軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

193、問題解決と貴重な情報

幻惑のようなエルフ特有の魔法を霊峰に入った人間に使用しているかとルイシュ王子が問いかけると、村長は頷いた。

「使用している。人間たちがこの村に辿り着けないように、そして霊峰の奥に行かないように」

「……なぜ、霊峰の奥に行ってはいけないのだ?」

「危険だからだ。霊峰の奥は慣れている我々でも厳しい環境である。最近は霊峰に入る者が多いと思っていたが、何か理由があるのだろうか」

エルフたちはまだ霊峰探索軍の情報を得ていないようだ。それを理解したらしいルイシュ王子が、顎に手を当てて考え込みながら言った。

「まず、瘴気溜まりについては知っているか?」

「ああ、魔物が生み出される何かだと聞いた。しかし詳細は知らないな。この村の辺りでその瘴気溜まりと呼ばれるものを見たことはない」

村長の言葉で、マルティナは一つの確信を得た。

(竜は自分の寝床の周りからは浄化石を取らなかったんだね。つまり、霊峰探索において瘴気溜まりの心配はあんまり必要ないってことだ)

その朗報に、マルティナの瞳には強い光が宿る。

「その瘴気溜まりは、いずれ世界を魔物が蹂躙するだろうと確信できるほど世界各地で発生しているのだ」

「なんと、それほどのものなのか?」

それからは瘴気溜まりの実情、さらに聖女召喚と浄化の旅まで説明をした。そして次は浄化石に対してだ。

「瘴気溜まりがまた発生しないようにするには、浄化石という過去に盗まれた巨石が必要になる。それを盗んだとされる竜という存在の寝床が、霊峰にあるらしいのだ。そのため霊峰探索軍を各国で編成し、その寝床を探している」

現在の世界の事情を聞いた村長は、険しい表情のまましばらく考え込み、丁寧に頭を下げた。

「教えてくれてありがとう。そのような状態だと知らなければ、いずれここも危険に陥っていたかもしれない。心から感謝する。そして――霊峰探索に協力しよう。私たちが把握している場所までは、まっすぐ向かえるようにしておく」

「本当か! ありがとう。とても助かる」

村長の言葉にはマルティナたちも湧き立った。これで霊峰探索軍が行き詰まっていた問題が解決となるどころか、自力で奥に行くよりは楽に向かえることになったのだ。

マルティナは色々な運と巡り合わせに感謝した。ルイシュ王子の母親がエルフであり、さらに暗号を残しておかなければエルフの存在に気づくことすらなかったのだ。

その状態ではいくら探索しても、霊峰の奥にすら行けなかっただろう。

マルティナは嬉しくて後ろを振り返ると、ロランとサシャの表情もとても明るいものになっていた。

「良かったですね」

「だな」

「これで進めるっすね」

マルティナたちが喜んでいると、ルイシュ王子の祖父である男が神妙な面持ちで口を開く。

「村長。その竜という存在は、エルフの伝説に残っている存在とは違いますかね」

「エルフの伝説というと……」

そこで何かに思い至ったのか、村長は大きく目を見開いた。そして椅子から立ち上がると、そのツリーハウスにあった別の部屋へと足早に向かう。

すぐに戻ってきた村長の手元には、一冊の古い本があった。

(新しいエルフの村の本!)

マルティナは内心では大興奮だったが、さすがに今は騒げる雰囲気じゃないと、そわそわするだけで我慢する。

その間にも村長は本をペラペラと捲り、あるページを指差した。

「ここだな。ずっと昔の話だが、禍々しい強大な存在が霊峰のカルデラ湖に住み着いたと記録が残っているのだ。そのため我々エルフは、絶対にカルデラ湖には近づかないことにしている」

「それは……竜である可能性がありそうですね」

マルティナがそう告げた。確信は持てないが、霊峰のどこかに寝床があるらしいという現在の情報と比べたら、圧倒的に場所が絞られている。

とりあえずカルデラ湖に向かってみる価値はあるだろう。

「貴重な情報提供を感謝する。この情報はエルフの村で得たことが分からないようにして、国や霊峰探索軍に共有させてもらう。マルティナ、その形にできるだろうか」

ルイシュ王子の頼みにマルティナは頷いた。エルフに不利益は与えないというのが約束なのだ。それは守らなければならない。

ただマルティナはできる限り嘘もつきたくないと思っていて……。

「できます。今回の霊峰訪問で寄った街で、たまたま手に入れられなかったけど読んだ本ということに……」

少し苦し紛れだったが、ルイシュ王子は頷いた。

「それで問題ないだろう。マルティナはもう信頼を勝ち得ているからな」

そうなのだ。マルティナが告げた言葉は、もう出典を明らかにしなくても信頼されるまでになっていた。もちろんその本があれば確認はするだろうが、本がないとなれば仕方がないと受け入れてもらえるのだ。

それが良いのか悪いのかはさておき、今回はありがたかった。

「ではその形で頼む。礼にこの本を読むか? 内容を外に出さないのであれば読んでも構わない」

マルティナに向けて村長がゆるっと笑いながら告げて、それにマルティナはこれでもかと瞳を煌めかせた。

「い、い、いいのですか!? ありがとうございます! 本当にありがとうございます……!」

今にも大好きだと飛びつきそうな勢いに、ロランがマルティナの肩に手を置く。

しかしそれにも気づかず、マルティナは本に両手を伸ばした。結構大きくて分厚い本を手にしたマルティナは、頬擦りしそうな雰囲気だ。

「君は本が大好きなのだな」

「はいっ。とっても好きです!」

「ならばそれを楽しむと良い」

「ありがとうございますっ。私、エルフの皆さんに出会えて良かったです!」

そう言ったマルティナがさっそく本の世界に入ってしまったところで、村長が立ち上がりながら告げた。

「では、そろそろ話は終わりにしよう。せっかくの客人だ。もてなしの食事を用意するので食べていってほしい」

「ありがとう」

ルイシュ王子が礼を言った直後、大きく反応したのはサシャだ。

「しょ、食事って、エルフ独自の食事などもあるっすか!」

「もちろんある」

「楽しみにしてるっす……!」

本を前にしたマルティナと同じぐらいに目を輝かせているサシャである。

「腕によりをかけて作るようにと伝えよう」

それからはしばらく自由時間となり、マルティナは読書を、ロランとサシャはそんなマルティナの護衛をしつつ最初に出会ったエルフの男と雑談を、そしてルイシュ王子は祖父母と話をしていた。

一時間ほどが経過したところで、ついに食事の時間だ。