軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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クラスで部活に入っている生徒の名前と所属部を名簿に記入して、生徒会室に届ける仕事がきた。

クラスの該当者全員に書いてもらい、さて今から生徒会室に届けに行ってくるかという時になって、委員長が「僕ひとりで行ってこようか?」と言い出した。

「なぜですの?」

「え、だってほら、ピヴォワーヌと生徒会ってあまり仲良くないって噂だし…。吉祥院さんも一応ピヴォワーヌでしょ」

なんだ一応って。失敬な。

「別に大丈夫ですわ。それにこれって、クラス委員の生徒会への顔見世みたいな意味もありそうだし、私もちゃんと行きますわよ。渡せばそれですぐに終わりでしょうし」

「吉祥院さんがそう言うなら、僕はいいけど」

「だったら早く行きましょ。これを出したら今日はもう帰れるんですから」

手に持った紙をひらひらさせて委員長を促すと、ふたりで生徒会室に向かった。

生徒会室には初めて来た。

1年生には生徒会役員もいないので、ほとんど馴染みがないのだ。

ドアをノックしてクラス名と用件を告げて、入室の許可をもらう。

「失礼します」

生徒会室の中は、各自の事務机と本棚とロッカー、中央にソファとテーブルがある。ピヴォワーヌのサロンと比べるとかなりシンプルな部屋だった。

まぁピヴォワーヌを基準に考えれば、なんだってシンプルで質素に見えちゃうんだけど。

さすが実力主義の生徒会室って感じだ。それでも瑞鸞なので調度品の質はいい。

委員長とふたり、自己紹介をしてもう一度用件を言う。

「部活名簿ね。そこの箱に入れて」

役員の先輩に指定された箱に名簿を入れて終了。

あっという間だ。

そのまま会釈して帰ろうとした時、突然、生徒会室のドアが勢いよく開いた。

「おい!学食から食料仕入れてきたから食べようぜ!本当はピヴォワーヌからパクってこようとしたんだけどさ!」

心臓がドクンと跳ねた。

「ちょっと会長!その子ピヴォワーヌ!」

「えっ」

その人の目が私を捕らえた。

強く射抜くような眼差し、挑戦的な笑顔、太陽のような存在感。

その人を見た瞬間、頭の中に壮大なオーケストラの音楽が鳴り響いた。

あの力強くドキドキする曲、まるでオルフの“おお運命の女神よ”のような人!!

「なんでピヴォワーヌの子がここにいるの?」

どうしよう、目が離せない。

ドキドキする。どうしよう、ドキドキする!

「おーい」

大変!私、恋に落ちてしまった!

あの後、私はなんとか正気を取り戻して、その場を取り繕った。

幸い生徒会の先輩方は、私が生徒会長の「ピヴォワーヌから食べ物をパクってくる」発言に驚いて動揺したと、都合よく解釈してくれた。

生徒会長は参ったなぁと言いつつも、「今のこと、ピヴォワーヌの連中には内緒ね」と眩しい笑顔で口止めしてきた。

死んでもしゃべらないと心に誓った。

“おお運命の女神よ”と共にドラマチックに現れた人は、中等科3年生で生徒会長の 友柄千寿(ともえせんじゅ) 先輩。

まだこれだけしか情報はない。

でもそれだけでも充分だ。

私の頭の中ではあれからずっと、先輩のイメージ曲をオーケストラが盛大に演奏し続けている、もうエンドレスだ。

うっ、友柄先輩の顔を思い出すだけで胸が苦しいっ!

でも、あの笑顔、かっこ良かったな…。

「今のこと、ピヴォワーヌの連中には内緒ね」

うひゃ~~っ!!

私はベッドの上をごろんごろん転がった。

起き上がった時、ちょっと目眩でくらくらした。

しかし、これからどうしよう。

学年も違う。生徒会役員でもない私と先輩の接点はほとんどない。

しかも相手はピヴォワーヌと長年の因縁がある生徒会の会長。

到底お近づきになれるチャンスなんてない。

せめて、先輩が生徒会長じゃなかったら!

ん?

……なんかこれって、ロミオとジュリエットみたいじゃない?

うきゃーーっ!友柄先輩がロミオなら、私、ジュリエット!!

どうかその名をお捨てになって!

……落ち着こう。

私はピヴォワーヌだから生徒会に入る事はできない。そもそも私が生徒会に入ったとしても、その頃には先輩は卒業だ。やる意味がない。

……先輩が卒業。ロミオ先輩が卒業!ロミオ先輩が!!

……落ち着け、私。

まずは名前と顔を覚えてもらうことからだ。

あ、今日、学食から食べ物を調達してたから、もしかしたら放課後はおなかが空いてるのかもしれない。

手作りのクッキーの差し入れなんてどうだろうか。

「おいしいよ。さすがジュリエットは料理が上手だね」

「そんな、ロミオ先輩」

とかなんとか言われちゃったらどうする?!私!

よし、これは採用だ!

あとは……

引き出しから、真新しい消しゴムを取り出す。

別にさぁ、こんなの信じてるわけじゃないんだけどさぁ。

なんか前世で中学生の頃、一時期流行ったんだよねー。

“新品の消しゴムに好きな人の名前を書いて、それを誰にも触られずに使い切ったら両思いになれる”というおまじない。

私は信じてないけどさー、でもせっかくだしさー、ちょっとやってみようかな、なんて。

ケースを外して、赤いペンで小さく記入。

“友柄千寿”

ケースを元に戻して、消しゴムサマに念を送る。

どうか神様!私にチャンスを!

頭を使ったらおなかが空いた。もう夕食の時間だ。

最近、お兄様の帰りが早い。今日も夕食に間に合うように帰ってきてくれた。

やっぱりごはんは家族そろって食べたほうが更においしいよね。

あぁ、でも胸がいっぱいで食べられないかも…。

恋の病が私を苛む。

おや、赤ワインで煮込んだ牛ほほ肉は私の好物ですよ。

目が合うと優しく微笑むお兄様。

うーん。

ロミオ先輩のイメージがオルフの“おお運命の女神よ”なら、お兄様のイメージはラヴェルの“ボレロ”かな。

愛羅様はリストの“ラ・カンパネラ”、優理絵様はシューベルトの“アヴェ・マリア”。

円城はサティの“グノシエンヌ”で、伊万里様は…なんだろう“ペルシャの市場にて”ってとこかな。

そして鏑木は、ムソルグスキーの“禿山の一夜だ”。

数日後、“ペルシャの市場にて”の伊万里様が遊びにいらしたので、こっそり相談をしてみる。

「えっ!麗華ちゃん、好きなヤツできたの?!」

「お兄様には内緒ですよ」

「…あー、うん」

具体的に相手が誰かなどは伏せて、お近づきになる方法を聞いた。

残念ながら伊万里様からは良いアドバイスはもらえなかった。

ただ手作りのクッキーは、親しくもない相手からもらうと重いから止めたほうがいいと言われたので、そのアドバイスには従っておく。

確かに瑞鸞は、バレンタインのチョコも手作りはあまり推奨されていないし、クッキーも同じかもしれない。

でもせっかく練習したのにな。ちぇっ。

あー、しかし、恋をすると毎日が楽しい!