軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

180、ルイシュ王子の頼み

マルティナが慌ててロランに説明するのにルイシュ王子も付け加え、マルティナも深く理解できていなかった部分を知ることができた。

ルイシュ王子の今は亡き母親である側妃が住んでいた離宮には隠し部屋があり、ルイシュ王子は今際の際の母親に、その部屋の破棄を頼まれていた。

しかし部屋に入ってみると、そこには暗号のような理解できない文字が壁にびっしりと書かれており、ルイシュ王子は母親が残したその暗号を、なんとか読み解きたいと思った。

しかしルイシュ王子は元平民であった側妃の子であり、この国は貴族の力が強いという状況であるため、王子ながら不安定な立場だ。そのため信頼できる者はかなり少なく、その者たちに暗号解読を頼んだが、解読はいまだに叶っていなかった。

母親には隠し部屋の破棄を頼まれているため、その部屋と暗号の存在はできる限り少数にだけ明かして内容を読み解き、知ることができたら部屋は破棄したい。

そんな思いの中では完全に信頼できる者以外に頼むのも難しく、そもそもすでに解読を頼んでいる者たちはその道のプロであり、それでも解読できない暗号を適当な者に頼んで解読できるはずもなく――事態は膠着状態だった。

そんな中で瘴気溜まりの発生という大事件が勃発し、ルイシュ王子はラクサリア王国に向かうことになった。

そこでマルティナという類い稀な能力を持つ少女と出会い、マルティナならば解読が叶うかもしれないと希望を持つ。

他国の者ならばサディール王国の国内情勢に左右されて裏切られる可能性は低いだろうと考え、さらにマルティナのまっすぐで純粋な性格なども考慮して、ルイシュ王子は暗号解読を頼もうと決めた。

そんな説明を最後まで聞いたロランは、少し警戒を解きながらも、まだ険しい表情のまま問いかける。

「つまり、霊峰研究のためにマルティナをサディール王国に派遣したいと言ってきたのも、実は暗号解読のためだったってことですか?」

ロランの鋭い指摘に、ルイシュ王子は苦笑を浮かべた。

「正直に言えば、私個人としては暗号解読を頼みたいからマルティナ嬢に国に来てほしかったという気持ちが大きい。しかしマルティナ嬢の存在が、霊峰探索の大きな助けになると考えたのも事実だ」

「マルティナに近づこうとしてた理由は?」

「……最初はマルティナ嬢が信頼できるかどうかを確かめたかった。暗号解読を頼もうと決めてからは、仲を深めて引き受けてもらえる可能性を上げたかったんだ。ただ――」

そこで言葉を切ったルイシュ王子は、ロランの隣にいたマルティナの下に数歩だけ近づき、綺麗な笑みを浮かべて言った。

「マルティナ嬢のことを好ましいと思い、個人的に仲良くなりたいと思っていたのも確かだ。本が好きという趣味も合う。マルティナ嬢と話しているのは楽しいんだ」

その言葉にマルティナが嬉しくなって、笑顔で反応すると――。

「私もルイシュ王子と話すのは楽しいです」

ロランがマルティナの腕を掴んで、自分の下に引き寄せるようにした。しかし無意識の行動だったのか、自分で自分の行動に驚いたかのように目を見開くと、パッと手を離す。

そしてバツが悪そうな様子で、言い訳のように言った。

「マルティナ……その、あんまり心を許しすぎるなよ」

「はい。気をつけ、ます」

マルティナはロランの行動に少し驚きつつ、素直に頷いた。するとそんな二人のやりとりを見て、ルイシュ王子はニコニコと楽しそうだ。

「私の要望を理解してくれただろうか。そしてマルティナ嬢、改めて暗号解読に力を貸してくれないか?」

ルイシュ王子のその言葉に、マルティナはすぐに頷いた。

「はい。私が解読できるか分かりませんが、精一杯頑張ってみます。ということなので……ロランさん。ルイシュ王子と一緒に離宮に行ってきていいですか?」

マルティナの問いかけに、ロランは眉間の皺を深くして告げる。

「そこは一緒に来てください。だろ? お前一人で行かせるなんてことはしない。それじゃあ護衛の意味がない」

「私の勝手なのにいいのですか?」

「本音としては断ってくれるのが一番なんだけどな……マルティナがルイシュ王子に協力したいなら、俺はそれを止めたくないと思ってる。それに、その本を礼として提示されてるんだろ?」

ロランは表情を緩めると、ルイシュ王子が持ったままになっていた大きめの書物を目線で示した。ロランの予想通り、それは礼の一つとして提示されたものだ。

「なんで分かったんですか?」

マルティナが驚いて目を見開くと、ロランが苦笑を浮かべて告げる。

「さっきから何度も目線がその本にいってたからな」

思わぬ指摘に、マルティナは両手で自分の頬を押さえた。

「完全に無意識でした……」

「ははっ、さすがマルティナだな。暗号も読んでみたいと思ってるだろ」

心の内を読まれてるんじゃないかというロランの指摘に、マルティナは驚きを隠せない。

読めないだろうとは思っても、何かしらを伝えようとして書かれた文字ならば、マルティナはなんでも読んでみたいのだ。

「ロランさん、心を読む魔法でも使えますか?」

「そんな魔法あるか。マルティナが分かりやすすぎるんだ」

「うぅ……最近は結構成長したと思ったんですけど」

二人の親しいやりとりを見て、ルイシュ王子は苦笑を浮かべつつ、話を進めるために口を開いた。

「それで、ロランが一緒なら離宮に来てくれるのか?」

その問いかけには、ロランが答える。

「――はい。それならいいです。ただ何かあればすぐに魔法を使います」

「もちろん構わない。こちらも一人だけ外に護衛を待たせているが、良いだろうか」

「まあ、それは仕方ないです。むしろ一人だけなんですか?」

「ここに来たのは完全なお忍びだからな」

聞く人が聞いたら誤解しそうな響きのある言葉にロランは微妙な表情を浮かべつつ、マルティナたちは共に離宮へと向かうことになった。