軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

魔神の復活

「おお……おお……!」

漆黒の闇で覆い尽くされた空間の中、ユティスは恍惚とした表情で一点を見つめていた。

その視線の先には――――。

『――――ご苦労であった、ユティスよ』

「は……はああっ!」

【闇】そのものが、そこにいた。

ユティスが存在するこの漆黒の空間が、まるで目の前の存在そのものであるかと思わせるほど、その【闇】には果てがなく、巨大だった。

そんな【闇】に浮かび上がる紫色の怪しい瞳は、慈悲深くユティスを見つめる。

『ここまで、長かった。我の封印は――――ついに解かれたのだ』

「はい……はい……魔神様……!」

そう、ユティスの前に存在している【闇】こそ、ユティスを含め、魔神教団が悲願としていた魔神だった。

魔神はユティスから視線を外すと、遠くを見つめる。

『さて……今の我の力はどれほどか……』

瞬間、ユティスはその場に立っていられないほど、その空間が軋み上げ、大きく震えた。

その力の強大さにユティスは畏敬の念を抱き、妄信的な視線を魔神に向ける。

「ああ……! これが……これこそが、魔神様の力……!」

しかし、魔神はどこか不愉快そうに眼を閉じると、再びユティスへと視線を移した。

『これが、我の力? こんなものではない。こんなものではないのだ……!』

魔神の言葉には怒りがにじんでおり、ユティスは思わず硬直する。

『我も弱くなったものだ。まさか、たかだか 数(・) 億(・) の(・) 宇(・) 宙(・) を消し去ることしかできないとはな』

「っ!?」

その途方もない大きな力に、ユティスは何も口にすることができない。

だが、魔神にとってはこれくらいは当たり前であり、それでいて弱体化しているのだ。

それも当然のことであり、この世のすべては魔神を含めた神が生み出し、宇宙も法則も概念も人間も……何もかもが、神々の手で生み出されたのだ。

製作者がそれを壊すのは簡単といえる。

『ただ……妙だ。我の封印されしこの星が、何故消せない?』

「え?」

『我を長きにわたり苦しめたこの星が……何故消すことができんのだ』

「それは……」

いくら特殊な能力を持っているとはいえ、人間であるユティスに、神が分からないことが分かるはずもなかった。

だが、何故か……一瞬だけ、これまで三人の使徒がやられているにも関わらず、特定できない存在がいるということが、ユティスの脳裏をよぎった。

しかし、その思考は機嫌を損ねている魔神を前にしているため、すぐに消え去った。

「お、恐れながら申し上げますと、この星に魔神様が長い間封印されたことにより、その強大なお力がこの星に定着してしまったのではないかと愚考いたします」

『……なるほどな。それはあるやもしれん。それに、他の神どもが我の復活を恐れ、この星に細工をしている可能性もある。業腹だが、ヤツらは格だけで言えば我と同等。ヤツ等の行動が見えなくとも不思議ではない』

魔神は納得した様子で機嫌を戻すと、ユティスに視線を向ける。

『そこで、だ。ユティスよ』

「はっ」

『我は少なくとも封印前までの力を取り戻さなければ話にならん。それは分かるな?』

「はっ」

『であれば、我はその力が戻るまでこの場で力を蓄える。他の【神徒】や【使徒】を使い、今まで通り負の感情をかき集めるのだ』

「はっ!」

ユティスは魔神の言葉に跪いた状態で返事をした。

これで魔神からの話は終わりかとユティスは思いかけていたが、魔神の依頼は続きがあった。

『では、今まで通りの行動とは別に、ユティスにはあるものを探してきてもらう』

「は? あ、あるものですか?」

『ああ。我が封印される直前の記憶が正しければ……我とヤツらの力がぶつかった際、何かが生まれたはずなのだ』

「それは……」

『我はその何かを確かめる前に封印されてしまった故、その正体を把握できていない。だが……それは、我にも、そして他の神々ですら予想していなかったモノなのだ。これがどういう意味か分かるか?』

「……申し訳ございません。私には……」

『分からんか? 神々が、そして我が、予想できなかったモノだぞ』

「!?」

魔神の言葉に、ユティスは目を見開いた。

魔神だけでなく、他の神々は文字通り何もかもを生み出した存在である。

全知全能をそのまま体現する神々が、知らないものが生まれたと魔神は言っているのだ。

『それは我と神々の力の衝突で生み出されたことから、力の結晶だろう。それも恐ろしいほどのな。神々のことだ。そんな未知のモノを手に入れ、利用するとは考えられん。ヤツ等は停滞を好む。とはいえ、我とヤツ等の力の結晶であれば、そう簡単に処理することもできんだろう。恐らくこの星のどこかに封じたはずだ』

「な、何と……」

『それを見つけ出し、我に捧げよ。我は、ヤツ等の上を行くために、それを使う』

「そ、そんな! 危険ではないのですか!?」

『フン。危険か、それすら分からぬ。だが、我は復讐のためならば、手段は選ばん。どんなリスクがあろうとも、我はその力を手に入れ、今度こそ……すべての頂点に立ち、我の理想とする世界を創り上げるのだ』

黒い感情をにじませ、そう語る魔神を前に、ユティスは首を垂れた。

「ハッ! このユティス、必ずやそれを見つけ出し、魔神様に献上いたしましょう」

『期待しているぞ――――』

魔神はそう告げると、闇に溶けるように消えていくのだった。

◇◆◇

「――――ぶえっくしょい!」

俺……誠一は、アルの話を聞いてすぐに【嘆きの大地】とやらに向かっていた。

すると、何故か急に鼻がむずがゆくなり、大きなくしゃみをしてしまったのだが……誰か俺の噂でもしてるのかね? いや、噂されるほど有名ではないと思うけど。

そんなことを考えていると、サリアが心配そうに俺を見る。

「大丈夫?」

「え? ああ、大丈夫。多分」

「多分って……まあ、誠一が風邪ひく姿想像できねぇけどな。てか、病気になるのか?」

「いや、なるよ!? ……あれ? なるよな?」

「自分で分かってねぇのかよ……」

俺の反応に、アルは呆れた様子でそういうが……え、言われてみれば、この世界に来て病気になった記憶がない。

この世界に来て早々、【果てなき悲愛の森】で毒キノコやらを食って、死にかけはしたけど……病気にはなっていないのだ。

ともあれ、つい否定しちゃったけど、病気にならないならそりゃいいことだ。そんなの人間じゃないとかの話は別にしてね!

「それにしても、ここら辺は日差しが強いな……」

アルがそう言いながら空を見ると、確かに日が燦燦と降り注いでいる。

周囲も、徐々に木や草の数も少なくなっているようで、魔物どころか人すら見かけない。

「……なあ、誠一。その恰好暑くねぇのか? 見てるこっちは暑苦しいんだが……」

「え? 別に暑くないけど……」

「同じ人間とは思えねぇ……」

「酷くない!?」

いや、装備やら元々の俺のステータスやらで暑くないとはいえども。

アルは汗をかいているようだが、そんな状況下でもサリアは特に気にした様子もなく、いつも通りだった。

「ほ、ほら! サリアだって普通だろ? なあ?」

「え? うん、別に暑くないよ?」

「サリアは魔物だろ?」

「そうだった」

最近は人の姿しか見ていないので忘れかけるが、サリアは立派な魔物だ。というか、ゴリラだ。

自分で墓穴を掘った俺は、話題を変えることに。

「そ、そういえば、今から向かう【嘆きの大地】って魔王国の近くなんだよな?」

「ああ、そうだな」

「それじゃあもう今ここって魔王国領に入ってるの?」

「いや、オレたちが使ってるこのルートは、直接【嘆きの大地】に向かう最短ルートだ。だから、魔王国領を通らねぇよ」

「ふーん……ルーティアたちは魔王国領を通ったのかな?」

「そうなんじゃねぇか? 【嘆きの大地】自体は魔王国の隣なわけだし、それなら途中まで一緒の方が安心だろ。魔王軍って元々国だけじゃなく、魔王を守る仕事でもあるんだから」

「あー……」

すっかり忘れてたけど、彼ら魔王軍はルーティアたちを守る役目もあるんだった。

その守るべき対象である初代魔王のルシウスさんに鍛えられてるとかって話を聞いてたから、忘れがちだけどさ。

「……あれ? でも、なんでそんな近くにルーティアのお父さんが封印されてる場所があるのに、封印解かれてないんだろうな?」

「それは……確かに。あれだ、封印を解く手段がなかったとか? それこそお前が必要とか……」

「いや、俺が必要な理由は分からないけど、封印を解く手段がないってのはおかしいんじゃない? もし本当に俺が必要とかっていうんなら、先に向かってる理由も分からないし……」

俺もアルも理由が分からずに首を捻っていると、サリアが声を上げた。

「あ、魔物だよ!」

「え? ああ……魔物というか、生き物を久しぶりに見た気がする……」

いや、実際は出発前とかに散々人に会ってるわけで、そんなこともないんだが、徐々に周囲の様子が殺風景に変わっていく頃には、完全に魔物どころか人に会うことすらなくなっていた。

サリアが見つけた魔物に目を向けると、それは見た目だけで言えばフタコブラクダのような魔物だったが、その特徴的なコブがまるで火山のようになっており、その魔物も俺たちを見つけ、敵意を向けてきている。

俺はすぐに魔物を鑑定する。

「んー……『ラクダルマLv:402』?」

どこがダルマなのか。

不思議な名前に首を捻っていると、ラクダルマとやらは体を震わせた。

「ひ……ヒヒィン!」

「それは馬の鳴き声じゃないの!?」

馬っぽいとは思うが、ラクダってそんな声で鳴くのか!? ウソだろ!? うちのロバでさえそんな声で……いや、アイツはしゃべるわ。

ついついラクダの鳴き声に突っ込んでいると、ラクダルマは体を震わせた状態から、突然その火山のようなコブが膨張し、見た目通りマグマが一気に噴出した。

「うわっ!?」

思わずその光景に声を上げ、こっちまでマグマが飛んでくるのかと身構えていると……。

「ヒヒィィン!」

「ええええ!?」

そのマグマはまっすぐラクダの頭上から降り注いだ。

じ、自分のマグマを被ったぞ……。

何がしたいんだと魔物であるにもかかわらずついその行動に目を奪われていると、ラクダに降り注いだマグマが黒く固まって――――。

「ヒヒン」

「ダルマ……だと!?」

その名前通り、ラクダの顔だけが飛び出した状態で、体は完全にダルマ型の溶岩で覆われていたのだ。

驚く俺を見たラクダルマは、何やら得意気な表情を浮かべる。

「ヒヒーン」

「クッ……その顔腹立つな……!」

憎たらしいほど得意気な表情を浮かべるラクダルマにイラッとしていると、ふとあることに気づいた。

「あれ? でも、その状態でどう攻撃するんだ?」

「……」

「……」

俺とラクダルマの間に冷たい風が吹き抜けた。周囲は荒野で暑いはずなのに。

「ひ、ヒヒィィィイイイイン!」

「勢いで威嚇するだけかよ!?」

どうやら攻撃手段はないようで、口を開けると、中からピンク色の袋っぽいものと、白い液体を口から出し始めた。き、汚ぇ!

「エイ」

「あ」

「ひ、ヒヒィィィィン!?」

ラクダルマの威嚇に留まっていると、いつの間にかゴリラ状態になっていたサリアが近づき、ラクダルマを殴り倒してしまった。

「えっと……サリアさん? よ、容赦ないですね?」

「威嚇サレタ。ダカラ、倒シタ」

ザ・野生理論だった。

唖然とする俺に対し、今まで黙っていたアルが、ため息を吐いた。

「はあ……そりゃさっきのは魔物なんだし、倒すだろ。まああのまま放置でも害はなかっただろうけどよ。んなことより、とっとと行こうぜ? お前に付き合ってわざわざ倒さず見ててやったんだからよ」

「あ、はい」

どうやらわざわざ俺に付き合ってくれたようでした。ほんとすみませんね。

それにしても、色々な魔物が世界にいるんだなぁ。

そんなことを思いながらその場を後にした俺たちだが……その倒されたラクダルマでさえレベルが400を超えているということに、特に疑問を感じていない俺たちは、さっきまでアルと会話していた何故魔王国の近くにありながらもその魔王の封印を解かなかったのかという理由に気づくことはないのだった。