軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

幕引き

サリアの叫ぶ声。

息をのみ、信じられないといった表情で俺を見つめるアル。

オリガちゃんもゾーラも、どこか絶望した様子で目を見開いている。

そして、その中心には、愉悦に浸り、邪悪な笑みを浮かべたギョギョンが――――。

「……ん?」

≪は?≫

ギョギョンは、目を点にして、俺を見つめていた。

よく見ると、サリアたちも目が点になっている。

「ど、どうなってるでござるか?」

すると、そんな全員の心情を代表するかのように、守神さんが困惑した様子で呟いた。

≪ば、バカな! 何故だ!? 何故消えぬ! 何故平然としていられる!?≫

「いや、むしろ、何したんですか?」

サリアたちが悲痛な表情で俺のことを見ていたが、正直そこまで心配される理由が分からなかった。

だって、何をされたのか全く分からないし。

「な、何をしたって……お前、理不尽の塊であるお前が生み出した岩の触手がただの土に戻されたんだぞ!? 普通警戒するだろ!?」

「理不尽の塊!?」

アルの言葉についついツッコんでしまうが、なるほど、そう言うことか。

どうやら俺の岩の触手が効かなかったことで、アルたちには目の前のギョギョンがより一層化け物に見えたみたいだ。まあ岩の触手なんていう訳の分からない攻撃ができるのも俺くらいだろうし。

って、ちょっと待て。その認識だと、普段は俺が化け物だって言ってるようなもんじゃありません? 大丈夫?

ついそんなことを考えていると、俺の頭から手を放し、ギョギョンは呆然と自身の手を見つめた。

≪あり得ぬ……あり得ぬぞ! 我は確かに『無有』の力を手に入れた! 神のごときこの力を! この力をもってすれば、全知全能に至れるはずなのだ! それが防がれるなど……≫

『――――貴様ごときが、誠一様に何かできるはずないだろう?』

ふと、脳内アナウンスの声が響き渡った。

あまりにも自然に聞こえたので、いつも通り俺の脳内に語り掛けているのだと思っていたが、どうやら違うらしい。

「な、何だ!? 何の声だ!?」

「すごーい! 頭に直接響いてる感じがする!」

「え?」

なんと、いつもの脳内アナウンスの声は、どうやら俺だけでなく、この場にいる全員に聞こえているらしい。どういうことだ?

そんな疑問が頭に浮かぶが、それ以上に衝撃を受けていたのは、声をかけられていたギョギョンだった。

≪な、なんだ、どこの誰だ、この我を愚弄するのは! 姿を見せろ!≫

『私の姿すら見ることができぬ時点で、底が知れている』

≪なっ!?≫

いや、アナウンスさん? 俺もアナタの姿を見たことないんですけど? てか姿あるの?

もうどこからツッコめばいいのか、どんどんカオスな状況になっていく中、ギョギョンは叫んだ。

≪な、舐めるなぁ! 『無有』の力を手にした我は、本来存在すべき『限界』という『有』が『無』なのだ! つまり、無限に進化することもできる! その力をもってすれば――――≫

『で?』

≪は?≫

予想以上に淡々とした声が返ってきたことで、ギョギョンは困惑した表情を浮かべていた。

それはまさしく俺たちも同じであり、もしギョギョンの言ってることが本当なのであれば、とんでもない存在になったことになる。

俺だって『進化の実』を食べたことで進化することができるが、ギョギョンのように無限に進化できるかなんて分からない。

しかし、アナウンスは何も変わらぬ調子で続けた。

『無限も無も有限も、すべては誠一様に通じる』

俺ローマじゃないですよ?

『貴様の語る無限、有限、虚無、死、何もかも、誠一様の支配下。否、勝手に我々が仕えているにすぎん。誠一様が不要だと断ずれば、そんなものは消えるのだ』

待て待て待て!

意味が分からんぞ!?

アナウンスの言ってることが本当なら、もし俺が死を否定すれば誰も死ななくなるの!? 冥界行ってきたどころの騒ぎじゃねぇ!

いつから俺はそんな化け物になったんだよ!?

……割と前からかもしれない。

『それと、貴様は軽々しく進化などと口にするが……その根源を理解しているのか?』

≪な、に……?≫

『遍く世界……貴様らや誠一様の概念で言うところのオムニバースも、次元も、何もかも! そこに存在する適応・学習・模倣・成長・進化等の能力、力、特性、概念、権能……それらを保持するすべての存在において、誠一様こそが根源であり、誠一様のお情けでオムニバースの者どもは能力を使わせていただいているにすぎん。貴様などに至っては、搾りかす以下だ』

≪な……な……!≫

いや、根源て!

俺まだ十代だよ!? そんな昔から生きてねぇよ!

そもそも人間の話してます!?

もう滅茶苦茶な話の内容に、もはやギョギョンとアナウンス以外は誰もついていけていなかった。当事者っぽい俺ですらチンプンカンプンなんだが。

すると、アナウンスと対等に会話できているギョギョンが、空を睨みながら叫んだ。

≪だ、だから何だと言うのだ! そこの下等生物より、我が進化すれば……≫

『無駄だ。貴様が進化しただけ、その進化したすべては誠一様の力となる』

≪は!?≫

「は!?」

「なんでお前が驚いてんだよ!?」

だって初耳ですから!

困惑し続ける俺をよそに、アナウンスはどこまでも冷徹に続けた。

『分かったか? 貴様がどれだけ塵芥のような力を進化で手に入れても、誠一様との差は埋まらない。いや、最初から差など存在しない。貴様が進化した力を奪ったうえで、誠一様が進化するのだ。それだけではない。こうして貴様によって誠一様の貴重な時間を消費している今も、他次元やオムニバースでは様々な存在が進化、成長、適応が続けられている。そしてそれらと同じだけの進化を誠一様もするのだ。その上、進化した存在の力もすべてそのまま誠一様のものとなる。まあ誠一様のお情けにより、関りのない存在はそのまま成長を続けるが……そうでない貴様は弱体化し、誠一様のみ強くなり続ける。それだけだ』

待って。そんな能力、俺知らない。

しかもサラッと他の次元? の人からも力をもらってるって言った!?

≪そ、それでは……もはや全知全能ではないか……!≫

『そんなものと一緒にするな』

「そんなもの!?」

全知全能がそんなものって何!? それ以上はなくない!?

俺の考えと同じらしく、ギョギョンも顔を赤くして叫ぶ。

≪貴様、どこまで我を愚弄すれば気が済むのだ……! 全知全能こそ、我が求めるすべて! 夢だ! それさえあれば、唯一最高の神として君臨できる! それを……≫

『ずいぶんとスケールの小さい夢だ。全知全能など、所詮は誠一様の奴隷でしかないのに』

「誠一、お前……」

「そんな目で見ないで!?」

知らない! 俺知らないから! そんな奴隷いたの!? てかいらないよ!?

めっちゃ持て余すヤツじゃん!

しかも全知全能が奴隷って言う割には知らないことしかないんですけど!?

すると、アナウンスはギョギョンに対する態度とは打って変わり、優しい声音で俺に語り掛けてきた。

『誠一様は何も心配する必要はないのです。誠一様が何でもできるのは当然として、それらすべての雑事は我々が処理すること……誠一様のしたいと思ったことは、すべて我らが完遂、または手助けするだけなのですから。力を行使する必要も、そんな機会もありません。全知全能が勝手にやってくれます』

怖ぇよ!

もはや崇拝の域じゃん!?

第一、全知全能が勝手にやるって何!? 誰の話ですか!?

そもそもそんな存在が、なんで一個人として、それこそ一つの世界で暮らせてるの!

『それはもちろん、誠一様がそう望まれていることを我々が知っているからです。我々としては、誠一様自身が剣を振るうような事態は避けたいのですが、誠一様自身は自分で動きたいご様子ですし……我々は誠一様がただ健やかに、幸せに過ごせるよう、その手助けをさせていただいているにすぎないのですから。誠一様が嫌がるようなことは決していたしません』

恐ろしいほどの待遇っぷりだよねぇ!

そりゃあ訳も分からんまま何もかも終わるなんてホラーでしかないよ!?

だったら少しでも自分の手で動きたいと思うのが普通でしょうよ。いや、もう俺の普通が信用できなくなってきた。

『何はともあれ、貴様がどれだけ足掻こうが、どのような力を手にしようが、貴様の敗北は変わらん。大人しく宇宙に帰るのだな』

完全に置いてけぼりの俺たちをよそに、そう締めくくるアナウンス。

すると、ついに耐え切れなくなったギョギョンが、力を解放した。

≪この我を――――バカにするなああああああああああああああ!≫

「!」

ギョギョンの体から、大量の触手が生えてきた! って、気持ち悪っ!?

今まではギョギョンの背中からしか生えていなかった触手だが、今はギョギョンの顔や手、まさに全身から触手が生え、その触手の先からはレーザーを乱射しながら俺たちに襲い掛かる。

しかも、栄京の上空に佇んでいた宇宙船らしき存在も、俺たちに向かって動き始めた!

「おい、誠一、どうすんだよ!? あの脳内に語り掛けてきた声、お前関連のヤツだろ!?」

「何だか難しい話いっぱいしてたねー」

「……ん。さっぱり分からなかった」

大丈夫、オリガちゃん。俺も分かってねぇ。

つい現実逃避気味にそんなことを考えているが、ギョギョンの暴走は止まらず、宇宙船も砲身のようなものが次々と現れると、何やらエネルギーらしきものが溜まっていく。

「なっ!? このままじゃ、栄京が!」

「それよりも、ムウ様をどうにかしなければ……!」

守神さんの言う通り、未だに空中に浮かんでいる大和様を回収しないと。

月影さんや守神さんでは空中にいる大和様を回収することはできないようなので、ひとまず俺はその場から軽く跳びあがった。

「せ、誠一殿おおおおおお!?」

一瞬にして大和様のいる場所まで来た俺は、そのまま大和様を包んでいる球体に触れる。

これ、邪魔だな。

ふとそう思った瞬間、球体は一瞬にして砕け散った。

……うん。アナウンスが言ってた意味が少しわかった気がした。

解放された大和様を抱きかかえ、地上に降りようとするが、それに気づいたギョギョンが阻止しようと動いた。

≪逃がすかあああああああああああああ!≫

ギョギョンから生えた触手が徐々に絡み合い、やがて一本の束になると、その先端に極限まで圧縮されたエネルギーが溜まっていく。

そして、それは俺目掛けて解き放たれた。

だが――――。

「いや、もうそういうのいいんで……」

つい本音が漏れると、俺に向かっていたエネルギーが『あ、ハイ』と言わんばかりにしぼんでいき、俺に届く前には霧散してしまった。

≪ど、どうなってる!? 我は、『無有』を手にして、全宇宙の支配者になるはずだ! それがなぜ!?≫

『一つ、貴様は勘違いをしている』

≪へ?≫

必殺技らしきものが呆気なく終わったことで、動揺を隠せなかったギョギョンは、再び聞こえてきたアナウンスの声に、気の抜けた声を発した。

『誠一様が気にかけてらっしゃる存在から、力が奪えたと本当に思っているのか?』

≪ま……まさか……!?≫

『我々のそれっぽい演出を受け、力を奪えたと驕り高ぶるその姿、実に滑稽だったぞ?』

≪あ……あああ……!≫

『――さらばだ。陸に打ち上げられし、哀れな魚よ』

≪あああああああああああああ――――≫

その場で絶叫したギョギョンは、徐々にその声の勢いをなくしていくと、最後は謎の生物たちや宇宙四天王の様に、酸欠となり、そのまま倒れてしまうのだった。

…………。

「え、ナニコレ?」

「「「それはオレ/私たちのセリフだ!」」」

皆にツッコまれるのだった。