軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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ふんふんふ~ん。

編みぐるみは順調に形になってきている。高い毛糸を使っているから編んでる時の手触りがいい!これは出来上がった時に頬ずりしたら気持ちよさそうだ。

家でも夕食後にリビングでのんびり編んだりしているので、もうすぐ出来上がるかなぁ。

こういう手作業の趣味に没頭していると、間食が減るのも嬉しい。人間、暇だと食べちゃうんだね。

これが完成したら、またニードルフェルトに戻ろうかな。今度は猫を作ってみよう。

ふんふんふん。

今日も編みぐるみを持って、手芸部に通う。

「麗華様、ずいぶん出来上がってきましたね。これならもうすぐ完成しますね」

「本当。可愛く仕上がってきてますね。特にこのおなか」

「ええ。家でも時間のある時に編んでいますのよ」

色の違う毛糸の継ぎ目は特にていねいに編んでいく。おなか部分の丸い曲線もていねいに、ていねいに。心をこめて。

「これが完成したら、今度はニードルフェルトで猫を作ろうと思っていますのよ。手芸部でもニードルフェルトを作っている方が何人かいますわね」

「そうですね」

私はフェルト組ににっこり笑いかけた。

彼女達も笑ってくれた。うん、私達、とっても良い関係を築けているね。

だから部長さん、早く私に入部届をください。その学生鞄の中のクリアファイルに入っているのは知っているんですよ?

編みぐるみが終わっても、私の手芸部通いは終わりませんからねぇ。

一度手芸部に行く途中で、廊下ですれ違った円城に、「桂木が吉祥院さんのことを暴力女なんて言ってたんだけど、心当たりある?」と聞かれたので、「いいえ全く。身に覚えがありませんわ」と答えておいた。

円城は「そうだよねぇ。おしとやかな吉祥院さんに限ってねぇ」と含んだ笑顔で言ってきたので、「ええ、もちろん」と笑い返して、私はそのまま手芸部に向かった。

告げ口するなんて、男の風上にも置けないヤツめ…。今度のニードルフェルトはアホウドリで決定だ。刺してやる!

そしてとうとう、編みぐるみが完成した。私はそれを持ってリビングに行った。

リビングでは両親とお兄様がお茶を飲んで寛いでいた。

「あれ、麗華、編みぐるみが完成したの?」

「ええ、そうなんです」

「あぁ最近よく編み物をしていたな。ぬいぐるみを作っていたのか」

じゃじゃーん。

完成した編みぐるみを家族にお披露目。出来上がったのは小さなメガネをかけた狸の編みぐるみだ。

「これはお父様です」

「えっ」

私はお父様に狸の編みぐるみを渡した。

「お父様に一番似ている動物で編みぐるみを作りましたの。お父様のために編みましたのよ。受け取ってくれます?」

「これを私に?」

お父様は私の作った編みぐるみを両手で持って、それをジッと見つめていた。

実は私が若葉ちゃんが入学してきた衝撃で、お父様を疑う発言を繰り返したため、お父様がすっかり落ち込んでいるとお兄様に怒られて反省したのだ。

私は自他ともに認めるお兄様っ子だけど、お父様にも小さい頃から可愛がってもらっている。なので、お父様のことも好きだ。それに中年のおじさんが哀しそうにしている姿は、私にかなりの罪悪感をもたらした。

だからお詫びの意味を込めて、編みぐるみを作ったのだ。

手編み物はプレゼントとしては重いと嫌われがちだけど、父娘なら全然平気だよね?

「ちゃんとメガネもかけているでしょう?お父様に似ていると思いません?」

私はお父様の隣に腰かけた。

「うん上手だね。ありがとう、麗華。とても嬉しいよ。でも麗華のお父様のイメージは狸か。狸親父というヤツかね…」

「いいえ。お父様はメタボなので、そのぽっこりおなかをイメージしたのですわ。でも狸親父ですか。そういう見方もあるのですわねぇ」

「……そ、そうかい」

お父様はちょっとだけ複雑そうな顔で、手の中の狸の編みぐるみを見た。

「編みぐるみを作ったのは初めてだったので、少し編み目が歪になってしまった部分もあるんですけど、よく見なければわからないでしょう?私の編みぐるみ完成品第一号ですわ」

「ほぉっ!初作品が私へのプレゼントかね」

お父様がお兄様に向けてドヤ顔をした。

お父様、そういう顔をすると本当に悪狸に見えてしまいますよ。

「貴方、良かったですわね」

「うんうん。しかし麗華、お父様はそんなにおなかが出ているかなぁ」

お父様は自分のおなかをさすりつつも、ご機嫌だ。

「ええ、出ていますわ。メタボは健康に悪いのです。お父様はダイエットをすべきです」

「…そうかね」

「私、おなか痩せの良い方法を知っていますの。フラフープを回すのですわ。私のフラフープをお父様にも貸してあげます」

「フラフープって、麗華、お前そんなものを持っていたのか」

「……まだやっていたのか」

え、お兄様、今何か言いました?

「今から私とフラフープを回しましょう。大好きなお父様にはいつまでも元気でいて欲しいですからね」

「おお、そうか!」

私の大好きという言葉に、お父様の機嫌はウナギのぼりだ。

大丈夫かな、お父様。これじゃすぐに他人に騙されてしまわないかな。あまり他人の言葉を信用しすぎちゃダメだよ。

お父様は自分そっくりの狸の編みぐるみを抱えながら、「娘の部屋に入るなんてお父様は照れちゃうなぁ」などと、変なことに喜んでいた。

やだわ、お父様。もしかして不正じゃなくてセクハラで訴えられるんじゃないかしら。

「さあ、お父様。ガンガン回してメタボ脱却ですわ!」

「よしっ!」

お父様は勢いよくフラフープを回した。

「ぎゃっ!」

「お父様?!」

お父様はぎっくり腰で病院に運ばれた。

お母様にめちゃくちゃ怒られた。

病室で、ついぽろっと「ごめんなさい。年寄りの冷や水でしたわね」と言ったら、お兄様にも「デリケートな年代なんだから、言葉を選べ!」と怒られた。

はい。反省してます…。

そして私のお手製の編みぐるみは今、退院したお父様によって、書斎に大事に飾られている。

時々お父様は嬉しそうに、編みぐるみの頭を撫でているらしい。

そんなに気に入ってくれたならと、お父様がいない間に悪戯心でこっそり、狸の編みぐるみにぎっくり腰用の杖を持たせようとしたら、お兄様に「お前は本当に反省しているのか!」とまたも怒られてしまった。

もちろんですとも。これは愛情の裏返しです。