軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

165、魔法陣の内容と王子の要望

「マルティナ、昼食の時間だ」

ロランに体を揺さぶられたことで、マルティナはハッと我に返った。最近はマルティナの扱いに、かなり慣れてきたロランである。

パチパチと目を瞬かせてからロランに視線を向けたマルティナは、少し目を見開いた。

「……もうお昼ですか? さっき書庫に来たはずなのですが」

「もう何時間も経ってるぞ。いつも思ってるけどよ、マルティナの集中力は本当に凄いよなぁ」

そう言って苦笑を浮かべたロランは、マルティナが必死に書き込んでいた魔法陣を覗き込む。

「魔法陣の読み解き、進んでるのか?」

「はい。もう魔法陣に何が書かれているのかはほとんど分かりました」

マルティナも魔法陣に視線を戻して、さらに別の紙を指差した。そちらは抽象的で意味が読み取れない文を、マルティナなりに現代の言葉に置き換えたものだ。

「かなり推測も含まれていますが、ここに書いたものは大きく外れてないと思います」

「もうこんなに分かってるのか? えっと、この世は器とその中身で構成されており、そのどちらが欠けてもこの世界は本来の姿たりえないのである。その中身とは万物の素であり、その素を器に注ぐのが還元石である。素はただひたすらに循環する。器に注がれて形作ったものが役目を終えても、また素は石に戻る。そしてまた注がれるのだ。――どういうことだ?」

ロランが首を傾げたのを見て、今度はマルティナが苦笑を浮かべた。

「やっぱりよく分からないですよね。これでもかなり噛み砕いてみたんです。私は地下研究室の書物を読んだことで、魔法陣に関してはほぼ自在に扱えるようになりました。ただこの魔法陣は魔法陣自体を読み解けても、それによって判明した内容が抽象的で難しくて……」

地下研究室の書物を全て読んだマルティナは、もう魔法陣に関して知らないことはない。そう言っても過言ではないほどなのだ。しかしそれでも、還元石と浄化石を繋ぐ魔法陣は難しいものだった。

そして帰還の魔法陣についても、地下研究室の情報を全て網羅した上で、まだ完成には辿り着けないとマルティナはすでに分かっている。

そこをなんとか、完成まで辿り着かせるのがこれからマルティナがやるべきことだが、過去の研究成果を全て注ぎ込んでも完成しない場合、必要なのは創造性だ。

マルティナは既存の情報を整理して適切に活用するのは得意だが、ゼロから一を作る専門家ではない。そこで行き詰まったら、別の研究者や専門家に協力を仰ごうと思っていた。

「ラフォレ様たちの手が空いたら、解読を手伝ってもらおうと思っています」

「それがいいかもしれないな」

そこで話が途切れると、ロランが何かを思い出したように顔を上げた。

「そうだ、こんな話をしてる場合じゃなかった。昼飯を食べに行こうっていうのも本当なんだが、その前に写本を一冊頼まれてて、リストの十五番の本なんだ。サディール王国のルイシュ王子が読みたいらしい」

「そうなのですね」

他国の代表者たちが写本を自由に読めるのは大陸会議で決定されたことなので、マルティナはなんの疑問も抱かずに頷く。ロランもただの一つの仕事として認識しているようだ。

「確か向こうにあったので、借りてきます」

「頼んだ」

そうしてマルティナとロラン、そして書庫の前で護衛に徹していたサシャの三人は、一冊の写本を持って王宮図書館を後にした。

「この写本、食堂に行く前に渡しますか?」

「そうしたい。実はさっき俺が直接頼まれたんだが、できる限り早く読みたいってことだったからな」

「ロランさんが直接? ルイシュ王子にですか?」

「そうだ」

ロランを始めとして大陸会議関係の仕事をこなしている官吏は基本的に固定されているため、ルイシュ王子がロランを担当者と認識しているのはおかしくない。

しかし基本的に他国の代表者たちは、自らの側近を使って手紙を政務部に届ける形で要望を伝えるため、直接官吏に声をかける人は割と珍しいのだ。

ただ禁止されているわけでもなく、そういう人もたまにはいる。

「そんなにすぐ読みたかったんですかね? もしかして、ルイシュ王子は読書家なんでしょうか……!」

思いついた可能性に、マルティナの瞳がキラキラと輝いた。本好き仲間はいくらいても良いのだ。

「さあ、どうだろうなぁ。ただあの写本って魔法陣に使われてる特殊言語が理解できないと読めなかっただろ? それを勉強してたんなら、頭はいいんだろう」

「そうですよね。とてもお忙しい中で新たな言語を学んで写本を読みたいなんて、とても素敵な方ですね!」

テンションが上がっているマルティナに、ロランは苦笑を浮かべた。

しかし実際にルイシュ王子は国の代表者として今までも忙しかっただろうし、今は霊峰探索軍を受け入れるためにサディール王国側とやり取りしながら、さらに忙しく働いているはずだ。

そんな中で本を読みたいと思ったのであれば、それはマルティナと同じ人種である可能性が高いだろう。

「ルイシュ王子に馴れ馴れしくするなよ?」

「も、もちろんです」

「マルティナさん、目が泳いでるっすよ〜」

サシャに指摘されてしまったマルティナは、ギクッと体を固めた。

「大丈夫です。さすがに他国の王子様に馴れ馴れしくなんてできませんよ。サディール王国の面白い本を持ってたりしないかな……なんて気持ちは、ほんのちょっとだけ、すこーしだけならありますが」

「あるんじゃねぇか」

頭のてっぺんにロランに手刀を落とされ、マルティナは両手で頭を押さえた。

「あたっ」

「余計なことは言うなよ?」

そんなやり取りをしているうちに、マルティナたちはサディール王国に割り当てられている客室の前に着いた。