軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

最終進化の結果

俺―――― 高宮翔太(たかみやしょうた) は、神と名乗る声によって、異世界へと転移させられていた。

転移と言うよりは、召喚と言った方が正しいだろう。

現に、俺達全校生徒を囲うように、多くのローブに身を包んだ人間がこっちを見ている。

「ここが異世界か!?」

「初めはいきなりで戸惑ったけど……」

「よくよく考えたら俺達全員チートなんだから気楽に考えれば良いんじゃね?」

「魔王とか余裕っしょ!」

「でも私はまだ……」

俺達を囲んでいる人間を観察をしていると、他の皆は興奮してたり、どこか不安げだったりと様々な様子を見せていた。

普通、いきなり召喚とかされたら喜ぶどころかキレるよな。俺だったらキレる。いや、もう既にキレてる。

だって、地球には父さんや母さんだっている訳だ。それに、この学校以外にも俺の友達はたくさんいる。

父さん達は、異世界に召喚された俺達をもう覚えていないんだろう。これが、どれだけ寂しい事か分かっている奴等が何人いるだろうか?

それに、人口の増加だか何だか知らないが……いい迷惑だ。他の国から連れて行けよ。こちとら少子高齢化じゃ。しっかり現地調査しろ。

内心悪態を吐きながらも、周りの観察は怠らない。いきなりどんな事態に発展するか分かったもんじゃないからな。

取りあえず、俺達が召喚されたと思われる場所は、石造りの薄暗い部屋だ。

全校生徒が召喚される訳だから、外とかで召喚されてるのかと思ったら、部屋の中だったので驚きだ。それに異常に広いし。

一人慎重になっていると、不意に背後から声をかけられる。

「お、いたいた!翔太!」

「お兄ちゃん!」

「!」

声のした方向に視線を向けると、男子生徒と女生徒がこっちに向かってきているのが分かった。

「賢治!それに美羽!よく俺が見つかったな」

「まあ、伊達に幼馴染をやってないってことよ」

「私は賢治お兄ちゃんについてきただけだけど」

俺の下にやってきたのは、幼馴染とも腐れ縁とも言える 荒木賢治(あらきけんじ) と、妹の 高宮美羽(たかみやみう) だった。

賢治は、短い地毛の茶髪と、人懐っこい笑みが特徴的だった。俺等の学園では珍しくも無いけどアイドル級のイケメンでもある。

美羽は、肩まで伸びた黒髪を花のピンでとめており、雰囲気と見た目から、清楚さと元気溢れると言ったモノを感じさせる。兄である俺から見ても相当可愛い。シスコンじゃないからな。

ただ、二人ともアイドルグループに所属している訳じゃない。俺も含めてスカウトが無かった訳じゃないけど、全員興味が無いから断っていた。

てか、幼馴染なのと俺を見つけられた事は関係ないだろうに……。

「それより美羽。賢治先輩だろ?俺もお兄ちゃんじゃなくて、宮代先輩って呼びなさい」

「えー。学校じゃないから良いじゃん。それに、お兄ちゃんを先輩で呼ぶのとかなんか違和感が凄くて嫌っ!」

まあ確かに俺も、美羽から先輩呼ばわりされると違和感満載だけども……。

そんなやり取りをしていると、今度は俺だけでなく、賢治達にも声がかけられた。

「あ、いたいた!」

「探したよぉ~!」

俺も賢治たちも声の方向に振り向くと、二人の女子が近寄ってきた。

「おお、絵里と梨香か」

新たに合流した二人は、俺の彼女である 新島絵里(にいじまえり) と、賢治の彼女である 村田梨香(むらたりか) だった。

絵里は、簡単にまとめた髪と童顔が特徴的で、俺の妹である美羽よりも背が低く、もしかしたら学年で一番背が低いかもしれない。ちなみに俺はロリコンでは無い。違うからな。

梨香はゆるやかなウェーブのかかった黒髪と少しタレ目なせいか、どこかおっとりとした雰囲気がある。まあ実際マイペースなんだけど……。

ちなみにこの二人はそこそこ有名なアイドルだったりする。まあ、アイドルグループに所属してるって言う方が正しいけど。

「よし、これで大体何時ものメンバーが揃ったな」

絵里たちが俺達の下に辿り着くと、賢治がそう言う。

「あれ?でも神無月さんや日野さん。それに誠一君は?」

どこか舌足らずな様子で絵里がそう訊いてきたので、俺達は辺りを見渡した。

「日野ならさっき友達らしき人達といるのを見たぞ」

賢治がそう言うが、やはり神無月先輩も誠一も見当たらない。

「……まあ、神無月先輩は大丈夫だろうけど、誠一が……」

「やっぱりあの一人だけ一緒に転移されないって言われてたのって誠一お兄ちゃん!?」

俺がそこまで言いかけると、美羽がなにやら焦った様子でそう訊いてくる。

「確証は無いけど……」

「ちょっと誠一のクラスメイトに確認取ってみるか」

賢治はそう言うと、近くにたまたまいた誠一のクラスメイトを一人捕まえる。

「おい、青山」

「ん?どうした、荒木」

賢治が捕まえたのは、サッカー部の主将にしてエースの青山だった。

「お前、誠一知らないか?」

「誠一?」

青山は賢治の言葉に首を捻る。

「そんな名前の奴俺のクラスにいたか?」

俺達は青山の言葉に顔を顰めた。

すると、青山の近くにいた、大木という奴がいきなり笑いながら青山に言う。

「青山、誠一ってブタだよ、ブタ。イヒヒッ」

「ブタ?……ああ!あのクソ豚野郎か!随分カッコイイ名前だから、イケメンなのかと思ってたよ」

大木の言葉で思いだした青山は、笑いながら教えてくる。

「あのクズならここにはいないぜ?俺達の足手まといになるだろうから、グループには入れなかったんだよ」

「そうそう。あんな生きてる価値も無い奴は、さっさと死んだ方が――――ぐえっ」

大木が青山の言葉に乗っかって言いかけたが、続きを言う事が出来なかった。

何故なら、賢治が青山と大木を、それぞれを片腕で胸倉を掴んだ状態で持ちあげたからだった。

「おい、テメエ等……つまり、誠一を切り捨てたのか?」

低い声音で賢治が二人にそう訊く。

普段は人懐っこい笑みや、持ち前の明るさから気さくな奴として皆に知られているが、一度怒ると怖い。

身長が185cmもある上に、ボクシングをしている事もあって、腕力も相当なモノだ。

「な、何だよ!別にいいだろ!」

「そ、そうだ!本当の事を言ってるだけじゃねぇか!」

しかし、苦しさで顔を歪ませながらも二人はそう言う。

「テメエ……」

賢治がそうキレかかった時だった。

「まあそう熱くなるな」

不意に二人を持ちあげていた賢治の手に、白い綺麗な手が乗せられた。

「か、神無月先輩……」

「降ろすんだ」

腰まで伸びた艶やかな黒髪と、凛とした雰囲気を纏った美人は、俺達の学園の生徒会長でもあり、幼馴染の一人でもある 神無月華蓮(かんなづきかれん) だった。

元々神無月先輩には頭が上がらない賢治は、渋々神無月先輩の指示に従い二人を乱暴に降ろす。その際、二人とも尻もちをついていた。

「どうして止めるんすか!こいつ等のせいで誠一が……!」

「分かっている。私も怒っているからな」

そう言われた賢治は、顔を真っ青にするとそれっきり黙ってしまった。

そう言う俺や美羽たちも、神無月先輩の言葉に顔を青くする。

この人は、一度だけ誠一に対してキレた事があった。その時の事を、俺を含めた全員が思いだしたのだろう。あの時は……誠一がよく生きてたなと思う。

実際目の前の神無月先輩は俺達の目から見ても分かる位キレている。まあ、理由は一つしかないんだけど……。

それ以上に、超怖い。ヤベェ、お家に帰りたい。

そんな気持ちを抱かれている事を知っているのか、神無月先輩は一瞬俺達に苦笑いを向けるとすぐに、青山達に向き直ってしゃがみこむ。

「君達のクラスから一人だけ、この場にいないようだね」

「そ、そうですけど……」

青山が恐る恐ると言った様子でそう言うと、神無月先輩は凍てつく視線を青山達に浴びせた。

「愚かだ。実に愚かだ。非常事態だというのに、そんな時でもくだらない虐めを続けたのだろう?」

「それは……」

「所詮君達のクラスに存在する人間はその程度だったのだろう。もう私から君達に言うべき言葉は無い」

最後まで凍てつく視線を浴びせた神無月先輩は、視線を外すと立ち上がった。

よ、容赦ねぇ……。

神無月先輩は、地球で有名だった神無月グループの令嬢であり、本来なら俺達の通っているような学園では無く、もっと頭の良い学園に行けたはずなのだ。でもそうしなかったのは、単純に家から一番近かったという事と、俺達と離れるのが嫌だったそうだ。いや、俺達と言うよりアイツから離れるのが嫌だったのか……。

それに、神無月先輩は、学園内では男女ともに人気がある。アイドルを育成する事を目的としている学園なのに、神無月先輩の綺麗さはそれ以上だった。品行方正、才色兼備、文武両道……そんな言葉がすぐに頭に浮かぶような人だからこそ、人気が高いのも当たり前なんだけど。面倒見もいいしな。

この人を見ていると、強かな日本女性と言うモノを実感させられる。まあ、大和撫子を体現したような人物はもう一人いるけど、神無月先輩以外の俺達とは関わりないしな……。

人気者である、神無月先輩から容赦のない言葉を浴びせられた青山と大木は、絶望したような表情を浮かべていた。あ、この二人も神無月先輩のファンの一人だったんだな。

そんな事を俺が思っていると、神無月先輩はさっきの殺伐とした雰囲気が嘘のように、何時も通りに戻った。

「まあ、今回は誠一君が悪かったという事もあるんだろう」

「それは……」

賢治が否定しかけたが、神無月先輩の言っている事は正しかった。

幼馴染だからこそわかるが、柊誠一という男は、良くも悪くもお人好しなのだ。

絵里や梨香、それに日野は高校に入ってから知り合った訳で、誠一の事も友達程度の認識だろう。

でも、俺や美羽、賢治に神無月先輩はそうじゃない。

誠一は、幼馴染で、とても大切なかけがえのない存在でもある。

誠一は小学校の頃から虐められていたにもかかわらず、俺達を助けてくれた。

中には、命の危機を救ってくれたこともあるし、それ以上に誠一の前向きな性格は近くにいるだけで自然と元気がもらえた。

そんな誠一が、俺達に気を遣って、高校に入ってからは全然関わって来る事が無かった。中学校の頃にもそう言う事があったのだが、高校に入ってからは顕著に表れた。

俺達は誰一人として気にしてないのに、アイツは一人で勝手に気を遣って俺達を避けたのだ。……俺達の立場を悪くしないようにするために。

俺達の株を気にして、わざと突き離すように言った誠一にキレた、神無月先輩は超怖かった。あ、思いだしたら震えてきたぞ。

とにかく、俺達の事を気にして避け続けたせいで、誠一は今もなお虐められている。

自分の容姿とかを自慢するつもりは無いけど、俺や賢治たちもそれなりの見た目だからか、学園ではそれなりのポジションにいる。俺達だからこそ、今度は誠一を支えるという意味で助けたかったのだ。

俺達は何時も誠一が直接的に虐められてる現場に居合わせた事が無い。それに、どれだけ誰に虐められたりしているのか訊いても頑なに答えようとさえしないのだ。

誠一の両親が死んで、一時期引きこもった時も俺達を頼る事は無かった。

そんなアイツの態度が、俺達の事を信用していないようにも思えて、悔しく思った事もあった。もっと、友達である俺達を頼って欲しかった。

なのに勝手に一人で抱え込んで……。

誠一の今までの事を思い返していると、神無月先輩はふと頬を緩めて言った。

「ただ……誠一君なら大丈夫だろう」

その言葉は、何も知らない人が聞けば楽観視し過ぎだろうという感想を持つモノかもしれない。

現に、絵里や梨香は首を捻っている。

でも俺や美羽、そして賢治は違う。

神無月先輩の言葉に思わず苦笑いが零れる。

「確かに、アイツなら……」

「誠一お兄ちゃんならねぇ……」

美羽も賢治も笑顔でそう言う。

そう、誠一なら大丈夫だろう。

何の根拠も無いけれど、自然とそう思えて仕方が無かった。

アイツのポジティブな思考回路は世界一だ。アイツといると、面白い。

どんなに危ない場所に居ても、面白おかしく、俺達の想像の斜め上を行きながら切り抜けるだろう。

「そうだろ?誠一」

俺はそう小さく呟いた。

◆◇◆

俺……柊誠一は、あまりにも予想外過ぎる現実と対面していた。

「誠一!嫌だよ……死んじゃ嫌だよぉ!」

サリアが 横たわる(・・・・) 俺に、そう泣き叫ぶ。

そんな姿を、俺は 上から(・・・) 見ていた。

うん、どう言う状態か説明しよう。

俺――――

『幽体離脱しちゃってるんですけどぉぉぉぉおおおおお!?』

――――そう言う事だった。

ってヤバいじゃん!?俺今幽霊状態ってわけ!?

お、落ち着くんだ……何故こんな状態になったのか、一度整理してみよう。

まず、あの死の宣告とも言える進化を告げる声が脳内に響いたと思ったら、俺の意識はそこで完全に途切れたんだよな。恐らく許容範囲を超える痛みで、意識が無くなったんだろう。

それで目が覚めたら、俺と、俺の体に泣きつくサリアを見下ろしている訳だ。

初めは意味が分からないで自分の体を見てみると、何故か半透明。足もない。

……これを幽霊と言わずしてなんと言おうか。

『って冷静に分析してる場合じゃなくね!?俺今死にかけてるんだよね!?』

それに、サリアが泣きついている俺の体!それの様子がさっきからおかしい!

だって、髪の毛は目で見て分かるんだけど、それ以外の顔や体が、ボコボコボコッ!って何度も隆起したり、へこんだり、潰れたり、伸びたり、縮んだり……。

つまり、俺の体が人間としての原形を留めていないんですけど!?

それに俺の気のせいじゃなかったら、キュィィィィィン!とか、ドガンガキンズガン!とか、ズゴォォォォォ!とか、明らかに人間の体から聞こえる筈のない音が聞こえるんですけど!?

てか気持ち悪っ!俺の体……なんかスライムみたいだな!それが服を着てるんだから、妙にシュールだしね!

自分の姿がどんなのか確認できると思ったんだけどなぁ……こんな人間ですらない状態じゃ、普段の俺の容姿が分からないじゃないか。……あれ?意外と俺ってこの状態に順応してる?こんな状況で、自分の姿を確認したいとか思ってる訳だし。

そんな事を自分の事を見下ろしながら思っていると、サリアが何かを思い出したような顔をする。

「そ、そうだ!確か、こう言う時は……」

こう言う時ってどんな時!?人間がスライム状態になるなんて事生きてる中でまず遭遇する事無いですよねぇ!?俺がそんな未知との遭遇を果たしたら、すぐ逃げ出す自信があるね。

一人で頷いていると、サリアはとんでもない事を言いだした。

「心臓マッサージと人工呼吸!」

いやいやいやいやいや!おかしいでしょ!?スライムみたいな状態の人間に心臓マッサージって!それに、人工呼吸も顔の部分が既にゴチャゴチャで、口がどこにあるのかさえ分からないぞ!?それ以上にサリアが心臓マッサージや人工呼吸を知ってた事に驚きだけど……。

「対処方法が分かれば、早速実行に移さなきゃ!」

それが正しい対処方法な訳ないでしょうがああああああああああ!

ぐにゃんぐにゃんの俺の体に、心臓マッサージしてみろ!潰れるだけだって!それ以上に俺の骨や肝臓、胃腸とかの消化器系統全般どうなっちゃってるの!?

つか、俺の体って一体どうなっちゃうわけ!?俺自身は幽霊状態だし!

サリアの行動にツッコみつつ、自分の状態をどうにかしようと思っていると、サリアは俺の胸だと思われる位置に手を当て、心臓マッサージを始めた。

「えいっ、えいっ、えいっ、えいっ!」

肘を真っ直ぐと伸ばし、胸の中心部を秒単位で圧迫し続ける。……それにしても、本当にそこが俺の胸の位置なのかと疑いたくなるほど、俺の体は原形をとどめていない。まあ、本当に胸の位置に手を置いているんなら、心臓マッサージの方法は完璧ですね!一つ残念なのが、体が最早人間じゃないから、ぐにゃぐにゃしてて、心臓マッサージの意味をなしていない事かな!

胸骨圧迫を30回程行った後、恐らく人工呼吸をしようと思ったのだろう。だが、サリアは俺の顔らしきモノを見て、首を捻った後、人工呼吸をおこなわずにこう言った。

「あれ?口とか鼻ってどこだろう?」

分からんのんかいっ!じゃあ何故始めた!?

いや、俺のために心肺蘇生法を実行してくれるのは嬉しいさ!でもね?これはそんなモノでどうこうなる問題じゃないでしょ!?実際に俺は幽霊状態な訳だし!

どれだけ俺がツッコんでも、今の俺の声はサリアには届かない。

そして、サリアは何をトチ狂ったか、いきなりこんな事を言いだした。

「そうか!私の力が足りないから駄目なんだね!」

ちっがああああああああああああう!

違うよ、サリアさん!全然違う!たった今、貴女は俺の体で人工呼吸をするのは無理だって分かった所でしょ!?何故力が足りないとかそんな考えに至った訳!?

「そう言う事なら……えい!」

そんな掛け声とともに、サリアの体が光に包まれ、しばらくして光が収まった後には再び裸ワイシャツのゴリア(ゴリラバージョンであるサリア)が出現した。

「誠一、待ッテテネ。今、助ケル」

ち、ちょっと待ってくださいよ。どうするつもりなんですか?ゴリアさん……。

それ以上に、何で体の一部をゴリラにするんじゃなくて、全身をゴリラに変えたんでしょうか?二度と見たくなかった裸ワイシャツである、ゴリアをもう一度見る羽目になったじゃないか……!

ゴリアの行動にただならぬ不安を感じていると、突然ゴリアは両手で拳を作り、それを振り上げ――――

「エイッ!」

――――俺の体に振り下ろした。

『俺の体がああああああああああああああああ!』

潰れた!俺の体が潰れたよ!『べちゃ』って音がしたよ!

「…………アレ?」

アレ?じゃねえええええええええええええええええ!

俺の体が破片となって飛び散ってるぅぅぅぅうううう!俺の帰るべき体がああああああああ!

幽霊である俺は、頭を抱えて叫んでいると、再び目疑うような光景が視界に映る。

『…………へ?』

それは、飛び散った俺の体の破片らしきものがウネウネと動き、そして再び一つの塊となると言った光景だった。

…………。

俺は頭でもおかしくなったんだろうか。

もし仮に、幽霊状態の俺が、自分の体に再び戻れるんだとすれば、その頃の俺は人間辞めてると思うんだよね。確実に。なんと言うか、サヨナラ人類どころか、サヨナラ生物でもいい気がしてきた。……よくないけど。

俺の脳内処理スピードが現状に追いついていないと、いきなり俺の体らしき塊が光りだした。

そして、目の前で輝きを見たゴリアは、目を両手で押さえ――――

「目ガ……目ガ~」

何でその台詞を知ってるの!?あ、俺が言ってたもんね!それにしても、メチャクチャ棒読みですね!

ゴリアの一人ボケを眺めていると、不意に俺は凄い力で何かに引っ張られ始めた。

『な、何だ!?』

引っ張られる方向に目を向けると、光り輝く俺の体……らしきものがあった。

『え!?もしかして俺の体ってアレになるの!?』

ウソでしょ!?あれただの塊じゃん!?人間の形ですらないよ!?潰れてもう一度集まった体らしきモノは服着てるし……色々とおかしいよね!?

どんなに俺が抵抗しても、元のあるべき場所に戻ろうとする力には叶う筈も無く、呆気なく俺の体らしき光り輝く塊に吸い込まれた。

吸い込まれてみると、何とも不思議な感覚だった。

最早体は人間の形をとどめていないのに、何故だか凄く馴染んでいる気がする。

それに、目も口も耳も鼻も……何も無いのに、全てを感じられる。何コレ、怖い。

何とも言えない感覚に身を任せていると、俺の体らしきものが 蠢(うごめ) き、そして徐々に何らかの形を形成して行くのを感じる。

それは、慣れ親しんだ人型。

手、足、胴体、頭、顔……そんな感じでどんどん形が出来ていく。

目、耳、鼻、口等の体のパーツも形成される。

何かおかしな感覚だ。

妙な全能感を感じているよ。

「せ、誠一……」

眼がまだ完全に出来あがっていないのに、サリアが既に人間に戻っている事も分かる。

そんなサリアの驚きの声を聞いていると、俺の体は完成した。

「……」

静かに目を開く。

そしてすぐに、俺は自分の体を見下ろした。

進化する前から服装は変わっていない。

手も足も胴体もちゃんと存在する。

ただ、地球にいた頃の俺からは考えられない程引き締まった体が目に飛び込んで来た。心なしか視線も前より高くなってる気がするし……。

顔を触ってみても、目も鼻も口も耳もちゃんとある。何だかまつ毛が長い気もするし、髭やニキビ等のデキモノだらけだった顔は、ツルツルしている気がする。

頭も禿げるどころか、髪の量が多くなった様にも思える。進化する前は、髪の毛薄かったからなぁ……。

自分の体を確認していると、ふとサリアの姿が視界に入った。

「ぽ~」

……どうしたんだろう。サリアが頬を赤らめて、こっちを惚けた表情で見てるよ。まあゴリアじゃないからいいんだけどね!

つか、サリアはあれだけ気持ち悪い進化をしていた俺によく引かなかったな。俺だったらドン引きするぞ。

それどころか、俺の事を助けようとしてくれたわけだし……。何で俺の事が好きなのか未だに理解出来んよ。俺には過ぎた女性ですね!……元ゴリラだけど。いや、今もゴリラだけど。

おっと……そんな事より、ステータスを確認しよう。これが一番気になっていたんだ。

俺は、すぐにステータスを表示し、進化してからどう変わったのか、確認した。

≪柊誠一≫

種族:人間(人間)

性別:男(男)

職業:無名の怪物(魔法剣士)

年齢:17(17)

レベル:1(1)

魔力:116024(11)

攻撃力:118075(11)

防御力:113252(11)

俊敏力:120252(12)

魔攻撃:115563(11)

魔防御:116665(11)

運:109030(10)

魅力:ドキドキで壊れそう(10)

≪装備≫

上質なシャツ。上質なズボン。上質な肌着。上質なパンツ。賢猿の鎖。水霊玉の短剣。夜の腕輪。黒王石のチョーカー。果て無き愛の首飾り。憎悪渦巻く細剣。慈愛溢れる細剣。

≪固有スキル≫

瞬間記憶。完全記憶。瞬間習得。瞬間回復。完全解体。心眼。

≪スキル≫

【攻撃】斬脚。双牙撃。剛爪。

【耐性】麻痺耐性。睡眠耐性。混乱耐性。魅了耐性。石化耐性。阻害耐性。毒耐性。疲労耐性。

【移動】刹那。

【特殊】上級鑑定。超調合。道具製作:超一流。索敵。偽装。同化。千里眼。

≪魔法≫

生活魔法。水属性魔法:極。闇属性魔法:極。

≪奥義≫

疾風。一閃。雲霧。

≪武術≫

ゼフォード流守護剣術:開祖。

≪称号≫

臭い奏者。ゴリラの嫁を持つ男。総ての頂点。自重知らず。雄の王。

≪所持金≫

1000000000G

「駄目だ、ワケ分からねぇ……!」

ステータスの破綻っぷりが俺の理解できる範囲から大きく外れてやがる……!

何か色々増え過ぎじゃね!?どうなってんの!?

それに、俺の種族が普通の人間になってるぞ!?あんな気色悪い進化したのに!?

種族の欄に書かれた、人間という文字にそうツッコんでいると、いきなり種族の部分だけがピックアップされ、目の前に表示された。

『人間』……この言葉にどれだけの意味が込められているのだろう。進化の末、一周回ってそのまま人間という種族に落ち着いているが、ただの人間と思うなかれ。

「深いな!」

というか、一周回って人間ってどう言う事だよ!?俺的には人間どころか生物的にも進化できる範囲を天元突破しちゃってると思ったんだけど!?

それにしても、人間と言う種族にここまで深く考えさせられるとは思わなかったぞ!

まあ種族は置いておこう。一応表記的には人類からおさらばしてなかったんだし、前向きに考えよう。うん。

でもさ?職業の無名の怪物って何?種族は人間なのに、何で職業は怪物なワケ?矛盾してない?てか、怪物扱いって酷くね?俺もこの一瞬を必死に生きてる人間だよ?

そんでもってステータス!ゼアノスどころの話じゃねぇ!こんなステータス見ちゃうと、職業の怪物が頷けてしまうじゃないか、馬鹿野郎っ!

でも魅力は一体何なの!?ドキドキで壊れそう?え、何?1000%の愛なんですか?歌の王子様なんですか!?せっかく空欄から脱却したと思ったのに……。意味分からねぇよ、ド畜生め!

つか、新しく追加されてる固有スキルって何!?何時の間にか完全解体はこっちに移動してるし!

取りあえず、見なれない固有スキルとやらに追加されているモノの効果を確認した。

『瞬間記憶』……一瞬で、見たモノを覚えてしまうスキル。

『完全記憶』……一度覚えたモノは忘れないスキル。

『瞬間習得』……一瞬で、教わったモノを習得してしまうスキル。

『心眼』……動体視力などが跳ね上がり、ありとあらゆる攻撃が遅く見えるスキル。ついでに、色々と見えるようになる。

「チクショウッ!チートのオンパレードじゃねぇかッ!」

俺は一体何になるんだ!?種族人間が一周回った結果は伊達じゃねぇよ!

瞬間記憶と完全記憶で俺は一瞬で様々な事を覚えて、忘れないんだろ?このチート、地球にいた頃に欲しかった……!

それ以上に、心眼ってスキルの凄さが……。攻撃が遅く見えるって、もう人間の領域じゃねぇよ。人外だよ。それに、色々と見えるようになるって、一体何が見えるんでしょうねぇ!?オバケですか!?

……まあ固有スキルはもうこれ位でいいだろう。

スキルも、何だか整理されたおかげで見やすくなってるし。

新しく追加された欄で、魔法も奥義も特に変わった事は書かれていない。うん、手に入れたモノがそのまま表示されている。

よし、それじゃあ称号に移ろうか。

「――――ふざけんじゃねぇぇぇぇぇぇええええええ!」

俺は絶叫した。もう無理、我慢の限界!

突然叫んだ俺に、サリアが驚いた表情を向けてるけど、それどころじゃない。

称号の欄に、追加された新たな称号を一つ一つ確認していく。

『ゴリラの嫁を持つ男』……色々と凄い。この称号を持っているなら、これから先の人生、大抵の事なら乗り切れる……と思われる。

「精神論じゃねぇかああああああああああああああ!」

それに確証は無いのかよっ!確かにゴリラが嫁にいたら、大抵の事は些細な事に感じるだろうねぇ!?だってゴリラが嫁ってい言う時点で大事だもの!

大した効果どころか、些細な効果でさえ無いし、クソみたいな称号だな!

そんな事を思いながらも次の称号へ。

『総ての頂点』……総ての頂点。

「説明が適当すぎるぅぅぅぅうううう!」

手抜きにも程がある!全然効果が分からないんですけど!?総ての頂点って何!?一体どう言う事!?ググったら出ますか!?検索ワードに引っ掛かりますか!?インターネットどころかパソコンすら無いけどね!?

『自重知らず』……自重を知らない。成長の限界が無くなった。

「本当に自重を知らねぇなあ!?」

成長の限界が無いって事は、俺は無限に成長し続けるって事ですよねぇ!?これ以上俺は成長して、一体何を目指せばいいんですか!?魔王?それとも神?

『雄の王』……生殖機能が大変な事になる。超絶倫モード。やったね。

「最後は下ネタかよッ!」

マジであり得ないんですけど!?男としては確かに優秀でしょうね!でも俺はどこでこの称号の効果を発揮させればいいの!?発揮させる機会は来るんですかねぇ!?神に直接訊きに行きたい位だよッ!

大体ツッコミ終わったけどね?一番気になるモノが一つだけ残ってるんですよ。

それは……

「ステータスの横に書かれたかっこの中の数字は何!?」

もうワケ分からねぇよ!?職業は何故かかっこの中は魔法剣士だし、他のステータスも何故か10とか11とかだし。一体なんの数字なんですか!?何か説明的なモノは無いの!?

「はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……」

「大丈夫?誠一……」

息が切れ切れ状態の俺に、サリアは気遣うような声をかけてくれる。

こんなに激しく叫んだりしてるのに、全然ドン引きもしてないよ。それどころか心配してくれるサリアに驚きしかないんですけど。

「はぁ……ふぅ。うん、もう大丈夫」

落ち着けると、サリアに向けて俺は微笑みながらそう言った。

すると、サリアは顔を真っ赤にして、俺から顔を背けてしまった。

……何この反応。俺の顔って一体どういう状態なの!?顔を赤くして笑いを堪える程酷いの?顔を赤くしてしまう程イイの?一体どっち!?

自分の顔を触りながら、どんな顔になっているのか気になってしかたが無い。

むぅ……鏡か何かが欲しいな。

まあ、それは追々で良いだろう。それほど重要な事でもないし。

それより、これから先の事だ。

「サリア、この後どうする?」

「え?」

俺の問いに、サリアはキョトンとした顔を向けてきた。

「俺は、この森から出ようと思ってるんだけど……」

前々から感じていた事だが、そろそろ人肌が恋しい。……まあ人肌が恋しくなるほど人と触れ合った事なんて無いんですけど。

勝手に一人で悲しくなっていると、サリアはニッコリと微笑んだ。

「私は何処へでも誠一に付いて行くよ。誠一の場所が……誠一自身が、私の居場所だから!」

…………。

ホント、俺には過ぎた女性です。ゴリラだけど。

「そうか。ありがとう」

心の中が、温かい気持ちになっている時だった。

突然、俺とサリアのいる洞窟にファンファーレが響き渡った。

「な、何だ!?」

「わ、分からない!」

サリアも知らないらしく、俺達はそれぞれ警戒態勢に入り、何時でも戦闘が出来るように身構えた。勿論、サリアも裸ワイシャツのゴリアへと変身済みである。……もう二度と見たくなかったけど、仕方が無いよね。うん、仕方が無いんだ……!

俺もサリアも神経を尖らせ、一体何が起こっているのか、状況を把握しようとした。

すると、そんな俺達にどこから現れたのか、突然第3者から声がかけられた。

「う~ん、素晴らしい!」

「「!!」」

俺もサリアも、声の方向に素早く顔を向けた。

「は!?」

「え!?」

そして、声の主を確認した時、俺達は驚きの声を発した。

「おっと、これは失敬。名乗らずに声をかけては、警戒されるのも当たり前ですね」

そう言いながら、優雅に近づいてくる声の主。

俺もサリアも、そんな声の主に対して驚きで声も出せない。

だが、それも仕方が無い事かもしれない。

何故なら――――

「私、 迷宮(ダンジョン) の管理人である、エドワード・リューゼンシュタイン・バルヘッド・ヘイバトスと申します。長い名なので、『羊さん』とお呼び下さい。以後、お見知りおきを……」

――――声の主は、燕尾服にシルクハットを被った、二足歩行の羊だったのだ。