軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

240、浄化の旅の終わり

代官邸に一泊した翌朝。マルティナたちは港町を去るため、代官邸の前に集まっていた。代官邸の庭は割と広くディアスが竜になっても問題なかったため、今回はここから飛び立つことになる。

聖女一行がこの町に寄ったというアピールにもなるそうで、町人たちには昨日のうちに伝達がされていたらしい。

「この度はこの町にご滞在いただき誠にありがとうございました。シーサーペントから町をお救いいただいたことについても大変感謝しております。後ほど必ず謝礼をお送りさせていただきます。また代官が大変失礼をいたしました。適切な処分をいたしますのでご安心ください」

深く頭を下げた子爵に応えるのはソフィアンだ。

「こちらこそ一泊のもてなしに感謝を。この町に伝わる書物も大いに役立つものだった。私たちとしては重大な迷惑をかけられたわけでもないため、何かをそちらに要求することはしないよ。あとは任せる」

処分等を丸投げされるのが一番大変だろうが、子爵はもう一度深々と頭を下げた。その隣にいる代官は昨夜に何かあったのか、昨日とは打って変わって静かだ。ひたすら頭を下げていて顔を見せることもない。

「早く行くぞ。浄化の旅を早急に終わらせて研究を本格的に進めるのだ」

ディアスに急かされて、マルティナたちはさっそくその背に乗り込んだ。

「ディアス様、またよろしくお願いします」

「ああ、任せろ」

寝そべっていたディアスが起き上がったところで、マルティナは少し先にある綺麗な海を見て、それから子爵と代官に視線を戻した。

「今回はありがとうございました。また何か希少な本があればぜひ連絡を!」

マルティナらしい別れの挨拶に、二人は頭を下げる。

バサッとディアスの羽が広がり、グワッと内臓が動くような強烈な浮遊感と共に一気に上空に向かった。今までより少し速い気がするのは、気のせいなのかディアスが急いでいるのか……後者な気がする。

「じゃあ、まずは浄化の旅を終わらせちゃおうか」

マルティナがハルカに向かって告げると、ハルカは口角を上げて頷いてくれる。

「うん。どんどん進めちゃおう。研究に集中したいのもそうだけど、瘴気溜まりに苦しんでる人がまだたくさんいるからね」

この世界の人たちの苦しみを考えてくれるハルカは、本当に心の優しい聖女だ。マルティナは強い感謝を胸に抱く。

「本当にありがとう。精一杯サポートするね」

「うん。あとは、せっかくだから世界中を巡るのを楽しもうね」

「そうだね。本も買わなきゃ」

「ははっ、マルティナらしいね」

笑い合う二人に他の皆も笑顔になり、マルティナたちは浄化の旅に戻った。

港町で色々あった日から数週間が経過し、ついに最後の瘴気溜まりを浄化することに成功した。これで、この世界の瘴気溜まりはゼロになったはずだ。

「ついに浄化し終えたね……!」

マルティナは興奮してしまう。最初に瘴気溜まりを発見した時から長かったような、短かったような。あの時からは色々と状況も変わったが、この世界を無事に救えたことは確かだ。あとは浄化石を各地に運んで設置し直せばいい。

「やったね!」

「ハルカ、本当にありがとう」

二人はハイタッチをした。

「やっとやり遂げたね」

「ついに終わったか」

「達成感あるな」

「やりましたっすね!」

「浄化完了、おめでとうございます」

それぞれが喜びや祝いを述べながら、互いにハイタッチやグータッチを交わす。全員で一通り喜んだところで、気が短いディアスが言った。

「よし、ラクサリアの王宮に戻るぞ」

もう少し余韻に浸っていたいところだが、研究の進行を遅らせてまで浄化の旅を優先してくれたのだ。このぐらい急かされるのは仕方がないことだろう。むしろ、早急に帰ることをマルティナたちから提案すべき状況だ。

「はい。ディアス様もご協力、本当にありがとうございました」

「別に構わん。我が協力すると言ったのだ。それに我が子孫の願いだったからな」

「はい。その、ディアス様の子孫で良かったです」

初めてすんなりとその言葉が出た。この世界を滅亡の危機に陥れたのはディアスだが、それはディアスがされた仕打ちを思えば仕方がないとも思えることで、本来のディアスは優しく仲間思いなのだ。

自由人で過激なところもあるが、敵味方の区別がはっきりしていて、味方には存外甘い。

そんなディアスと遠くとも繋がりがあることが、マルティナの中で嬉しいことになっていた。

「そうかそうか。我もマルティナと会えて嬉しいぞ!」

ディアスはよほど嬉しかったのか、マルティナの頭をぐりぐりと撫でる。

「ちょっ、ちょっと痛いです!」

頭を撫でられるのは久しぶりで、嬉しいのだが少し恥ずかしかった。そして同時に、ロランのことを思い出してしまう。

部下にやることじゃなかったと止めると宣言されてしまったが、ロランに頭をポンポンと撫でられるのは、割と嫌いじゃなかったのだ。

(なんか最近のロランさん、ちょっと距離があるような気がするんだよね……)

特にこの数週間に何度もそれを感じた。別に護衛の職務を怠ってるとか、無視されるとか、仕事が円滑に進まないとか、そんなことは全くないのだ。

だから気にする必要はないのだろうが、マルティナは少し寂しさを感じてしまっていた。

(上司と部下なら、今ぐらいの距離感が普通なのかな)

ロランが近くにいると、マルティナは安心感を覚える。だから今まで通りの距離感でいたいのだが、それをロランに伝えてもいいのか判断できなかった。

(サシャさんとは、またちょっと違う感じがあるんだよね……)

なんだかモヤモヤするが、その原因はよく分からず、マルティナは意識を切り替えることにした。ひとまず今はラクサリア王国への帰還だ。

「じゃあ、帰りましょう」

「そうだな。竜の姿になろう」