軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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4日ぶりに塾に行くと、チャラピアスが駆け寄ってきた。

「吉祥院さんっ、この間はごめん!」

うわっ!いきなりなに?!

思わず体ごと引く私に構わず、チャラピアスはひとり反省の弁を述べている。

「あれからずっと吉祥院さん塾を休んでただろ。俺、スッゲー責任感じちゃって…。本当にごめん!」

だからなにがよ。なんの話よ。

それとチャラピアス、顔がシュンとしちゃってるぞ、一体どうした。

「あの後すぐに教室出て行っちゃって、そのまま直前まで戻ってこなかったしさ。もしかしてどっかで泣いてたんじゃないかって思ってさ」

ん?……あっ!茶巾寿司か!

おのれ茶巾寿司の恨み、いまだ忘れてはおらぬぞ!

「それからずっと休んでただろ。もしかして俺に会いたくなかったから?毎日家で泣いてた?」

あぁ、そういえば茶巾寿司事件の次の日から、塾を休んで断食に行ったんだっけ。なんかもうすいぶん昔の話に思えるよ。あー、断食つらかったもんな~。

で、このチャラピアスは、それを私が傷ついたからだと勝手に解釈して、この3日間、罪悪感に苛まれていたのか。そりゃご愁傷様。

でも本当のことは教えてあげないよー。私の大事な茶巾寿司を横取りしたんだ、せいぜい勘違いしたまま反省するがよい。けけけ。

食べ物の恨みは恐ろしいのだよ。

「まさかそんなにショック受けるとは思わなくて。でも本物のお嬢様は俺らと違って繊細そうだもんな。なんだか吉祥院さん、前より痩せちゃったし」

えっ!なに?!今、チャラピアスはなんと言った?私が痩せたの言ったのか?!

……チャラピアス、特別に許す!

「もう気にしないでいいですわ。今回は少し体調を崩してしまって休んでいただけですから」

にっこり笑顔で許しを与える。しょうがない、今回ばかりは脂肪とともに水に流してあげましょう。

「本当?!良かった。まだ具合悪いんだったらムリしないほうがいいよ。さ、座って」

離れた席に座ろうと思っていたのに、いつの間にかチャラピアス達のグループに連れていかれてしまった。うぬぬ、やるな。

「吉祥院さん久しぶりー。この前はコイツがごめんねー」

「酷いよな、お弁当食べちゃうなんて」

「お嬢様って傷つきやすいのね~。あの程度で休んじゃうんだから」

ショートカットがさりげなく毒を吐いたな。

「吉祥院さん、体調悪かったんだって。具合悪かったらすぐに言ってね」

「ありがとうございます」

妙に甲斐甲斐しいな、チャラピアス。繊細で傷つきやすい箱入りお嬢様だと、勝手にイメージを作ったか。甘いな。チャラピアスが罪悪感を感じていた頃、私は高級中華料理店でお父様から奪い取ったふかひれを食べていたよ。

しかし痩せたか…。最後のメディカルチェックでは確かに2キロ弱痩せていた。ただこれって食べたらすぐに戻っちゃうんだろうな。

でも今のこのおなか周りの体型を維持できるように頑張ろう。チャラピアス、モチベーションを上げてくれてありがとう。

そしてチャラピアス、君の名前はなんだったっけ?

お昼休みになり、チャラピアス達は外に食べに行った。私はいつものようにお弁当だ。のんびりお弁当を食べた後は、パラパラと塾のテキストを見る。休んだぶんは真凛先生に教えてもらう予定でいるけど、少し予習もしておこう。

ランチから戻ってきたチャラピアスが、私にコーヒーショップの袋を渡してきた。わけがわからず中を見ると、生ハムと野菜のパニーノが入っていた。

「これ、この前のお詫び。良かったら食べて。吉祥院さんみたいなお嬢様の口には、もしかしたら合わないかもしれないけど」

えーっ!ありがとう!私、これ大好きなんだよ!なんだ、いい奴じゃないか、チャラピアス。

「ありがとう。あとでちゃんといただくわ」

パニーノをくれた人間には、笑顔の大盤振る舞いだ。チャラピアスも嬉しそうな顔をした。

「梅若~、電子辞書貸して~」

ショートカットがチャラピアスを呼んだ。あぁそうだ、梅若だ。良かった思い出せて。

チャラピアス改め、パニーノをくれた梅若君は電子辞書をショートカットに渡し、楽しげに携帯をいじっていた。

それからは梅若君とも少しずつしゃべるようになった。梅若君は妙に過保護だ。荷物が重いんじゃないかとか、暑いから大丈夫かとか。

そのたびにショートカットの目が嫉妬で燃えている。わかりやすい。たまに「いいよね~、お嬢様はちやほやされて」などと、嫌味を言ってくる。実にわかりやすい。

彼らのグループは、男子3人女子2人の混合グループだ。もうひとりの女の子は、初日に私の隣に座っていた茶髪の男の子と仲がいいみたいで、私のことはショートカットほど気にしてはいないらしい。

ある日、トイレで会ったショートカットに「吉祥院さんっていかにも女の子って感じだよね」と話しかけられた。

「私って男っぽいしサバサバしてるから、男子からも男友達みたいに扱われちゃうんだよね~」

「そうなの」

自称男っぽいサバサバ女ほど、内面がドロドロして嫉妬深いというのは、女子の間では常識だ。

面倒なのでショートカットを置いてさっさと出た。

梅若君は相変わらず「暑さには気を付けてね」「髪の手入れ大変?」などとやたら心配してくる。

ある時、なんでそんなに心配してくるのか尋ねてみたら、梅若君は目を輝かせて、「俺の愛するベアトリーチェに、吉祥院さんはそっくりなんだ!」と言ってきた。

ベアトリーチェとは誰だとさらに聞いたら、携帯の待ち受けを見せてくれた。

犬だった。

「ほら、可愛いだろ?アメリカン・コッカー・スパニエルでね、つぶらな目が可愛くて可愛くて。でさ吉祥院さんの髪型って、俺のベアトリーチェにそっくりなんだよ。初めて後ろからその髪を見た時、ベアトリーチェだ!って思ったもんね。うちのベアたん、マジ天使」

梅若君の愛犬は、頭にリボンを付けたくるくるウェービーな長毛種だった。

梅若君はそれから、頼んでもいないのに可愛いベアたんの写メを次々に見せてくれた。元気に走るベアたん。転がるベアたん。眠るベアたん。1枚1枚どれだけ可愛いかを力説してくる。

梅若君は犬バカだった。

「ベアトリーチェは毛が長いから絡まりやすいんだ。毎日しっかりブラッシングしているんだけどさ。吉祥院さんってその髪、どうやって手入れしてる?ベアたんはこの縦ロールを維持するのが大変で」

梅若君改め犬バカ君は、私に同じ長毛種としてアドバイスをして欲しいらしい。犬バカ君、私はこれでも人間だ。

「…梅若君は本当に犬が好きなのね」

「うん。これ見てよ!」

自慢げに自分の耳のシルバーピアスを指差す犬バカ君。よく見たら、そのピアスは犬の肉球マークだった。

本物の犬バカだった。

「これが一番気に入ってるんだけど、ほかに骨のピアスもあるんだぜ。見たい?今度付けて来ようか?」

正真正銘の犬バカだった。

「私は犬ではありませんけど、髪は絡まないようにサロンで薦められた目の粗いブラシを使っていますわね」

「あ、俺のベアたんも専用のブラシを使ってるよ」

「私は犬ではありませんけど、最低でも月に一回はヘアサロンでトリートメントをしてもらっていますわね」

「俺のベアたんも月一でトリミングしてもらってる!」

…いい加減、犬と私を切り離せ、犬バカ君。

「アメリカン・コッカー・スパニエルは太りやすいから、運動と食べ物に気を付けないといけないんだ」

同族だ!

家に帰ると、鏑木夫人からお茶のお誘いがきていた。