軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

87、情報収集

食事を終えた二人は、食堂から少し歩いた場所にある市場にやってきた。ちょっとした広場には多数の屋台が並んでいて、昼過ぎの微妙な時間にも拘らず賑わっている。

「確かにここなら情報収集にはもってこいだな」

「はい。いろんな人に話を聞いてみましょうか」

「そうだな。ついでにナディアやシルヴァンたちに土産でも買うか?」

「それいいですね!」

ロランの提案に乗り気で頷いたマルティナは、二人はどんなものなら喜んでくれるだろうかと考え込んだ。貴族であり良いものを容易に手に入れられる二人への土産というのは、意外と難しい。

「あっ、サシャさんにも何か買いたいです」

「そうだな。ただあいつは食べ物一択じゃないか?」

「……確かにそれ以外は思い浮かびません」

食べることが好きなサシャは、食べ物ならばなんでも喜びそうだ。

「でもクッキーとかじゃ、面白くないですよね」

「そうだなぁ〜。さっきの焼飯みたいにこの辺ではよくあるが、王宮周辺では見ないものがあれば喜びそうだ」

「あっ、それなら蜜飴はどうですか?」

ふと一つのお菓子が思い浮かんで口にすると、ロランは瞳をぱちくりと瞬かせてから僅かに首を傾げる。

「それは蜜を固めたものってことか?」

「そうです。王宮周辺では見たことがないなと思って。この辺では子供のお菓子の定番なんです」

「今回の土産にはもってこいだな」

「ですよね! じゃあ蜜飴も買いましょう」

そうしてお土産が決まったところで、マルティナとロランは近くにあった適当な屋台を覗いた。その屋台では新鮮そうな野菜と、いくつかの果物が売られている。

「いらっしゃ〜い」

「こんにちは。美味しそうな野菜だね」

「ここにあるのはさっき届いた採れたてだからね。今日の夕食におすすめだよ」

店主の女性が笑顔で説明するのを聞き、マルティナがさりげなく質問する。

「凄いね。最近は新鮮な野菜を手に入れるのが、前より大変なんでしょう?」

「そうなんだよね〜、魔物のせいだよ。でも聖女様が浄化の旅に出られただろう? それでまた前みたいに戻ってきてるのさ」

「もう戻ってきてるんだ。聖女様は凄いね」

マルティナが驚きを露わにすると、女性は嬉しそうに頬を緩めた。

「聖女様は本当に凄いお方だよ。ありがたい限りだ。最近は聖女様に祈りを捧げるのが私の日課さ」

誇らしげにそう言った女性に対して、今度はロランが口を開く。

「俺たちも聖女様には感謝してるんだ。その祈りを捧げるのってどこでできるんだ?」

「この辺なら向こうにある古い教会だよ。ほら、元は確か火の神だったか、鉄の神だったか、鍛冶の神だっけ? そんな神様を信仰する教会だったところだよ」

「向こうに歩いて行けばあるの?」

「そう、すぐ分かるよ。古いけど大きい教会だからね」

そこまで話を聞いたところで、マルティナは笑顔で話を区切った。

「教えてくれてありがとう。じゃあこの野菜、一つもらえる?」

「もちろんだよ」

野菜を購入して屋台を後にした二人は、先ほど聞いた教会に向けて歩きながら、他の人たちにも話を聞いた。

すると聖女教の存在を知らない者もいたが、大多数がその存在を認知していて、さらに少なくない数が毎日のように祈りに通っているという。

「こんなにも大勢に一気に広まるというのは、誰かが意図的に広めていないとあり得ないな」

周囲に人がいないタイミングでロランが呟くと、マルティナも眉間に皺を寄せて頷いた。

「はい。この国は多神教なので聖女教を信仰するハードルが低いとはいえ、あまりにも不自然な広がり方ですね。誰かが事前に準備をしていたとしたら……しっかりと調べる必要があります」

「王宮に滞在している他国のうち、どこかの国が裏で手を引いている可能性もあるからな」

「はい。その場合の動機は、現段階だとはっきりとしませんが……聖女の力を独占したいと考えた時に、聖女を崇める宗教を使おうと考えるのはあり得ます」

「俺も同意見だ。むしろ攫おうなんて考えるより賢いかもな」

歴史を見ても現在の大陸を見回しても、宗教の力が強いのは明白だ。宗教が大きな力を持たないラクサリア王国にいる二人でさえ、それは身に染みていた。

「とにかく最後に、その教会も見ておこう」

「はい」

現在は聖女教のものになっているという教会は、皆が言う通りにすぐ分かった。古いが立派な作りで、礼拝堂に続く扉は大きく開け放たれている。

出入りする人も、教会の中にも大勢の人がいたが……肝心の教会の中はがらんとしていた。特に石像や絵画などがあるわけでもなく、ただ聖女を信仰する者たちが集まる集会所のようだ。

「急いで場所だけは確保をしたという感じだな」

「そうですね……聖女教を裏で操ろうとしている人がいるとすれば、人手が足りないのかもしれませんね」

「となると、やはり他国か」

「その可能性が高いですね……」

礼拝堂から出て行こうとする老年の男性がいたので、ロランが声を掛ける。

「すみません。ここには司祭様などはいないのですか?」

「わしは見たことがないな。まだ聖女様がこちらに来て、日が浅いからじゃないのか?」

「確かにそうですね。ありがとうございます」

男性を笑顔で見送ってから、ロランは真剣な表情に戻った。

「聖女教側の人間に話を聞くことはできそうにないな」

「そのようですね。とりあえずこの辺にして、王宮に戻ったら部長に報告をしますか?」

「それがいいな。――よしっ、じゃあ一旦このことは忘れて、また休暇を楽しむか」

ロランが雰囲気を変えるように明るくそう告げると、マルティナも笑顔になる。

「そうしましょう。では……満を持して、私が通い詰めた図書館を案内しますね!」

「ははっ、分かった。よろしくな」

「任せてください!」

マルティナは軽い足取りで教会を出て、瞳を輝かせながらロランを馴染みの図書館へと案内した。