軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

220、瘴気溜まり発見

「そろそろ最初の目的地が見えてきます」

ソフィアンの言葉にディアスが答えた。

「分かった。方向は間違っていないか?」

「はい。このまま真っ直ぐです」

最初の瘴気溜まりは森の深い場所にあるもので、かなり巨大化しているという話だった。すでに森から魔物が溢れ始めており、国の騎士たちが必死に討伐にあたっているそうだ。

森の近くにあった街や村からは人々が避難していて、かなりの大人数なので、避難先でのトラブルや食糧確保なども大変らしい。

マルティナは早く瘴気溜まりを消滅させて皆に安心と平和を届けたい、そう心から思うものの、実際に瘴気溜まりを消滅させるのはハルカであり、ハルカに危険なことをしてほしくないという気持ちも強かった。

矛盾する思いに唇を噛み締めていると、気負っている様子のないハルカが座ったまま体をずらし、ソフィアンのすぐ近くに向かう。

「ソフィアンさん、次の瘴気溜まりの正確な大きさは分かりますか?」

「大体の予測は付いているよ。おそらく――」

二人は瘴気溜まりの大きさからどの程度の時間で消滅が完了するのかを話し、その時間を作り出すための方法についても話を進めていく。

その様子はとても慣れたもので、凄く頼もしかった。

「やっぱりディアス様の存在は大きいですね」

「本当にありがたいことだよ。ディアス様、瘴気溜まり周辺の魔物を吹き飛ばしてくださるのですよね?」

「うむ。吹き飛ばしてから下に降りるので、ハルカはすぐに瘴気溜まりとやらを消滅させるといい」

マルティナは瘴気溜まりの消滅に関しては、何も力になれない。むしろ完全な足手纏いになるだけだろう。

ならばせめて、取り乱したり邪魔をしたりせず、ただハルカを信じて感謝して、浄化を見守ろうと決意した。

マルティナが決意している間に、話にはフローランやロラン、サシャたちも加わっていく。

「ハルカさんの守りはお任せください」

「俺たちはマルティナを守りつつ、ディアス様の攻撃を運良く逃れた魔物などに警戒しよう」

「そうっすね。足が速いやつなら吹き飛ばされてすぐに戻ってくるかもしれないっす。あとは瘴気溜まりから生み出される魔物もいますからね」

「私は魔物討伐の役には立てないけれど、周囲の警戒には参加するよ。あとは自分の身なら魔法で守れる」

ソフィアンの言葉を聞いて、マルティナは自分にもできることがあると思い出した。

「私もできる限り、魔物の注意すべき特性についてお伝えしますね」

「マルティナ、ありがとう。凄く助かるよ」

ディアスの存在によって魔物との戦闘が発生する可能性はかなり低くなったが、それでも可能性はゼロではないのだ。そしてマルティナたちの戦力は大きいが、魔物の特性によっては毒などで大きな被害をもたらす存在がいるかもしれない。

「瘴気溜まりが見えてきたようだね」

遠くを見つめたソフィアンが指差した先には、森から飛び出るほどの大きさである瘴気溜まりが見えた。まだ距離があるにもかかわらず、その大きさを感じられる。

このメンバーならば大丈夫だろうとは思っても、実際に瘴気溜まりを目の前にすると、やはり少しは緊張してしまった。

マルティナが小さく深呼吸を繰り返していると、ロランが顔を覗き込んでニッと頼もしい笑みを浮かべた。

「マルティナのことは絶対に守るから大丈夫だ。それにディアス様もハルカもいる」

「マルティナ、もしかして緊張してる? もう浄化にも慣れたから大丈夫だよ」

「我がいてお前たちが危険に陥ることなどない」

ハルカとディアスの言葉は頼もしく、しかし何よりもロランの存在がマルティナの気持ちを落ち着かせた。

(ロランさんって、癒しオーラが出てたりする?)

そんな外れたことを考えるマルティナだ。

落ち着きを取り戻して森の中をじっと観察してみると、そこには魔物が信じられないほどにひしめいているのが分かった。

「うわっ、魔物がうじゃうじゃいますね」

サシャが引いたような声を出す。

「この森は特にだね」

「あまり移動しない魔物が多く出現しているのでしょうか」

「おそらくそうだね。ディアス様、どの程度の範囲の魔物を吹き飛ばせますか?」

ソフィアンの確認に、ディアスは信じられないことを言った。

「向こうの山から、そうだな……そちらに湖らしきものがあるだろう? その間を更地にすることは可能だ」

その山から湖までは、推計で数十キロは離れている。その間を全て更地にできるなど、マルティナたちにとってはまさに天災。神の力と言われてもすぐに頷けるようなものだった。

ディアスは世界を滅ぼせるような力を持っている。そう理解はしていたが、改めて具体的な力を聞くと衝撃だ。

(ディアス様と敵対することにならなくて、本当に本当に良かった)

霊峰のカルデラ湖でディアスが敵意を向けてきた最初の頃を思い出し、マルティナは無意識のうちに拳を握りしめていた。

自らが竜の子孫である可能性に複雑な気持ちを抱いたこともあったが、ディアスとの和解に役立ったのであれば、それは喜ぶべきことだろう。今は純粋にそう思える。

「えっ、と……では」

さすがのソフィアンも言葉に詰まっているようだ。

「それはやりすぎか?」

不思議そうに問いかけてきたディアスに、皆の声が被った。

「やりすぎです!」

「もう少し抑えていただけると……!」

「その半分以下に、ぜひ!」

言葉は違うが、言いたいことは同じである。マルティナはハルカの心配ではなく、ディアスがやりすぎてしまう心配をすべきなのかもしれないと悟った。

「まず、吹き飛ばす方法を教えていただけませんか?」

気を取り直して問いかけたのはソフィアンだ。

「うむ。やはりお主らの言う風魔法のようなものだ。我は風と火を操るのが得意だからな」

火は森などで使ったら一気に火事になってしまう。選択肢は風一択だろう。

「では強風で吹き飛ばすという形でしょうか」

「そうだな。風を刃物のようにして、物を切り裂くこともできるぞ」

「かしこまりました。では……瘴気溜まりを中心に二百メートルの範囲を吹き飛ばしていただけますか?」

妥当な線だろう。ディアスの方法では、おそらく魔物と共に木々も吹き飛ぶ。森林破壊はできる限り避けたいのだ。広範囲を完全に更地にしてしまったら、そこの再生にはしばらくの時間がかかるだろうし、何よりもその範囲に希少な植生があるかもしれない。

「そんなに狭くて良いのか?」

「はい。よろしくお願いいたします」

「分かった。任せておけ」

ディアスが受け入れたところで、ちょうどマルティナたちは瘴気溜まりの真上までやってきた。

ディアスは地上の様子を確認するような仕草を少しだけ見せてから、ハルカに問いかける。

「ハルカ、浄化の準備はできているか?」

「はい。問題ありません」

「ではいくぞ」

迷惑をかけないようにと、マルティナがディアスの背中で体勢を低くしていると――。

ビリビリと肌全体に静電気が発生したような、不思議な感覚を覚えた。それと同時に。

ドンッッ!!

地響きのような爆音が響き、周囲の森から鳥たちが大量に飛び立つ音が聞こえる。うっすら目を開けて下を確認すると、瘴気溜まりの周囲が完全に更地になっていた。