軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

誠一のできること

「おい、どけどけ! 負傷者だ!」

「回復薬の備蓄は!?」

「もうほとんどねぇよ!」

「【回復の間】もこれ以上入れねぇ!」

何とか無事に正門の中に入れてもらえた俺は、目の前に広がる光景に呆然とした。

体中が傷だらけで、血を流しながらも必死に動いている兵士さんたちがたくさんいたのだ。

そんな彼らを助けるように、一般の人や子供までもが動き回り、あちこちで手助けしている。

誰もが今自分にできることをし、生き抜こうと足掻いていた。

呆然と立ち尽くす俺を見て、リエルさんは鼻で笑うと、さらに街中を連れまわす。

それはまるで、俺には何もできないと見せつけるような、そんな歩き方だった。

「――――どうだ? 分かったか? 貴様では何の役にも立たんということが」

「……」

一通り歩き回った後、広場のような場所で立ち止まったリエルさんは、俺のことをバカにしたような口調でそう言った。

それを受け、俺は――――。

「よかった、俺でも役立てそうですね」

「は?」

何故かリエルさんは目を見開くと、ポカンと口を開いた。

だがすぐに顔を引き締めると、すさまじい形相で俺を睨みつけた。

「貴様の目は飾りか? この状況を見て、貴様が役に立てると? あの傷だらけの兵たちを見ろ。もはや回復薬の備蓄もなく、【回復の間】もすでに負傷者で溢れている。だが敵はそんな我々を待たず、攻撃を仕掛けてくる。傷を癒す暇などない。それに今貴様が回復薬を持っていたとしてもたかが――――」

「こんだけあれば回復薬足ります?」

「…………………………」

俺はアイテムボックスから最上級回復薬をすべて取り出した。

この回復薬は【果てなき悲愛の森】で手に入れた『特薬草』を、俺が創り出した魔法の『インスタント・ファーム』で栽培したもので作られており、『進化の実』と並行して育てていたのだ。何でかって? いや、せっかく作った魔法だし、『進化の実』だけのためにしちゃうのはもったいなかったからね。ちなみに『進化の実』は順調に育ち、結構な数が収穫できているんだが、使いどころに頭を悩ませていたりする。

それはともかく、元々小心者の俺は何が起きてもいいように、回復薬はたくさん用意していたのだ。その準備が役立てそうで嬉しいね。

目の前に並べた回復薬を無言で凝視していたリエルさんは、ゆっくりと頭を振る。

「お、おかしい。私の目こそ飾りになったのか? 目の前に回復薬が……それも最上級回復薬なんて言う、もはや伝説級のアイテムがたくさん……」

「あれ? 足りません? まだ材料があるんで作りましょうか? 一つだいたい三秒で出来ますけど……」

「三秒!?」

顎が外れるんじゃないかと言わんばかりに口を開いたリエルさんの目の前で、俺は特薬草と道具を取り出し、スキルを発動させて一瞬で作り上げた。あ、三秒もいらんかった。

「はい、こんな感じで。あ、入れ物がないんで貰えます?」

「貴様は何なんだ!?」

リエルさんはいきなり俺の肩を掴むと、すごい勢いで揺さぶり始めた。って視界が揺れるるるるるるるる!

「これだけの最上級回復薬にそれを一瞬で作り上げるだと!? 貴様は神か、神なのか!? ああ!?」

「ちちちちががががいいいいまままますすすすぅぅぅぅうううう!」

「何を言ってるか分からん!」

「理不尽だあああああああああああああああ!」

肩を掴まれて揺さぶられるもんだから、まともにしゃべれないって言うのに!

そんな俺の様子を木は面白そうに見て笑っていた。

「おおおおいいいい、木ぃぃぃぃいいいい! この人止めろおおおおおおお!」

「え? 無理ですよ。私、ただの木ですから。それに、このままだと誠一様がどうなるのか気になりますし。木だけに」

「お前ええええええええええ!」

あまりにも激しく揺さぶられるもんだから、脳がシェイクされて気持ち悪くなってきた。

気持ち悪くて吐きそうになっていると、今まで俺の背後から隠れて付いて来ていた人が、慌てて飛び出した。

「リエル、ストップストップ! そのままじゃ彼、吐いちゃうよ!」

「何!? 汚い!」

「マジで理不尽だな!?」

飛び出してきた人のおかげで解放された俺は、揺れる視界を何とかするためにしばらく地面に手をついて落ち着かせた。あ、危ねぇ。危うく木と同じで口から出しちまうところだったぜ……。

ようやく視界が定まって来たところで顔を上げると、リエルさんの隣には黒ずくめの女性が立っていた。

どうやら【封魔の森】で見た黒ずくめの人と同じようだが、まさか女性だったとは。見た目だけじゃあの時は性別が分からなかったワケだけど……こう、あえて性別が分かりにくくする技術みたいなものがあるのかね?

そんな風に思いながら黒ずくめの女性を観察していると、その人は苦笑いしながら俺に近づき、手を差し伸べた。

俺は訳が分からないままその手を取り、立たされると、黒ずくめの女性は頭を下げた。

「ごめんね。リエルも悪気があったわけじゃないからさ」

「フン。そんな怪しい男にいちいち気を遣う必要なんてないだろう」

「でもこの回復薬は彼のモノなんだろう? だったらそう邪険に扱うもんじゃないよ」

そうリエルさんに告げた後、改めて俺に向き直った黒ずくめの女性は口を開く。

「ひとまず自己紹介かな? 私はスイン。一応、偵察とか諜報活動をしているよ」

「ど、どうも。冒険者の柊誠一です」

「うんうん、よろしくね、誠一君! ……ほら、リエルも自己紹介しないよ!」

「…………リエルだ。さっきは取り乱してすまない」

黒ずくめの女性――――スインさんに続いて、ばつが悪そうにリエルさんもそう口を開いた。

「さて、お互いに名前を知りえたわけだけど、誠一君。この回復薬は貰ってもいいのかな?」

「ええ、もちろん。そのために出しましたし。リエルさんにも言いましたが、足りないようでしたらまだ作りますよ?」

「ありがとう! 助かるよ! ただ、一つ聞きたいんだけど、誠一君は回復魔法は使えるのかな?」

「はい、使えますよ」

「そうかそうか! それじゃあ回復薬はもういいから、ちょっと来てほしいところがあるんだ」

「おい、スイン! まさかコイツを連れていくのか!?」

「だって仕方ないだろう? それに、最上級回復薬を持ってるくらいなんだし、回復魔法もすごいかもしれないじゃないか」

「だがわざわざそんなところまで連れていかずとも、回復薬で回復すればいい」

「それじゃ時間がかかりすぎる。一人一人に飲ませてる暇はないからね。それに比べてあそこなら回復魔法の種類によっちゃあ一瞬だ」

「ぐっ……」

「あの……結局俺はどうすればいいんですか?」

俺抜きで話が進むので思わずそう訊くと、スインさんは慌てた。

「あ、ごめんごめん! 誠一君にもちゃんと説明するよ。誠一君には【回復の間】と呼ばれる場所で回復魔法を使ってほしいんだ」

「え? でも、この国じゃ魔法は使えないんですよね?」

「うん、【封魔の森】の木が周囲の魔力を根こそぎ吸ってるからね」

俺はスインさんの言葉に思わず木を見た。

「……おい、お前のせいかよ」

「まあまあいいじゃないですか。木に怒っても意味ないですよ?」

「正論だから余計腹立つなぁ!」

確かに森や木に怒っても仕方ない。だってそういう生態なんだろうから。

「話を続けていいかい?」

「あ、すみません……」

「いいよいいよ! それで、誠一君の疑問なんだけど、この国でも唯一魔法が使える場所があるんだ。それが【回復の間】ってことさ」

「なら、そこでは普通に魔法が使うことができるんですか?」

「それが、これまた特殊な場所で、どういう原理か使える魔法は一種類。それも回復魔法だけなんだ。だから、この国では魔法使いって言うのはみんな回復術師になるね」

「なるほど……」

すごく限定的な場所なんだな。ただ、攻撃魔法しか使えないんじゃなくて、回復魔法だけってところはいいと思う。怪我した時とか助かるだろうし。

まあそれはいいんだが……。

「その……いいんですか? 自分で言うのもあれですが、かなり怪しいと思うんですよ」

俺の言葉を聞いていた木は、目を見開いて「自覚があったんですか?」と言わんばかりに俺を見てきた。いや、お前ほど怪しくはないと思うけどな?

「そんな怪しい人間をなんかこの国にとって重要そうな場所に連れていってもいいんですか?」

国で唯一回復魔法が使える場所だとして、どういう原理でそうなってるかは分からないようだけど、もし俺が敵だったら、そこをメチャクチャにする可能性もあるのだ。

そんな俺の疑念はもっともなのか、リエルさんは難しい顔を浮かべたままなのに対し、スインさんは朗らかに笑った。

「それに関しては心配してないよ。実は正門で君とリエルが会話していた時から後ろで見てたんだ」

それは知ってた。言うとややこしくなりそうだから何も言わないけど。

「そして私には『真偽眼』って言う、相手が嘘を吐いているのかが分かるスキルを持っている。そして君とリエルが会話している時から発動させてたんだけど、嘘を吐いてるって結果は出なかったんだ。実際、君は私たちと敵対行動をしたいわけじゃないだろう?」

「もちろん!」

そう答えた瞬間、スインさんの瞳が一瞬青く光った。恐らく、その『真偽眼』とやらが発動したんだろう。

「うん、今の言葉も嘘じゃないね。まあこんな感じで君は少なくとも私たちの敵じゃない。だから人手が圧倒的に不足している今、君にはぜひ手を貸してほしいんだ。いいかな?」

「俺なんかでよければ……」

「うん、その言葉も嘘じゃないね。それじゃあお願いするよ」

スインさんはそう言いながら笑うと、俺たちを【回復の間】とやらまで案内を始めた。

その際、俺が作った回復薬は傷が少ない兵士が引き取りに来て、そのまま慎重に運んでいった。

それを見届けて動き始めると、改めて周囲に様子が目に入ってくる。

色々な人が動き回っており、この国がどれだけギリギリの戦いをしているのかと思わされた。

「そういえば、この間女帝? さんと会ったときは教えてもらえなかったんですけど、ここってどこですか?」

「ここかい? ここは――――」

「スイン。陛下が答えなかったんだ。我々が答えるわけにはいかんぞ」

「……ということらしいから、教えられないみたいだ。ごめんね?」

「はあ……」

そこまで徹底的に秘匿しなくてもいいと思うんだけどなぁ。

「じゃあ別の質問なんですけど、ここがいわゆる国の首都になるんですか?」

「そうだよ」

「えっと……その首都でこの状態だと、他の街とかは大丈夫なんですか?」

「あ、それは大丈夫。この首都を通らずに他の街に行くための手段はあと一つしかない。それは陸からじゃなくて海なんだ」

「え? じゃ、じゃあ【封魔の森】の外は海なんですか?」

「そう言うことになるね。それに、その海は海流の流れや岩礁が多く、とても船が近づけたもんじゃない。だからウチでは貿易なんかも一苦労……というか、ほぼ鎖国状態の自給自足なんだけどね」

どうやらこの国は俺の思っている以上に特殊な場所らしい。

ただ、それでこの街以外はひとまず気にしなくていいって言うのは唯一の救いだろう。まあそれが結果的に救援を求めることもできない状況であることにも繋がってるんだろうけど。

そんな会話を続けながら歩いていると、俺はあることに気付く。

「あの……スインさん? もしかしてなんですが、【回復の間】があるのって……」

「お、気付いたかい? お察しの通り、この国の象徴である【カーニャ城】に回復の間はあるんだ」

「……だから私はコイツを回復の間に連れていきたくなかったんだ」

リエルさんは不機嫌そうにそう言うが、確かに女帝様が住んでる場所にこんな不審者連れていきたくないですよね。テルベールの時は俺が連行される形だったけど。

そのままその【カーニャ城】とやらに辿り着き、門番の人にスインさんが声をかけると、俺はアッサリ中に入ることができた。

お城の造り自体はテルベールにあるお城とそこまで大差はないかもしれないが、やはり様式だったりは異国なんだなぁと感じる。

「では、誠一様。私は一旦そこの庭で待機してますね」

「え、お前は来ないの?」

すると城に入ってすぐ、木がそんなことを言い始めたので驚いた。

「誠一様は私に何を求めているのかは分かりませんが、私はもとよりただの木ですよ? 光合成して寝るのが仕事です」

「ヤバい、もうお前が普通の木に見えないからすっかり忘れてた……」

そうだ、元々木だもんな。てか、木は動かないし、しゃべらないもんな。やっぱり俺毒され過ぎだろ。

それに、確か木はこの国まで案内するってだけで、ここまでついて来る義理もなかったはずだ。

「……あれ? それじゃあお前、いつその普通の木に戻るの?」

「さあ? 気分ですかね?」

「気分!?」

そんな適当でいいのか? ……まあ俺の精神的疲労以外は害はないし、いいんだろうけど。

驚く俺をよそに、マイペースに庭に向かった木は、その場で枝葉を広げると、気持ちよさそうに日光浴を始めた。コイツ、自分の生みの親である女帝さんが大変な時に本当にマイペースだな。人間の感性とは違うだろうから一概に何とも言えないんだけどさ。

スインさんたちは苦笑いしつつ、実際回復魔法が使える俺さえいればいいので、木は庭に放置して改めて回復の間まで移動を始めた。

テルベールのお城とは違う様式の【カーニャ城】は、柱の一つ一つの形や、天井に描かれた絵画を含め、見ていて飽きない。

地球にいた時も日本から出たことがない俺からすると、テルベールも新鮮だったがこの国のお城もまた新鮮で、ついお上りさんのようにあちこちを見まわしてしまうのだ。

「貴様……そんなに城の中を見渡して、何か企んでるんじゃないか?」

「いやいやいや! そんなことないですよ!」

「ははは、リエル。さすがに気にしすぎだよ。しかも今の誠一君の答えも嘘じゃないから、本格的に敵じゃないって思っていいと思うよ。……ほら、それよりも着いたよ」

リエルさんにあらぬ疑いをかけられていると、重厚な金属の扉で閉ざされた部屋の前に来ていた。

その扉の前には門番らしき人が立っており、このお城に入るときと同じようにスインさんが何かを告げると、アッサリと中に入れてもらえた。

そこには――――。

「ぅ……ぁ……」

「いてぇ……いてぇよぉ……」

「目が……何も見えねぇ……」

「あああああああ……」

外で負傷していた兵士たちとは比べ物にならないほど、大ケガをした人で溢れかえっていた。

そんな彼らに数人の黒い軍服の上から白衣を着た人たちが、必死に回復魔法らしきものをかけていっている。

だが、そもそも人数が足りておらず、それにケガが完全に治っている様子はない。

その光景を沈痛な面持ちで眺めるスインさんが説明してくれた。

「……ここにいるのは、回復薬じゃどうしようもないケガを負った兵士たちを癒す場所なんだ。でも、回復魔法も限界がある。手足を失えば二度と元には戻らない。彼らは皆、この国を護るために負傷した英雄なんだ。誠一君。君の回復魔法の腕がどんなものかは分からない。それでも回復魔法が少しでも使えるなら、ここにいる英雄たちを少しでも――――」

「『聖母の癒し』」

俺は光属性最上級魔法の『聖母の癒し』を発動させた。

するとスインさんたちの言う通り、本当にこの空間では回復魔法が使えるようで、すぐに部屋中を俺の魔法で満ち溢れる。いや、それどころかこの部屋を超えて、『聖母の癒し』の光は城中、この街中を駆け巡った。

街中には魔力がないので普通なら魔法は行き届かないのだろうが、そこは俺の魔法。一度発動してしまえば俺の意思通りに発動してくれたのだ。つまり、敵には一切影響がなく、この国の兵士さんや国民の皆さんだけ回復するようにって感じだな。

回復の間にいた負傷者の数が予想よりも多かったし、回復魔法師の人数も全然足りてないようだったから、俺は本気で魔法を使用したのだ。こうすれば全員回復できるし、ついでに街中にいる人たちも回復しちゃえって思ったからな。ただ、せっかく渡した回復薬を使わないことになるだろうけど、まあ何かあったときのための国の備蓄にでもしてくれたらいいだろう。

そう思っていると、俺の魔法に呆気にとられていた他の回復魔法師さんや、負傷者の皆が呆然としながらそれぞれの体を確認する。

「お、おい。お前、傷が……」

「動く……動くぞ、俺の手が……!」

「ああ……! 見える、よく見える……! もう二度と見ることができないって思ってたのに……!」

「おい、絶対に治らねぇって言われてた俺の古傷すら治ってやがる……!」

「奇跡だ、奇跡が起きたぞ……!」

「っく……ぅあ……あああ……ああああああっ!」

最初こそ自分の身に起きた出来事に呆然としていた皆さんだが、徐々に現実を受け入れ始めると、目に涙を浮かべ、お互いに笑顔を浮かべて喜び合った。うんうん、暗い雰囲気は俺が嫌いだからな。やっぱり人は嬉しいってときの表情が一番好きだ。

ひとまずまたスインさんに言われたお手伝いを完了させた俺は、スインさんたちの方に視線を向ける。

「スインさん。こんな感じでいいですか?」

「「……」」

「あ、ちなみに外にいた兵士さんたちの傷もここから魔法で何とか回復させましたので、確認してみてください。そのせいで先ほどお渡しした回復薬の使い道がなくなってしまったかと思いますが、そこはいざというときに備えて備蓄にでも倉庫の肥やしにでもしといてください。一応、使用期限なんかはないようにしてるので、何時までも保存できますよ」

いやぁ、久々にいい仕事したんじゃね?

最近は戦いばっかで殺伐としてたし、どうも世界からは気を遣われてるみたいだし、非常識や理不尽の塊らしいけど、ここまでやればそう言われないだろ。人助けなわけなんだから、言われる要素がない。完璧だ……!

そう一人で納得していると、未だに黙りこくっているスインさんとリエルさんにさすがに何か様子が変だと思い、俺が顔を覗き込む――――。

「「はあああああああああああああああああ!?」」

「うわっ、ビックリしたぁ!?」

突然二人は揃って絶叫した。

するとリエルさんがまた回復薬の時と同じように、俺の肩を掴み、その時以上に揺さぶり始める。

「やっぱりお前は何なんだ!? 神か、神なんだな!? そうだ、そうに違いない。そうだと言え!」

「だとしたら不敬ですよよよよよよっ!?」

いや、実際は神様じゃないからいいんだけど、もし神様ならその発言は本当に不敬だと――――って吐くぞコラ。

俺のお腹や口元から不穏な気配を察知したのか、リエルさんは汚物でも触ったかのように俺を突き放した。

あ、早めに解放された――――と思ったのだが……。

「せせせせ誠一君!? さっきのアレは何!? それに何で手足を失った人たちの体が元通りになってるの!?」

「ススススススインささささんんんんん! おおおおおお、落ち着い、落ち着いてええええええ!」

ちょっと、『進化』さん!? この状況こそ適応するべきなんじゃないの!? じゃないと吐いて死んじゃうよ!? 社会的にねッ!

『スキル【進化】が発動いたしました。これにより、体が適応いたします』

「適応すんのかーい」

冗談で言ったことだったのだが、どうやら世界さんや脳内アナウンスさんは気を利かせてくれたようで、さっきまで俺を社会的死へと手招きしていた気持ち悪さが、完璧に綺麗サッパリ消え去った。

それでも俺の肩を掴んで揺するのは止まっておらず、頭をガクガクさせながらスインさんの質問に答えた。

「と、とりあえず面倒だったんでまとめてケガ全部治しました」

「意味が分からないんだけど!?」

意味が分からないも何も、そのまんまの意味だからなぁ。

この空間より外まで魔法の影響が及んだのも、俺の魔法ということで上手く作用したってことと、未だに俺もよく分かってないんだけど、この世界が変な融通でもきかせてくれたのかな。いやホントに世界が融通を利かせるって何よ。

「あ、その回復魔法の関係で多分古傷とかそこら辺もまとめて治してるので、もしわざと傷を残してる方がいたらすみません。少しでも早く皆さんに元気になってもらいたかったので、そこら辺は考えずに魔法を発動させましたからね」

納得できるかどうかは別にして、俺なりの説明をちゃんとしたのだが、リエルさんもスインさんも呆然としながら首を横に振っている。

「おかしい。やっぱりおかしい。何だ? 何が起きている? 目の前にいるこの男は一体何なんだ? わ、私たちは危機的状況だったんだよな? は? 自分で言ってて意味が分からないが、『だった』って過去形になってるのはどういうことだ?」

「り、リエル、落ち着いて。いや、落ち着いてる場合じゃないけど。でも本当に治っちゃってるし、私の理解の範疇を超えてるんだけど? 何? 彼、何者なの?」

「私が知るかッ! おい、貴様! これはどういうことだ!?」

「漠然としすぎじゃないですかねぇ!?」

これはどういうことだって聞かれても、リエルさんたちの目の前で行ったことがすべてなワケだし……。

ただ強いて言うなら、最近強く感じている アレ(・・) だろう。

「普通が逃げたんですかね?」

「普通が逃げるって何!?」

いや、俺が聞きたい。でも最近よくそう思うし、仕方ない。何で逃げるの? 鬼ごっこか? かくれんぼか? 俺の負けでいいから帰って来て……!

俺の回答に頭を押さえながらリエルさんが一つずつ丁寧に告げる。

「いいか? まず回復薬だ。一般的な回復薬は最上級回復薬じゃない。回復薬なんぞ、切り傷が綺麗に治ればいい方の代物だ。それが伝説級のどんな傷でも一瞬で治すようなモノをアホみたいに並べてくれたな?」

「まあ、たくさんあった方がいいと思ったので」

「ああ、実際助かったとも。そしてここに来て回復魔法だ。何だ? 欠損部位の再生? しかもこの街全部? ハハハ、もう笑うしかない」

「は、はあ……」

リエルさん、目が笑ってないです。

「一つだけ分かった。貴様は――――非常識の塊だな」

「何でええええええええええ!?」

おかしい! 良かれと思ってやったのに、非常識扱いはおかしいよ!

「どう考えてもおかしいだろう……一般的な常識の範囲でなら、回復薬は市販されているモノが数個、回復魔法は一人ずつ、または多くて三人同時にくらいだ。しかも、重傷者の傷を緩和させるのみで、完治はあり得ん」

「そうだね……まあ、誠一君が私たちの常識の外にいたおかげで、ああして皆が笑顔になってるわけだけどさ」

「俺は非常識と言われて泣きそうですけどね!」

もういいや! 俺の涙で皆が笑顔になるなら泣いてやるよ、コンチクショウッ!

思わず涙を流しながら喜ぶ兵士さんたちを眺めていると、回復の間の入り口に誰かがやって来た。

「誠一様、終わりましたか? まあ終わっているでしょう。こっちにまで魔法の波動が来ましたので。やはり理不尽かつ非常識の塊なだけありますね。……いや、『理不尽』も『非常識』も誠一様を言い表す言葉としては荷が重いでしょうが」

「来て早々心抉るのやめてくれない!?」

やって来たのは広場で光合成か何かしているはずの木だった。

木は俺がちょうど精神的に打ちのめされていたという所でほぼトドメをさしに来やがった。

つか、『理不尽』と『非常識』が俺を言い表すのに荷が重いって何!? そもそも人のことを一言で言い表すときに『理不尽』なんてそうそう使わないからね!? その塊に至ってはもはや聞いたことすらねぇよ! 俺に対して以外はなぁ!?

「てか、お前は何しに来たんだよ。広場で待ってるんじゃなかったのか?」

「暇なので来ました」

「お前は元々ただの木だろ!?」

暇も何もねぇだろうが。根を張って光合成するのが木の生活だろうが。

「さて、それではひとまずこの街中での喫緊の問題は片付けられたようなので、次に行きましょう」

「は? 次ぃ?」

これ以上何をするって言うんだ?

木の言葉に眉をひそめ、首を傾げる。

「はい。誠一様に次にやっていただきたいのは――――」

「――――これは一体何の騒ぎだ?」

『ッ!?』

木の言葉を遮ってまた回復の間の入り口に現れたのは、出会いが最悪といっていい、【女帝】と呼ばれる女性だった。