軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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「なにが生徒会だ。調子に乗るな!」

「ここは俺達の学院だ。瑞鸞にふさわしくない者は去れ!」

「そうだ!そうだ!」

「お前達、いい加減にしろ!」

なぜか矛先が若葉ちゃんにまで向けられ、ピヴォワーヌの1年生達の罵声と怒って応戦する生徒会役員達と、面白がってその尻馬に乗る野次馬達。

この騒ぎの渦中に飛び込むなんて心臓バクバクで声も裏返りそうだけど、行くしかない!

女優に成り切るのよ、麗華!ここは私の主演舞台!さぁ、心の扇子を翻し、高らかに第一声を上げるのよ!

「おやめ…」

「これは一体、なんの騒ぎだ」

振り返りその低い声の持ち主を確認した途端、人垣はザッと割れ、現れたのは瑞鸞の皇帝だった──。

あたりを払う威厳を纏った鏑木の登場に、一瞬にして騒ぎは収まり、私は心の扇子を慌てて閉じた。

鏑木は輪の中心に歩を進めると、ピヴォワーヌの1年生達、同志当て馬と生徒会役員達とを、看取するようにゆっくりと見回した。

「誰か説明を」

眼光鋭く威圧感を放つ皇帝の問いに全員が黙り込む中、同じく強い目をした同志当て馬が代表して口を開いた。

「そこにいる外部生の生徒に対しての、ピヴォワーヌの生徒達の理不尽な態度を改めるよう注意していた」

「…理不尽?」

「彼らが自分達の落とした飲み物の後始末をしろと、外部生に命令していたんだ」

鏑木は無表情で同志当て馬が指差した床の飲み物をちらりと見ると、すぐに興味を失ったように視線を外した。

「それだけでこの騒ぎか」

鏑木は「くだらない」と言い捨てた。それを聞いた同志当て馬の眉間がピクリと動く。

「それだけではない。彼らは外部生を明らかに見下し、自分達に従うのは当然だといった主旨の発言を繰り返した。…この、上級生である高道に対しても代わりに片付けろと言うようにな」

同志当て馬は隣にいる若葉ちゃんを気遣うような目で見ると、鏑木もそれを追って若葉ちゃんを見た。若葉ちゃんは「あ~…」と困り顔で笑った。

「そしてその言葉を裏付けるような、入学してからこれまでの外部生への言動行動の数々も、俺の元に報告がきている。荷物持ちや校内の雑用などを押し付けられ、暇つぶしにからかわれ、逆らえば彼らに追従している生徒達から酷い目に合されると」

「本当か?」

鏑木がピヴォワーヌの1年生達を見やる。

1年生は唇を噛みしめると、鏑木ではなく同志当て馬を睨みつけながら、

「本来ならば分不相応な外部生がこの瑞鸞に通えているのは、僕らピヴォワーヌと内部生達のおかげなんだから当然だろう!」

そして大荷物を抱えたまま立ち竦んでいた最初に命令された1年生をも睨み、

「お前がさっさと片付けていればこんな騒ぎになることもなかったのに。この愚図が」

と憎々しげに暴言を浴びせた。

口撃を受けた外部生の1年生は、下を向いて体を縮こまらせた。

「よせ」

「うるさい。生徒会ごときがピヴォワーヌに指図するな」

その時、外部生の1年生がボソッと呟いた。

「…こんな学校、来なければよかった」

その言葉が私の胸をズキリと抉った。この子は瑞鸞に入学したことを後悔しているんだ…。こんな目に合されていたら当然だけど、当然なんだけど、母校を否定されるのはやっぱり哀しい…。

一連の様子を無言で見つめていた鏑木にも、その声は耳に届いていた。鏑木は虚空を仰ぎ、外部生の1年生へと目を向けると、

「悪かった」

瑞鸞の皇帝が、頭を下げた!!!

同志当て馬が目を見開いて息を呑む。

「鏑木様!」

ピヴォワーヌの1年生達が悲鳴を上げた。

「鏑木様、どうして…!」

「ピヴォワーヌの人間の過ちは、会長である俺の責任だ」

顔面蒼白の後輩の声に対し、鏑木は同志当て馬にひたと目を合わせたまま答えた。

互いに見つめ合うことしばし──。同志当て馬が息を吐きながらゆっくりと瞼を下ろした。

「わかった…。ピヴォワーヌの会長の謝罪を受け取ろう。君もそれでいいか?」

話を振られたピヴォワーヌの被害者である外部生の1年生は、瑞鸞の頂点であるピヴォワーヌの皇帝に頭を下げられた現実に恐慌状態をきたし、痙攣したようにガクガクと頭を振った。

「か、鏑木様…」

「僕達は…」

自分達の行いで皇帝に謝罪をさせてしまったことに狼狽し取り乱す後輩達を、鏑木は見据えた。

「ピヴォワーヌこそが瑞鸞の象徴と自負するならば、それに恥じぬよう模範となる行動を取れ」

そしてもう一度、鏑木は目の前に立つ同志当て馬達に視線を戻した。

ピヴォワーヌの会長の鏑木と、その鏑木に真正面から対峙して隣の若葉ちゃんを守るように立つ同志当て馬。両者の間には見えない線がはっきりと引かれているかのような光景だった。

先に視線を逸らしたのは鏑木だった。

「行くぞ」

鏑木はピヴォワーヌの後輩達を促すと、同志当て馬と若葉ちゃん達に背を向けて校舎へと歩き出した。

その数拍後、静まり返っていた観衆からわあっと声があがった。

「鏑木様、なんと潔い」

「さすがは瑞鸞の皇帝だ!」

「鏑木様こそが、ピヴォワーヌの体現者だ!」

「頭を下げたからって、皇帝の威光には傷ひとつ付いていない!むしろその品性の高邁さを再確認させられた」

「鏑木様、万歳!」

「皇帝、万歳!」

生徒達が皇帝を讃え盛り上がる中、私には気になっていることがある。

あの転がったドリンクと床は誰が掃除をするんだ…?

まだすべての元凶が全然解決していなーい!落とした張本人達は鏑木がたった今連れて行っちゃったし、どうするのよこれ!

「ここは僕がなんとかしておくから、吉祥院さんは雅哉の方をお願い」

「え…」

すると騒動の最中、鏑木の後ろで傍観に徹していた円城が、私の隣にやってきて小声で耳打ちをしてきた。

なんとかするって…。私もさすがに鏑木の様子は気になっていたので、追いかけるのはやぶさかではないけど、円城はどうする気なんだ?

芹香ちゃん達に断って鏑木の跡を追いながらも後ろを見ると、円城は転がったゴミの前に立ち、す、とそれを拾うかの如く、床に手を伸ばす仕草をした。

えっ、まさか円城が片付けるの?!

その刹那、円城ファンの女子生徒達が、ズザザッ!と四方八方から現れた!

「円城様!私達がやります!」

「ここは私達におまかせくださいませ、円城様!」

すると円城はにっこりと華やかに微笑んで、

「ありがとう。気配りのできる女の子って素敵だよね」

恋の矢に射抜かれた、瑞鸞女子達の叫びがあたりに轟いた。

すごい…。指先の動作ひとつで、すべての憂いをあっという間に消し去ってしまった。その手管の恐ろしさよ。円城はカサノヴァ村のポスト伊万里様か?!

そんなことを考えながら急ぎ足で校舎に入ると、廊下の奥にひとり歩く鏑木の姿を見つけた。

私は小走りで鏑木の背中を目指す。パタパタと走る私の足音に気づいているはずなのに、鏑木は振り返らない。

やっと追いついて、乱れた呼吸を整えながら鏑木を横目で確かめるけど、鏑木の表情は動かない。そして足も止まらない。

あ~、これはなんと声を掛けたらよいのか…。

鏑木は一見いつものポーカーフェイスだけど、よーく見ると目に先程までの覇気はなく、気落ちしているのがわかる。空気がしょんぼりしている。

まぁ、気持ちはわかるけど。片思いしている若葉ちゃんと同志当て馬の近しい距離感と、自分との距離や属する立場の違いをまざまざと見せつけられてしまったものなぁ…。

「…あの、鏑木様」

「……」

「…え~っとぉ」

鏑木は無言。

そして私も名前を呼びかけてはみたものの、そのあとの言葉が続かない。

「……」

「……」

鏑木の歩幅に合わせ、早歩きをしながら隣に並ぶ。いつにない寂しげな横顔に、少し心が痛んだ。

「えっと…鏑木様。お好み焼き、食べに行きましょうか…?」

鏑木がフッと小さく笑った。

お好み焼きは特に衣服に臭いが付くし、なにより制服姿が目立つというのは先日の鏑木母で実証済みだ。

私は変装の意味もこめて、買ったばかりのウィッグを取り出した。

あの日すぐにウィッグを買いに行って、財力にものを言わせて数個手に入れたのだ。

鏑木との隠密B級グルメツアーにふさわしく、今日はクールビューティーなスパイをイメージした黒髪ボブスタイルでいこう。

付属のみかんを入れるような伸縮性のあるネットをかぶり、長い地毛をそこに押し込める。…うわぁ、ものすごく間抜けな頭。これネットが白かったらマスクメロンだな。

ネットでしっかりと地毛をつぶしてペタリとさせた頭にウィッグをかぶると、おおっ!いい感じじゃないか!真っ赤な口紅と黒いサングラスが似合いそう。

どうしよう。かけちゃう?サングラス。いやいや、行先はお好み焼きなのにさすがにそれは目立ちすぎちゃうでしょう。パリコレモデル風ファッションは、後日の変身に取っておこう。

路線変更し、本日は黒髪ボブに合わせてフランス映画に出てくるキュートな女の子風レトロファッションで決定。

待ち合わせ場所に向かう途中、ショーウィンドウに映る私の姿はさながらサブカル系美大生ってとこかな。これはこれで可愛いと思う。見慣れていないせいか、若干ヘアスタイルに違和感はあるけど…。

すでに着いていたふたりは、無駄に目立つのですぐに見つけられた。

「お待たせしました」

鏑木は目を丸くした。

「どうした吉祥院。岸田劉生の麗子像みたいな頭をして」

キィーーーッッ!!

麗子像だと?!この、乙女心を解さないぼけなすめ!

「雅哉。僕は市松人形みたいで、とても可愛いと思うよ。うん」

そっちも全然褒めていないしフォローになっていない!笑いをごまかすためにした咳払いがわざとらしい。カサノヴァ村の次期村長の座を狙う、ポスト伊万里様の片鱗はどこに行った!

ふたりの反応に、ウィッグなんてかぶってきちゃった自分にとてつもない恥ずかしさが襲ってきた。…もう取っちゃおうかな、これ。でも取ったらもっと悲惨なマスクメロンヘッドでネットに押し込まれた髪は跡がついてボサボサだ。あぁ、このまま帰ってしまいたい…。

「それでどうして、今日はそんなに気合を入れてきちゃったの?」

「これは、誰かに見つからないための変装です…」

「変装ねぇ」

「吉祥院さん、まだスパイごっこをしていたの?」

もうこのウィッグについては触れないで…。

「でも僕は吉祥院さんは、いつものふわふわとした長い髪の方が似合うと思うよ」

「うっ…!」

けなしてから褒める高度テクニック!日頃異性に褒められ慣れていないおかげで、この程度の不意打ちのお世辞に心臓が飛び跳ねてしまった自分が悔しいっ…。

雪野君といい、円城兄弟は縦ロールが好きなのか?!

「吉祥院、なにを立ち止まっているんだ。さっさと行くぞ」

「こっちでいいの?いちまさん」

「…いちまさんと呼ばないでください」

今夜円城が寝苦しくて夜中に目を覚ました時、枕元に立って顔を覗き込む市松人形がいますようにと、呪いをかける。

そうこうしている間にも、鏑木は私を置いて先頭を切って歩き出す。

鏑木ってばすでに立ち直っていないか…?さっきまでの殊勝な様子はどうした。

迷いなく堂々とした足取りだけど、お店への横道を通りすぎているからね。ある程度まで歩かせてから、「そっちじゃないですよ~」と声を掛けてやる。麗子像呼ばわりされたことへの、小心者のささやかな嫌がらせ。

「早く言え」

ふてくされた顔で戻ってきた鏑木に溜飲を下げていると、微苦笑を浮かべた円城が「吉祥院さんて…」と言った。

「なんですか」

「やることが小さいよね」

「……」

明日の朝起きて鏡を見た円城の首に、人形の手形が残っていますように。

まったく。なにが麗子像だ。なにが市松人形だ。今日の私のコンセプトはおしゃれフランス映画の女の子だし、この黒髪ボブのウィッグは元々スパイのようなクールビューティーのイメージで買ったんだっての。

あれ…?

ふと、先程の会話を思い出した。…さっき円城って、まだスパイごっこをしていたのって断定形で言ったよね?

瞬間、背中にぞわりとしたものが走った。