軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

勇者VS誠一

俺――――柊誠一は、冥界から帰ってきてからは平穏な日々を過ごしていた。

今も俺の目の前ではベアトリスさんが制作した個人個人に合わせたテキストを使って、頭のいいグループがアグノスのような問題児にテストに向けての勉強を見ていた。

残念ながら、俺は勉強面では何もする事が出来ないため、見ていることしか出来ないのだ。無能ですみません。

ちなみに、父さんたちはこの間テルベールに向かって出発していた。

宝箱がいるから、転移魔法でいけると思っていたのだが、どうやら今回は急ぎでもないということでゆっくり旅を楽しみながら移動するそうだ。

本当なら地球の日本とは違うこの世界じゃ、旅だなんて気軽にできるような平和な世界でもないのだが、なんせ面子が面子だ。

だって元勇者一行に初代魔王、それに勇者の師匠までいるんだぜ? 誰がこの集団倒せるんだよ。

それに、父さんたちも旅を楽しみにしていたようで、別れるときにこんなことを言っていた。

『誠さん! 旅行なんて久しぶりねぇ! 美味しいモノたくさん食べましょ!』

『ああ。それにもし地球に帰ることができるようになれば、この世界の何かが儲け話に繋がるかもしれないしな』

『もう、純粋に旅を楽しみましょうよ? あ、誠一? カメラ持ってる?』

異世界をここまで全力で楽しめる両親に俺は感服するしかなかった。いや、本当にスゲェよ。

とにかく、一時的にとはいえ父さんたちと別れたのは素直に寂しい。

でも、前とは違って……今は会おうと思えば会えるのだ。

そんな当たり前の事が出来るだけで、俺はもう十分だった。

父さんたちの旅に関して心配ないが、それとは別にゼアノスとの別れ際の会話を思い出した。

『誠一殿。改めて礼を言う。ありがとう』

『……いや、俺の方こそ。ありがとう』

『……誠一殿。まあ誠一殿なら心配ないのかもしれないが……一つ忠告しておこう。――――カイゼル帝国とやらには気をつけろ』

『え?』

『杞憂であればよいのだが……もし私の想像通りなら、カイゼル帝国の帝王は危険だぞ』

『それはどういう……?』

『……確証がないため詳しいことは言えぬが、頭の片隅にでもとどめておいてくれ』

結局詳しいことは教えてもらえなかったが、俺が思っている以上にカイゼル帝国は厄介なのかもしれない。

珍しく難しいことを考えていると、不意にアグノスの声が聞こえた。

「これでどうだっ!」

「……前回より点数は上がってるけど、何故『気合』という回答が消えないわけ?」

「そりゃあ『気合』で何とかなるからだ!」

「なるわけないでしょ」

どうやらアグノスの模擬試験の点数が上がったようなのだが、相変わらず『気合』の一言で片づけようとしているらしい。

そんなアグノスの様子を見て、ヘレンが頭を抱える。

「あんだけ教えたのにどうして『気合』の一言で済ませるのよ……バカなの? それとも、そんなバカに時間を割いた私の方がバカなのかしら……?」

「ひでぇ言われようだな!?」

「事実でしょ? てか、イレーネは勉強しなくていいわけ?」

バッサリと切り捨てられたアグノスは、思わず呆然としている。

そして、ヘレンに訊かれたイレーネは、髪をかき上げながら余裕の笑みを浮かべた。

「当然です。この完璧で無敵の私は、勉強においても死角はありません」

「苦手な部分とかは?」

「ありませんね。強いて言うなら、字を完璧なバランスで綺麗に書くことでしょうか?」

「もはや勉強ですらないわね……」

イレーネの斜め上の回答に、再びヘレンは頭を悩ませた。

「あの~、ヘレンちゃん。私のはどうでしょうか~?」

「ん? ちょっと待ってね……うん、レイチェルはどんどん良くなってるわね」

「本当ですか~? 嬉しいです~!」

ふんわりと笑うレイチェルに、ヘレンもつられて笑顔を浮かべた。

「ねぇねぇ! 僕は僕は!?」

続いてフローラが終わったテキストをヘレンに渡し、ヘレンがそれを確認すると……。

「うん、普通ね」

「普通って何!? 傷つくんだけど!?」

「いや、普通によくなってるって言いたかったのよ。特別よくなったわけでもないけど、普通に成績は上がってるわよ?」

「おかしい……成績が上がって嬉しいはずなのに、普通と言われるとなぜか嬉しくない……!」

フローラよ。普通とはすばらしいモノなのだぞ。君には一度、テルベールのギルド本部を訪れてほしいものだね! 普通ってすごい!

「できたー!」

ギルド本部の変態たちを思い出し、思わず遠い目をしていると不意にサリアが嬉しそうな声を上げた。

何と、サリア専用に作られた勉強テキストを使って、サリアも今まで頑張って勉強していたのである。

読み書きに関しては、【果てなき悲愛の森】でアベルの日記を読んだことで習得しているため、そこは問題じゃなかった。……サリアと一緒になって、日記を読んだってことがアベルにバレなくてよかった。

「……サリアさん、すごいわね。全問正解よ」

「本当!? 誠一! 見て見てー!」

「おお、スゲェじゃねぇか!」

答え合わせをヘレンにしてもらい、サリアは満面の笑みで俺にテキストを見せてきた。

口にしなくとも体中から『褒めて!』というオーラが全開で、俺も笑顔でサリアの頭を撫でた。

「ぐぬぬぬぬ……!」

ルルネも専用テキストを使って勉強をしていたのだが、サリアとは対照的にテキストと睨めっこしたままだった。

「分からん……分からんぞ……何だ、この『薬草はどちらでしょう』という問題は……! 食えば全部一緒じゃないか!」

「……食いしん坊、おバカ?」

「な、なんだと!?」

ルルネのトンデモ発言に、思わずと言った様子でオリガちゃんがポツリと呟いた。いや、間違いじゃねぇな。

しかも、ルルネの言っている問題は確かに片方は薬草なのだが、もう片方は猛毒の毒草なのだ。食えば一緒なわけねぇ。片方食ったら死んじゃうよ。

そんなそれぞれの進行具合で勉強を続ける中、特に変わることのない生徒もいた。

「ブルードは大丈夫そうだな?」

「フン……どこぞの脳筋と違うからな」

「聞こえてるぞゴラァ!」

「ん? 俺は別に脳筋と言っただけで、貴様のこととは一言も口にしていないが?」

「あ、何だよ、勘違いしちまったじゃねぇか~」

「まあ貴様のことだが」

「ぶっ飛ばすぞテメェ!」

相変わらず仲いいな、おい。

とにかく、ブルードは勉強を教えてもらうまでもなく常に高得点をキープしており、同じようにベアードも高得点を維持していた。

問題があるとすれば、未だに変わることなくテストの回答が謝罪で埋まるレオンくらいだろう。俺やベアトリスさんもそうだが、これにはヘレンもお手上げ状態だった。

――――他のクラスはどんな状況かは知らないが、俺たちのクラスは着実にテストに向けての勉強を進めているのだった。

◆◇◆

ヘレンを中心にテスト勉強をFクラスで行うようになって数日が経ったある日。

俺がいつも通り教室に向かうと何やら教室内が騒がしいことに気付いた。

「なんだ?」

「……教室の中、いつもより人多いね」

「ん? 言われてみれば……」

扉の前で首を捻っているとオリガちゃんがそう指摘し、俺のスキル『世界眼』でも確認すると、Fクラス全体の人数より多くの人間がFクラスの教室にいることが分かった。冥界でゼアノスに教えてもらった『生命力』を感知しても、やはり教室内にはいつも以上に人がいる。

取りあえず、中に入らなければ何が起こっているのか分からないため、オリガちゃんと一緒に教室に入る。

すると、アグノスたち男子陣が女子陣を庇うように、とある集団と対峙していた。

「だーかーらぁ……何度も言わせんじゃねぇよ」

「ああ!? それはこっちのセリフだ、クソ野郎ッ!」

「は? お前ら、誰に口きいてんのか分かってんの?」

アグノスたちと対峙していた集団は……何と俺と同郷の勇者たちだった。

しかも、なぜか勇者たちは男子しかいない。

「俺たち勇者だぜ? 魔王から世界を守るために俺たちが助けてやろうってんだ。そんな相手にずいぶんと舐めた口きくじゃねぇか」

「知るか、バカ野郎! テメェらが勇者だからって、すべてが許されるとは思うなよッ!」

「お前らこそ、立場分かってんの? この間の校内対抗戦なんてどうせイカサマしたから勝てたんだ。そんな連中が俺たち勇者に勝てると思ってんのか?」

どうも険悪な雰囲気だということは分かるのだが、何故こんなことになっているのか全然分からない。それこそ勇者がこの場にいる理由も。……神無月先輩なら意味もなく突撃してきそうだけどさ。

しかも、残念なことに教師の立場であるベアトリスさんやアルはこの場にいないのだ。

それはともかく、まさか前回の校内対抗戦の結果をイカサマって呼ばれるとは思わなかったぞ……。

確かに俺が魔法を使えるようにしたんだし、そこをイカサマと言われたらグレーゾーンかもしれないが、アグノスたちは魔法を使わずに倒したんだ。そこには俺の力なんて関係ない。アグノスたちの実力だ。

取りあえず、俺はアグノスたちに近づいた。

「一体何の騒ぎだ?」

「あ、兄貴!」

「お前は……!」

アグノスたちと勇者の間に割って入る形で近づくと、アグノスは顔を輝かせ、勇者たちは顔を顰めた。

勇者の集団に視線を向けると、大木や小林、青山といった地球で俺を虐めていた連中が揃っていた。本当に何しに来たんだ?

以前はこの面子だったら足が竦んでいたのだが、サリアとルルネが絡まれていたのを助けてから何とも感じなくなっていた。

青山たちもそのときのことを思いだしたのか、俺の姿を見て激しく睨みつけてくる。

そんな視線を無視して、俺は勇者たちに問いかけた。

「ここはFクラスなんだけど……勇者である貴方たちが一体何の用で?」

「――――いやぁ、別に難しい話をしてたんじゃないよ?」

俺の問いかけに対し、答えたのは小林達ではなくその背後で黙っていた三人の一人だった。

よく見ると、地球で活躍していたアイドルグループの一人……如月正也先輩だった。

詳しいことは知らないが、如月先輩こそ俺なんかとは真逆のすごい人で、正直接点がない。

如月先輩は整った顔を笑顔にするが、その笑顔が何となく俺は嫌な感じがした。

そんなことを俺が感じている中、如月先輩は笑顔で告げた。

「そこにいる女たちを僕たちにくれない? って話さ」

「……は?」

俺は如月先輩の言ってる意味が分からず、そんな間抜けな声を出した。

すると、如月先輩と同じアイドルグループの東郷蓮人先輩と大山剛先輩が、続いて口を開く。

「いや、何不思議そうにしてんの? 俺たちにそこの女を寄越せって言ってるだけじゃん」

「痛い目見たくなけりゃ、大人しく従った方がいいぜ?」

大山先輩に至っては、なぜか拳を鳴らしながらニヤリと笑う。

それに同調するように青山たちも厭らしい笑みを浮かべた。

そんな先輩たちに、勇者を召喚したカイゼル帝国の第二皇子であるブルードが口を開いた。

「貴様らが勇者であることは間違いない。だが、そんな横暴が許されるはずないだろう」

ブルードにそう告げられた勇者たちだったが、一瞬顔を見合わせると声を上げて笑い出した。

「ハハハハハ! 面白いこと言うじゃねぇか。知ってるぜ? お前カイゼル帝国の第二皇子だろ? 平民の血が流れてるなぁ!?」

「平民の血を持つ王族で、何の力もない落ちこぼれは引っ込んでな」

いや、アンタらも平民でしょ? 少なくとも俺の高校に王族とかいなかったからね?

神無月先輩でさえ大財閥の令嬢であって貴族じゃないんだからさ。

何で同じ平民でそんなに威張れるの。もう驚きすぎて何も言えねぇよ。

先輩たちの言葉に絶句していると、如月先輩は俺たちを見下しながら言った。

「とにかく、君たち落ちこぼれをこの勇者である僕たちが使ってやろうって言ってるんだよ? 男は僕たちの雑用係を、女は僕たちに奉仕するんだ。……僕は特に君を気に入った。だから君に僕の奉仕をさせてあげよう」

「え? 私?」

如月先輩はサリアを指さした。

「そうそう。未来のない君たちが、勇者である僕たちの役に立てるんだから感謝するべきだよね? 幸い君のようにFクラスの女は見た目だけはいいわけだ。僕たちがたっぷり可愛がってあげるよ」

「イヤ!」

サリアは笑顔で即答した。

その返答に、如月先輩の笑顔が固まる。

「あのさぁ……君たち落ちこぼれに拒否権なんてあると思ってるの? それにこの僕に奉仕できるんだよ? それを――――」

「無理!」

「……」

サリアは再び笑顔で言い切った。

その反応に、如月先輩の笑みがついに崩れた。

「……こっちが下手に出てればいい気になりやがって……」

え、下手に出てたの!? あれで!?

「分からないな……何故僕の誘いを断るのか……」

「だって私は誠一が好きなんだもん!」

「は?」

サリアの言葉に、勇者の面々は間抜けな表情を浮かべた。そんな中で俺は赤面した。だって恥ずかしいんだもん。

俺の名前が出たことで勇者に俺のことがバレると思ったのだが、青山たちにとって俺なんて名前すら覚える価値のない人間として扱われていたからか、気付かれることはなかった。

一瞬顔を顰めた如月先輩たちだったが、再び黒い笑みを浮かべる。

「そっかそっか……君はその男が好きなんだね?」

「うん!」

「でも残念。そんなヤツ、僕たちが相手だったら何もできないよ? それなら僕たちの方がいいだろう。勇者って言うだけじゃなく、僕たちはアイドルをしてたんだからね」

「アイドルって何?」

如月先輩が色々言ったはずなのに、サリアが気になったのはそこだけだったようだ。

思わず笑みを引きつらせる如月先輩の代わりに、東郷先輩がサリアに言う。

「アイドルってのは俺たちのように見た目もよくて、才能のあるヤツのことを言うのさ。その中でも、俺たちはトップクラスだ」

よくブルードがいる目の前で見た目がいいって言えたな。しかもトップクラスって。

地球のころは如月先輩たちもイケメンに見えていたのだが、ブルードやSクラスのロベルトを見ると、何て言うか隔絶した差を感じるよね。あれだ、溢れる気品とかかな? もちろん顔だちも断然ブルードたちの方が上だけど。

東郷先輩の説明を受けたサリアは、納得すると無邪気に笑った。

「じゃあ誠一が一番だね!」

「………………は?」

まさかそんなことを言われると思わなかった勇者たちは、再び呆気にとられた。いや、俺もだけどさ。

そんな様子を気にせず、サリアは笑顔で続ける。

「だって誠一の方がカッコいいし、強いもん! ね? 誠一!」

「あ、ここでふってくるんだ!?」

このタイミングで話をふられると思わなかった俺は驚きの声を上げた。

すると如月先輩たちはサリアの言葉で俺が誠一だということが分かり、俺を激しく睨みつけてきた。

「……お前が誠一なのか?」

「え? あ、はい」

ジロジロと不躾に俺を見ると、如月先輩は鼻で笑った。

「はっ……汚らしい装備だな……。それに、顔を隠さないといけないほど醜いのか? ハハハハハ!」

如月先輩につられるように、他の勇者たちも声をあげて笑う。

……Sクラスの担任のクリフ先生も俺の装備を見て笑ってきたけど、よくこの装備を笑えたね。ぶっ壊れ性能なのに。だからこそ笑っちゃうのかね?

俺のスキル『千里眼』が反応しなかったから、誰も俺の装備に『鑑定』をしなかったみたいだけど……何で『鑑定』しないんだろう? するまでもないってことなのかな?

思わずそんな風に考えていると、突然サリアが俺のフードに手を伸ばした。

「そんなことないよ! 誠一はカッコいいんだから!」

「え? サリア?」

『……』

完全に気を許しているサリアの行動だから、まったく警戒していなかったのもあって、俺のフードはあっさりとられた。

その瞬間、勇者たちの表情が固まった。

それはもう、見事なまでに。

すると、如月先輩たちが引きつった笑みとなぜか大量の汗を流しながら口を開いた。

「み、醜く……は、ね、ねぇか……な……?」

「ふ、ふーん……ほーん……」

「へ、へへへぇ~……お、おおお思ってたより、マシな顔じゃないか……」

そんな反応をしているのは如月先輩たちだけでなく、小林達も同様だった。

謎な反応をしている如月先輩たちに、アグノスが得意げに語る。

「どうだっ! ウチの兄貴はスゲェだろ!」

「ま、まあ? み、見た目はともかくとして……じ、実力! そう、実力だ! アイドルであり、勇者である僕たちには実力がある。それに比べ、お前はどうなんだ? ええ!?」

勇者の実力ってのは分かるけど、アイドルの実力って何? 歌唱力? ダンス力?

どうでもいいことを考えていると、如月先輩の言葉で勢いづいた東郷先輩たちも口を開く。

「そ、そうだ! お前には実力なんてねぇだろ!?」

「どうせこの間の試合だってイカサマだったんだ! 魔法も剣も俺たちより大したことねぇくせによぉ!」

「おら、痛い目見たくなけりゃ、とっとと失せろ!」

どんどん出てくる罵声に、アグノスたちは不快そうに眉をしかめる。

だが、俺はそんなことより他のことが気になっていた。

……いや、本当になんでこんなに威張り散らせるの?

アイドルであることは誇れるだろう。俺には分からない努力があったのかもしれないしな。

でも、勇者であることって普通に考えたら『だから何?』って話じゃね?

魔王が本当に悪い存在なのかはこの際置いておいて、それを倒せる勇者であることを誇りに思うのは勝手でも、威張ったりするのはおかしくね? それとも俺がオカシイの?

思わず首を捻っていると、再びサリアが笑顔で言い切った。

「ううん! 誠一の方が強いよ!」

俺はサリアがそう言ってくれるのは純粋に嬉しいが、如月先輩たちはそうではない。

如月先輩たちは一瞬不愉快そうに顔を歪めるも、すぐに黒い笑みを浮かべた。

「……そう言えば、校内対抗戦のときはずいぶんと舐めたことをしてくれたじゃないか」

「舐めたこと?」

「分からないかい? 強者は僕たちだけで十分なんだ。それを……お前は……!」

あっれ~? 凄い理不尽な理由で怒られてるぞぉ?

「……いいよ……お前の実力が上だというのなら……その実力とやらを見せてもらおうかなぁ!?」

「っ! 兄貴、あぶねぇ!」

突然、如月先輩は炎を両手に出現させると、それを俺にめがけて撃って来た。

その行動にすぐさまアグノスが反応するが、俺は黙って炎を見つめていた。

すると、俺の目の前で炎は急停止する。

「は? な、何が起きてるんだ? いけ、早くそいつを燃やせ!」

急停止した炎に、如月先輩は必死に命令するが、炎はその場からまったく動かない。

そのことにいら立った如月先輩は、東郷先輩たちに言った。

「おい、お前ら! お前らも魔法を使え!」

「え? あ、ああ。『ウィンドカッター』!」

「『ファイアーランス』!」

次々と俺めがけてくる魔法。

だが、そのどれもが俺の目の前で急停止し、その場から動かなくなった。

「い、一体どうなってるんだよ!?」

魔法が動かないことに、如月先輩が焦りを見せる中、先輩たちの魔法は俺に話しかけてきていた。

『マスター! コイツらどうします? やっちゃいます?』

『私たち何時でも行けますよ!』

『ご命令を、マスター!』

自分を生み出した如月先輩たちをアッサリと裏切り、俺にそう言ってくれる魔法たち。

そんな魔法たちに苦笑いしながら、俺は優しく告げた。

「いや、攻撃はしなくていいよ。君たちなら上手くやってくれるんだろうけど、万が一にも教室に被害が出たら嫌だしね。その代わり、自然消滅してもらいたいんだ。いいかい?」

『マスターがそうおっしゃるなら、私たちは文句などございませんが……本当によろしいので?』

「うん、ありがとう。また何かあったら頼むね」

俺がそう言うと、魔法たちは『やったー! マスターに褒められた!』と喜びながらその場で消えていった。

そんな俺たちの会話など知らない如月先輩たちは、自分の魔法が自然消滅したことで驚いている。

「な、なんで僕たちの魔法が消えたんだよ!」

「あの……もういいですか? こっちはそろそろ勉強会を始めたいのですが……」

俺の言葉に一瞬呆けた表情を浮かべた如月先輩だが、すぐに激しく睨みつけてきた。

「調子に乗りやがって……お前ら! もっと魔法をぶつけてやれ!」

『おう!』

如月先輩の合図で、東郷先輩たちも再び俺めがけて大量の魔法を撃って来た。

しかし、どうやら俺の言葉が魔法全体に行き届いているようで、俺にぶつかる直前ですべて自然消滅していった。

何となく長くなりそうだなぁと思った俺は、ヘレンに声をかけた。

「ヘレン」

「な、何?」

「こっちは何とかするから、みんなで勉強してていいよ」

「この状況下で!? アンタ無茶苦茶ね!?」

そうかねぇ? 時間が勿体ないし……まあ細かいことは気にしない。

ヘレン自身も口ではツッコみながらも、アグノスたちを連れて勉強会を始めた。うん、それでいい。

すると、サリアが俺に声をかけた。

「誠一、大丈夫?」

「大丈夫だよ。サリアも、みんなと一緒に勉強してきな」

「うん! ありがとう! 誠一も頑張ってね!」

最後にサリアの頭を撫でると、サリアもそのままヘレンたちに混ざって勉強会を始めた。

そんな一連のやり取りを見ていた如月先輩は、顔を真っ赤にして叫ぶ。

「ふ……ふざけるなあああ! 僕たちを無視するだなんて……! クソッ! クソクソクソクソクソおおおお! 何で当たらねぇんだよぉぉぉおおおおお!」

魔法に頼んだからです。

どんなに叫ぼうが、如月先輩たちの魔法は周囲に被害を及ぼす前に自然消滅するのだ。

どれだけ撃っても魔法が消えるというのに、如月先輩は目をギラギラさせながら新たな魔法を使ってくる。

「いいよ……僕たち勇者の証の一つでもある、『聖属性魔法』を見せてやろうじゃないか……!」

「あ、それはやめておいた方が……」

「ハハハハハ! 今さら謝ったって遅い! 死ねぇ! 『ホーリーランス』!」

『光属性魔法』とは違う、どこか聖なる気配を纏った光の槍が出現し、俺めがけて飛んできた。

だが、結局他の魔法と何も変わらないので、『聖属性魔法』も綺麗サッパリ消失した。

「どうしてどうしてどうして!? ぼ、僕たち勇者の証である『聖属性魔法』が……!?」

よっぽどその『聖属性魔法』に自信があったようだが、魔法そのものに頼んでいるので属性なんて関係ない。

それに――――。

『【聖属性魔法:中】を習得しました。また、誠一様の潜在能力を鑑みて、【聖属性魔法:極】へと変更いたしました』

だから止めとけって言ったのにッ!

ほら、俺の体が頑張っちゃったでしょ!? 見てみろよ! もともとは『聖属性魔法:中』だったのに、わざわざ『聖属性魔法:極』に変更してくれたんだぜ!?

勇者より聖属性魔法が使えるってどうなのよ!?

俺が脳内アナウンスにツッコんでいると、如月先輩たちは今さら魔法自体が効かないと分かり、全員何もない空間から一振りの剣を取り出した。

その剣は、ゲームとかで見るようないかにも『聖剣』といった見た目で、如月先輩たち全員がそれを握っている。

「魔法が効かないなら剣だ。これこそ、僕たち勇者が扱える唯一無二の武器……『聖剣』だ!」

俺は勝手にその『聖剣』にスキル『上級鑑定』を発動させた。

『聖剣』……勇者のみが扱える聖なる剣。魔族に大ダメージを与えられる。……気がする。

本当にただの『聖剣』だった。

しかも、特に何の効果もない。

え、これが使えることが勇者である証なの? ウソでしょ!?

鑑定結果も『魔族に大ダメージが与えられる』じゃなくて、気がするだからね!? 効果ないじゃん!

まさかの効果に俺が驚いていると、俺が『聖剣』のすごさに驚いていると勘違いした如月先輩が自慢げに教えてくる。

「ふふふ……この剣は本来魔族どもに使うべき武器なんだけどね。なんていったって、魔族に大ダメージを与えられる武器だ。これなら魔王だって瞬殺さ」

いや、無理だと思います。

「さて、そんな武器をお前ごときに使うのは大変不本意だが……僕たちを散々コケにしたんだ。その罪は死をもって償ってもらうよ」

「ええ……」

そんな簡単に人を殺そうとするとか……この人たち大丈夫か?

俺も魔物とか倒してるから人のことは言えないのかもしれないけどさ。

「それじゃあ……とっとと死になッ!」

すると、最初に斬りかかって来たのは大山先輩だった。

見た目通りの荒っぽさで、何の技術もない力任せの一振りで俺に突撃してきたのだ。

それに対して俺は――――。

「ん」

なんの危なげもなく避けた。

「クッ! ……俺の攻撃を避けるとは……なかなかやるじゃねぇか」

避けられた大山先輩は余裕の表情でそう口にする。

えっと……うん。一つ分かったのは、この調子じゃ絶対に魔王討伐なんて無理だろうなってこと。

しかし、俺の考えなんて先輩たちには分からないので、言いたい放題だった。

「おいおい、剛~。いたぶっちゃ可哀想だぜ~? ほら、本気を見せてやれよ」

「そうそう、軽く倒してあげなよ」

「おう、そうだなぁ!」

大山先輩は俺の方を見てニヤリと笑った。

「てなわけで、様子見は終わりだ。残念だったなぁ?」

「はぁ」

「テメェ……その態度が気に入らねぇんだよ……!」

大山先輩は額に青筋を浮かべながら、再び俺めがけて突っ込んできた。

先輩たちが言うには、本気を出したようだが……。

さっきと何が違うのか全然分からなかった。

結局俺は大山先輩の攻撃を普通に避ける。あ、床に傷つきそうだから、魔法で床守っとこ。

「なっ!? 俺の本気の一撃が!?」

「う、ウソだろ?」

「つ、剛! 本気を出せって言っただろ!?」

「クッ! っらああああああああああ!」

俺が攻撃を避けたことがよほど予想外だったのか、すごい動揺を見せた後、めちゃくちゃに聖剣を振り回してきた。

だが、俺はただ普通に避ける。

ああ……壁にも傷がつきそうだなぁ……ちょっと風の魔法で切っ先ずらそう。

先輩たちに分からない程度に魔法を使って、教室に傷がつかないようにしながら俺は先輩の攻撃を避け続けた。

「クソがッ! 何で当たらねぇんだ!?」

「っ! 蓮人、僕たちも行くよ」

「あ、ああ。お前らも手伝え!」

『は、はい!』

ついにしびれを切らした如月先輩を含む勇者全員が、俺めがけて聖剣を振って来た。

だが、俺は何も変わることなくただ普通に避け、教室に傷がつきそうな攻撃は魔法で守った。

「どうしたどうした!? 逃げてばっかりじゃねぇか!」

煽るように東郷先輩がそう言うが、俺は無視して避け続ける。

さっき意味がないって分かったはずなのに、魔法も織り交ぜながら多種多様な攻撃が飛んできた。

中にはサリアたちに害を与えるような攻撃もあったが、それらは俺が丁寧に攻撃を逸らして、結果的に俺一人で相手し続けた。

そんなことを20分くらい続けていると、気付けば先輩たちは息も絶え絶えと言った状態だった。

「はぁ……はぁ……ど、どう……なって……やがんだ……」

「はぁはぁはぁはぁ……ば……ばけもの……」

「はぁ……はぁ……う、動けない……」

「えっと……大丈夫ですか?」

いや、本当に。

体調的な心配もあるけど、そんな体力で本当に魔王に挑もうとしてるの? という意味も込めての言葉だった。

うん、復活する魔王がルシウスさんクラスなら、瞬殺される未来しか見えない。

俺の言葉に如月先輩は憎悪の籠った視線を向けてくると、未だに息が整わない中、吐き捨てるように言った。

「はぁ……はぁ……お……お前ら……覚えておけよ……! き、今日の所はここまでにしてやるが……こ、この借りは……必ず返すからな……!」

いや、勝手に暴れて勝手に疲れただけじゃん。酷いや。

そう思っていると、最後まで如月先輩たちは俺を睨みつけながらフラフラな足取りで帰っていった。

……。

「ホント、何しに来たんだ?」

「アンタがぶっ飛び過ぎなのよッ!」

俺の言葉にすかさずヘレンがツッコんだ。

取りあえず、問題の先輩たちは去っていったので、教室内に平穏が訪れたと思ったそのときだった。

「誠一君、無事かい!?」

「せいちゃん、大丈夫っスか!?」

「「ん?」」

Fクラスに、今度は神無月先輩と……『あいりん』こと世渡愛梨が飛び込んできたのだった。