軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

51、召喚された聖女

聖女だと思われる女性が魔法陣の中心に姿を現し、各国の代表者たちが召喚は成功だと喜びの声を上げる中、マルティナとソフィアンが女性の下に向かった。

緊張しながら女性の下へ向かいつつ、マルティナは小声で口を開く。

「ソフィアン様、召喚は成功でしょうか」

「先ほど聖女が口にした言葉がリール語だったことから、魔法陣がしっかり作用したのだと思うよ。ただ前例がないことだからね……慎重に接してみよう」

「分かりました」

そんな会話をしながら二人が近づくと、聖女だと思われる女性は困惑の表情を少しずつ変化させ、恐怖に引き攣らせていった。

僅かに震える様子も見せる女性に、マルティナとソフィアンは困惑する。

「初めまして、私はソフィアンと申します。ここラクサリア王国で陛下の第二子として生を受け、現在は外交や司書の仕事をしております。こちらはマルティナ、我が国の官吏です」

「マルティナです。よろしくお願いいたします」

まずは二人が丁寧な挨拶をすると、女性は恐怖を感じている様子ながらも、必死に口を開いた。

「こ、ここは、どこですか? あなたたちは、外国の人、ですか?」

「ここはラクサリア王国でございます。聖女様にとって私たちは外国というよりも、異界の民でしょうか。この度は私たちの世界を救っていただきたく、聖女召喚をさせていただきました。――あなたは聖女様でお間違いないですか?」

ソフィアンは女性に対して柔らかな笑みを浮かべながら問いかけたが、女性は全く心を許さない。それどころか魔法陣の上にへたり込んだまま、必死に逃げようと後退る様子を見せた。

「わ、わたしは聖女なんて知りません! 何かの間違いじゃないでしょうか。――それよりもこれは夢、だよね? だってわたしは高校にいたんだから。こんな変なところに突然移動するはずがない。教室で寝ちゃったのかな……それなら早く目が覚めて、お願い」

ぶつぶつと呟きながら膝を抱え込むような形で顔を隠してしまった女性に、ソフィアンとマルティナは困惑するしかできなかった。

二人は顔を見合わせて、どうすれば良いのか話し合う。

「ソフィアン様、聖女様はご自身で聖女様であることを認識できないのでしょうか」

「どう、なのだろうね。正直なところ、召喚さえ成功すればとそればかりだったから」

「私もです」

(過去の文献を読み漁った限りでは、召喚した聖女と呼ばれる存在は人智を超えた力で瘴気溜まりから世界を救ってくださった、みたいなことしか書かれていなかった。てっきり聖女様が、自ら私たちを導いてくださるのかと思っていたんだけど……)

現実逃避をする女性を前にして、マルティナはポツリと呟いてしまった。

「失敗、でしょうか」

それは思いの外、ホール中に響き渡る。そして各国の代表者たちの間にあった熱気が、急速に冷めていった。

「……ダメなのか」

「もはや我々は、絶滅を待つしかないのか?」

「やはり過去の文献にも碌に記録が残ってないようなものに、頼るべきではなかったのだ」

悲観的な意見が次々と発されるなか、まだ希望を捨ててない者たちもいる。

「そう考えるのは時期尚早ではないかしら。とりあえず、意思疎通ができる存在が召喚されたのだから」

「そうだ、魔物みたいなやつが召喚されたわけじゃない。まだ希望はあるだろう」

「でも聖女とは神々しい存在なのではなかったのか? あの娘は普通の女性にしか見えないが……珍妙な服装の」

一人の男が告げたその言葉で、希望を口にしていた者たちは一様に口を閉じてしまった。ホール内がまた静かになる中、今度は別の場所からある提案がなされる。

「もう一度召喚してみたらどうなんだ?」

「確かにそうだ。今度は成功するかもしれないぞ」

「そんな気軽にするものじゃないでしょう? 変な存在が召喚される可能性だってあるのよ」

「そうよ。それにまだあの女性が聖女である可能性もあるわ」

「ただ本人が否定しているんだぞ?」

再度の召喚という話題に、ホール内はざわざわと騒がしくなった。皆が好きなように意見を口にして、魔法陣の中心で膝を抱える女性が置き去りにされ始めた頃、マルティナは女性と同じ目線になるようその場に膝をつく。そして努めて威圧感を与えない声を意識して、口を開いた。

「あの、あなたのお名前を教えていただけますか?」

聖女であったとしても、そうではなかったとしても、とにかく交流をしなければ分からないとマルティナは対話を試みる。すると聖女はゆっくりと顔を上げて、マルティナと視線を絡ませた。

少しだけ逡巡する様子を見せてから、小さな声でつぶやく。

「……柚鳥春花、です」

「ユトリハルカさん、ですね」

「あっ、柚鳥は名字なので、名前は春花です」

「分かりました。ハルカさんですね。改めまして、私はマルティナです」

「マルティナ、さん」

聖女の可能性がある女性改めハルカが少しでも歩み寄ってくれたことを確認したマルティナは、この場ではこれ以上の質問を重ねず、ハルカに手を伸ばした。

「色々と混乱していると思いますが、ここでは落ち着かないでしょう。場所を移動しませんか? あなたのために客室を準備してあります。そこで改めて、ご説明をさせてください」

その言葉を受けたハルカが不安そうに周囲を気にしながら瞳を揺らしたのを見て、マルティナはさりげなく各国の代表者たちからハルカを隠すようにしつつ、根気強く返答を待つ。

するとしばらくして、ハルカが意を決した表情でゆっくりと頷いた。

「分かり、ました。移動したいです」

「ありがとうございます。ではご案内します」

ハルカが立ち上がるのに合わせて自身も立ち上がったマルティナは、近くで見守ってくれていたソフィアンに視線を向ける。

「ソフィアン様、この場はお任せしてもいいですか」

「もちろん構わないよ。ここは一度解散としておくから、私もこちらが落ち着いたら、すぐそちらに向かおう」

「分かりました。よろしくお願いします」

そうして二人はそれぞれの役割を果たすために、行動を開始した。