軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

進化の実

俺は転移させられてから、ずっとこの森をさまよい続けている。かれこれ1時間程。途中の茂みで用を足したりなんだのしたけども、それでもさまよい続けているのには変わりない。

それに、もう足も限界に近い。靴も履いてないんだぞ?下駄箱においたまんまだよ……!上履きでの移動だ。

第一デブに一時間もこの森を歩かせるのは酷だと思う。何とかなりませんか?ならんだろうね。

「……つか、腹減った……」

本格的にお腹が空いた。こんなに動き回ったのは、何時ぶりだ?とにかく腹がヤバい。

「な、何か飯になりそうなモノ……」

そう言いながら辺りを見渡してみるが、動物どころか虫一匹も見当たらない。それに、木の実やキノコらしきモノさえ無い。

「あ、俺って餓死すんの?……嫌だよ!?」

一人でこのテンションを維持するのもだいぶ辛いんですけど。

「くそったれぇ……めえええええええしいいいいいいいいいい!」

俺は、何だか叫びたくなったので叫んだ。そうでもしないと落ち着かない。空腹を誤魔化せない。

「飯だっ!飯をくれぇぇぇぇええええええええええええ!」

もうひたすら叫ぶ。なんか楽しくなってきたかも。色々手遅れかもね。

そんな馬鹿な事をしていると、突然近くの茂みがガサガサと動いた。

「飯か!?」

思わずそう言い、俺は急いで茂みの方向に視線を向けた。

「ガルルルルルルルルル……」

「……OH……」

目の前には、巨大な狼がいました。

「アオオオオオオオオオオオオオオン!」

「ごめんなさい!許してください!」

何だかよく分からないけど、俺は狼に向かって土下座した。

だってよ?目の前に5m級の灰色の狼がいるんだぜ?目がギラギラしてて怖いよ?それに口から覗く牙が鋭くてもっと怖いんだけど?

とにかく怖い。だから、土下座した。なんか許してもらえそうだと思ったからなっ!

「ガルアアアアアアッ!」

「ですよねー!?」

結局俺の土下座など無意味であり、狼は俺に襲いかかってきた。

俺は土下座の状態から思いっきり地面を転がり、何とか襲いかかってきた狼の攻撃を避ける事に成功した。

「怖っ!?マジで怖!?」

ヤベエ、この世界に転移した後、用を足しておいてよかった……!今のは絶対ちびるって!

「ガルルルルルル……」

狼は、俺に避けられた事が余程意外だったのか、途端に距離をとりつつ慎重になっているようにも見える。

ただ、その目には、何だか『餌』として俺を見ているというよりは、『あれ何だろ~?』と言う赤ちゃんが好奇心の赴くままに口にモノを入れようとしている雰囲気にも感じられる。

だって、狼の目が何だか好奇心に満ちているようにも見えないでもないっ!

てか、飯を求めてたら俺が餌にされそうなこの状況。……誰か助けて。

すると、そんな俺の願いが届いたのか、今度は逆の茂みからガサガサという音が聞こえた。

「俺の救世主ですか!?」

俺はテンションMAXでそう言いながら再び後ろを振り向いた。

「ガルルルルルルルルル……」

「……OH……」

本日二度目の『OH』だった。

てか酷くね!?まさかの二匹目登場!?逃げ場ねぇー!確実に死んだー!

「ええい!食いたきゃ食え!……痛くしないでね?」

そんな事を言いながら、俺は仰向けに大の字に転がった。

しかし――――

「ガウガアッ!」

「グルルル……ウォンッ!」

何故か、同じ狼が争い始めた。

「ガウガウガアッ!」

「グルアアアアアッ!」

俺的に訳してみると。

『その餌寄こせぇええええええ!』

『誰がやるかああああああああ!』

ってな感じじゃないでしょうか。

……。

「……逃げよ」

俺は、狼同士で争っている隙に、その場からそっと移動した。

◆◇◆

「や、ヤバい……」

ぐぎゅるるるるる~。

俺のお腹がさっきから叫びまくっている。

なんとか狼に食われて死ぬというデッドエンド展開を回避し、もう3日も経過した。

寝る場所は、何とか頑張って木に登ることで、あの狼みたいな生き物から逃れ、必死に過ごしていた。

水すら飲めていないこの状況。

もう木に登る力どころか、体を動かせるだけの力も満足にない。

今日もまた、生き物の肉なんかは望んでいないけど、木の実やキノコ何かを探してさまよい続ける。

「……マジで俺、死ぬのか?」

前向きな事に定評のある俺だが、この時ばかりは気が滅入っていた。

デブの俺が、5日も我慢するなんてことは厳しい。

最悪、俺はそこら辺に生えている雑草や、木に生い茂っている葉っぱを喰らうつもりでいる。てか、土でもいい。とにかく何か口に入れたい。

「……あ、ヤバいかも……」

俺はそう言うと、そのまま体から力が抜け、顔から地面に倒れてしまった。

「っ……」

顔面がジンジンして痛いが、もうそれを気にする程の余裕さえ無い。

「本当に何か口に入れないと……」

俺は、必死で頭だけ動かし、地面に喰らいついた。

「ガッ!?」

か、かてぇ……。

全然歯で抉りとれる程、地面は柔らかく無かった。

「万事……休す、か……」

そう呟き、そっと目を閉じかけた時だった。

「……ん?」

俺の耳に、何らかの生き物が騒いでいる声が入ってきた。

その声は、次第に俺の方に向かってくる。

『――――イィ!』

『――キィィィィイイ!』

『グルオオオオオオッ!』

ふと視線を上げ、声の方向に向ける。

すると、そこにはなにやら大量の実を抱え、必死に逃げているようにも見える猿みたいな生き物と、5日前に俺に襲いかかってきた奴と同じ種類だと思われる狼みがその猿を追いかけていた。

「キイイ!キィィイイッ!」

「キャッキャッキャッ!」

「グルウオォォオオオオオオン!」

ボトッ。

その猿たちは、道に転がる俺など構う事無くそのまま頭上を通過して行った。

その際、何かを落としたような音がした。

「ハッハッハッハッ!」

狼もその後を追いかけ、俺の事に気付いた様子も無く通過して行く。

「な、何だったんだ?」

そう言っても、考えるだけの力が無い程、俺は弱り切っていた。

「せめて……誰かに食い殺されたりするんだったら、もっと楽に死ねたんだろうか?」

つい、そんな自問をしてしまう。

だが、誰もその呟きに答えてはくれない。俺は、一人なのだから。

「はは……」

何だか自然と笑みがこぼれた。

今にして思えば、ろくな人生を歩んでいなかったと思う。

幼稚園の頃から既に虐めはあった。それは、小学校、中学校、そして高校まで続いた。

殴られるような虐めもあれば、物を隠されたり、落書きされたり、水かけられたり……陰湿な虐めも多かった。

そんな俺でも、こうして前向きにやってこれたのは、普通に接してくれる人間がいたからだと思う。

確かにろくでもない人生かもしれない。でも、俺に普通に接してくれて、会話してくれて、遊んでくれて、触れてくれて……。そんな俺の中での『友達』だけは、ろくでもない人生の中でも最高の宝物だったと思う。

隣のクラスだった日野もそうだ。それに、翔太や賢治。クラスどころか学年も違う神無月先輩や美羽……。他にも同じ学年に何人か接してくれる奴がいる。

どれも、俺とは別次元に存在する人間だ。俺の事をもしかしたら引き立て役としてしか見てくれていなかったかもしれない。でも……それでも普通に接してくれる事が嬉しかった。

それに、家族の仲は結構良かった。でも、父さんも母さんも死んで、遺産関係で親戚同士がもめて……。

それで、一人暮らしを選択して、遺産も守り切った。保護者は一応爺ちゃんになったけど。

結果的に親の遺産をいい事に好き勝手やって、太って見た目の醜さに磨きがかかって……。まさに、自業自得。

ろくでもないのは、人生なんかじゃなくて、俺の存在そのものだな、これじゃあ。

「ははは……マジで力はいんねぇ……」

これが、死に際の感覚か……。好きになれないな。絶対。

俺が死ぬことで、誰か泣いてくれたり、悲しんでくれたりしてくれる人間って……いるのかな?

一方的に俺が友達だと思ってても、相手は思って無かったら嫌だな。

「でも……まあ……死んでしまえば……関係……ない、な……」

俺はそう言い、段々と意識が遠のく中、上げていた視線を地面に落した。

「……はは……木の実、落ちてらぁ……」

段々狭まっていく視界の中、俺は道に落ちている木の実を見た。

…………………………。

……………………。

………………。

…………え、木の実?

「!?」

俺の意識は一気に覚醒した。

「き、木の実だ……」

そう、目の前の道に落ちているのは、紛れもない木の実である。

何の木の実かなんて分からない。

でも、茶色く、見た目はまんまラグビーボールのようなその物体は、木の実以外の何物でもない。

木の実。木の実である。

俺が、待ち望んだモノ。

た・べ・も・のッ!

「メェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェシィィィィィィィィィィイイイイイイイイイイっ!」

俺は、地獄の亡者を思わせる勢いで、地面を思いっきり這っていく。

どこにそんな力が隠されていたのかは分からない。

それでも、俺は地面に爪を立て、這って進む!

目指すは、目の前の木の実!

生存本能のなせる業か?ひたすら目の前の食糧めがけて恥もクソも無く突き進むっ!

「ォォォォオオオオオオオオッ!!」

そして――――俺の手は木の実に届いた。

「!」

木の実をしっかりと握る。掴み取る。

これは俺の食糧だ。誰にも渡さない。……元は、変な猿が抱えていたモノの一つだけど。

そう言いたくなるほど、俺は尋常じゃない力で握りしめた。

そして、それを俺の目の前にまで持ってくる。

爪は、かたい地面に力を入れて立てていたため、血が垂れている。正直痛い。

でも、それ以上に俺は目の前の飯に夢中だ。

確実に確保できた事もあり、俺はこの木の実に『鑑定』を使用してみた。

『進化の実』

鑑定の結果は、その名前しかわからなかった。

効果なんかが書かれていそうな部分は、何故か青山を鑑定した時のように、文字化けしていた。

でも、毒は無さそうである。なら、今からする行動は一つしかないだろう。

「……いただきますっ!」

俺は、思いっきり、その進化の実とやらに 齧(かじ) り付いた。

見た目は茶色な上に、ラグビーボールみたいなので、硬そうにも見えるし、味もアーモンドの様なモノなのでは?と思っていた。

だが――――

「ま……不味い…………」

凄まじく不味かった。

それも、尋常じゃない程に。

え、あの猿こんなの主食にしてんのか?舌、おかしいんじゃね?

でも、これは貴重な食料である。文句は言わない。全部食べる。

普通の俺なら、確実に食べるのをやめていただろうが、俺は気にせずひたすら夢中でこの実を喰らう。

そして、俺は食べていてある事に気付いた。

「……爪、治ってね?」

そう、何時の間にか剥がれかけていた爪は治っていた。

それに、この進化の実を一つしか食べていない筈なのに、腹はもうふくれている。

そして、とうとう俺は進化の実を全部食べきった。

「ふぃ~……不味かった!」

腹をさすりながら、そう言った瞬間だった。

『進化の実の効果を発動します』

そんな声が、頭に響いてきた。

は?効果?なんだ、そりゃ……。

何か起きるのかと思い、その場でしばらくじっとしてみる。

………………。

…………。

……。

「何も無いの!?」

何も起こらなかった。

ふざけてやがるッ!ステータスも一応確認してみたけど、相変わらず1が綺麗に並んでいやがったよっ!文句あるか!?

まあ、一々食べたモノに効果を期待してても仕方が無いよな。今は、お腹一杯になっているという事と、生きているというこの二つの喜びをかみしめる時だ。

「よぉし……これからどうすっかな……?」

このまま何もせずにさまよい続けていると、進化の実を食べる前の状態の繰り返しだ。

「幸い、生き物は生息しているんだ。なら、まずはその生物に接近するのが良いかもしれない」

あの狼は怖いけど、変てこな猿なら近づいても大丈夫そうだ。

それに、怖いという理由で動かないで死ぬなんて、絶対に嫌だ。

後悔はしたくない。意地でも生き抜きたい。

だから、まずはあの猿に近づいて、餌場か何かの場所を突きとめることで俺の食料確保をまず目標としよう!

「そうと決まれば……早速行動開始だっ!」

俺は決意を新たに、まずはこの過酷な環境を生き抜くための食料確保から始める事にした。

……その前に、用をたす事を忘れてはいけない。ちびるからなっ!