、我々の想像を超えた力を持っていることはすでに身をもって知っているからな」

「……」

違う、とも言い切れないのが何とも言えなかった。

別に俺自身は特にあの化物を完全駆除しようなんて考えちゃいなかったが、散々世界に忖度されてきた俺だ。また世界が忖度して完全消去しててもおかしくはない。

特に見張りの兵士がいるわけでも、化物が出現することもなく、そのまま地下へ駆け抜けていくと、ついに牢屋の並ぶ場所にたどり着いた。

だが……。

「何!?」

「ど、どうしたんですか?」

「誰もいないだと……!」

ザキアさんは誰もいない地下牢を前に、目を見開いた。

俺もざっと周囲を見渡すが、人の気配は何も感じられない。

「じゃ、じゃあ先生たちはもう、どこかに連れていかれたってことですか?」

「そう言うことになる。だが、それ以外にも問題があるのだ。この場所は見ての通り地下牢で、囚人が何人かいたはずだ。その者たちの姿も見えなくなっている……」

「え!? 逃げ出したとか?」

「……この状況だとそれは考えにくいが、万が一逃げ出していた場合、街の住民が危険に晒される。不幸中の幸いなのが、今この街は妙な力によって外に出ることも、中に入ることも基本的にはできない。君のような実力がなければな。そしてここに収監されていた囚人たちの中に、それほどの実力者はいないからこそ、街の外に逃げ出す可能性は低いだろう」

「そ、それなら一体……」

「……勇者と一緒に消えたということは、恐らく囚人たちもそこに連れていかれている可能性が高いな」

そういえば、街中で住民を連行しようとしていた兵士たちがいたな……。

「あの、ザキアさんに会う前に街を見て回ってたんですが、そこで住民を連行しようとしていた兵士たちがいたんです。もしかして、それと関係が?」

「確かに……。我々もそんな行動をしている兵士たちがいることは把握していたが、一体何を目的にそんなことをしていたのかは分かっていなかった。本当は直接止めて、問い詰めるべきだが、化物たちのせいでヤツらを問い詰める暇すらなかった。もしかすると、その関係しているのかもしれんな……」

「どのみち、あまりいい予感はしませんね……他に、勇者たちがいそうな場所は?」

「……恐らく謁見の間にいるのだろう。陛下はある時を境に、その部屋から出てくることが亡くなったのだ。だからこそ、勇者たちもそこにいる可能性が高い」

俺たちは顔を見合わせると、再び地上に戻り、ザキアさんの案内の下、謁見の間へと向かった。

◆◇◆

「これは……!」

謁見の間に向かうにつれ、異様な気配が周囲を支配していることに気づく。

その気配は、地下牢とは比べ物にならないほど陰湿で、禍々しい。

心なしか、周囲の城の壁面も黒く染まっているように思える。

あまりにも異質な状況に、ザキアさんは目を見開いていた。

「ザキアさん?」

「確かに陛下が謁見の間に籠るようになり、しばらく経ったが、それでも目に見えて城に異常が感じられるほどの変化はなかった。だが、この黒いオーラは一体……」

やはり壁面を侵食し、そのまま城全体を黒く染め上げようとしているオーラは、気のせいではなかったようだ。

明らかにヤバそうな雰囲気が漂っているが、ここで引き返すわけにはいかない。

「……それじゃあ、行きますよ」

「ああ」

俺たちは互いに頷くと、そのまま謁見の間に突入した。

するとそこは――――。

「な、何だ、この空間は……!」

てっきり謁見の間というくらいなので、ランゼさんのお城にもあった謁見の間のような空間を創造していたのだが、俺たちの目の前に広がる景色は、とても城の中とは思えぬ異質な空間だった。

識別できない不思議な色が混ざり合った混沌とした世界が広がり、壁や天井は見当たらない。

ただ、地面だけは城の名残か、大理石らしきもので作られた床だった。

そんな床の上には赤黒い液体で描かれた、何らかの魔法陣のようなものが真ん中にポツンと存在し、さらにその周囲を囲むように別の魔法陣がいくつも描かれているのである。

ザキアさんはこの空間に絶句していたが、俺はどこか魔神と戦った空間を思い出していた。

……あの時魔神は消滅したとステータスは言っていたが、もしかして生きていたんだろうか?

じゃないと、いくら勇者召喚するだけの技術がある国の帝王とはいえ、こんな不思議な空間を作り出せるとは到底思えなかった。

「なっ……入り口が!」

ザキアさんが後ろを振り向いて驚く中、俺も慌てて後ろを確認すると、さっきまで存在していた入り口が消えていた。閉じ込められたな……。

出口を探すように周囲を見渡していると、明らかにヤバそうな気配漂う中央の魔法陣に、蠢く何かが存在することに気づいた。

「いっ!?」

千切れ、繋がり、血飛沫をまき散らしながらざわざわと蠢き続ける謎の肉塊が、魔法陣の中央に存在していたのだ。

「あれは……」

「どう考えてもヤバそうな気配がしますよね……」

ただ、攻撃していい物なのかも分からないから、迂闊に手を出せない。

まあ多少適当に攻撃してもこの星がある程度何とかしてくれそうな気もするが、不確かなものに頼り切れるほど、俺の心は図太くなかった。

というか、あの蠢く肉の塊……何となく見覚えあるな―って思ったら……最終進化した時の俺の状況と似てない?

もしかして、あの肉の塊も進化途中とか言わないよな?

何にせよ、俺も最終進化の時はあんな感じだったなぁ……こうして客観的に見るとどう見てもヤバイよね!

こんな気持ち悪いもの見て、ドン引かずに俺の心配をしてくれたサリアは本当にすごいよ。……心配し過ぎて俺の肉の塊に腕を振り下ろし、心臓マッサージをしようとしたときは完璧に死ぬかと思ったけど。なんせ肉片が飛び散ったからね! 生きててよかった!

何気に懐かしい記憶を振り返っていると、ザキアさんがあることに気づく。

「なっ……あれは、人間!? それに勇者も……!」

「え?」

思わず中央の魔法陣にある、巨大な肉の塊に目を奪われてしまっていたが、よく見ると周囲を囲うように配置された魔法陣の上に、人間らしきものが積み重なって置かれていることに気づいた。

「ぁ……けて……」

「ぃ……ぃぃ……」

「ぅぁ……」

「っ!」

その魔法陣の上に置かれた人間たちは、皆カラカラに干からびたようにしぼんでおり、今にも死にそうになっている。

その中には俺が探していた先生たちや、他の勇者の姿もあった。

まさか、こんな悲惨な状況になってるとは思いもせず、絶句する俺に、真っ先に正気に返ったザキアさんが声を上げる。

「急いで救出するぞ!」

「っ! はい!」

俺たちは急いで魔法陣に集められた人間たちに駆け寄った。

幸い、皆息はしており、死んでいる人は一人もいない。

ただ、このまま放置すれば死んでしまうのは明らかだった。

「っ! やはり、囚人や街の者もここにいたのか……それに、メイドや執事まで……」

魔法陣に近づくにつれ、そこに集められた人間の姿が見えてきたが、それらはザキアさんには見覚えのある存在だったようだ。

確かに積み上げられた人間の中に、メイド服や執事服姿の人も見えている。

俺の方も勇者たちに近づくと、そこにはクラスメイトや先生たちが、カラカラに干からびた状態で呻いていた。

「ぁあ……」

「ぅぅ……」

「これ、魔法陣の上に乗ってるけど、手を出していいのかな……? いや、今はそんなことを気にしてる場合じゃねぇな!」

勇気を出して魔法陣の上に積み重ねられた勇者たちを、まとめて持ち上げた。

「よし……特に魔法陣は反応しないみたいだな……」

ひとまず第一関門を突破したところで、俺は抱えた勇者たちに回復魔法を発動させる。

とはいえ、その回復魔法で元の姿に戻る人は一人もいなかった。

これは、勇者の力を奪われたからこんな姿になってるんだろうか?

それならどうして街の人とかも同じ姿になってるのか分からないが……。

一応、『上級鑑定』のスキルで勇者や街の人たちを確認すると、勇者たちは勇者という称号は消えており、すでに勇者としての力は奪われた後だと分かった。

だが、それ以外は特に何かおかしな点はスキルで確認できなかった。

そのまま肉の塊にもスキルを発動させたが、何も表示されず、謎の肉塊以上の何も分からない。やっぱり不気味だな……。

「ザキアさん! 一度、この勇者たちを連れて戻ります!」

「戻る!? いや、この空間から出られるのか!?」

「多分!」

「多分!?」

転移魔法で向かうつもりだが、もし魔法が発動しなければ、この空間を斬り裂いて脱出することも考えないとな。

とりあえず一度転移魔法を発動させてみると、魔法は何の問題もなく発動し、俺は勇者たちを抱えた状態でウィンブルグ王国のお城の前に転移していた。

「うぉお!? せ、誠一殿?」

「あ、すみません!」

いきなり転移したことで、お城の門番をしていた兵士さんが驚きの声を上げる。急いでいたとはいえ、もう少し考えて転移すればよかったな……。

「い、いえ。少し驚きはしましたが……誠一殿ですからな。今さらです」

「今さら!?」

「それよりも、その抱えてる人々は一体……?」

「あ! そのことでこちらに用がありまして……」

実際は神無月先輩の下に連れていくのがいいんだろうが、今の勇者たちは何だかよく分からない状態で死にかけているのだ。この状態で連れて行っても、神無月先輩はどうすることもできないだろう。

何より、一度回収した勇者たちを匿ってもらうためにも、ランゼさんに用があるのだ。

こうして門番さんに案内されつつ、ランゼさんの下に向かう俺。

ランゼさんは謁見の間にいるようで、そこまで俺は勇者たちを抱えながら歩いたわけだが……周囲から妙なものを見る視線を向けられたかと思えば、その抱えてる人間が俺だと分かった瞬間納得したような表情に変わるのだ。俺だから納得するみたいなの止めてくれます?

「おいおい……誠一が呼んでるってから来てみりゃ、何だよ、そりゃあ……」

「えっと……勇者です」

「……とても勇者って感じの状態じゃねぇんだが……それ、生きてるのか?」

「一応……?」

こうして抱えている間も、俺は回復魔法をかけ続けていた。何が原因か分からないから、気休めにしかならないだろうけどさ。

ただ、抱えていて分かったことだが、皆生命力が極端に消耗されてるような感じなのだ。

「それよりも、その勇者たちどうしたんだよ?」

「えっと……神無月先輩に頼まれたので、ちょっとカイゼル帝国まで行って、連れ帰ってきた感じです」

「お前、本当にめちゃくちゃだな!」

ま、まあ普段は振り回されまくってる俺の体ですけど、こういう時は便利なので有難いよね。普段もう少し言うこと聞いてくれればなおよし。

「まあいい。おい! とりあえずコイツらを救護室へ運べ! どうなってんのか知らねぇが、目が覚めたら精のつくもんでも食わせてやれ。それで戻るだろ」

「そ、そういうもんですかね?」

「知らん! ただ、お前さんが回復魔法をかけてるってのに、復活しねぇってことは、傷や病気とは違う部分でダメージを負ってるってことなんだろう。そんなもの、精神力だとか体力だとか、そういうゆっくり回復させる以外方法がねぇもんだろう」

確かに、この勇者たちやあの空間にいた人間含め、皆極端に生命力を消耗してたからな……あながち間違ってない、のかな?

「あ、それなら……」

「あん?」

ふと思いついたことを試すべく、俺は冥界で身に付けた生命力を操る力を使い、勇者たちに軽く流し込んだ。

すると……。

『――――!?』

「あ」

まるで雷に打たれたかのように大きく体を跳ね上げると、そのまま勇者たちはぐったりと倒れ込んだ。

「……殺したか」

「ちちちちち、違いますよ!?」

なんてこと言うんだ! 俺はただ、良かれと思ってやっただけなのに!!

……だ、大丈夫だよね? 生きてるよね!?

皆ピクリとも動かなかったが、俺が生命力を流し込む前に比べ、顔に生気が戻っており、何より感じ取れる生命力も強くなっていた。

だ、大丈夫でしょう!

ほ、本当にほんの少し生命力を流し込んだだけなのに、こんなことになるとは……。

これはさすがに人から言われなくても理解した。俺の生命力が強すぎたんですね……。

よくよく考えれば、ちょっとした生命力の余波で、冥界の悪霊消し飛ばしたんだもんな。そりゃあ普通の人間には耐えられんわ……。

ひとまず皆の無事が確認できたところで、ランゼさんが呼び寄せた兵士さんたちがやって来ると、倒れている勇者たちに怪訝な表情を浮かべながらも、丁寧に運んでいった。

「それで、カイゼル帝国に行ってきたんだろ? どうなってた?」

「その……」

俺はカイゼル帝国での出来事を、簡単に説明した。

すると、ランゼさんは険しい表情を浮かべる。

「……なるほど、アルフ殿が……」

「知ってるんですか?」

「そりゃあな。昔のカイゼル帝国は今みたいに横暴な国ではなく、すげぇしっかりとした国だったんだ。それらすべてはアルフ殿の手腕によるものだったわけだが……ある時、急に帝王が変わるってんで当時は驚いたもんだよ。情報を集めてみると、呪いにかかったとかなんとか……ただ、誰がその呪いをかけたのかは分からなかったんだ」

「なるほど……」

「ただ、お前さんの話だと、アルフ殿は無事復活したってことだな?」

「ええ。ランゼさんと同じ呪いだったんで、反転後も同じく【永遠の健康】に変化してました」

「そいつはいい。アルフ殿が無事ってんなら、カイゼル帝国はまたいい国に戻るだろう。それよりも、今の帝王……シェルド殿が問題だ。聞いた話だと、勇者たちがいた謁見の間に、シェルド殿の姿はなかったんだよな?」

「そうですね。そこは妙な魔法陣らしきものと、連れてこられた人たち、そしてよく分からない肉の塊がありました」

「その妙な肉塊ってのがきな臭いが……とりあえず、この後も誠一はカイゼル帝国に戻って、ザキア殿たちを手伝うわけだな?」

「はい。さっきので生命力を流し込めば回復することも分かったので……」

「……ほどほどにしとけよ」

ほどほども何も、出来る限り抑えた生命力を流し込んでるつもりなんですけどね! 本当に不思議!

――――こうして俺は、もう一度あの不気味な空間へと戻るのだった。