軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

199、霊峰の過酷さ

「マルティナ! あの植物は分かるか?」

早朝から動き出したマルティナたちは早々に探索を終えていない場所まで辿り着き、さらに奥へ進もうと奮闘を始めていた。

「あれは……茎に毒があると書かれていましたが、口に入れなければ問題ないはずです。一応茎はあまり切らないようにしてください!」

まだ探索が進んでいないため邪魔な植物なども刈り取られておらず、さっそくマルティナは大活躍だ。

指示に従って、騎士たちが魔法や剣で先へと進める道を作っていく。そこまで本格的なものではなく、人が一人通れる程度の道だ。

「あっちの赤い花は?」

「あの花は……情報がありません! しかし形的に風花草とルルサの花に似ているので、魔物が好む匂いを発する可能性があります。花弁には触れずに進みたいです!」

次々と現れる珍しい植物に、マルティナは休まず助言を続けた。騎士たちが自らの知識の正しさを確認したい時もあり、マルティナはずっと忙しい。

奥に進むにつれてサディール王国で読んだ霊峰に関する本の知識ではなく、今まで読んできたさまざまな知識が役立ち始める。

「あっ、その青い草は毒があります! まさか霊峰にも生えているなんて」

もっと別の、さらに特定の地域でしか確認されていなかった毒草だ。霊峰はやはり特殊な土地なのか、高度が上がるほど大陸中に存在している珍しい植物がたくさん現れ始める。

そんな中で魔物の数も多くなり、さらにその種類も多種多様になっていった。

「あの魔物は……」

マルティナの脳内では、霊峰の麓の街の歴史書が思い出された。

「青い息を吐きますっ。肌が爛れて、それが広範囲になると死に至るので絶対に触れないで!」

数百年前に麓の街に現れて人々を恐怖に陥れ、何が目的だったのか分からないが数時間で霊峰に戻っていったと記録に残っていた魔物がいたのだ。

空のような青い体をした、馬のような四足の魔物。顔周りの毛だけが白くて伸びている。記憶されていたそんな特徴が、目の前の魔物そのものだった。

「全員下がれ!」

ランバートの声掛けで騎士たちが下がるが、十分な距離を取れる前に魔物が腹に響くような声で叫ぶ。

「グウォォォォ」

それと共に魔物の口から青い煙のようなものが吐かれた。おそらく毒霧のようなものだろう。

「風魔法だ!」

騎士たちが必死に魔法で青い煙を遠くに吹き飛ばす中、ハルカが動いた。ハルカはマルティナの近くで護衛をしつつ戦況を見守っていたが、身軽に最前線へと躍り出ると眩い光の奔流を生み出した。

その神聖な光は、風魔法で防ぎきれていなかった毒霧を焼き尽くす。さらに魔物に向かってハルカが指先を向けると、そこから光線が放たれる。

シュンッというどこか軽さもある音と共に、目で追えない速度の光線は――魔物の眉間を貫いた。

「グオ……」

魔物は何が起きたのか分からないような、困惑した声を上げる。そして目から光をなくし、力なく横に倒れた。ドンッと地面に倒れ込んだ魔物は、もうピクリとも動かない。

魔物の死亡を確認したハルカは、すぐに振り返ると真剣な表情で問いかけた。

「先ほどの煙を吸い込んでしまった方はいませんか?」

騎士たちは首を横に振ってから、感激するような感謝するような、明るい表情を浮かべる。

「いえ、大丈夫です」

「ありがとうございました……!」

「さすがハルカ様です!」

「いえ、戦闘への参加が少し遅れてしまってすみません。かなり魔物が増えてきましたし、わたしも戦いますね」

ハルカの力は温存しておきたいという騎士たち総意の指針があり、今までは参加していなかったのだ。

「ありがとうございます」

「よろしくお願いします!」

「ハルカ、よろしく頼む」

ランバートが親しみのこもった表情でそう告げると、ハルカは嬉しそうな笑みを浮かべて大きく頷いた。

「はい!」

さらにマルティナを振り返って、今度はニッと頼もしい笑みを見せる。

「マルティナ、共闘だね」

「うん。指示は任せて」

マルティナはハルカとの共闘が嬉しくて、さらにやる気が膨れ上がるのを感じながら頷いた。やる気が暴走して空回らないように、グッと拳に力を入れて自分を律する。

「また魔物が来ます!」

それからはハルカの大活躍によって、かなりの速度で霊峰の奥へと進むことができた。もちろんマルティナが即座に必要な情報を全体に共有しているのも大きい。

「あの魔物はアイアンウルフです! 毛皮が鉄のように硬く鋭いことからその名前が付けられたらしいのですが、ほとんど目撃例はないため明確な倒し方は分かりません! 毛皮さえ攻略できれば皮膚は普通のウルフと同程度の硬さらしいです!」

アイアンウルフは人の身長ほどの体高がある巨大な魔物だ。大陸中でたまに目撃情報があるのみで、ほとんど伝説のような魔物だった。

「――俺が正面で魔物の気を引くから、皆は左右に分かれて側面から腹側を狙えっ。腹も硬ければ目と口の中だ! ハルカは隙を突いて急所に攻撃を!」

「はっ!」

「了解です!」

マルティナが必要な知識を共有し、それに基づいた作戦をランバートが指示するという形でスムーズに連携していく。

ランバートが率先して魔物の前に躍り出ている姿を見つめながら、マルティナは周囲に危険がないかも予断なく観察した。

ランバートが斜めに振り下ろした剣がアイアンウルフの前足の付け根に当たるが、ガキンッという甲高い音と共に剣は弾かれる。

「っ、確かに硬いな……」

その隙に側面に回り込んだ騎士たちが魔法や剣で腹を狙うが、上手くいっていないようだ。鋭い毛皮が邪魔で近づききれず、魔法はあまり効果がないように見える。

そんな中でハルカが動き回り、上手くタイミングを合わせて光線でアイアンウルフの目を狙ったが、アイアンウルフは危険を察知したのか体をグルンッと大きく捻るようにしてハルカの攻撃からなんとか逃れた。

光線はアイアンウルフの体に当たったが、あまり効果はなく弾かれる。

ハルカが悔しげに唇を噛み締めたところで、アイアンウルフの反撃がきた。尻尾を遠心力を使って振り回し、騎士たちを一斉に薙ぎ払ったのだ。

「退避だっ!」

「逃げろ!」

直前で察知した騎士たちはなんとか逃げようとしたが、数人が逃げきれずアイアンウルフの鋭い毛皮に深い傷を負う。さらにアイアンウルフはそれに留まらず、倒れた騎士たちにトドメを刺そうと鋭い爪を掲げて、振り下ろし――。

ドンッッ!!

間一髪、騎士たちを襲った爪はハルカが魔法で弾いた。それと同時にランバートがアイアンウルフの目を狙って切り掛かり、自分にターゲットを移す。

「皆さん大丈夫ですか!?」

ハルカが致命傷となり得る傷だけを治して周り、他の騎士たちが負傷した騎士を抱えて下がらせた。そしてまた態勢を整え、戦闘再開だ。

そんな一連の流れを目撃しながら、マルティナは何もできない歯痒さを感じていた。しかし自分が参加したところでただの足手纏いであることは十分に分かっているので、マルティナはとにかく自分の身の安全確保に尽力している。

「マルティナ、その大木に背中をつけて動くなよ。移動する時は俺らが知らせる」

「マルティナさんのことは絶対守るっすからね」

「はい。ありがとうございます」

ロランとサシャに守られながら、どんな指示があってもすぐ動けるように心構えをしつつ、アイアンウルフとの戦闘やその周囲に目を向け続ける。

するとマルティナの目に、少し先の地面が僅かに盛り上がっているのが映った。