軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

139、第三王子の苦悩

マルティナたちが迷いの古代遺跡の探索を始めた頃。ハーディ王国の王宮にある一室では、第三王子であるフィルヴァルトがソファーに腰掛け、イライラを誤魔化すように足を揺すっていた。

「はぁ……」

大きなため息を吐くフィルヴァルトの前には、使い込まれた書物がある。王子として必要な教養や学問がまとめられた教本で、もう何度も何度も読み返しているものだった。

「なぜ私は、兄上たちのようにできないのだ」

第一王子であるサーフェルンは武力こそ人並みだが、その並外れた知能は幼い頃から頭角を表しており、聡明で次代の王に相応しいと誰もが認めている存在だった。

第二王子は逆でサーフェルンほど頭脳明晰ではないが、とにかく武力に優れていた。どんな武器でも人並み以上に使いこなしてしまうが、特に剣術の腕はそこらの騎士では及ばない。国では五指に入るほどの実力者だ。

そんな兄二人と比べると、フィルヴァルトはパッとしなかった。一般的に見ると学力も武力も平均以上であるのだが、どちらも特出しない。

とても真面目で努力家な部分を周囲は評価しており、フィルヴァルトを蔑むような者はほとんどいないのだが、本人は兄二人と自分を比べてしまい、複雑な思いを抱えていた。

「どうすれば、私でも国の役に立てるだろうか……」

そう考え始めたフィルヴァルトの脳裏には、マルティナの顔が浮かんでいた。

(あの少女の凄さは話に聞いていたが、赤点病の顛末を見るに、私が考えている以上の規格外な能力を持っていた。となれば、本気で迷いの古代遺跡の全容が明らかになるかもしれない)

迷いの古代遺跡に眠っている情報は、今となっては大陸中の国々が待ち侘びているものだ。聖女ハルカによって少しは希望が見えたが、未だ混沌に満ちているこの世界を、救ってくれる可能性があるらしい。

フィルヴァルトは迷いの古代遺跡に眠っているものが、莫大な金銀財宝にも勝るお宝に思えていた。そんなお宝をマルティナたち調査団が発見したとして、その成果は良くてハーディ王国とラクサリア王国で半々だろう。

マルティナの貢献度が大きいということになれば、その名誉はラクサリア王国の方に比重が傾くかもしれない。

(どうにかして、ハーディ王国の利益が大きくなるようにできないものか。例えば……マルティナ嬢を武力で軽く脅して、我が国の手柄とするか?)

そう考えた瞬間、フィルヴァルトは首を横に振った。

(ダメだ、そんなことをしたらハーディ王国の立場を悪くするだけだ。上手く手柄を独占できたところでマルティナ嬢が脅されたことを明らかにしてしまえば、一気に状況は悪くなる。それにマルティナ嬢は、聖女ハルカ様と仲が良いらしい)

マルティナを脅して手柄を手に入れた後、その全てがバレて多くの国から批判を受け、聖女ハルカからもハーディ王国が見捨てられるところまでを思い描いたフィルヴァルトは、少し顔色を悪くしながら冷めたお茶を口に運んだ。

(ダメだ。何事も無理矢理というのは良くない。もっと良い方法がないだろうか。私が動くことによって、ハーディ王国の利となるようなことは……)

そこまで考えたフィルヴァルトに、ある閃きが降りてきた。

(私の私兵たちを連れて、探索の助力に向かうのはどうだ? ラクサリア王国の調査団とハーディ王国の調査団、そして第三王子の功績で貴重な情報が明らかになったとなれば、ハーディ王国側にその成果の比重は重くなるのではないだろうか)

良い案を思いつき、フィルヴァルトの顔は明るくなる。実際にこの案は悪いものではなかった。ハーディ国王は瘴気溜まり、聖女一行の訪問、赤点病など対処すべき問題が山積みで、到底探索の助力になどいけない状態であり、執務を手伝う第一王子も同様だった。

第二王子は騎士団の仕事が忙しく、これまた同じく探索に時間を注ぎ込む余裕はなかった。王族で唯一時間的余裕があったのは、フィルヴァルトだけなのだ。

ただフィルヴァルトだって決して暇なわけではなく、日々の勉学と共に簡単な執務を割り振られていた。私兵団もフィルヴァルトが管理している一部の王領の安全確保のために半数が動員されていたし、決して余裕はない状況だ。

しかし他の王族とは違って、遺跡探索への助力が不可能な状況ではなかった。

(さっそく父上に相談するべきだな。そして仕事を片付けて私兵たちの数も最低限を揃え、迷いの古代遺跡に向かおう)

フィルヴァルトは頭の中で放り出せない仕事の数々を思い浮かべ、近くにあった白紙にこれからのスケジュールを書き出し始めた。

勉学や鍛錬の時間は最低限に減らすことで、なんとか時間の捻出を考える。

(早くしなければ……何かしらの成果が上がる前に間に合わなければ、私の功績――ハーディ王国の功績を増やせなくなってしまう)

何か国のためになる成果をあげたいという焦りに加え、様々な問題が蓄積している国の現状や世界の危機など色々な要素が加わり、フィルヴァルトは少しだけズルや立場の悪用を考えてしまった。

(助力へ向かい成果を上げるのが難しそうならば……少しぐらい無理矢理にでも、手柄を立てて良いだろうか。その場にいる者たちからの私への評価が少し落ちたとしても、大勢から評価される成果を重視したい。第三王子である私が少し横柄に振る舞ったところで、わざわざ報告されるようなことはないはずだ)

ずる賢く考えたフィルヴァルトは、その場にいて欲しくない存在が誰なのかを考え始める。

(連れていく私兵は、若い兵で固めたいな。それから父上や兄上たちがいてはダメだ。また聖女ハルカにも見られてはいけない。ここが一番大切だが……聖女ハルカは浄化の旅の途中であるし、基本的には探索に関与しないらしいので、問題ないだろう。あとは――)

それからもフィルヴァルトは成果を出せない自分への焦りと共に、ハーディ王国のため、作戦を練り続けた。