軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

1、合格と入庁式

王都の外れにある職人街。その一角に店を構えるこぢんまりとした古着屋に、この辺りで見かけることはない王宮からの馬車が止まっている。

通りを歩く人々は珍しい来客に何事かと興味津々だ。

「王宮からのお届けものです。マルティナ嬢はいらっしゃいますか?」

馬車から降りた官吏服を着た男が古着屋に呼びかけると、店の中からドタバタと慌ただしい足音がして、小柄な少女が顔を出した。

癖っ毛なのか所々が跳ねた金髪をハーフアップにした、ごく普通の少女だ。

「はい! 私がマルティナです!」

「こちらをお届けに参りました」

男が差し出したのは豪華な封書だ。マルティナはその中身が分かっているのか、大きな瞳を輝かせながら震える手で受け取る。

「も、も、もしかして……受かったんですか!?」

「はい。こちらが届いているということは合格だと思われます。おめでとうございます」

「ありがとうございます……!」

マルティナは封書を大切そうに胸に抱き、ガバッと勢いよく頭を下げた。

「では中身をよく確認し、手続きなどを済ませるようお願いします」

「分かりました。わざわざ届けてくださってありがとうございます!」

男が馬車に乗って去っていくと、マルティナはぐるんっと体を回転させて店の中に駆け戻った。そしてカウンターの中で服のほつれを直していた母親に、満面の笑みで封書を掲げて見せる。

「お母さん、受かった! 官吏登用試験!」

マルティナのその言葉が聞こえたのか、店の奥からドタバタと激しい足音がして、壊れるんじゃないかという勢いで開いた扉から父親が顔を出す。

「マルティナ、今なんて言った!?」

「お父さん! 私、官吏登用試験に受かったよ!」

顔を出した父親にもマルティナが封書を掲げて見せると、父親はマルティナが掲げる封書を呆然と見つめ……その場に膝をついた。

「まさか受かるなんて。平民は受からないって、聞いてたのに」

この国では約十年前から貴族と平民の距離が近くなり、平民でも差別されることなくどんな仕事にも就けるようになった。

しかし官吏登用試験に合格するにはかなりの知識が必要なため、貴族と比べて主に資金不足が理由で教育を受けるハードルが高い平民では、ほとんど合格者が出ないのが一般認識なのだ。

「これで王宮図書館の本が読める……!」

マルティナは落ち込んでいる様子の父親には全く気づかず、嬉しそうに頬を赤く染めた。そんなマルティナの様子を見て、父親とは対照的に母親は優しい笑顔だ。

「マルティナはそのために試験を受けたんだものね。良かったじゃない」

「うん! 私が平民街にある図書館の本を読み終えちゃった時に、お父さんがそれなら官吏になれば良いって教えてくれたおかげだよ。お父さん、本当にありがとう!」

父親はマルティナのその言葉を聞いて、複雑そうな表情を浮かべた。

「……絶対に落ちると思ってたから、勧めたのに」

ボソリと呟いた言葉は誰にも聞こえていない。

父親は図書館に住み着いているとまで言われたマルティナが、本を全て読み終わってしまって落ち込んでいるのが可哀想で、王宮図書館のことを教えたのだ。

しかし家庭教師も付けていないマルティナが、本当に官吏になんてなれるとは思っておらず、落ちたら諦めがつくだろうと勧めた試験だった。

「やっぱりマルティナは頭が良いわね」

「うん。一度見たもの、読んだものは絶対に忘れないよ」

「その力を国のために役立てなさい」

「もちろん! そしてたくさんの新しい本を読むんだ」

マルティナと母親が話を進めている中、父親は未だに衝撃から立ち直れていない。なぜなら……

「マルティナがうちから出て行くなんて、悲しすぎて父さんは耐えられない!」

娘のことが大好きなのだ。溺愛しすぎるあまり嫁にも行かせたくなく、婿を取ろうとまで計画していたのが台無しになった父親は、茫然自失としている。

「お父さん、諦めなさい。マルティナはもう王宮図書館しか見えてないわ」

父親の嘆きが聞こえていないマルティナは、まだ見ぬ王宮図書館を脳裏に描いて瞳を輝かせていた。

まるで恋するようなその表情に父親は涙したが――マルティナが気づくことはなかった。

♢ ♢ ♢

それから数週間後。王宮では官吏の入庁式が開かれていた。たくさん並ぶ新人官吏たちの中に、キラキラと瞳を輝かせたマルティナがいる。

「……貴族らしくない、小さいのがいるな」

そんなマルティナを見て、入庁式を見にきていた先輩官吏がそう呟いた。貴族の子女は髪を綺麗に伸ばしているのに対し、マルティナは肩に付くぐらいで切り揃えてしまっているのが奇特に映るのだろう。

「ああ、あれは平民だぞ」

人事部の男が発したその言葉に、周囲にいた官吏が一斉に瞳を見開いた。

「え!? マジか……平民が受かるなんて、三年ぶりじゃないか?」

「いや、正確には四年ぶりだ。それに聞いて驚くなよ……あいつの試験結果、満点なんだぜ」

「…………マジかよ。あの試験で満点とか、貴族でも無理だろ」

百点満点で平均は六十点程度の試験だ。満点なんて一人も出ないことが普通の試験で、平民の少女が満点。これは王国が始まって以来の快挙だった。

「それにあの子、かなり若くないか?」

「ああ、十五歳らしいな。受験可能年齢になってさっそく受けたんだろう」

「……十五歳の平民の少女が満点で官吏になる。意味が分からん」

マルティナの存在に皆が呆然としていると、壇上に内務大臣が上がって入庁式が始まった。これから始まる官吏としての生活に期待と不安を抱いた新人たちが、内務大臣に視線を向ける。

「ここにいる十二人の皆は熾烈な試験を潜り抜けた者たちだ。国が認めたその頭脳を、我が国のために惜しみなく使ってほしい。ではこれから国のために働く皆に、我が国の建国の歴史を――」

それから例年通りの内務大臣による長話が始まり、三十分ほどでやっと終わったところで、新人官吏がそれぞれ名前を呼ばれて壇上に上がることになった。

名前を呼ばれた者は壇上で官吏の証であるマントと、マントの留め具であるブローチを手渡される。このマントの色によって自分の配属先が決まるので、新人官吏たちは緊張の面持ちだ。

「次、マルティナ」

内務大臣によって名前を呼ばれたマルティナは、少し緊張しながらも期待がそれを上回っているのか、瞳の輝きはそのままに壇上へと上がった。

「マルティナ嬢、国への多大な貢献を期待する」

「はい!」

その言葉に大きく頷きながらマントとブローチを両手で受け取ったマルティナは、その場で少し手間取りながら官吏服の上にマントを身につけた。

マルティナのマントの色は若草色。それは、政務部への配属を示すものだった。