軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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6月のある日、私は香澄様経由で放課後、友柄先輩に生徒会室に呼び出された。なにやら秘密の匂いがするような…。

恐る恐る生徒会室の扉を開けると、そこには友柄先輩のほかに同志当て馬の姿もあった。

「吉祥院さん、わざわざごめんね。こっちに座ってくれるかな」

友柄先輩は応接セットのソファに私を誘導した。席は同志当て馬の隣だ。

同志当て馬はちらっとこちらを向いて、すぐに顔を逸らした。

私が座ると友柄先輩は向かい側のソファに座り、私達の顔を確認するように順番に見た。

「実はふたりに来てもらったのは、来期の生徒会の役員をやって欲しいからなんだ」

「は?」

「えっ?」

来期の生徒会の役員?!

中等科では生徒会の任期は二学期末までだったけど、高等科は一学期末までだ。夏休み明け早々、会長と副会長を選出する選挙が行われる。そしてそれ以外の役員は、選ばれた会長と副会長の指名だ。

ただその前に、めぼしい生徒にはあらかじめ声を掛けていると聞く。どうやら私達はその網に引っ掛かったらしい。

「有馬は中等科で生徒会長をやっていたんだから、選ばれて当然だろ。もちろんやってくれるよな?」

「ええ、まぁ、俺が引き受けるのは問題ないですけど…」

そう言って、同志当て馬が私を困惑した目で見てきた。うん、気持ちはわかる。なんでピヴォワーヌの私がって思ってるんでしょ?それは私も同じ気持ち。

「確かに吉祥院さんはピヴォワーヌだけど、初等科時代からクラス委員を何度もやっていて、その陰日向なく働いてくれる仕事ぶりは、俺も良く知っている。それに吉祥院さんはピヴォワーヌの中でも、生徒会に好意的な、どちらかといえば親生徒会派だろ。だったらそんな吉祥院さんにぜひ来期の役員をやって欲しいんだ」

うわ~っ、友柄先輩にそこまで信頼されているのはとっても嬉しいけど、さすがにピヴォワーヌに弓を引くような真似は、怖くて出来ないよ。そんなことしたらそれこそ破滅だ。

「申し訳ありません、友柄先輩。それだけはどうしてもムリですわ。私はあくまでもピヴォワーヌのメンバーですから」

「掛け持ちもダメ?」

「二重スパイのような目で見られそうです…」

怖い。私は内部にいるからこそわかる。ピヴォワーヌを怒らせたら本気で怖い。ヘタしたら自主退学にまで追い込まれるって話だ。まぁそれを助けるのが生徒会の役目なんだけどさ。

それにピヴォワーヌと生徒会は対極にあるような存在なんだから、掛け持ちなんてしたら、それこそ矛盾した存在になってしまう。

「う~ん、やっぱりダメかぁ」

友柄先輩は大きく伸びをした。

「俺もね、ムリかな~ってわかってたんだけど、まぁダメ元ってヤツ?もしかしたら吉祥院さんなら引き受けてくれるかもしれないっていう、一縷の望みに賭けてみたんだけど。でもしょうがないよね、ピヴォワーヌと生徒会の垣根って、中等科の時より高いもんね」

はい。垣根どころかマリアナ海溝なみの、深い深い溝があります。

「じゃあ、来期の生徒会役員は有馬だけってことで。でも吉祥院さん、クラス委員として、生徒会の仕事は手伝ってやって」

「はい。私に出来ることがあれば」

隣の同志当て馬が、私を胡散臭そうな目で見ている。なにその目。中等科時代に生徒会長とクラス委員として、何回か交流があったのに。あぁでも、クラスのプリントとか生徒会への提出物を集めるのは私で、それを届けるのは坊主君が多かったな。

もしかして、私がクラス委員の仕事を全部坊主君に押し付けてたと思ってる?!失敬な!めちゃくちゃ働いていたっての!

なんだよ、同じ当て馬仲間なのに。そんな疑わしげな目で見てきちゃってさ。君は我が恋愛ぼっち村の副村長なんだぞ!

「なに」

「いいえ、別に」

友柄先輩は私達の間に漂う、およそ友好的ではない空気に苦笑いした。

「有馬。吉祥院さんはいざという時に頼りになるから。ピヴォワーヌだからって偏見の目で見ない。視野を広く持てよ」

「……でもこいつのあだ名って」

あだ名?!

私の高性能の耳は、同志当て馬の小さなつぶやきもキャッチした。

「水崎君。私のあだ名ってなんですの?」

「いや…、なんでもない」

なんでもないはずはない!私、知らない間に変なあだ名付けられてる?!

もしかしてそれで男子が近づいてこないのかも!?

「水崎君」

「俺は知らないって!」

「嘘です。人は嘘をつく時には右上を見るのですわ。今、水崎君は右上を見ました」

「あんたはなんでそんなことを知ってんだよ!」

お兄様から教えてもらったんですが、なにか?

「とにかく俺はよく知らないっ!マッキーとかそんな感じのだよ!」

マッキー?もしや巻き髪だからマッキー?!

う~ん、微妙だけど縦ロールよりは全然マシか。なんだか可愛くない?マッキーって。男子のみなさん、私をマッキーと呼んでもよくってよ!

同志当て馬は隣で目を手で隠している。そんなに嘘を見抜かれるのが怖いか。その時点で君、隠しごとをしているのがバレバレだよ。ほかにも変なあだ名があるんじゃないか?

「まぁまぁ、ふたりとも。有馬と吉祥院さんは、俺が1年の中でも特に信頼している後輩なんだ。だから俺が会長をやめて、高等科を卒業したあとも、生徒会を支えて欲しいんだ」

友柄先輩が間に入って止めたので、この話はそこで終わった。あとで追求しなければ。

それより、友柄先輩が卒業か…。せっかくまた同じ校舎で親しくさせてもらえてるのに、1年後にはいなくなっちゃうなんて、凄く寂しい。

「あれ?吉祥院さん、どうかした?」

「いえ…」

やだなぁ。寂しいなぁ。

友柄先輩はとってもバランス感覚の良い人だ。友柄先輩が会長だから、ピヴォワーヌと生徒会も今は上手くやっているのに。

だいたい友柄先輩くらいだよ。私に生徒会に入らないかなんて言ってきた、歴代の生徒会長は。普通、ピヴォワーヌなんて勧誘しないよ。

友柄先輩がいなくなったら、これからどうなるんだろうな。ギスギスするのは嫌だよ。

「じゃあこの話は終わり。有馬は来期の打ち合わせをするからこのまま残って。吉祥院さんはこれで帰ってもらっていいよ。今日はありがとう」

「はい。友柄先輩、水崎君もごきげんよう」

「気を付けて帰って。お疲れ様」

「…お疲れ」

私はそのままサロンにも寄らず、迎えの車の待つ駐車場に向かった。

なーんか、気分が落ち込んじゃったなぁ。よし!今日は久しぶりに駄菓子を食べるか!クローゼットに隠してある、ラッキーターンを開けちゃうぞ。

次の日、私は佐富君を捕まえて、私に付けられたあだ名について問い質した。

「吉祥院さんのあだ名?」

「ええ。昨日水崎君が私にはあだ名が付けられていると。そしてそれはマッキーだと聞きましたけど、ほかには何があるんですの?」

「マッキー?あぁ巻き髪か。いやぁ、あだ名ねぇ。今は特にないよ」

「今は?では前にはあったということですわね?なんですか?」

「え…あー、女神…とか?」

「女神?」

「いやっ、俺も詳しくは知らないから!でも今は誰もあだ名でなんて呼んでないし!中等科の頃だよ!ちゃんと俺もフォローしておくから!」

女神…。女神といえばアフロディーテだけど、このあだ名の生徒はすでにいる。遠足で髪を振り乱しながらバイオリンを演奏していた男子だ。髪型がちょっとアフロっぽいから、男子だけどアフロディーテ。そしてそれが縮まって、今はディーテだ。

ほかに女神というと、アフロディーテの別名ヴィーナスとかアテナとか?有名なのは、美と愛の女神か戦いの女神だもんね。でもギリシャ神話の女神はたくさんいるからなぁ。まぁ、いいか。

「一応それで納得しておきますわ」

佐富君はホッとした顔で友達の輪に戻って行った。

……女神か。ヴィーナスだったらどうしよう。困っちゃうな。