軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

50、ロランの今後と聖女召喚

国王たちによる話し合いが行われた翌日。政務部でいつものように働いていたロランの下に、国王からの書状が届いた。

その書状には今まで通り国のために働いてほしいこと、また闇属性については国を上げて地位向上のために動くことが書かれており、ロランはその内容を凝視してしばらく固まった。

しかし書状の下部に小さく書かれていた、マルティナとラフォレによる書類が大きな後押しとなったという文言に気づくと、ロランは政務部の部長に席を外すと急いで断りを入れ、二人がいるだろう王宮図書館に向けて走った。

図書館の中に入り、勢いのまま書庫の扉も開けると……中にはいつも通りの面々がいて、書物と向き合っていた。

「はぁ、はぁ、はぁ、」

「ロランさん、そんなに急いでどうしたんですか?」

「マルティナ! この書類って……」

「あっ、陛下からの書状が来たんですね!」

マルティナは書状の中身をさっと確認すると、安心したように頬を緩めて柔らかい笑みを浮かべた。

「良かったです。これからもロランさんは私の上司ですね。これからもよろしくお願いします。書類は私がロランさんのことを心配していたら、ラフォレ様がすぐに作ってくださって」

その言葉にロランがラフォレに視線を向けると、ラフォレはいつも通りの表情で、しかし目元を少しだけ緩めてロランに視線を向けた。

「……家族らしいことはできてないが、私はロランの祖父だからな。孫の危機には動くものだろう?」

ラフォレの言葉に唇をグッと引き結んで瞳に力を入れたロランは、丁寧に頭を下げてから、いつもはあまり目が合わないようにしていたラフォレの瞳を、しっかりと見返した。

「……お祖父様、ありがとうございます」

久しぶりに家族として名を呼んでもらえたラフォレは、嬉しそうに笑みを浮かべると立ち上がってロランの頭を撫でる。

「当たり前のことをしただけだ」

それからラフォレが席に戻ったところで、ロランはマルティナにまた視線を戻した。

「マルティナも本当にありがとな。助かった」

「いえ、私もロランさん直属の部下ですから当然ですよ。闇属性の地位向上を目指すとはいえ、しばらくは大変でしょうから……何かあれば私に言ってくださいね」

やる気十分で拳を握りしめているマルティナに、ロランは優しい笑みを浮かべ、マルティナをどこか眩しそうに見つめながら口を開いた。

「頼りにしてるぞ」

「はいっ」

♢ ♢ ♢

マルティナの誘拐騒動があってから約一週間後。会議が行われていた部屋には、また他国の代表団が全員集まっていた。

今回は会議のためのテーブルや机は全て片付けられ、部屋の真ん中には大きな魔法陣が設置されている。巨大な白い紙に描かれた魔法陣は、完成した聖女召喚の魔法陣だ。

「皆様、お集まりいただきありがとうございます。皆様からの情報提供のおかげで、こうして無事に魔法陣の復元に成功いたしました」

引き続き司会進行役を務めるソフィアンの言葉に、部屋の中には拍手の音が響き渡った。

「すでに皆様もご存知の通り、最終的にはガザル王国の代表団が隠し持っていた転移魔法陣が参考になっています。復元を担当したマルティナによると、これで召喚が成功する可能性が高いようです」

その言葉の後にソフィアンが優雅な微笑みを湛えてマルティナに視線を向けると、マルティナが一歩前に出た。

「私の見立てでは、魔法陣は八割ほどの確率で異界から聖女を召喚するものになっております。ただ聖女を指定する部分の文言が各文献からのものをそのまま当てはめているだけですので、そこが間違えていた場合、何か別のものが召喚される可能性があります」

別のものが召喚されるという言葉を聞いた瞬間に、それまで前のめりで魔法陣を覗き込んでいた代表団の面々が、ほぼ同時に体を後ろに引いた。

「また魔法陣は正確に描くということが必要なようで、今回の魔法陣は私が描いたのですが……歪んでいたりズレていたりした場合、発動しない可能性もあるようです。その場合はまた描き直しとなりますが、申し訳ございません」

マルティナは自信なさげにそう言っているが、部屋の中にいるほとんどの者は、描写ミスによる魔法陣の不発は心配していないというような表情だ。

なぜならそれほど目の前に設置された魔法陣が、精緻で歪みのないものだから。

マルティナはもちろん記憶力は人並外れた実力だが、記憶したものを表現する方向でも、やはり桁外れの実力を有している。

サラサラと正確な地図を描けることもそうだが、魔法陣のような精緻な描写力が必要とされるものにも、マルティナの能力は発揮されるらしい。

「ではさっそくですが、魔法陣の発動を試みたいと思います。魔法陣は基本的に大気中の自然魔力を用いて発動されますが、最初のきっかけは人が魔力を込めなければなりません。その役目は……我が国の軍務大臣を務める、ノルディーヌ・ティエルスランが務めることとなりました」

ソフィアンのその言葉に、完全に武装した軍務大臣が一歩前に出た。

「皆様は危険かもしれませんので、部屋の壁際までお下がりください」

それから皆が配置を整え、魔法陣の周囲に立つのは軍務大臣ただ一人になった。その軍務大臣も、すぐ逃げられるように心構えをしている。

ソフィアンの隣に立っているマルティナがソフィアンに対して、そして軍務大臣に対して頷いて見せ、ソフィアンが最後の掛け声を発した。

「では軍務大臣、よろしく頼むよ」

「はっ」

軍務大臣が気合いを入れるように声を発し、片膝をついて魔法陣にそっと触れた。そして魔力を流し込むと――

魔法陣は途端にピカッと強い光を放ち、その光をどんどん強くしていく。

軍務大臣が後ろに下がり、皆が魔法陣の様子を固唾を飲んで見守る中……強い光が魔法陣の中心にギュッと集められたかと思うと、その光が一気に霧散した。

そして魔法陣の中心に残されたのは、困惑の表情でへたり込む一人の女性だった。

膝上の短いスカートに、しっかりとした分厚い生地のジャケットを羽織っている、季節感が不思議な格好をした女性だ。

「ここ……どこ? 高校に、いたはず……だよね?」

少女の困惑が滲んでいるか細い声は、広い室内に響き渡った。