軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

169、共に昼食を

翌日も同じように研究を進めたマルティナは、やはり成果がないままロランとサシャと共に食堂へと向かっていた。

「ロランさん、サシャさん。どうしましょう。帰還の魔法陣、かなり難しいかもしれません……」

ついマルティナが弱音を溢すと、ロランが労うようにマルティナの背中を軽く叩きながら問いかける。

「そんなに難しいのか? 地下研究室の情報でかなり研究が進むかもって言ってただろ?」

「はい。もちろんそれで進んだんです。この世界の中で転移をするなら、かなり自由に転移可能になりました。ただそれが異界に向かっての転移になると、途端に難しくなってしまって……」

やはりこの世界の中で転移をするのと、異界との繋ぐのでは全く別物なのだ。

「まあ、そうだよな。どこにあるのかも分からない異界だからな」

「そうなんです。もしかしたら異界から来たハルカなら成功するのかもしれないって構想の魔法陣はあるのですが、それはハルカにしか試せませんから、失敗してハルカの身に何かが起こったらと思うと怖くて試せません」

マルティナとしては、これで確実に安全にハルカが日本に帰れる。そう確信できる帰還の魔法陣を作りたいのだ。いや、そこまでのものを作れなければ意味がないのだ。

これからどうすれば良いのか。研究の方向性を変えるべきか。また魔法の専門家や、さらには魔法陣言語の研究を始めたという人たちにも協力を仰ぐべきか。

様々な可能性がマルティナの頭の中で生まれては消える。

(魔法陣の専門家がいてくれたら、凄く心強いのに)

つい最近まで完全に廃れていて過去の技術だった魔法陣に、専門家などいるわけもない。これから専門家が生まれるとしても、その専門家たちが研究成果を出し始めるまでは何年もかかるはずだ。

「うーん」

ひたすら悩んでいるマルティナの顔を、ロランがひょいっと覗き込む。

「あんまり抱え込みすぎるなよ。帰還の魔法陣が完成しないことの責任は、マルティナだけが背負うものじゃないからな」

ロランのその言葉に、マルティナの心が少し軽くなった。

「……はい。ありがとうございます」

笑顔でそう伝えると、ロランもニッと笑みを浮かべる。さらにサシャも明るい声で言った。

「マルティナさん、元気を取り戻すにはとにかく食べることっすよ。今日はトマト煮込みの匂いがするっす!」

通常運転なサシャの言葉に、マルティナとロランは同時に噴き出した。

「ふふっ、サシャさん、ありがとうございます」

「お前は本当に、ブレないやつだな」

「食事が大切なのはこの世の真理っすからね?」

そうして三人が楽しく話しながら、食堂に足を踏み入れようとしたところで……またしても後ろから、声をかけられた。

「マルティナ嬢、それからロランとサシャだったかな」

振り返るとそこにいたのは、ルイシュ王子だ。今日は護衛と側近を連れている。

「ルイシュ王子」

マルティナが名を呼ぶと、ルイシュ王子はニッコリと微笑んだ。ロランとサシャ――特にロランは、あまり表には出していないものの、強く警戒している様子だ。

「今日はどうされたのですか?」

「いや、実はここの食堂の話を聞いて、私たちでも自由に食べて良いそうなんだ。そこで今日の昼食はここでいただこうと来てみたら、ちょうどマルティナ嬢を見つけてしまった」

「そうだったのですね。ここの食事は美味しいですよ」

「それは楽しみだ。もしよければご一緒しても? おすすめの料理などを教えてもらえるとありがたい」

「もちろん、構いませんが……」

マルティナは私と食事を共にして楽しいのだろうか。と少し不思議に思いつつ、断る理由もないので頷いた。

(本好き同士の会話がしたいなら嬉しいけど、ルイシュ王子なら私以外にも話ができる人がたくさんいそうだけど……)

「ありがとう。嬉しいな」

そうしてマルティナたち三人は、ルイシュ王子と共に食堂へと足を踏み入れることになった。王子、それも他国の代表者である王子の登場に、食堂内は異様な雰囲気に包まれる。

いつもはガヤガヤとうるさい食堂も、なんだか少し大人しかった。

「こっちに並んで好きな料理をトレーに取るんです」

「ほう、合理的な形だ」

「あっ、その煮込み料理めちゃくちゃ美味いっすよ」

サシャはルイシュ王子を警戒しつつも、美味しいご飯には罪はないとばかりに、自らのおすすめを次々と示している。

「君は食べることが好きなんだな」

「もちろんっす」

「マルティナ嬢はどうなんだ?」

「うーん、私も普通に好きですよ。お腹が空いたら美味しいものを食べたくなります。ただ美味しい食事が出てくる本とどちらが好きかと言われると、やはり本に軍配が上がるかと……!」

マルティナらしい返答に警戒していたロランも呆れを滲ませていると、ルイシュ王子は楽しそうに笑う。

「本当に本が好きなのだな」

「はい!」

そんなやり取りをしながら料理を取り、皆で空いている席に着いた。

今日はナディアとシルヴァンは時間が合わなかったのかおらず、マルティナたち三人と、その向かいにルイシュ王子、その側近、そして護衛という六人での食事だ。