軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

15、ラフォレの研究室

会議室から研究者たちが出ていく中、歴史の研究家であるオディロン・ラフォレは部屋に残り、マルティナの正面に立った。

「マルティナ、少し時間はあるか?」

「午後は調査隊の仕事を優先していいと言われておりますので、時間はございますが……」

「では私と一緒に来て欲しい。君のその能力は、多くの書物を読むことでより有効活用できるはずだ」

――え、もしかしてラフォレ様の蔵書を読ませてもらえるの!?

マルティナが期待に瞳を輝かせると、ラフォレは僅かに口端を緩めながら部屋の出口に向かった。

「第一騎士団長、また三日後に」

「かしこまりました。マルティナもまたな」

「はい、これからもよろしくお願いします!」

会議室を出たラフォレとマルティナは、そこからしばらく歩いた先にあるラフォレの研究室に入った。王宮の研究棟にあるその部屋は、貴重な書物が多く所蔵されている、マルティナにとっては夢のような場所だ。

最初は表情を取り繕っていたマルティナも、部屋に入ったらもう緩んだ頬を戻せないようで、壁一面に収納された本の背表紙を輝く瞳で見つめた。

「素晴らしいですね……!!」

「君は本当に本が好きなんだな」

「はい! 新しい情報を知ることがとても楽しいんです」

「それもまた才能の一つだな。では今日の午後に少しでも知識を増やすと良い。また明日以降も、マルティナには自由な出入りを許可する」

ラフォレの寛大すぎる言葉を聞いて、マルティナは少しだけ興奮がおさまったのか神妙な面持ちで口を開いた。

「どうしてそこまでしていただけるのでしょうか……これらの蔵書は、とても貴重なものだと思いますが」

「そうだな。貴重だからこそ、マルティナに読んでおいてほしいと思ったのだ。私の人生における一番の目標は、残された史料をもとに少しでも歴史を紐解き後世に残すこと。それを実現するのは、別に私でなくとも構わないと思っている」

莫大な史料を眺めながら発されたラフォレの言葉に、マルティナは尊敬の眼差しをラフォレに向ける。

――漠然と凄い人というイメージしかなかったけど、ラフォレ様はとても純粋で歴史が好きな方みたいだ。

「私の能力を歴史研究に使うべきということですね」

「ああ、そう思っている。全ての書物を記憶できるなど、数多ある史料を読み解く歴史研究家にとって垂涎の能力だ。また紙という形の書物はどうしても紛失の危険がつきまとう。そこでマルティナの頭の中にも、これらの書物を保存してほしい」

書物の保存、その言葉を聞いたマルティナは、今まで思い至らなかった自分の才能の使い道に気づいた。平民図書館で読んだ本はともかく、中古本屋でたまたま出会って読んだ本の中には、もう実物を探し出せないものも多くあるのだ。

その中で有用なものを復元し国に保管してもらうことは、未来への重要な寄与となるだろう。

「ラフォレ様、ありがとうございます。こちらにある書物、全力で読ませていただきます!」

「頼んだぞ。では私は暗黒時代に関する書物と、悪魔に関する研究書を中心に読み進める。マルティナもそこから共に読み進めると良い」

「分かりました」

それから二人は祖父と孫ほど歳が離れているにも関わらず、書物が好きという共通点によりすぐに距離を縮めた。

共にラフォレの研究室にある膨大な数の書物から、瘴気溜まりに関する記述が予想されるものを抜き出し、それを端から読んでいく。

「ラフォレ様、こちらの書物に瘴気溜まりに関する記述はありませんでしたが、とても有用な事柄がいくつも載っています。これはもう一度研究するべきだと思います」

「ほう、有用な事柄とはなんだ?」

「人類誕生の起源に関する考察がなされています。これだけでは荒唐無稽な話だと思ってしまいますが、今まで読んできたいくつかの書物の内容と照らし合わせるに、そこまで馬鹿にできるものでもないと思います。もしよろしければ、照らし合わせるべき書物のタイトルもメモしておきましょうか?」

「ぜひ頼みたい。紙にメモをして、その書物に挟んでおいてくれるか? あとで確認をしておく」

「よろしくお願いします」

ラフォレはマルティナの能力が予想以上に歴史研究に向いており、先ほどから傍目には表情が変わらないが、明らかに口端が緩んでいる。

「マルティナ、こちらの書物には瘴気溜まりに関する記述はない」

「分かりました。では次は……こちらを読みますね」

それからも二人は時間を忘れて書物を読み耽った。ラフォレは研究を始めたら時間を忘れるのはいつものことで、もちろんマルティナも本の世界に入り込んでしまえば周りは見えなくなる。

そんな二人を止める人物は研究室にはいなく……二人がやっと書物から顔を上げたのは、研究室の扉がノックされた、外が暗くなってしばらく経過した夜と言っても良い時間帯だった。