軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

うっかり救世主

「ん? あれって、人影じゃないかな?」

「え?」

「……オレには何も見えねぇ」

あの謎植物を倒してから少しして、サリアが遠くに見える人影を見つけた。

確かにサリアの言う通り遠くに人の姿が見えるが、それは野生というか、魔物のサリアだからできる芸当で……あれ、俺も見えたぞ。……考えるのはやめよう。

「もしかして、オリガちゃんたちかな?」

「どうだろうな。オリガたちが出発したのはオレたちのだいぶ前だし、今頃ルーティアの父親のダンジョン内にいるんじゃないか?」

「それもそっかー」

サリアとアルのそんな会話を何気なく聞いていた俺だが、とあることに気づいた。

「あれ……?」

「ん? どうした?」

「……俺の打ち返した種って……こっちの方向に飛んで行ったよな?」

「あ」

俺の言葉に、アルは唖然とすると、俺に向かって残念そうな表情を向けた。

「……ついに 殺(ヤ) っちまったな……」

「いやあああああああああああ! やめてええええええええええ!」

ヤバい、どうしよう!? 人がいないと思って打ったのに!

めちゃくちゃな速度で種飛んで行ってたよ!? あれが人にぶつかったと思ったら……考えたくねえええええええ!

「い、急ごう! 急いで無事かどうか確認を……!」

「手遅れだろうなぁ」

「んなこと言わないで!」

打ち返した時「ピチュン!」って普通じゃ鳴らないような音で地面を削り取りながら飛んで行ってたけども! し、信じないからな!?

……もしやっちゃってたら……自首しよう……どこに自首すりゃいいか分かんないけど……。

いや、もう一度冥界に意地でも行って、連れて帰る。

そんな決意をしつつ、慌ててその人影に俺たちが近づくと、だんだんその姿がはっきりしてきた。

すると、なんとその人影の正体はオリガちゃんたちだったのだ。

「え、オリガちゃん!?」

「……あ、誠一お兄ちゃん……!」

オリガちゃんは俺たちを見つけると、そのまま駆け寄ってきて、俺に抱き着いてきた。

「ど、どうしたの? 大丈夫?」

「……ん。誠一お兄ちゃんを見たら、安心した」

「そ、そうか?」

抱き着いてきたオリガちゃんの背中を軽くたたいて落ち着かせながら、周囲を見ると――――。

「えっと……どういう状況?」

「オレが分かると思うか?」

「ですよねー……」

「ルルネちゃんが誰かを踏んでるけど、誰なんだろう?」

サリアの言葉通り、ルルネを見つけると、ルルネの足元にはボロボロの男性が一人、転がっていた。

その光景を、ルーティアやゾーラは呆然と見つめている。

「……あ! そういえば、こっちに何か飛んでこなかった!?」

「……え?」

「いや、その……来る途中に襲ってきた魔物? らしき植物の種を撃ち返してさ……その方向がこっちだったんだけど……」

「……納得した」

俺の言葉を聞いたオリガちゃんは、何やらすべてが納得した様子で頷いた。

そして、もう一度俺に抱き着いてくる。

「……誠一お兄ちゃん、ありがとう」

「え、ええ? ど、どういたしまして?」

よく分からないまま、俺は感謝されてしまった。

しばらく俺に抱き着いていたオリガちゃんだが、ゆっくり顔を上げると事情を説明してくれる。

「……今食いしん坊が踏んでるのは、『魔神教団』の人」

「魔神教団!? あ、そういえばルーティアの父親がいる場所をもしかしたら魔神教団が悪用してるかもって話だったっけ?」

「……うん。それで、≪共鳴≫っていう異名持ちの敵で、とても強かった」

「異名持ちってことは……」

「アイツと一緒じゃねぇか? ヘレンと一緒に潜ったダンジョンで見かけた……≪絶死≫だっけか?」

「あー! あの回復してくれた人だね!」

「……サリア。もともとはもっとヤバいヤツだったからな? 誠一のせいでおかしくなったけどよ……」

「俺のせい!? ……いや、俺のせいか」

あの人、どんな存在や概念とやらでも即死させられるっていうとんでもない能力を持ってたが、『効かないから効かない』とか超シンプルな俺の体の回答によって能力が効かなかったんだよな……。

これ、相手の能力が『効くから効く』とかだったら、矛盾が発生しないためにそもそも相手は能力を発動することさえできない気もするし……本当に俺の体はどうしたんでしょう。

それに、意図したわけじゃないけど、ちょっと理不尽じゃないか? って思ったら能力が急に癒しの能力に変化して……あれ、いいことしてんじゃん。ま、いいか。

そんな俺たちの反応を見て、オリガちゃんは驚いて目を見開く。

「……誠一お兄ちゃんたちも、あの敵と似たような人を相手にしたの?」

「まあね。戦いらしい戦いはしてないけど……なんか魔神教団の使徒よりさらに上の幹部っぽかったかな」

「神徒って言ってなかったか?」

「あーそれだ」

使徒より上の神徒ってかなり安直だよな。違いもよく分からんし。

……まあ誠一魔法とかの悲惨なネーミングセンスに比べればマシですけどね!

「……そうなんだ。でも、納得した。アイツ、それくらい強かった」

「え?」

「……私たちの攻撃が、全部そのまま自分に返ってきた。しかも、アイツは傷もダメージも一瞬で治るから、一方的にやられた」

「なっ……大丈夫!? 痛いところは!?」

慌ててもう一度オリガちゃんがケガしてないか確かめると、オリガちゃんは小さな笑みを浮かべた。

「……大丈夫。もうダメって思った時、よく分からないモノがたくさん飛んできた」

「へ?」

「……その飛んできたモノが、アイツの体をズタボロにして、しかもそれを食いしん坊が食べ始めて……そこから食いしん坊の攻撃が何故か返ってこなくて、今の状態」

「ルルネって何なんだよ!?」

「……私が聞きたい」

てか、まさかの俺のバッティングによる被害を受けたのはその神徒だったようだ。あれ、もしかしたら『うっかり救世主』の効果か? 持っててよかった、この称号……!

それにしても……ルルネはどんどんおかしな方向に進んでいくな。いや、俺が言えたことじゃないけど。

でも考えてみてよ。俺が打った種を食べたって言うんだよ? おかしくない?

「……食いしん坊が言うには、飛んできたものを食べたら体内に宇宙が生まれたらしい」

「どういうこと!?」

やっぱりアイツの方が俺よりおかしいだろ。体内に宇宙って何? もともと胃袋がブラックホールだと思ってたけど、比喩じゃなくなったわけ?

俺の知るロバとは違う方向に突き進むルルネに、俺は困惑するしかなかった。

ひとまず俺は、ルルネに踏まれている神徒以外に回復魔法を使用した。

「え? ……あ、誠一!」

「誠一さん、追いついたんですね!」

体が急に回復したことで、呆然とルルネの様子を見ていたルーティアたちも俺に気づき、走り寄ってくる。

「よかった……誠一がいれば、安心できる」

「そうですね……私も誠一さんがいるなら安心です!」

「あ、安心できるように頑張ります……」

そんなに頼りになるかね? 俺がいても滅茶苦茶な結果になるだけよ?

すると、ルルネも俺に気づき、足元の神徒を蹴飛ばして寄って来た。うわぁ……今の蹴り、男の大事なところにクリーンヒットしたぞ……。

頬を引き攣らせる俺に、ルルネは目を輝かせながら口を開いた。

「主様! 私、分かりましたよ!」

「わ、分かったって何が?」

「私の口では食べられる量に限界があります。ですから、全身で食べることにしました!」

「何を言っている?」

俺にはもう、ルルネの言葉の意味を一つも理解できそうもないです。

「合流できて安心したのは分かったけどよ……コイツ、どうする?」

ルーティアたちの無事を確認していると、泡を吹いて倒れている神徒に目を向けたアルがそう言った。

すると、ルーティアは眉をひそめる。

「放置するのは怖い。また何かあったら困るし……」

「……なら、殺す? 私の攻撃じゃダメだから、食いしん坊にやってもらうけど……」

「おい。何故私がそんな面倒なことを――――」

「……未知の食べ物があるよ」

「今すぐ頭を踏み砕いてくるぞ」

「待て待て待て待て!」

オリガちゃんに唆されたルルネが、意気揚々と神徒を殺しに行くのを引き留めた。

「一応、ランゼさんのところに連れて行って、詳しく魔神教団のことを調べてもらおう。魔神教団の連中が前に攻めてきたとき、その使徒は別のヤツに連れていかれちゃったしさ」

「あー……そういや、誠一が消えた後、オレたちもあのデストラって野郎を国王様んところに連れて行ったしな。いいんじゃねぇか?」

「でも……コイツの能力は本物。連れて行った先で目を覚ましたら……」

「そこはほら、誠一に能力を無効化してもらうとか?」

「なら安心」

「え、できること前提!?」

いや、そんな危険な能力はない方がいいに決まってるけども。

俺の反応を見て、サリアが首を傾げたまま不思議そうに言った。

「誠一ならできるでしょ?」

『うんうん』

「嫌な信頼感!」

サリアの言葉に、全員が頷いた。

それ、遠回しに俺が人間じゃないって言ってるようなもんだからね!?

そもそも、サリアたちができるって勝手に思ってるみたいだけど、そんな都合のいいこと――――。

『スキル【同調】が発動……完了しました。今回の内容は、周囲に転がる石を同調の本体とし、対象者……ヴィトールのステータスを同調させました』

「できるんかいっ!」

しかも同調の内容よ!

あそこの人、石ころと同じになったの!? 幹部から石ころ!?

ステータスが石と同じって想像がつかないけど……多分、しゃべったりはできるんだろう。

ただ、その特殊能力もなくなり、石と同じステータスになったようだ。いや、石のステータスなんて知らないけど。

すると、俺のツッコみでだいたい察したのか、アルがジト目を向けてきた。

「何が起こったのかは分からねぇが……またぶっ飛んだ能力でも発動したか?」

「え、いや、その……そこにいる神徒なんですけど……俺のスキルでなんか石ころと同じステータスになっちゃったらしく、もうその特殊能力どころかスキルや魔法も使えなくなったみたいで……」

「お前は何を言ってるんだ?」

俺が聞きたいです。

何だよ、石ころと同じステータスって。自分で言ってて笑えるわ。

「と、とにかく! コイツの力はなくなったっぽいから、すぐにランゼさんに届けてくるよ!」

「あ、おい!」

このまま長引くとますます俺が人間じゃないってなっちゃうので、俺は逃げるように転がっている男を担ぎ上げると、すぐさま転移魔法で王都テルベールにまで移動した。

直接王城に行くこともできるが、さすがにそれはアウトだろう。不法侵入だし、ランゼさんは王様だからな。感覚麻痺してきてるけど。

それでも、街中を男一人担いで移動する俺の姿はとても目立つ――――。

「追え! 絶対に逃がすんじゃねぇぞ!」

「ハハハハハ! 諸君、そんな重い鎧を着ていて、私に勝てるとでも? さあ、今こそすべてをさらけ出すのです!」

「黙れ露出狂! 今日こそは……」

「た、隊長! 広場で女児に声をかける不審者の姿が!」

「だああああ! 碌な奴がいねぇ!」

――――ことはなかった。

俺なんかよりよっぽどヤバい連中を追いかけ、兵隊さんは今日も頑張っていたのだった。平和だ。

そんなことを思いながら王城にたどり着くと、特に引き留められることなくすんなり中に入れてしまった。いや、平和だとは思ったけど、それでいいのか。

思わずお城の警備に首を捻っていると、遠くからルイエスが俺に向かって走ってきた。

「師匠! どうしたんですか?」

「いや、出先で魔神教団の幹部っぽい人物と出会ってさ。ルルネが倒してたから連れてきた」

「な、なるほど……ですが、幹部ともなりますと、拘束するのは難しいと思うのですが……」

「そこは大丈夫だ。なんか石ころと同じステータスになったから」

「さすが師匠です。私には理解できない次元にいます!」

HAHAHA! 安心しろ! 俺も理解できてない!

どこか遠い目をしているうちに、ルイエスが呼んでくれた兵隊さんに担いでいた神徒を預けた。

神徒を運んでいく兵隊さんを見つめながら、俺はふとこの城に来た時の警備の緩さについて訊いてみた。

「そういえば、ここに来た時あっさりと入城できちゃったんだけど、大丈夫なのか?」

「ああ……それは師匠だからですね」

「理由になってない!?」

「いえ、ちゃんとした理由ですよ? まずこの城に勤務している兵士たちは師匠のことを知っていますし、もし仮に師匠が暴れるような事態になれば、諦めるしかありませんから」

「まさかの諦めからスルーされてたの!? そもそも、暴れるなんてそんなことしないし、諦めずに対処を――――」

「少なくともステータスを石ころと同じにできる人間には、我々は勝ち目がありません」

「我ながら返す言葉もねぇ!」

ルイエスは完全に正論を言っていた。

ここにいても俺が人間じゃないみたいな話になってしまうので、結局そのまますぐに転移魔法でアルたちのもとへと戻るのだった。

◇◆◇

「――――さて、誠一も帰って来たし、さっさと行こうぜ」

俺がテルベールから戻ってくると、すでに目的地に行く準備をアルたちは整えていた。

「ルーティアちゃんのお父さんのいるダンジョンは、もうすぐなの?」

「うん。本当にあと少し」

「そっかー。これから楽しみだね!」

「……うん」

サリアの明るい言葉に、ルーティアはどこか複雑な表情を浮かべていた。

まあ魔神教団の連中に変なことされてないかとか、気が気じゃないよな。

「んじゃあ、さっそく行こうか」

こうして先に進むと、ルーティアの言葉通り、目的地がすぐに見えてきた。

そこは、巨大な穴が地面に空いており、地下に向かって階段が続いている。

「ここが、ルーティアのお父さんがいる場所なんだよな?」

「うん……」

「……誠一の攻撃の余波、ここまで来てんのかよ」

アルの言う通り、どうやら俺が打ち返した種がこの周辺も通過したりしたようで、地面がかなりえぐり取られていた。

そんな地面を頬を引き攣らせながら見つめていると、俺はあることに気づく。

「……ん? なあ、ルーティア」

「何?」

「お父さんのいるダンジョンの近くの地面……あそこだけぽっかりえぐり取られたような大きな穴が開いてるんだけど……」

「……本当だ」

そう、ダンジョンの横の地面が、何故かクレーターができたみたいに綺麗にえぐり取られていたのだ。

それはどう見ても俺の打ち返した種が原因って感じでもないし……違うよな?

「誠一の攻撃のせい……って感じでもなさそうだな」

「……ん。誠一お兄ちゃんの打ち返したっていう種、確かに地面をえぐってたけど、これはピンポイントにそこだけくり抜かれてる感じ」

「で、でも、誰がこんなところをくり抜くんでしょうか?」

ゾーラの一言にみんな考えるが、答えは出てこない。

そもそもダンジョンじゃなく、その横の土地がくり抜かれてるってのがなおさら意味不明だし。

「……まあ考えても分からないし、今はルーティアのお父さんの方に集中しよう」

「そうだね!」

多少気になるものの、俺たちはすぐにルーティアのお父さんのいるダンジョンに足を踏み入れるのだった。

◇◆◇

誠一たちがルーティアの父親の封印されているダンジョンに入ったころ、その近くに建てられて い(・) た(・) 魔神教団の施設は大惨事になっていた。

「何だ……何なんだ、この植物は!?」

「わ、分かりま――――ぎゃああああああああ!」

「そもそも植物なんですか、これ!?」

周囲に気づかれない様に光学迷彩機能を備えたこの建物は、普通は見つけることができない。

そしてダンジョンに入る際も、誠一たちはそんな建物を見ることはなかった。

光学迷彩だろうが何だろうが、普通なら誠一が気づかないことはない。

しかし、それでも誠一たちがその建物に気づかなかったのは――――単純にその場所にはすでにその建物がなかったからだった。

何と、世界が気を利かせ、わざわざこの建物に時間をとる必要がないと判断したため、誠一たちはもちろん、そこにいた魔神教団の使徒たちでさえ知らぬ間に、全く違う場所に建物が転移していたのだ。

――――それも、全く違う惑星に。

その結果、ルーティアの父親の封印されているダンジョンの横は、まるで何かにくり抜かれたかのような状態になっていた。

そして、転移した先のその惑星は元居た星と同じように生きることができる環境だったが……それは、彼らにとって運が良かったのかは分からない。

転移しただけでも大ごとだが、この魔神教団の施設には、誠一が打ち返した謎の植物の種がたくさん被弾した直後に転移したため、より一層悲惨なことになっていた。

そう、誠一の種の被害者はヴィトールだけでなく、魔神教団の使徒たちも例に漏れず綺麗に被害を受けていたのだ。

必死に謎の植物の種子砲弾から逃れる使徒たちだが、彼らはまだ気づかない。

星が違うということは、そこには未知なる生物が存在する可能性に。

「――――グルルアアアアア!」

「ひっ、ひぃぃぃいいいい!? こ、今度は何なんだああああああああ!?」

「ば、化け物です! 人型の、未知なる装備をした化け物が!」

「ま、魔神様ああああああ! た、助けてええええええ!」

どれだけ叫ぼうとも、彼らの声は魔神に届かない。

何故ならこの星は、かつて神々が生み出し、放棄した数ある星の一つなのだから。

「そ、そうだ! 今こそ研究により生み出した化け物どもをぶつけろ!」

「そ、それが……! 星からエネルギーを摂取していたのですが、その供給がストップしており、化け物どもの制御ができません!」

「何だと!? と、ということは……まさか……!?」

使徒の考えている通り、最悪の事態が訪れた。

「――――ギャアアア!」

「ケケケケケケケケケ!」

「フシュー! フシュー!」

次々と培養カプセルから解き放たれる化け物たち。

それらは、本来制御できたはずの存在であったが、その前提条件として元星の下でのみ可能という制約があった。

というより、他の惑星に移動する事態など誰も考えないので、それも仕方がない。

ただ、元居た星のエネルギーを使い、自身の手で生み出した化け物たちを制御するシステムを構築していたからこそ、その供給が経たれた今、化け物たちは無作為に襲い掛かった。

「だ、ダメです! 制御できません!」

「もう駄目だ……おしまいだあああああ!」

狂ったように叫び、逃げ惑う同僚たちを目にしながら、リーダー格の使徒は呆然とする。

「馬鹿な……何が……何が起きたというのだ……我々は、魔神様の寵愛を受けし存在なのだぞ……それが……」

その答えはただ一つ。

魔神より理不尽な『人間』がいた。

ただ、それだけであることを――――使徒たちが知ることは永遠になかった。