軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

113、ハーディ王国からの使者

ハーディ王国での浄化の旅を行うため、ハルカがラクサリア王国を出立して数週間が経過した。この数週間でマルティナは、ひたすら浄化石と還元石に関する情報収集と、帰還の魔法陣に関する研究に明け暮れていた。

「ハルカ、大丈夫ですかね……」

今はちょうどお昼の時間で、マルティナは護衛であるサシャとロラン、それからちょうど時間が合ったナディア、シルヴァンと共に昼食をとっているところだ。

ハルカは他国へ向かったが、依然としてラクサリア王国の王宮には他国の代表者たちが大勢いて、ここが瘴気溜まり対策への中心地であることは変わらない。

したがってロラン、ナディア、シルヴァンの三人は変わらず瘴気溜まりに関する仕事を継続していて、マルティナも官吏としての仕事よりも研究業務が主となっていた。

「そんなに心配しなくても大丈夫だろ。行き先はハーディ王国だしな」

ロランのその言葉に、マルティナはハーディ王国から来ていた代表者の王子を思い出す。今はハルカと共に国に帰っているが、ラクサリア王国にいる間は接する機会もあったのだ。

「確かにハーディ王国の代表者は、誠実な方でしたね」

「ああ、確か第一王子殿下だったな。あの人が上にいるなら大きな問題は起きないと思うぞ」

マルティナがハーディ王国の王子を思い出していると、優雅にチキンステーキを咀嚼していたナディアが、ナイフとフォークを置いてから口を開いた。

「それに、ハルカは強いもの。そこまで心配いらないわ。ハルカを脅かしていた存在はリネ教の熱心な信徒たちであったようだし、新たにハルカを害そうとする人が現れる可能性は低いでしょう」

リネ教の熱心な信徒たちが異形の召喚によってこの世から姿を消し、ハルカの命を狙う襲撃はパタっと収まったのだ。そのため、ハルカを狙っていたのはリネ教の一部の者たちであるとほぼ確定された。

この世界を救おうと動いているハルカを害する動機がある者たちは少ないため、またハルカの命が危険に晒される可能性は低い。

「ハルカを無理やり自らのものにしようとする者も、かなり減っただろうな。聖女教の失敗は、今となってはありがたいことだった」

続けてシルヴァンも口を開き、マルティナは二人の言葉に神妙な面持ちで頷いた。

「そうですね。あまり心配しすぎないことにします。ただしばらく会えないのは寂しいですが……」

マルティナがハルカのことを考えてしまうのは、心配もさることながら、寂しさも大きい。まだ知り合ってそこまで長い期間が経ったわけではないが、二人は親しい友人なのだ。

「それはわたくしも寂しいわ。ハルカと次に会えるのはいつになるかしら……」

「ハルカの浄化の旅はしばらく続くからな」

どの国でも事態は逼迫しているため、毎回ラクサリア王国に戻ってくるようなことはできないのだ。

ハルカと共に過ごせる時間の少なさを思い、四人が少しだけ落ち込んでいると、そんな暗い雰囲気をサシャが吹き飛ばした。

「皆さん、早く食べないと冷めるっすよ!」

そう言って大口でステーキを頬張るサシャに、全員の表情が呆れまじりに緩んだ。

「サシャはいつも楽しそうで羨ましいわ」

ナディアが呟いたその言葉に、ハルカの影響で追加された白米をかきこみながら、サシャは首を横に振った。

「俺にも悲しいこともあるっすよ〜。例えばふらっと入った食堂の唐揚げが微妙な味付けだったりとか、好きな屋台が移動しちゃって買いに行けなくなったとか。色々あるんす〜」

サシャ本人にとっては大きな問題なのだろうが、マルティナたちにとっては凄く平和なその悩みを聞いて、シルヴァンがグッと眉間に皺を寄せる。

「それが悲しいこととして真っ先に出てくる時点で、お前は幸せ者だろう」

「え、そんなことないっすよ! これめっちゃ悲しいことっすからね!?」

皆に理解してもらえてないと分かり前のめりになるサシャに、マルティナが同意するように頷いた。

「私は分かりますよ。好きなものが手に入らなくなるのって悲しいですよね。子供の頃に近所にあった小さな中古本屋が閉店しちゃった時は悲しくて悲しくて……それから新しい本だ! って思ったら、表紙だけで中は白紙だった時のあの絶望感は――」

過去の辛かった経験を思い出してうんうんと頷くマルティナに、サシャは顔を明るくする。

「さすがマルティナさん! 分かってくれるっすね!」

二人がガシッと握手を交わす中、ロランは苦笑を、ナディアとシルヴァンは呆れた表情を浮かべていた。

それから数日後の午後。マルティナがいつも通り研究に精を出していると、王宮図書館の書庫に陛下からの使いがやってきた。

「失礼いたします。陛下からの伝言がございます」

まず対応したのはラフォレだ。

「陛下から直接……珍しいな。誰に対する伝言だ?」

皆の視線が集まる中で、使いの男は一呼吸おいてから答えた。

「マルティナさんに対してです。先ほどハーディ王国からの使者が到着いたしました。ハーディ国王からの書状が読み上げられるため、至急各国の代表者の皆様が集められております。そこでマルティナさんにも参加してほしいとのことです」

ハーディ王国からの使者。その言葉にマルティナの心臓が嫌な音を立てる。

もしかしたら、ハルカに何かあったのかもしれない。予期せぬトラブルが発生したのかもしれない。そんな後ろ向きなことを考えてしまい、自然と体に力が入った。

「どんな内容かは、聞いていないのでしょうか」

「はい。貴重な情報であるため、皆様に同時に聞いてもらいたいというのがハーディ国王の望みだと」

貴重な情報。その一言でその場の雰囲気が一変した。ハルカの危機を貴重な情報とは言わないだろう。現状でそう冠されるものは、瘴気溜まりや魔法陣、そして浄化石や還元石に関わる情報の可能性が高い。

「その内容によっては、私たちの研究にも影響がありそうだな」

ラフォレの呟きに背中を押される形で、マルティナの表情は明るくなる。

「期待ができそうですね……皆さん、私が代表して聞いてきます」

書庫内にいた歴史研究家の皆に宣言すると、マルティナは全員に快く送り出された。

「頼みましたよ」

「マルティナさんがいない間も研究を続けてます」

「マルティナ、頼んだぞ」

「はいっ、任せてください!」

そうしてマルティナは陛下の使いである男と護衛のサシャを連れて、会議が行われるいつもの大ホールに向かった。

するとそこではロラン、ナディア、シルヴァンが慌ただしく準備を進めていて、すでに数人の代表者が席に着いている。その様子を確認して、マルティナは三人の手伝いをしようとロランに声をかけた。

「準備を手伝います」

「助かる。急なことで驚いたな……」

「本当ですね。どんな内容なんでしょうか」

ロランがしていた椅子の点検を手伝いながら問いかけると、ロランがマルティナに顔を近づけて小声で告げる。

「かなり重要な内容だと思うぞ。着いた使者の対応をシルヴァンがしたんだけどな、相当飛ばしてきたみたいだ」

「そこまで急いで伝えるべき内容ってことですね」

「ああ、そうだろうな」

これは本当に期待してもいいかもしれない。何か瘴気溜まりに関して新事実でも判明したのだろうか。

マルティナが期待感を膨らませながら手を動かしていると、続々と各国の代表者たちが集まってきた。しばらくして準備が終わった頃に、ハーディ王国の使者と共にラクサリア国王、そして宰相のロートレックが入室する。

そこでマルティナも自分に割り当てられた椅子に腰掛け、緊急会議の開始だ。